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《再起へ 震災・原発事故から1年》黄金色の水田に(1面)【2012年3月2週号】

120314_01+02.jpg 東日本大震災から1年。地震・津波に見舞われた地域の農家が、営農再開に向け、懸命の努力を重ねている。「海を見詰めるのはまだつらいが、津波なんかに負けていられない」と、岩手県大船渡市赤崎町合足(あったり)の古内嘉博さん(56)=ピーマン、繁殖和牛など。合足地域農業復興組合の組合長として、がれき撤去や除塩作業などに努める。仙台市若林区の農事組合法人「仙台イーストカントリー」=水田営農63ヘクタール、8人=では、農業機械や乾燥調製施設の再導入を図り、経営再開への準備を急ぐ。佐々木均代表は「復旧事業で順次圃場が戻ってくる。6次産業化にも挑戦し、経営再建への力にしたい」と話す。自然による理不尽な災害を乗り越え、前進する農家を取材した。


地域ぐるみで再生へ ―― 岩手県大船渡市・古内嘉博さん
 大船渡市赤崎町の古内さんの自宅横から700〜800メートル先に海が見える。同地区では、水田1ヘクタールを含む田畑4.8ヘクタールが津波に遭い、30アールは表土が流された。合足ふるさとセンター(公民館)も失った。
 復興組合の活動で、人手で収集できる田畑のがれきは処分したが、古内さんは「営農再開にはもう1年かかる」と顔を曇らせる。土中には防潮堤のコンクリートやガラス、くぎの出た木材などの破片が埋もれていて、農業機械を入れられない。土中のがれき撤去、除塩など県の復旧事業の実施が欠かせない。
 集落21戸のうち、17戸が津波被害を受けた。人的被害が少なく、復興に向けた地域の意見集約ができた。復興組合は昨年10月6日に設立。その後、被災圃場の復旧事業実施の同意もまとまった。古内さんは「避難で住民が散り散りの集落を思うと心が痛む。復旧に向け少しだけ前に進んだが、高齢者が多く、何人が経営再開に意欲を持ってくれるか心配だ。置かれた環境の中で精いっぱい頑張るしかない」と話している。

6次産業化で経営再建 ―― 仙台市若林区・仙台イーストカントリー
 仙台市若林区神屋敷の仙台イーストカントリー周辺は、取材当日は大雪で、水田圃場は真っ白に覆われていた。
 「今年は除塩した圃場が20ヘクタール戻ってくる。失った農機具を再導入し、乾燥調製施設も建築中だ」と佐々木さん。復旧事業を終えた圃場が全部戻るのは2014年の予定。それと前後して圃場の区画整理が計画されている。「効率生産には大区画圃場への整備は欠かせない。しかし、事業完了までは圃場、機械を100%稼働できない。復興組合の活動で受ける交付金も減っていく。今後数年間は厳しい経営を強いられそうだ」と話す。
 農業機械の再導入に約3千万円、乾燥調製施設の再建築・機械導入には約5千万円掛かった。東日本大震災農業生産対策交付金(補助率2分の1)を活用し、残りは日本政策金融公庫の無利子資金を借り入れるなどした。
 「われわれの役割は農業経営を立て直し、経営基盤を次の世代に引き継いでいくことだ」と佐々木さん。「生産部門に特化した経営では、魅力的な経営展開は難しい。米の直接販売や、おにぎり・みそなどの加工販売、農家レストランの経営など6次産業も目指していきたい」と強調する。

(1面)

〈写真上:小さな水田5アールに刈り株が残る。「何としても作ろうと除塩した。耕作することで前向きになれた」と古内さん(右)〉
〈写真下:仙台イーストカントリーのメンバー。「効率的な生産と6次産業化で経営再建を図りたい」と佐々木さん(右)〉

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