今週のヘッドライン: 2024年07月 1週号
高知県北川村の一般社団法人日本の農村を元気にする会(以下、元気会)は、防除作業を効率化するドローン(小型無人機)などスマート技術の活用で農家の負担を軽減。村の内外でユズのPRにも取り組み、基幹産業であるユズ栽培の振興を後押しする。人を呼び込み、将来にわたって持続できる産地づくりに貢献したい考えだ。
農林水産省は6月25日、中山間地域等直接支払制度に関する第三者委員会を開き、第5期対策(2020~24年度)の最終評価素案を示した。約2万4千協定のほぼ全てが適切な活動を展開し、推計で約7万6千ヘクタールの農地の減少が防止されたと評価した。一方、人口減少・高齢化を背景に、次期(第6期)対策に向けては小規模な集落協定ほど活動廃止意向の割合が高いと指摘。複数の協定や外部組織との連携を推進する共同活動の維持に向けた体制づくりの重要性を強調した。農業者に限らない多様な組織の参画を促す環境整備も提起した。次期対策への確実・円滑な移行に向けて、地域の実情を踏まえたきめ細かな支援の強化が必要だ。
政府は6月21日「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2024」を閣議決定した。食料安全保障の強化などを掲げる改正食料・農業・農村基本法を踏まえ、初動5年間で農業の構造転換を集中的に推し進められるようにすると明記。24年度中に食料・農業・農村基本計画を改定するほか、農林水産業の収益力向上の実現を通じた所得向上を図るとした。
2025年1月以降に保険期間が開始する収入保険の契約について、3年間適用する保険料標準率が決まった。最も多くの加入者が選択する保険方式の補償限度額8割(支払率9割、下限設定なし)の場合、農業者負担分(50%の国庫補助後)は1.372%(現行は1.179%)となる。近年は、コロナ禍による需要減少や米価下落、頻発する自然災害による減収などに対し、保険金等の支払いやつなぎ融資を通じて農業者の経営継続を支えてきた。長期間保険金の受け取りがない加入者は、危険段階別保険料率により、保険料率が下がるよう設定された。
サッカーJ2リーグ・水戸ホーリーホックは先頃、農業生産と太陽光発電を一つの圃場で両立するソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)をスタートすると発表した。耕作放棄地を活用して太陽光パネルを設置し、大豆を栽培。大豆コーヒーに加工して、ホームゲームなどで販売する計画だ。Jリーグクラブが持つ発信力を最大限に生かし、環境保全と地域経済の活性化に貢献していく考えだ。
国産大豆などの生産振興を図る2023年度全国豆類経営改善共励会(主催・JA全中、JA新聞連)の表彰式がさきごろ開かれた。農林水産大臣賞を受賞した4経営体のうち都府県の2事例の概要を紹介する。
【秋田支局】大潟村の菅野正史さん(50)は、主食用米「あきたこまち」6.8ヘクタールと加工用米「たつこもち」11.6ヘクタール、小麦「銀河のちから」4.8ヘクタール、大豆「リュウホウ」11.2ヘクタールを栽培する。加工用米のうち4.4ヘクタールを乾田直播で行い、春作業の省力化を実現。コスト低減と収量増加の両立を目指す。
昨年は天候不順で加工用米の10アール当たり収量は600キロほどにとどまった。今年は直播も移植と同様の720~780キロを目標に掲げる。菅野さんは「資材代や機械代が高騰し、ハウスの建て替えや田植機の入れ替えは負担が大きい。播種機を購入し、直播栽培を中心にさらなる省力化と経費削減につなげたい」と意欲を見せる。
〈写真:生育状況を確認する菅野さん。「さらなる省力化を目指したい」と話す〉
【島根支局】「耕作放棄された茶畑だからこそ引き出せる味があるのではないかと思い、茶の自然栽培に取り組もうと思った」と話すのは、吉賀町の地域おこし協力隊員・赤羽卓美さん(58)。理想の茶を求め、吉賀町白谷を拠点に、神奈川県や大分県などの放棄茶畑を再生・再利用し、仲間と共に栽培・加工・販売を行う。
茶栽培の契機となったのは、2014年に仕事の合間に立ち寄った神奈川県清川村での製茶体験だ。放棄茶畑で栽培された茶葉を摘み、製茶して飲んだ味は、かつて飲んだ中国緑茶と同じだったという。
「長年放置されて肥料が切れているからこそ、土地の味が色濃く反映されたのではないか」と思い、全国各地で茶葉を摘み、製茶して、どこでおいしいものができるかを探求した。そして吉賀町白谷の、茶畑の近くに古民家と茶業組合が残した工場がある場所を拠点に、神奈川県清川村や大分県杵築市などで茶栽培を開始した。
〈写真:「放棄茶畑は、新しい価値観を持って生産することで再利用につながる」と赤羽さん〉
【山形支局】飯豊連峰を間近に臨む小国町小玉川で「民宿 奥川入〈おくかわいり〉」を営む横山隆蔵さん(61)と尚美さん(56)夫妻。息子の拓〈たく〉さん(29)と共に、アットホームな民宿経営と、水稲510アールの栽培、やまがた地鶏200羽の飼養に取り組む。
同町小玉川はマタギ文化が伝承され、300年以上の伝統がある「熊まつり」を開催する地域で、隆蔵さんと拓さんはクマやイノシシの狩猟を行うマタギとしても活動している。
料理には自家産の米や野菜、やまがた地鶏を使う。4~5月は地域の「熊まつり」に合わせて熊汁を振る舞い、近くの山で採れた山菜の天ぷらや煮物、川魚など、山の恵みをふんだんに盛り込んだメニューで宿泊客をもてなす。「自然の中で味わう非日常で疲れを癒やしてもらい、宿泊客同士の偶然の出会いと交流で充実して帰ってもらえればうれしい」と横山さん夫妻は話す。
〈写真:横山さん夫妻と拓さん。「交流が楽しい」と話す〉
【新潟支局】新発田市板山の豊かな自然の中にある「石黒ブルーベリー園」は、高品質なブルーベリーのほか、キイチゴやミニトマト、レモンなど合計250アールを栽培している。園主の石黒正良さん(67)は、動画共有サイト(ユーチューブ)で共同企画をしたり、自身の写真共有サイト(インスタグラム)に投稿したりと、インターネットを活用して情報発信している。
同園はブルーベリーの苗木を40年以上前から栽培。販売する苗木の90%を県外へ出荷している。「ネットショップで花木を限定販売すると、ありがたいことに好評です」と石黒さんは話す。
人気の秘密は高い栽培技術とインターネットの活用にある。石黒さんの動画を配信する園芸農家系ユーチューバーのチャンネル登録者数は10万人を超え、石黒さんが登場する回はどれも人気だ。
〈写真:ブルーベリーを確認する石黒さん〉
▼近年の政府関係文書には「well-being(ウェルビーイング)」という言葉が目立つ。先ごろ閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2024」にも「『賃金と物価の好循環』や『成長と分配の好循環』の拡大・定着を通じて、希望あふれるwell-beingの高い社会の実現を目指す」との記述がある。
▼ウェルビーイングの直訳は「よい状態」で、「幸福」「健康」などと翻訳される。政府文書には「一人一人の多様な幸せや社会全体の幸せの理念」との説明もある。「幸福」や「幸福度」の意味で使っているようだ。
▼農林水産関係の施策も同様だ。「みどりの食料システム戦略」では「幸福度の向上」を期待される効果に挙げ、「農福連携等推進ビジョン」では農福連携を進める意義として「ウェルビーイングの実現」と明記した。
▼現実は気候変動や人口減少、経済の低迷など多くの困難や課題が山積。裏金問題に始まった政治と金の問題も国民の納得を欠いたままで閉塞(へいそく)感が根強い。高い理想かもしれないが、一歩でも近づける本気をみたいものだ。