今週のヘッドライン: 2024年11月 2週号
農林水産省は6日、食料・農業・農村政策審議会企画部会を開き、現在のすう勢が続けば2030年の農業経営体数は54万と20年(108万)から半減し、約3割の農地が利用されなくなる恐れがあるとの見通しを示した。「農地を適正に利用する人の確保」を最大の課題とし、品目ごとの状況に応じて規模拡大や新規就農・参入を推進するとともに、生産性や付加価値の向上を図る考え方を説明。来年3月末に策定する新たな食料・農業・農村基本計画に、主な品目別の経営体数・規模などの目標を設定するとした。将来展望の見える目標と実効性ある施策の抜本強化が求められる。
有機農業推進法の成立を記念する12月8日「有機農業の日」に向け、農林水産省では特設サイトを開設。有機農産物の利用促進や有機農業の推進を呼びかけている。同省の「みどりの食料システム戦略」では、2050年までに取り組み面積を100万ヘクタール(耕地面積の25%)に拡大する目標を掲げ、次世代有機農業技術の開発・確立と普及、オーガニック市場の拡大を進めている。有機農業を巡る情勢をまとめ、生産者に政策への要望などを聞いた。
農林水産省は10月30日、2023年産米の生産費を公表。個別経営の10アール当たり全算入生産費(資本利子・地代を含む、全国平均)は前年産比3.0%増の13万2863円で、2年連続で前年を上回り、直近5年で最も高くなった。肥料費や農薬費、労働費などが上昇した。60キロ当たり全算入生産費は4.4%増の1万5948円。
消費者などに農産物を直販するビジネスが増えている中、顧客の住所や電話番号など個人情報の取り扱いには注意してほしい。万一漏えいすれば、顧客との信頼関係を大きく損なうためだ。個人情報の取り扱いの注意点について、一般社団法人日本個人情報管理協会の内山和久理事長に教えてもらう。
畜産に関わる女性たちが畜種を超えて交流する全国畜産縦断いきいきネットワーク(事務局・中央畜産会)は10月29日、東京都内で大会を開催した。オンライン併用で、北海道から九州まで100人以上が参加。畜産のすばらしさを生産現場から発信し、消費者との交流を深めて国産畜産物の消費拡大を呼びかけることなどを掲げた大会宣言を採択した。次世代に魅力ある畜産経営にしようと消費者との交流や消費拡大の取り組み事例が発表された。
富山県小矢部市水牧の農事組合法人エコファーム水牧では、大豆「えんれいのそら」5.3ヘクタールを栽培。ドライブハローに、特注のアタッチメントを80センチ間隔で取り付けた独自の播種作業機を用いて15センチほどの高畝を作るなど排水対策に努め、2023年産の10アール当たり収量は209キロ(県平均119キロ)を達成した。梅雨時期でも圃場が早く乾き、培土や除草剤散布の適期作業が可能となり、雑草対策にも効果を上げている。
【静岡支局】「農業が好きだからやっている。気負っていたらできない。自分のペースでやっているからこそできること」と話すのは、静岡市葵区新間で露地野菜70アールを栽培している松岡遥斗さん(20)。農業を学ぶ大学2年生で、高校在学中から野菜を栽培し、販売も行っている。現在は静岡から大学のある神奈川県厚木市まで通う傍ら、夏はナスやピーマン、トウモロコシ、冬はホウレンソウやサツマイモ、ハクサイなどを作付ける。
〈写真:ハクサイの苗を定植する松岡さん〉
【埼玉支局】久喜市菖蒲町にある「梨の大澤農園」の大澤一樹(おおさわかずき)さん(48)は、点滴灌水(かんすい)によるナシの幼木育成に取り組んでいる。24時間体制で土壌を適度に湿らせる点滴灌水で、幼木の成長を助ける。
〈写真:「点滴灌水に取り組み13年目。手応えは大きい」と大澤さん〉
【岡山支局】「効率化だけでなく、顧客の需要に応えるためにスマート農業に取り組んでいる」と話すのは、赤磐市で米麦・大豆合わせて約34ヘクタールを栽培する「株式会社ファーム安井」の代表取締役・安井正(やすいただし)さん(56)。農地や品質のデータ収集と分析で、需要に合わせた細やかな管理で米の栽培に取り組む。
〈写真:全従業員がデータを確認できるように設置したタッチパネルモニターを指す安井さん〉
【山形支局】「小さい頃から自室に多くの観葉植物を飾るほど植物が大好き。自分の手で栽培してみようと就農を決意した」と話すのは、寒河江市島東の佐藤愛海(さとうあみ)さん(24)。キュウリやブロッコリー、白ナスなど野菜40アールと多肉植物3.2アールの栽培に取り組んでいる。
〈写真:「秋から冬にかけて紅葉する多肉植物がかわいい」と話す佐藤さん〉
▼こうじ菌を使った伝統的な酒造りが、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録される見通しとなった。日本の提案を審査した評価機関が「記載が適当である」と勧告した。対象は杜氏(とうじ)や蔵人などが各地の気候風土に合わせて造る日本酒や焼酎、泡盛などだ。左党を自認する者としてうれしく思う。
▼特に日本酒は、農業との縁も深い。酒蔵はよい米と水のある地域に立地して酒造用米を購入する。冬季の酒造りは農閑期の農家などが担ってきた。造り方も杜氏の出身地によって少しずつ異なり、経験を重ねて築いた技術が長年にわたり伝承されてきた。
▼近年は健康志向もあって国内の酒の消費量は減少の一途をたどる。ただ、各地の酒蔵が米の品種や削り方から造り方まで工夫を凝らし、多様な味わいを楽しめる時代となった。酒蔵見学と合わせた観光も盛んだ。
▼需要拡大は海外に目を向けたい。農林水産物・食品の輸出で、日本酒は10年で輸出額が3倍超増えた。酒造好適米品種は、栽培に手間はかかるが単価は高く、中山間地の水田維持にも貢献できるだろう。