今週のヘッドライン: 2024年10月 2週号
先端技術による農業の生産性向上を図るスマート農業技術の活用の促進に関する法律(スマート農業技術活用促進法)が10月1日に施行された。小型無人機(ドローン)や自動収穫機などを活用し、新たな生産方式を導入する農業者などを支援する計画認定制度を創設。長期低利融資などの支援措置を通じて、スマート農業技術の普及・定着と生産性向上を促すものだ。計画申請の受け付けも1日から始まった。
石破内閣が1日に発足し、農相に小里泰弘衆議院議員が就任した。2日の就任会見で「農林水産省の最も大事な役割は、国民に安心・安全な食料を安定的に供給していくこと」と述べ、食料安全保障の強化・確立に意欲を示した。米の需給安定など水田政策については「将来にわたって安定して運営できる水田政策の在り方を示すことができるよう総合的に検討する」とした。会見要旨を紹介する。
農林水産省は9月30日、2023年の「地球温暖化影響調査レポート」を公表した。夏場の記録的な猛暑に伴い水稲は「白未熟粒」が全国で5割程度で発生。果樹ではリンゴは「着色不良・着色遅延」が全国で3割程度、野菜はトマトで「着花・着果不良」が全国で4割程度など例年以上に深刻な状況を報告するとともに、各都道府県での適応策などをまとめた。今夏も昨年に劣らない高温となり、多くの地域で農作物の品質や収量の低下などが相次いだ。温暖化が進行する中、高温耐性品種の導入など適応策を基本にした栽培管理技術を励行し、品質・収量の確保を図りたい。
サツマイモブームが続く中、地域特産品として、さらに成長させるには、他にはない特色づくりを考えたい。サツマイモを専門に栽培技術や新商品開発を支援する「さつまいもカンパニー株式会社」の橋本亜友樹代表取締役は、品種選定と加工方法の検討が重要だと示す。地域に根ざしたブランド化の進め方についてポイントを紹介してもらう。
10月は食品ロス削減月間だ。農林水産省では消費者庁や環境省と連携し、食品廃棄の削減について関心や理解を広げる普及・啓発に取り組む。飲食店での食べ残しを持ち帰るドギーバッグの活用を勧めるドギーバッグ普及委員会の小林富雄理事長(日本女子大学教授)に、意義や注意点などを紹介してもらう。
ハウスと露地合わせて作付面積4ヘクタールほどで15~16種類の草花や枝物を栽培する香川県三木町の株式会社F.U.KAGAWA〈エフユーカガワ〉では、年間約150万本の切り花などを関東や近畿へ市場出荷している。良品生産に役立てているのが自作した土壌消毒剤の散布機だ。市販のポンプやアルミ材などを使用し、2万円程度で製作した。計4~5人の作業で10アール以上を1時間ほどで散布できる。石原和昭代表取締役(57)は「性別に関係なく、慣れていない従業員も簡単に散布できる」と満足している。
【岩手支局】リンゴ園地50アールで「ふじ」や「つがる」などを栽培する一関市大東町の田渕健晴〈たけはる〉さん(36)、有季〈あき〉さん(29)夫妻。2021年から葉とらずリンゴの栽培に取り組む。収穫するのは樹上で完熟した状態のリンゴだけ。「たすあっぷる」と名付けて、インターネットなどで販売している。
タスマニア島のリンゴ農園で、2013年から栽培のアルバイトをしていた健晴さんと有季さん。同農園で知り合った二人は結婚し、19年に帰国。先に大東町へ移住していた祖母に続いて、同町に移住した。タスマニア島で得た知識や技術を生かして、21年3月に同町の園地でリンゴ栽培を始める。
「日本と海外では、日照時間や雨の降り方が全然違う。栽培方法も180度違った」と健晴さん。JAの青年部に所属してリンゴ栽培の情報を収集したほか、近くのリンゴ農家から栽培技術などを教わった。
現在、「ふじ」「つがる」など9品種のリンゴを栽培する田渕さん夫妻。有季さんは「葉を残すと養分が実全体に行き渡るし、リンゴに味が乗りやすいので、葉摘みはしない」と話す。一方、実全体に色を付けるための玉まわし作業は増えた。有季さんは「作業は大変だが、おいしい赤いリンゴを作りたい」と話す。
リンゴの木は200本あり、今年は6千キロの収量を見込んでいる。「地色の抜け方や皮面の雰囲気などを注意深く観察して、樹上で完熟した状態のリンゴを収穫する」と有季さん。収穫したリンゴは主にインターネットで販売する。
〈写真:「好きな品種は『ジョナゴールド』。甘さと酸味のバランスが良い」と田渕さん夫妻〉
山口市 藤村康平さん(37)
新型コロナウイルス感染症拡大を受けて、2021年に収入保険に加入しました。
昨年は季節外れの長雨の影響でタマネギの収穫量が大きく減少し、つなぎ資金を申請しました。手続きも簡単でお金の工面に大変助けられ、もっと早く加入しておけば良かったと感じました。
近年の異常気象で今までのやり方が通用しなくなっているため、安定した収穫量を得るためには新しい品種や異なる方法で栽培するなど、常に挑戦する必要があると感じています。安心して挑戦するために収入保険は必要不可欠ですね。栽培面積の多い作物が失敗したときの大打撃に備えて、大規模農家や新規就農者にお勧めしたいです。
今年から得意先の要望に応じて、赤キャベツや白タマネギなど珍しい品種の作物に挑戦しています。取引先の開拓など経営戦略を考えて、作物の付加価値を上げることも重視しています。また、休耕地を活用して栽培面積を増やし、野菜のサブスクリプション(定期購入)など、ネット販売を取り入れていきたいですね。
▽キャベツ、タマネギなど3.5ヘクタール
〈写真:「収入保険は大規模農家や新規就農者にこそ勧めたい」と藤村さん〉
【長崎支局】福岡県からUターンして、黒毛和牛の繁殖を行っている五島市の村岡崇峰〈むらおかしゅうほう〉さん(30)。給餌器の色で子牛の飼料の食い込みが違うことに気づき、飼料給餌器作りに奮闘している。
きっかけは、給餌器を白色から紫色に変えた時、いつもと餌の食い込みが違ったことだ。「色によって食欲が変わるのでは」と疑問を持った村岡さん。その後、さまざまな色や、子牛に対する容器の見せ方について試行錯誤し、現在の色と形になった。
使用期間は生後3日目から20日まで。「早期に濃厚飼料を食べさせることで、胃の発達が促進され、以前よりミルクの量を増やしても下痢が少なく、出荷体重も向上している」と話す。
現在、給餌器の意匠権を取得し特許出願中。11月には獣医師協力の元、論文を発表する。「色によって食い込みが変わった原因が何なのか解明していくとともに、全国の繁殖農家がこの給餌器を使用できるよう、製造できないか模索していきたい」と意気込む。
〈写真:「生まれたばかりの子牛でも食い込み量が増えました」と村岡さん〉
【和歌山支局】湯浅町の温州ミカン農家・湯川知明〈ゆかわともあき〉さん(45)が農園で発見した「興津早生」の一樹変異が、長年の調査を経て2024年3月に新品種「あおさん」として登録された。この品種は年明けの流通期間とその食味から高い評価を受けていて、24年春から、和歌山県内限定で苗木の流通が始まっている。
湯川さんは200アールある農園にあった興津早生の一樹変異に興味を持ち、当時父から教わっていた接ぎ木の技術を用いて経過を観察。果樹試験場に情報提供するなどして、24年3月に新品種「あおさん」として登録された。
この品種は、1月下旬~2月上旬収穫にもかかわらず、早生ミカンのようにじょうのう膜が薄く食味が良いことに加え、育成地によっては糖度15度以上になることもある。高温、多雨による浮皮や厳冬期の低温障害にも強い。樹姿は大きくならず、剪定〈せんてい〉作業も比較的容易に行え、隔年結果も少ないなどの特徴がある。
あおさんの反響は大きく、県内外からの問い合わせも多いが、課題もある。鳥害と出荷量の安定化だ。
通常、温州ミカンは年内収穫が多い。そのため、年明けに収穫するあおさんは周りに実がない状況のため鳥害に遭いやすい。
さらに、栽培面積がまだ少なく、取引先への出荷量を安定させるのが難しい。24年の春からは県内限定で苗木の流通が開始され、栽培面積が広がり、安定供給につながることが期待されている。
〈写真:あおさんの木と湯川さん〉
▼石破内閣が発足し、農相に小里泰弘氏が就任した。四半世紀ぶりに食料・農業・農村基本法が改正され、新たな食料・農業・農村基本計画策定に向けた議論が本格化したタイミングだ。石破首相と林官房長官は農相経験者で、中谷防衛相は自民党農林水産戦略調査会長を務めた。農政の推進力に期待したい。
▼基本法改正では基本理念に食料安全保障の確保を据えた。背景には、気候変動や世界的な人口増加による食料争奪の激化、紛争、戦争など国際情勢の変化による食料需給の不安定化と輸入リスクの拡大がある。対応では、国内農業生産の増大を基本に据え、農業生産基盤の強化と合理的な価格形成などで食料の持続的な供給を図る方向だ。
▼ただ、現在は116万人いる基幹的農業従事者数は、高齢によるリタイアで20年後に30万人まで減る見込み。今は100%自給可能な米も自給困難になるとの指摘もある。
▼政府は、初動5年間を集中対策期間とし、農業構造の転換を図るとする。有言実行で国民の負託に応えてもらいたい。