今週のヘッドライン: 2024年08月 1週号
コマツナなど有機野菜を周年で生産・販売する茨城県つくば市の「ふしちゃんファーム」は、新規就農10年目で施設1.6ヘクタール、露地1ヘクタールに規模拡大し、年商1億7000万円に成長している。運営する株式会社ふしちゃんの伏田直弘社長(45)は「農業初心者も働きやすい仕組みをつくり、現場の従業員に点検してもらう。利益を最大化できるモデルを展開したい」と話す。施肥や防除、出荷など作業の徹底的な標準化を進め、従業員との栽培や販売状況などの情報共有で、現場の課題に柔軟に対応する。他地域への農園開設も進めていて、つくば市で標準化した体系を応用し、複数農場で年商10億円規模の経営を目指す。
政府観光局は7月19日、2024年度6月の訪日客数(推計)が単月として過去最多の約314万人だったと発表した。上半期(1~6月)の累計も約1778万人と最多を更新した。また、観光庁によると4~6月の訪日客の旅行消費額は2兆1370億円で、四半期の最高額となった。一方で、宿泊先の都市部への偏在化とオーバーツーリズム(観光公害)の未然防止・抑制策が課題となっている。政府は30年に訪日客数6千万人、旅行消費額15兆円とする目標を掲げている。国内人口の減少が加速する中、オーバーツーリズムを防ぎながら地方への誘客を促進し、農業・農村の維持・活性化が図られる環境づくりを進める必要がある。
農林水産省は7月23日、黒毛和種を対象に肉用子牛生産者補給金制度に基づく補給金を交付すると発表した。2024年度第1四半期(4~6月)の平均売買価格が1頭当たり54万1400円となり、発動基準である保証基準価格(黒毛和種は同56万4千円)を下回ったため。期間中に販売、自家保留された子牛を対象に基準価格との差額(同2万2600円)を全国一律で補てんする。
「今年はカメムシの発生が多い。対策を徹底して高品質な柿を収穫したい」と話すのは、柿専門で「西条柿」を中心に経営する柿壺株式会社(島根県出雲市平田地区)の小松正嗣代表(43)。耕作放棄された園地も積極的に受け入れて現在11ヘクタールまで規模を拡大し、産地の維持・振興に力を注ぐ。干し柿の加工・販売にも取り組み、今年は香港への輸出も計画する。自然災害や病害虫などリスクの高まりに対しては、収入保険への加入で備え、一層の経営発展を目指す。
「この景観を守っていきたい」と話す、さいたま市浦和区でトウガラシ専門農園「十色(といろ)とうがらしファーム」を営む合同会社十色のサカール祥子(さちこ)代表(46)。70アールで世界から集めた45品種を農薬や化学肥料を使わずに栽培する。首都近郊に田園風景を残してきた見沼田んぼを守り、後世につないでいきたいと日々活動。農福連携事業や農業体験の受け入れなど多くの人を呼び込もうと工夫を凝らす。
全国酪農青年女性会議と全国酪農業協同組合連合会は7月18~19日、第51回全国酪農青年女性酪農発表大会を名古屋市で開催。酪農経営発表では、岡山県真庭市の筒井省悟さん(46)が農林水産大臣賞を受賞した。筒井さんの経営概要を紹介する。
【山形支局】南陽市太郎の大森山牧場株式会社(代表取締役=矢澤啓一さん・74歳)は、50年前から山地での乳牛の放牧を実践している。一般的なつなぎ飼いと比べて、給餌作業や飼料代の負担が軽減され、排せつされたふん尿は肥料として牧場内の草地に還元できるなどのメリットがある。
約40ヘクタールの草地を有する同牧場では成乳牛104頭、育成乳牛約30頭を飼育。1日当たりの出荷乳量は約2.2トンとなる。
放牧は5月上旬から10月下旬に実施する。群れに慣れ、牛房の場所を覚えた牛だけを放牧していて、飼育する乳牛のうち7割ほど。牛は時間になると割り当てられた牛房に戻ってくるという。「放牧は全頭に行うことはできない。群れに慣れずストレスを感じる牛は、乳量にも影響が出てしまう」と矢澤さんは話す。
同牧場の診療を担当していたNOSAI山形の和田賢二家畜部長は「乳牛の足周りがしっかりとしている。太らずに健康的な体形なのも良い」と話す。
毎朝午前5時半から午前8時まで搾乳を行い、給餌後の午前9時半から午後2時にかけて放牧する。放牧に出す間に、牛舎の清掃を行っている。牧場の外周は約12キロで、牧場内には、有刺鉄線で区切られた複数の牧区があり、牧草の状態を見ながらローテーションしている。
〈写真:広大な敷地で飼育される牛を見守る矢澤さん〉
【岩手支局】20アールの圃場で野菜や果物を多品目栽培する雫石町長山の山崎正美さん(78)は、2023年にケールの栽培を始め、自宅で「ケール茶」に加工して販売している。
「ケールは野菜の王様と呼ばれ、栄養素が高いのが特徴の葉野菜」と山崎さん。6月上旬に1回目の播種をして、約1カ月後に収穫する。播種してから収穫までの期間が短いことから、年に数回栽培している。また病害虫の被害がないため、農薬は使用しないという。「栽培に手間がかからないので、昨年よりも作付け本数を増やした」と話す。
収穫したケールは、ビニールハウス内で日光を当てて乾燥させる。台の上にトタン板を敷いていて、山崎さんは「熱を持ちやすいトタン板を敷くことで天気が良いと約1日で乾燥できる」と話す。
乾燥後は粗めのミキサーに2回ほどかけて粉末にし、袋詰めまでを自宅で作業する。
〈写真:「生産者の少ないものを栽培、販売することで利益を出したい」と山崎さん〉
【福井支局】福井市上伏〈うえぶせ〉町の有限会社藤島エンタープライズでは「コシヒカリ」など主食用米55ヘクタールとWCS(発酵粗飼料)用稲17ヘクタールを生産し、22ヘクタールの作業を請け負う。肥料コストの高騰や販売価格低下などによる収益減少の打開策として、2023年に輸出用米「シャインパール」10ヘクタールの栽培を開始した。
同社は稲WCSにかかる資材価格の高騰などで収益が減少してきたため、収益力の向上を目指し、新たな品種の生産を検討。早生品種も考えたが、作業効率性と価格を考慮し、輸出用米にチャレンジしようと決めた。
専務取締役の佐々木康行さん(45)は「稲WCSは刈り取りから出荷まで、2週間程度の時間と労力、専用の資材などが必要だった。シャインパールに切り替えたことで、通常の稲刈りにかかる労力で済むようになり、かなり省力化できた」と話す。
シャインパールは収穫期が9月上旬からで、高温登熟耐性に優れ、同社の作業スケジュールに組み込みやすかったため、採用した。
〈写真:「これからも新しいことにチャレンジして、自分たちに合った作物を見つけていきたい」と佐々木さん〉
【栃木支局】塩谷町喜佐見の鈴木孝夫〈すずきたかお〉さん(73)は主食用米1ヘクタールと飼料用米64アール、青刈り用のもち米27アールを作付けしている。
自宅は山間部にあり、5年ほど前に国庫補助で約8.5キロの防護柵を設置し、イノシシによる被害が減少した地域だ。現在はシカによる食害対策が課題という。「もち米を栽培する圃場ではできるだけ深く水を張り、サイレンや動物の鳴き声が出る装置、ラジオなどを設置して対策しています」と話す。
もち米はしめ縄用。鈴木さんは部会員24人が所属する「JAしおのや塩谷〆縄部会」の部会長を務める。町のしめ縄作りは、50年ほど前に農閑期の仕事として始まった。「最近では、黄変しないわらを使った強度のある高品質なしめ縄が求められています」と鈴木さんは話す。
圃場ではできるだけ丈を長く育て、7月下旬の出穂前に収穫。生わらを半日ほど稲架掛〈はさか〉けして天日干しにした後、ビニールハウスに移し平型乾燥機で急速乾燥させる。マルチにくるみ蔵や納屋などの冷暗所で保管し、製作の半日ほど前に葉先から半分ほどを水に漬け、葉を軟らかくした上でしめ縄作りに入る。
部会では年間2万本ほど、鈴木さんは約千本を出荷。鈴木さんは「製作時間には個人差があります。私の場合は、90センチ(3尺)のしめ縄だと1日20本ほど作れます」と話す。
〈写真:「ポイントは縄の締まりです。きつく締めながら編み上げます」と鈴木さん〉
【山口支局】美祢市美東町の有限会社大熊工業アグリ事業部が運営する「秋吉台農園」では、集落内の農地を集積してニンニク「嘉定種」を約2ヘクタール栽培し、「秋吉台にんにく」として加工品を販売する。
総責任者の山本勉さん(73)は、「幅広く加工できるニンニクは、栽培から商品化まで挑戦できるので楽しいです。秋吉台にんにくの特産地となって、人口減少や耕作放棄地の増加など、地域の抱える課題を解決していきたい」と話す。
山本さんは自動車部品を製造する大熊工業の代表取締役・大呑亮平さん(37)をはじめ地元の仲間と共に3年前、農業部門「アグリ事業部」を立ち上げ、地域の課題解決を目指す。「最終的には、農作物の生産にとどまらず、食品加工業や、観光農園、カフェといったサービス業まで事業を広げたい」と話す。
自社で黒にんにくを製造するほか、野菜ソムリエ上級プロとして活躍する西川満希子さん(49)と共同で商品開発に取り組み、万能だれ、刻みニンニクのオリーブオイル漬けなどを展開。美東町の道の駅や直売所で販売する。
西川さんは「秋吉台にんにくのキレの良い香りを生かし、こんなものが欲しかったと主婦に思ってもらえる加工品を開発しています。日常的に使ってもらうことで秋吉台を身近に感じていただき、地域活性化につなげたい」と話す。
〈写真:黒にんにくは自社加工、万能だれ(左)とオイル漬け(右手前)は委託加工している〉
▼東京・霞が関の省庁は、夏休み期間に小中学生や幼児を対象とした「こども霞が関見学デー」を開催している。今年は8月7日、8日に見学者を受け入れ、大臣室の公開や体験イベントなどを実施する。事前申し込みや人数制限があるプログラムもあるが、当日参加できるプログラムも多い。各省庁の企画を確認し、面白そうなものに参加してはどうか。
▼直接参加が難しい場合には、オンライン参加プログラムがある。農林水産省は、ホームページに特設サイト「マフ塾2024」を公開中だ。企画は、田畑や山林、海・川、食品、自由研究などテーマ別に整理され、小学校低学年と中学年、高学年以上の学年別基準を目安に選択できる。
▼具体的なテーマは「農業遺産」や「産業動物獣医師」「和食文化」など。いずれも概要紹介だけでなく、豊富な映像やアニメ、クイズなどを楽しみながら学べる仕掛けだ。工作などの企画は宿題の参考にもなりそう。
▼昨今は農作業の手伝い経験がない農家のこどもも多いと聞く。親子でサイトを閲覧し、農業や食について話し合うのもいいだろう。