今週のヘッドライン: 2024年10月 4週号
高知県では、県内全域で農業関連データを集約・活用する営農支援サービス「SAWACHI(サワチ)」を開発し、企業や大学、普及機関、JAなどが連携して施設園芸を中心に現場での普及を進めている。スマートフォンのアプリから、気象や市況に加え、出荷データやハウス内環境などの情報が閲覧でき、栽培管理の改善に生かしやすい。9月末時点で、ナスやシシトウなど県内の主要7品目含む1423戸が利用している。今後、産地で収集したデータの活用を加速し、次世代型農業の構築を図る。
農林水産省は18日、2024年産主食用米の9月の相対取引価格(全銘柄平均、速報)は前年同月比48%(7409円)高の60キロ当たり2万2700円となったと発表した。現行統計開始(06年)以降の最高値で、端境期の極端な米品薄などで集荷競争が激化し、JAの概算金などが上昇したことが要因とみられる。
農林水産省は17日、食料・農業・農村政策審議会果樹・有機部会を開き、果樹農業振興基本方針の見直しを諮問した。現行基本方針(2020年4月策定)では、国内外での堅調な需要などを踏まえ、それまでの生産抑制から供給力の回復と生産基盤強化への転換を打ち出した。ただ、高齢化や農家の減少に歯止めがかからず、国産果実の卸売価格は上昇傾向にある中でも、栽培面積・生産量はともに減少。需要に応え切れておらず、将来的な産地消滅を懸念する声も挙がる状況だ。担い手の育成・確保とともに、省力樹形への改植・新植やスマート農業技術の開発・導入などの施策を進め、持続可能な果樹産地の確立が見通せる生産基盤の抜本強化が求められる。
NOSAI広島(広島県農業共済組合)では、自然災害への備えを促し、地域農業の維持・振興に力を注ぐ共済委員が活躍している。市街化が進む地区で営農を続けて農地を守りながら、円滑な事業運営に尽力する共済委員2人に話を聞いた。
実需者から「定時、定量、定質、定価」が求められる加工・業務用野菜の取引で、野菜の収穫適期予測などに情報通信技術(ICT)を活用し、安定供給に成果を挙げる産地も出始めた。野菜流通カット協議会が10日に開催したセミナーから、最新の産地の取り組みを紹介する。
お米のおいしさを引き立てる「ご飯のおとも」。炊きたてに乗せると、見た目にも食欲を刺激され、ついおかわりしたくなる。料理研究家の大石寿子さんに身近な食材で手軽に作れる3品を紹介してもらう。
【長野支局】安曇野市三郷小倉の「安曇野おぐら果樹農産」は、代表の塚田豊久さん(68)を含め理事5人、正社員1人、パート20人ほどで、ナシ400アール、リンゴ130アール、モモ10アールを栽培している。ナシでは一部にジョイント栽培を取り入れて効率化を進め、温暖化に合わせてモモ栽培を始めるなど、時代に合わせた営農を行っている。
塚田さんが梨部会の部会長をしていた当時、部会員数人が高齢を理由に離農することになった。そのため、息子の耕一さんを含めた若い担い手の有志を募り園地の管理を開始。2014年、離農する小倉の果樹農家の受け皿として「安曇野おぐら果樹農産」を設立した。
収穫期には園地でナシの詰め放題などを開催し、多くの人が来場する。リピーターも多く「おいしかった」という声を直接聴くことが励みになっているという。「交流サイト(SNS)での反響も大きく、県外からもナシを目当てに訪れる方もいて、そのようなにぎわいも法人化したことのメリットと感じます」と話す塚田さん。
研修生の受け入れも積極的に行っている。県内の学生に限らず、東京の大学からも受け入れ、1週間程度の実習を行う。果樹栽培や法人化、離農者の農地を受け入れる経営方針などを学びに来る学生もいる。また従業員として働く人の中には技術を学び、独立した人もいる。
また、パートで働く人たちは主婦が多く、地域コミュニティーの役割も担っている。そのため長く勤める人が増え、技術も向上、作業効率が良くなっている。
〈写真:「安曇野おぐら果樹農産」の理事たち。左から2人目が塚田さん、中央が息子・耕一さん〉
【宮崎支局】宮崎市清武町で「みやざき地頭鶏〈じとっこ〉」5千羽を飼育する中村秀和さん(73歳、合資会社石坂村地鶏牧場)。2015年には、より多くの消費者にみやざき地頭鶏を味わってもらいたいとの思いから直売所をオープンするなど、生産だけでなく、加工品の製造・販売にも力を注いでいる。
みやざき地頭鶏は、厳しいブランド認証基準を満たした生産者・農場が生産している宮崎県のブランド地鶏。飼育密度が1平方メートル当たり2羽以下と広々とした場内で、雄は4カ月、雌は5カ月とじっくりと時間をかけて飼育することで、柔らかさの中にも適度な歯応えがありうまみが濃い鶏肉となるのが特徴だ。また、21年には、みやざき地頭鶏(むね肉)に疲労を軽減する成分が多く含まれているとして、消費者庁から機能性表示食品として指定されるなど、成分面においても注目を浴びている。
直売所では、精肉のほか、炭火焼きや味噌〈みそ〉焼き、鍋セット、「かつおぶしならぬ地頭鶏ぶし」など多数をラインナップ。その味を求めて、連日多くの人が購入に訪れている。
「全国各地にさまざまなブランド地鶏があるが、みやざき地頭鶏はどこにも負けないブランド地鶏だと思っている。今後はさらに加工販売面を強化して、より多くの消費者にみやざき地頭鶏を味わってもらえるよう努めたい」と意気込む。
〈写真:中村さんは一羽一羽観察しながら手作業で飼料を与える〉
【香川支局】「資材価格の高騰が止まらない中、設備投資不要ですぐに収入を得られるので挑戦しようと思いました」と話すのは、坂出市府中町の木下英治さん(51)。2021年にアスパラガスの栽培を始め、現在はハウス14棟30アールを、3軒の農家から居抜きで借りている。
きっかけは、知人を通じてアスパラガス栽培歴30年の白川芳男さん(83)と知り合ったこと。木下さんは、白川さんが高齢で離農を考えハウスを預けられる人を探していると知り、白川さんのハウス4棟10アールで栽培技術を教わることにした。
「白川さんはハウスを貸してくれるだけでなく、管理のアドバイスもしてくださり、感謝してもしきれません。責任を持ってハウスを残したい」と木下さん。
作業は防除から収穫までのほとんどを一人でこなし、繁忙期は長男と協力して出荷準備をする。移植機や無線操縦草刈機などを積極的に導入し、効率化を図っている。
白川さんは「木下さんはハウスをきれいに管理してくれています。アドバイスを真面目に聞き、育て方も丁寧なので、安心して任せられます」と話す。
〈写真:「ウェルカム」を収穫する木下さん〉
【岐阜支局】「収入保険は、規模拡大や収入増加に対応した基準で補償してくれるので思い切ったチャレンジができる」と話すのは、高山市国府町でモモ6ヘクタールを栽培する「合同会社つむぎ果樹園」代表の前坂治臣さん(37)。法人を設立した2021年当初から収入保険に加入している。
主力品種の「白鳳〈はくほう〉」を中心に約30品種を7月上旬から9月下旬にかけて生産する。その中でも特に、糖度11度以上、重さ250グラム以上で一定の品質をクリアしたモモを「飛騨のたからもも」として19年にブランド化した。前坂さんは13年前の就農当初「飛騨のモモは、きれいな水や豊かな土、朝晩の寒暖差によって甘みが強くておいしい」と自信を持っていた。しかし、実際の販売価格が品質の良さに見合っていないことに疑問を持ったことがブランド化のきっかけになったという。
現在、地域のモモ農家の平均年齢は70歳を超えていて、後継者も不足している。「次世代のためにもブランド価値を高め、品質に合った価格で販売したい」と前坂さんは話す。
また、高齢などの理由で管理不能となった農地を借り受け、規模拡大にも取り組む。これまでに借り受けた農地は25件、3ヘクタールにのぼる。数年後の収穫に向け、人材を計画的に育て、体制を整えなければならないという。「社員の給料は絶対に払う必要がある。収入保険でその部分の心配がなくなり、安心して雇用ができるのはありがたい」と収入保険に期待する。
〈写真:前坂さん(右端)と前坂さんの両親(左端)、従業員〉
▼今年のノーベル平和賞は、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)に授与されることとなった。被爆者の立場から世界に核兵器廃絶を訴えてきた活動が評価されたという。受賞は喜ばしい。しかし、現実の世界をみると、ウクライナを侵略したロシアが、西側諸国の対応によって核兵器の使用も辞さない姿勢を示すなど非常に危うい状況にある。
▼ノーベル賞は、ダイナマイトの発明者・企業家として知られるアルフレッド・ノーベルの遺言に基づいて1901年に始まった。平和賞の設定も遺言にあり、"国家間の友好や平和会議の設立・普及、軍備の廃止・縮小に努めた者・団体へ"と記している。
▼賞設立のきっかけは、兄の死をアルフレッドと取り違えた新聞が「死の商人、死す」と報じたためと伝えられる。当時から爆薬や兵器で財をなしたことに批判があり、死後の自分への評価を気にしていたそうだ。
▼ノーベルは1896年に63歳で死去した。国家間の総力戦となり核兵器使用に至った第1次(1914~18年)、第2次(39~45年)の世界大戦を知ったら何と思うだろう。平和の後退をわびるしかない。