今週のヘッドライン: 2024年12月 2週号
農作業中の事故を減らそうと、農林水産省は本年度から12~2月を農作業安全研修実施強化期間とし、作業安全の知識向上や実技演習などの開催を呼びかけている。今後3年間で、農作業事故による死亡者数を年間119人と半減させる新たな目標も掲げた。農業は、建設業など他産業に比べて人数当たりの死亡事故件数が高い。地域農業の維持・発展に向けた担い手の育成・確保の面からも、農業者一人一人の安全対策の実践が重視されている。
中央酪農会議(中酪)は2日、緊急会見を開き、2024年10月時点で指定生乳生産者団体(指定団体)に生乳を出荷している酪農家戸数が初めて1万戸を下回ったと発表した。さらに酪農家への緊急調査では58.9%が赤字経営となり、47.9%が離農を検討していると分かった。高齢化や後継者不足に加え、飼料価格の高騰・高止まりなど経営状況の悪化が離農に拍車をかけている。世界的な乳製品需給のひっ迫が懸念される中、国民生活に不可欠な牛乳・乳製品の安定確保には国内酪農基盤の維持・強化が欠かせない。持続可能な酪農経営の確立へ国を挙げた支援の抜本強化が急務となっている。
警視庁は3日、種苗法違反(育成者権侵害)の疑いで2人を逮捕し、10人を書類送検したと発表した。農研機構が開発・品種登録したイチゴ「桃薫(とうくん)」の苗を無許可で増殖し、フリーマーケットアプリで販売するなどした疑い。
三重県伊賀市石川の北川敏匡さん(40)は、イチゴ「よつぼし」25アールなどを栽培。販売するイチゴを「伊賀満天星(いがどうだん)いちご」と命名して商標登録を取得し、ブランド化を図っている。全てのパックに印刷するロゴは、冬の星空をテーマに"ぷち"ぜいたく感が出るようデザイナーに依頼した。小粒傾向だが果形が良く洋菓子に向く品種特性を生かし、仲卸を通じて大手洋菓子店などに納品するほか、地元直売所でも販売している。
平飼い鶏の卵かけご飯や野菜の収穫、五右衛門風呂が体験できる福井県永平寺町吉峰の農家民宿「晴れのち、もっと晴れ」。芳沢郁哉(いくや)さん(31)、有希(ゆうき)さん(28)夫妻が営み、2023年7月の開業以来、20戸の小さな集落に千人ほどが訪れた。郁哉さんは宿を訪れる人たちとの会話や交流を通じて「物を大切にする気持ちを感じたり、鶏の生活環境を考慮した卵があると知ったりする、一つのきっかけになればいいですね」と話している。
中央畜産会は11月28日、東京都内で2024年度「全国優良畜産経営管理技術発表会」を開催した。全国の推薦事例から選出された8事例を審査し、最優秀賞の農林水産大臣賞4点、優秀賞4点を決定した。大臣賞受賞者から、酪農の2事例を紹介する。
【山形支局】「人にも果物にも環境にも優しい農業」を目標に掲げるのは、天童市山口の松田俊彰さん(69)。リンゴや西洋ナシ「ラ・フランス」などの果樹栽培を中心に手がけている。
2022年4月には三女の祥子さん(32)が新規就農した。俊彰さんが目指す農業の形を受け継ぎつつ、無添加ジュースの委託生産や前職の人脈を生かした「畑ピラティス」など新たな試みも行っている。
〈写真:互いに何でも相談するという松田さん家族。左から俊彰さん、妻の美貴子さん、祥子さん〉
【福井支局】「他にはない新しい商品を作りたかった」と話すのは、坂井市春江町のICHIGOOJI株式会社・代表取締役の池田天瑠(いけだてんる)さん(29)。ハウス8棟40アールでイチゴを生産する傍ら、自社イチゴの美容成分を配合したフェイスマスク「Dr.BERRY 3D FACE MASK」の販売を今年始めた。
〈写真:フェイスマスクは1箱5枚入りで、ヨドバシカメラやインターネットで購入できる〉
【埼玉支局】熊谷市万吉(まげち)の久保田修司(くぼたしゅうじ)さん(72)は、生産したトマトのほぼ全量を自宅前に設置した販売所で直売する。青果のほか、自家産トマトを100%使用したトマトジュースを取り扱う。食味や品質の保持に注力し、リピーター確保につなげている。
〈写真:定植直前の苗を確認する久保田さん。「例年並みの良い出来。管理にも力を入れていく」〉
【広島支局】給食に使う米の栽培などを行う庄原市一木町の「株式会社敷信村農吉(しのうむらのうきち)(中岡和己代表取締役社長、従業員110人)」が運営するチーズ工房「乳(ち)ぃーずの物語。」では、同市内の契約牧場の生乳を使ったチーズを製造、販売する。地元の生乳で作るチーズを通じて、庄原の魅力を発信する。
〈写真:「野菜に合うチーズにするため、癖がなく、塩分控えめで食べやすいものにしている」と積賀さん〉
▼6月に施行された改正食料・農業・農村基本法は、食料安全保障を基本理念に据えた。現在、その理念を具体化する施策や目標などが審議会で検討されており、来年3月をめどに新たな食料・農業・農村基本計画が策定される予定だ。
▼施策を実行に移すため、臨時国会に2024年度補正予算案が提出され、年明けの通常国会には25年度予算案も提出される。政府・与党は、初動の5年間を「農業構造転換集中対策期間」として、生産基盤の整備など食料安全保障を強化する施策を強力に推進する方針だ。
▼先の衆院選では、与野党ともに農業・農村振興の強化を訴えていた。予算拡充の重要性は野党にも理解を得られやすいだろう。一方で、財務相に建議(意見書)を提出した財政制度等審議会は、農林水産予算を「高水準」と指摘し、水田活用の直接支払交付金などを「多額の財政負担」と問題視する。
▼温暖化による災害の増加や国際情勢の変化で輸入依存のリスクの高まりは明らか。財政の裏付けは欠かせず、結束した対応を望む。