今週のヘッドライン: 2025年02月 1週号
「これまでに東大生も出ているんですよ」と野菜の直売所で客を迎えるのは、横浜市保土ケ谷区西谷で苅部農園を営む苅部博之さん(54)。自ら育種した品種「苅部大根(かるべだいこん)」を受験シーズンには「受かる」をかけた「受かるべ大根」として販売し、受験生を持つ親などから人気を集めている。都市農業の担い手として品種などの独自性を追求しながら地域に根差した経営を目指している。
集荷競争の過熱を背景に主食用米の流通に支障が生じているとして、農林水産省は政府備蓄米の運営を見直し、集荷業者に買い戻し条件付きで売り渡しを可能にする仕組みを導入する。売り渡し量は備蓄の円滑な運営を阻害しない範囲とし、売り渡した業者に対しては、同等同量の国内産米を一年以内に買い入れる条件を付ける。実際に売り渡すかは、流通状況などを精査した上で判断する。
農林水産省は1月28日、食料・農業・農村政策審議会畜産部会を開き、新たな酪農および肉用牛生産の近代化を図るための基本方針(次期酪肉近)の構成案を提示した。生産数量目標の設定は従来の10年後から5年後に前倒しし、生乳・牛肉ともに「現状の生産量並み」とする方針で「需要に応じた生産の推進による需給ギャップの解消」を目指す方向の柱に据えた。需給緩和による脱脂粉乳の過剰在庫や枝肉・子牛価格の低下などの課題に対応し、現行酪肉近で掲げた増産目標から現状維持へとかじを切る。生産コストの低減・生産性の向上や輸入飼料依存度の低減、環境負荷低減などにも取り組む。同部会は3月下旬の答申を予定する。
茶の栽培、加工、販売を手がける三重県鈴鹿市の株式会社ささら(伊川淳也代表、36歳)は、自社のほか、協力農家の茶葉を自社工場で製茶し、地域の中心的な経営体として茶生産を支えている。計画的な改植や圃場の状態に合わせた適切な施肥などで品質向上に努め「伊勢茶」のブランド振興に力を注ぐ。自然災害や価格低下などのリスクを考慮して収入保険に加入。備えを万全にして一層の経営発展を目指す。
海外でも専門店ができるなど広がりを見せている日本発のおにぎり。フランスのパリを中心に、洋風な味付けや食材でつくる「パリおにぎり」が話題だ。ビストロシェフの島田まきさんに簡単な食材でできる見た目も華やかな3品を紹介してもらう。
ナシやリンゴの人工授粉に使う花粉採取は、高所作業で危険が伴う上、手作業で労力がかかるのが課題だ。火傷病が発生した中国からの輸入は2023年から停止しており、国産花粉採取の省力化や供給体制強化が求められている。鳥取大学などで構成する「花粉採取・受粉技術開発コンソーシアム」は、1月24日に千葉市でシンポジウムを開き、花粉採取の省力化技術の研究成果を発表した。
【山形支局】「青色申告を始めたのは、研修会への参加がきっかけだった」と話すのは、飯豊町小白川の佐原一治(さわらかずはる)さん(67)。2018年1月に置賜地域で開催された青色申告研修会に参加した佐原さんは、同年3月に税務署へ青色申告承認申請書を提出し、青色申告をスタートさせた。
稲作専門の兼業農家だった佐原さんは、当時、近隣の離農者から依頼を受けて作付面積が増え始めていた。研修会で青色申告は所得税の控除が多いほか、収入保険の加入要件であることを知り、魅力を感じたという。
当初は手書きで帳簿を作成していたが、白色申告に比べ提出書類が多く、計算や転記にミスがあると修正に手間と時間がかかることに苦慮していた。
佐原さんが申告用ソフトに興味を持ったのは、同町青色申告会に決算書を提出した時だった。他の農家がパソコンで作成したきれいな決算書を提出していたのを見て、使用しているソフトについて聞いてみた。
入力方法や購入価格、更新料などを比較検討した結果、経営規模や予算に合っていたため、最終的に鶴岡市の企業が販売するソフトを選んだ。このソフトを使用し始めたことで、自動計算や印刷機能を活用できるようになり、作業効率が大幅に向上。また、光熱費や通信料など、家庭用との事業割合を設定することで、案分作業も簡単に行えるようになった。「疑問点を電話で質問した時、画面を共有して教えてもらえたのも良かった」と話す。
〈写真:「ソフトの活用で、決算書作成が楽になった」と話す佐原さん〉
【埼玉支局】坂戸市の浅海哲(あさうみてつ)さん(35)は、両親と共に水稲22ヘクタールを栽培する。2024年3月に就農。「1年目は各作業を追うことで精いっぱいでした。実践を重ね、父の経営を引き継げるよう成長していきたい」と話す。
就農1年目における最大の課題は、200枚に及ぶ水田の把握だった。「両親は長年の経験から全圃場の位置を把握し、円滑に情報共有していましたが、自分自身が同じ水準へ達することは非常に困難でした」と振り返る。
そこで哲さんは、農作業記録アプリケーション「アグリハブ」を導入した。スマートフォンやパソコンで、農作業の記録と管理ができる。水田を作付品種ごとに色分けし、アプリ内の地図にマーキングすることで、全圃場の位置の把握に役立った。父・進さん(70)と地図を確認しながら情報共有することで、作業の重複や行き違いを防ぎ、スムーズな意思疎通が可能になったという。
〈写真:新米を手に哲さん。「面積当たりの収量を上げたい」〉
【石川支局】宝達志水町特産「紋平柿」のドライフルーツを、東間生産組合(井田昭雄組合長・73歳)が製造・販売している。
地域おこし協力隊と宝達高校家庭部が共同で商品開発したもので、果肉の柔らかさを残し、添加物不使用で素材本来の甘みを生かした商品に仕上がった。地元JAの直売所や道の駅で、昨年から販売を始め、約200袋を売り上げている。
〈写真:商品を手に井田組合長(左)と開発に当たった地域おこし協力隊の北脇真衣さん(31)〉
▼改正食料・農業・農村基本法の施行後初となる食料・農業・農村基本計画の議論が大詰めを迎えている。基本法の基本理念とする食料安全保障の確保などの実現に向け、食料自給率以外に複数の政策目標を据え、施策ごとの達成状況を評価するKPI(重要業績評価指標)を設定。毎年、進行状況を調査し、翌年以降の施策推進に反映する方針だ。
▼KPIは、目標に対する進行状況を指標に基づいて評価する評価手法で、企業の業績評価や人事管理などに使われている。目標に対し、いつまで何をどれだけ行うか定量的に把握できる数値を設定し、期日がきたら数値で達成度を判定する。その結果を基に計画・実行・評価・改善というPDCAサイクルを回し、目標達成を目指していく。
▼農林水産省が示した基本計画骨子案では、28の目標と数多くのKPI項目が示された。具体的な数値も含めてさらに検討し、3月に策定する基本計画に反映する。現在も予算などの事業ごとに数値目標などを設定しているが、今回の基本計画では、目標達成に向けた進行管理を強化する考えだ。
▼ただ、適切な指標や数値を設定しないと、目標に近づけないこともあるという。審議会委員からも目標に到達できる適切な指標設定などが要望されている。農林水産省の試算では、対策を講じないと2030年の農業経営体数は20年比で半減の54万になり、3割の農地が耕作されないおそれがある。農家や国民に分かりやすく展望が開ける基本計画と着実な進行管理を望む。