今週のヘッドライン: 2024年12月 1週号
「トウキは非常に寒さに強く、この地域の気候に合っている。冬季の安定した収入になっている」と話すのは、群馬県沼田市白沢町の南輝雄さん(68)。トウキ2.5ヘクタールと夏秋トマト1ヘクタールを栽培する。トウキの収穫期を迎え、圃場で掘り取り、茎を包丁で切り取る作業を進めている。県北部のJA利根沼田薬草部会では2023年度の出荷量69.2トン(県全体で92トン)から、24年度は100トンを視野に入れる。医療用漢方製剤を製造・販売するツムラと契約栽培し、出荷重量による同一単価で取引する。県も、トウキの乾燥調製に必要なパイプハウスなどの導入経費を補助し、作付けを後押しする。
NOSAI協会(全国農業共済協会、髙橋博会長)は11月27日、東京都内で「『未来へつなぐ』サポート運動令和6年度全国NOSAI大会」を開いた。農業災害が頻発・激甚化する中、農業保険の経営安定機能を最大限に発揮し、農業の持続的な発展に資するなどを掲げた大会決議を満場一致で採択した。大会では、江藤拓農相と御法川信英衆議院農林水産委員長が祝辞を述べ、宮崎雅夫参議院農林水産委員長が祝辞を寄せた。決議に当たり、NOSAI石川(石川県農業共済組合)の田中肇組合長と、NOSAIわかやま(和歌山県農業共済組合)の杉谷孫司組合長が意見表明を行った。
政府は11月29日、2024年度補正予算案を閣議決定した。農林水産関係には総額8678億円を計上。食料供給基盤の強化に向け、老朽化した共同利用施設の再編集約・合理化に400億円を措置するとともに、農地の大区画化などを推進する。過度な輸入依存からの脱却など食料安全保障の強化に向けた構造転換対策には2537億円を措置し、水田の畑地化やスマート農業技術の導入加速化などを支援。物価高騰への対応では消費が低迷している和牛肉の需要拡大へ緊急対策などを盛り込んだ。
2025年の収入保険の加入申請期限が、個人経営体や事業年度が1月開始の法人経営体は12月末に迫っている。収入保険は、農業者の経営努力では避けられないあらゆるリスクに対応して収入減少を補てんする。25年契約の新規加入者には、要件を満たせば保険料の負担軽減措置もある。加入を希望する農業者は必ず年内に手続きをしてほしい。
アジア最大規模の福祉機器展示会「H.C.R.2024 第51回国際福祉機器展&フォーラム」(主催・全国社会福祉協議会 保健福祉広報協会)が先ごろ、東京都内で開催された。特殊寝台(介護ベッド)の「睡眠・起居・ポジショニング」をテーマに講演した、高齢者生活福祉研究所所長で理学療法士の加島守さんにあらためて特殊寝台の役割と使い方を教えてもらった。
平均糖度14.5度以上という高知県香南市夜須町の地域ブランド「夜須のエメラルドメロン」。生産者の伊野洋介さん(43)は施設メロンを6棟(計70アール)で栽培する。ブランドの特徴である防根透水シートを使った隔離栽培と有機物を主体とした土づくりで、メロンの生育に即した繊細な施肥・灌水〈かんすい〉を行い、ブランドの特徴である品質確保と安定生産を図る。土壌診断の結果を基にハウスごとに施肥の量や成分を調整、葉のしおれや培地の湿り気、根の発達など生育状態を観察し、最適な環境制御などを実践している。
【埼玉支局】秩父市で栽培されているサツマイモのブランド「ちちぶ太白(たいはく)」は、実を割った時の真っ白な肉色が特徴。ふかすと、ねっとりとした食感で、ようかんのような甘さになり、冷めてもおいしい。作付けが減少し、秩父では1人の農家が守り続けた「太白」の栽培と継承に取り組むのが「ちちぶ太白サツマイモ生産組合」だ。吉川稔組合長(59)は「太白はこの地域で守られてきた大切な品種。さらなるブランド化を進め、後世まで残していきたい」と話す。
〈写真:割った太白を手に吉川組合長。皮は赤く、実が白い〉
【北海道支局】名寄市風連町で2022年に設立された「合同会社SaiS' Union(サイズユニオン)」の代表社員を務める齋藤覚さん(44)は、もち米、小麦、大豆、カボチャを約64ヘクタール、ビニールハウス21棟でスイカ、メロン、アスパラガスを栽培する。
齋藤さんは、20年から収入保険に加入している。以前はハウスの栽培が収入全体の半分を超え、園芸施設共済では収穫量の減少による補償がなかったため、収入減少に対するリスクを感じていた。そんな時、NOSAIから送付された収入保険のパンフレットを見て「これは自分の経営に合う制度だ」と思い、インターネットで情報を収集。価格低下に対応することや、積立金で補償を高くすることができ、被害が少なければそのまま積み立てておけることに魅力を感じ、加入を決めた。
加入から2年間は、高温などの影響でカボチャや麦で干ばつによる生育不良、スイカで病害による枯死などの被害が続き、つなぎ資金の貸し付けを受けた。そのことで、翌年以降の営農準備を行うことができた。
名寄市が生産量日本一を誇るもち米の生産にも、合同会社設立後に取り組む。「離農で使われない農地が増えていく中、地域の農業を守っていくためにも、経営が安定する範囲で従業員を増やし、作付面積を増やしている。将来の計画を立てて、常に実際の作付け以上の面積に対応できる機械の整備を行うなど環境づくりを心がけている」と法人の取り組みについて話す。
将来の計画を立てていく中で、国際基準のグローバルGAPを取得できるレベルまで環境整備を行うことを目標にする齋藤さん。「今すぐに取得をする予定はないが、メリットを感じてから準備を始めても、整備するまでに時間も資金も余計にかかってしまうので、しっかりと計画を立てて設備などの更新をすることを意識している」と話す。
「今後は、どうしても高齢化による離農は避けられないので、法人の規模を拡大し、雇用を増やしていくことで地域の農業を守っていきたい」と展望を描く。
〈写真:「将来の計画を立てていく中で、収入減少に対応してくれる収入保険は助かる」と話す齋藤さん〉
【山形支局】遊佐町遊佐で固定種野菜の自然栽培を手がける和島経輔さん(45)、千春さん(43)夫妻は、栽培するビーツやキュウリを使ったポタージュ、放任竹林のモウソウダケを使った「板メンマ山形玉コン味」などの総菜を製造・販売している。
〈写真:商品を前に経輔さん。パッケージのデザインは、自分で手がけた〉
【山口支局】「ずっと作ってきた餅を販売してみたい」と13年前に加工場を造り、餅の加工販売を実現した光市の本田悦子さん(82)。トマトやミカンなど地元の材料を使った餅を考案し、同市の農業振興拠点施設「里(さと)の厨(くりや)」で販売する。
〈写真:「トマト、イチゴ、ミカン、ヨモギ、小米餅があります」と本田さん〉
▼「月に2万円でも野菜を販売する高齢者は介護費用や医療費を浮かせている。合わせ技の効果を評価すべき」とは、持続可能な地域社会総合研究所の藤山浩所長だ。NOSAI職員全国研修集会で「持続可能な農村を目指して」をテーマに講演。各地の地域づくりに携わる際に重視するというデータ収集と分析のポイントなどを説明した。
▼農業からのリタイアについて藤山氏は「いつ草刈りをやめたのかを判断基準としている」と述べた。その話を聞き、大病をするまで自家用の野菜づくりなど家の中にこもらずに働いていた祖母の姿が浮かび、自分のペースで働けるのも農業の利点と改めて思った。
▼日本の農村部は都市部より早く人口減少と高齢化が進み、人口減少の緩和もねらい、農畜産業の担い手確保や集落活動の活性化が急がれている。新規就農支援や移住・定住の促進、都市との交流など、政府もさまざまな事業を用意し、活用を呼びかけている。
▼ただ、昨今は高齢になっても健康で元気な人も多い。中小規模の農業から集落の用水路の草刈りなどまで集落の農家や住民が関わる場づくりは大切にしたい。移住・定住を含め集落と関わる人が魅力に思うのは、いきいきと暮らす集落住民の姿だろう。