東日本大震災で大津波に見舞われた宮城県の沿岸部では、農地の除塩作業や客土、用排水路の補修などが急ピッチで進められている。今春から過半の圃場で作付けできる見通しだ。暮らしや営農が完全復旧に至らない中で、被災農家は、6次産業化や規模拡大を視野に、経営再建を図りたいとしている。仙台市若林区の農事組合法人「仙台イーストカントリー」と、名取市の女性産直グループ「サンサンメイト」を訪ね、現在の課題と展望などを聞いた。
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今年は13ヘクタール復旧し水稲53ヘクタールを作付け ―― 仙台市・仙台イーストカントリー
雪が降る中、若林区荒井神屋敷の仙台イーストカントリーの事務所周辺では、重機を使った水田の客土を行っている。「再開に5年はかかると思っていた。こんなに早く作れるとは」と代表の佐々木均さん(60)は話す。
震災前の経営面積は72ヘクタールだった。今年は新たに復旧した13ヘクタールが加わり、水稲53ヘクタールを作付ける予定だ。さらに同じ七郷地区にある荒浜集落の水田10ヘクタールも引き受け、大豆を栽培する。
仙台市若林区と宮城野区では、沿岸部の農地1800ヘクタールが津波に被災した。除塩や客土、用排水路の補修などが終わり、1400ヘクタール(77.7%)が春までに復旧する見通しだ。
今年秋からは約1900ヘクタールに及ぶ大規模圃場整備が着工する。七郷地区は現行の30アール区画を60アールと90アールに広げる。農家負担はなく、地権者の約8割が工事と換地に同意している。ただ、地権者が亡くなった圃場があり、「相続した地権者から返事がないケースも多い。地権者の同意なしには工事できず、同意を得ていきたい」(仙台市農林部東部農業復興室)とする。
震災6日後から野菜の販売を再開 ―― 名取市・サンサンメイト
午前7時半、名取市杜(もり)せきのしたのイオン名取店青果物売り場では、おそろいのジャンパーを着た女性たちが野菜を陳列する。市内の女性農家26人で組織する産直グループ「サンサンメイト」(松浦優子会長)だ。メンバー10人が被災したが、震災6日後から野菜の販売を再開した。
サンサンメイトの売り上げは震災前と比べて1割ほど落ちている。周年出荷できる専業農家が多く被災したためだ。現状は1日に何度も搬入するのが難しく、午後になると売り場の野菜が少なくなっている。前会長で顧問の洞口とも子さん(64)は「売り場を常にいっぱいにすれば販売チャンスはある」と話す。洞口さんは野菜を栽培していた農地15アールが被災し、現在は別の場所に来年3月までの契約で28アールを借りている。
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〈写真上:客土を指す佐々木さん。雪が降る中も作業は続く〉〈写真下:震災6日後から販売再開した。被災したメンバーの分は、他のメンバーが多く出荷した〉