今週のヘッドライン: 2024年07月 2週号
東日本大震災で大津波の被害を受けた仙台市若林区荒浜で営農する平松希望さん(31)は今年3月、独立就農の契機となった学生ボランティア組織「ReRoots(リルーツ)」の代表に就任。株式会社仙台あぐりる農園の代表として経営安定を図りながら、地域住民や学生たちと連携して荒浜地区をはじめ、集落コミュニティーが弱まる同区沿岸部の地域おこしや農業の担い手確保に努めている。
農林水産省は、2023年度に策定・公告された「地域計画」は75市町村・265地区だったと発表した。農地利用と担い手を結び付けた10年後の地域農業の設計図で、同省は改正農業経営基盤強化促進法に基づき25年3月末までに全国1672市町村・2万2539地区での策定が必要とする。しかし、昨年11月末時点の見通し(239市町村・1488地区)を大幅に下回り、協議の遅れが鮮明となっている。同省は地域計画への位置付けを一部補助事業の要件とするなど早期策定を促す方針だが、協議の進み具合に応じた柔軟な対応も大切だ。実効性ある計画作りに向け、多様な関係者の参画を促し、地域の実情に応じた丁寧な話し合いを後押しする必要がある。
農林水産省は6月28日、2024年農業構造動態調査結果(2月1日現在)を公表。全国の農業経営体数は前年比5.0%減の88万3300で90万を割り込んだ。10年前の15年(137万7300)と比べ3割超(49万4千)減少した。会社法人などの団体経営体数は同0.7%増の4万1千となったが、高齢化などで個人経営体は5.2%減の84万2300となった。
山口県宇部市で施設ミニトマトと露地の白ネギを中心に夫妻で経営する「まこっこ農園」は、作業時間や出荷実績の記録・分析を作業計画や作型に反映し、毎月100万~150万円を売り上げる安定経営を実現。経営する才木祥子さん(42)は「見える化で課題を自覚することが最重要。頭の中の問題意識を整理できると、改善が楽しくなってくる」と話す。自身で行う作業と、パートに任せる作業を切り分けるほか、経理や労務管理はソフトを活用し、ゆとりを持って経営できるようになった。
「この土地で造るチーズはどんな味になるのか期待を持ってこれまでやってきた」と話す水谷昌子(しょうこ)さん(44)。芳賀花子さん(42)と静岡市葵区小布杉(こぶすぎ)で「山羊(ヤギ)のしっぽ農園」を営む。茶の耕作放棄地を利用した82アールの放牧地で母ヤギ7頭、子ヤギ10頭を飼育。ヤギのミルクで製造するチーズは癖がなく、食べやすいと人気を集めている。北海道で技術を身に付け、理想のチーズを造ろうと現在地に移住して昨年農園を開いた。自ら販路を確保して挑戦を続けている。
農研機構はこのほど、枝が横に広がらずコンパクトな円筒型の樹姿となるカラムナー性を持ち、糖度が高く既存の主要品種並みに食味が優れる中生のリンゴ新品種「紅つるぎ」を育成した。既存の品種と比べて作業の省力化や高密植化が容易で、今後開発が進展する自動収穫機などのスマート農機にも適性が高いと見込まれている。苗木は品種登録後に提供を開始する予定だ。
【山梨支局】笛吹市八代町で「巨峰」「シャインマスカット」「ピオーネ」などブドウ約10品種130アールを栽培する大西雅明さん(51)と妻のひとみさん(38)。雅明さんは「高品質なブドウを栽培するため、いい方法がないか常に考えている」と話し、2017年の就農以降、試行しながら栽培方法の改善に取り組む。22年度には、山梨県果樹共進会の種なし巨峰の部で優良賞を受賞した。
〈写真:トンネルメッシュを設置したシャインマスカットの園地で大西さん夫妻。「2人で簡単に設置できた」と話す〉
【山形支局】米沢市梓川の株式会社M&Mアグリ(代表取締役=佐藤雅彦さん・37歳)では、ハウス18棟(約45.7アール)でオカヒジキを主軸に栽培しながら、農業用ドローン(小型無人機)を活用した事業を展開。その一つが園芸用ハウスの被覆材にドローンで遮光材を散布する取り組みだ。
「近年の異常な暑さはハウス農家にとって、商品の品質低下や減収につながる大きな問題」と佐藤さんは話す。遮光材は、炭酸カルシウムと水に界面活性剤、アクリル系樹脂などを混合した液剤を使用。作業は操縦者と指示役の2人体制で行い、散布時期は梅雨明けの7月中旬から、当日の天候、風速3メートル以下などの作業可能な条件を確認して実施している。
散布後の降水量によって違いはあるものの、遮光率は約30%で、ハウス内の温度は3度から5度低下し、効果は約3カ月間持続するという。上空からドローンを使って散布することで、高所となる鉄骨ハウスやアーチ型の一般ハウスも効率的にムラなく塗布することができ、300坪の鉄骨ハウスの場合は、約1時間で散布が完了する。
〈写真:ドローンでの散布作業〉
【岐阜支局】恵那市にある「てらぼら農園」の桝本草平さん(33)、知里さん(36)夫妻は、水稲80アール、ズッキーニやキュウリなど野菜約20種類20アールを、里山の自然を保全するため、農薬や化学肥料を使わずに栽培する。
水稲は中山間地に適した「ミネアサヒ」を栽培。
農薬不使用による栽培で労力がかかるのが除草だ。重要なのは数回の代かきで表面に数センチの深さの膨軟な層(トロトロ層)をつくること。雑草の種子を埋没させ、発芽を減らす。「それでも完全には除草できない」と草平さん。田植え後1カ月程度は、手押し除草機のほか、田植機で横並びのチェーンを引き、雑草に引っかけて抜く。
「労力に加えて時間もかかる。4年前に土壌改良を始めた水田で、やっとトロトロ層の形成が進んできた。効率を考えれば、農薬が広く使われているのも当然だと思う」と草平さん。
〈写真:「トロトロ層があると雑草の根張りが弱く、除草がしやすい」と草平さん〉
▼新紙幣で1万円札の肖像に採用された実業家の渋沢栄一は、生涯に約500社の会社設立や経営に関わったという。江戸時代末期に農民から武士に取り立てられ、後に徳川第15代将軍となる一橋慶喜に仕えた。維新後は明治政府の官僚として造幣や戸籍など国の礎を築いた後、実業家に転進した。
▼農業関係の実績を調べると北海道開拓にも携わっている。1897(明治30)年に十勝川沿いの土地3500万坪の貸し付けが許可され、翌年に渋沢ら10人が出資して十勝開墾合資会社を設立。同年に石川・福井からの入植者を迎えて畑作と酪農に取り組んだ。
▼寒冷な気候や物流の困難などから、事業が軌道に乗るまで10年ほどを要した。その間、出資者の離脱もあり、事業の縮小や計画見直しなど苦労もあったよう。会社のあった清水町熊牛地区には、1919(大正8)年に建築された当時最先端の畜舎が残る。しかも今も現役で使用中というから驚く。
▼渋沢は主に投資や資金集めに尽力し、新会社が収益を上げるまで支えたそうだ。財布に集まってくれるとなお心強い。