今週のヘッドライン: 2024年06月 3週号
「できる限り農作物を植えることで農地を守っていきたい」と話すのは、富山県氷見市加納の農事組合法人加納営農組合の坂耕一組合長(68)。能登半島地震で水路や農地が被災し、経営面積約75ヘクタールのうち水田約5ヘクタールで水稲の作付けが困難となる中、いったん特産品のハトムギ栽培に切り替えるなど組合員が協力し経営の継続に取り組んでいる。能登地方を中心に甚大な被害をもたらした大地震からまもなく半年。被害の爪痕が残る中、地域農業の復旧・復興へ歩みを進めている。
政府は、農福連携に取り組む農業経営体・施設を2030年度までに1万2千件以上とし、現状から倍増させる目標を設定。地域単位のマッチングや専門人材の育成、障害者などが働きやすい環境整備に加え、多様な人の社会参画を促す「ユニバーサル農園」の普及・拡大などを図る。農福連携は障害者などの自信や生きがい創出と社会参画を推進するとともに、農業の働き手の確保や地域コミュニティーの維持など農業・農村振興策としても期待されている。改正食料・農業・農村基本法は新たに農福連携の推進を位置付け、障害者などの就業機会増大を通じて地域農業の振興を図る旨を規定した。先進事例の横展開を図るとともに、地域の取り組みを後押しするきめ細かな支援が求められる。
政府は12日、食料安定供給・農林水産業基盤強化本部を開催。本部長の岸田文雄首相は食料・農業・農村基本計画の年度内改定を坂本哲志農相に指示した。岸田首相は「食料安全保障の強化、環境と調和のとれた産業への転換、人口減少などの社会課題に対応できるよう、政策の再構築を進める」と発言。改正食料・農業・農村基本法の成立を踏まえ、農林水産業の所得向上に向けた法整備に加え、官民連携で環境整備を図るよう求めた。
近年、梅雨の時期は豪雨による河川の氾濫、土砂崩れなどの自然災害が頻発し、農作物や農地などにも被害が出ている。万一被災した際には、最寄りのNOSAIに収入保険加入者は事故発生通知、農業共済加入者は被害申告が必要だ。NOSAIでは、収入保険加入者に気象災害特例やつなぎ融資を周知。農業共済加入者には被害申告を基に損害評価を進め、迅速・適正な共済金の支払いに努めている。被災時の対応について、稲穂ちゃんがNOSAI職員のみのるさんに聞いた。
旬を迎えるキュウリ。豊作になればうれしい反面、食べ飽きない保存方法や調理の工夫に悩む人も多いだろう。静岡県函南町の野菜農家で、野菜ソムリエプロの神尾かほりさんは、キュウリの冷凍保存をおすすめする。シャキシャキ食感を残す工夫や、解凍後においしく味わうレシピを教えてもらう。
園芸施設の台風被害を未然防止・軽減するには、所有する施設の強度を確認し、普段からのメンテナンスが大切だ。追加の補強に加え、台風接近時に可能な対策の準備も欠かせない。京都府が作成したパイプハウス向け台風対策のマニュアルから要点を解説する。
【福井支局】福井県工業技術センター(福井市)では、複数のドローン(小型無人機)を使った農薬散布システムの開発に注力しており、2022年4月から、バッテリーの容量や散布量の課題解決に向けた農薬散布システムの開発に取り組んでいる。
同センターが開発中のシステムは、散布用の先頭ドローンと散布を補助する後続ドローンで作業を行う。先頭ドローンに、地上に設置したタンクから送液ホースで散布液剤が送られるほか、地上の大容量バッテリーから送電ケーブルで給電を行うことで、広範囲に長時間の散布が可能となる。
〈写真:ドローン3機での散布システム実証試験(写真提供=福井県工業技術センター)〉
【秋田支局】美郷町野荒町の傳野猛さん(62)はビニールハウス7棟でトマトを栽培。2020年に収入保険へ加入した。以前は水稲との複合経営を行っていたが、22年から水稲栽培を農業法人へ委託している。昨年の猛暑でトマトの収量が大幅に減少し、保険金を請求した。
野菜は農業共済制度の対象ではなく、野菜価格安定制度は収量の減少に対応していない。そのため、品目にかかわらず、万が一の事態に対応できる収入保険を選択した。「緊急で資金が必要な場合は、つなぎ融資が利用できる。資金繰りを心配せず安心して営農に取り組めている」と話す。
トマトは、暑さに強い「りんか409」を栽培。遮光ネットやミストの散布装置など高温対策をしているが、昨年は猛暑の影響で生育不良に陥った。平年で10アール当たり10トンの収量が約6トンまで減少した。
トマトが品薄状態になり、1キロ当たりの単価は300円ほどから350円程度まで上昇したが、それ以上に収量が減少し、かなりの減収に。「トマトを出荷した秋の段階で、平年と比べ収入が大幅に減少していると感じた。つなぎ融資の申請は行わなかったが、保険金が想像以上に支払われてありがたかった」と安堵する。
〈写真:「対策を超える被害が出たが助かった」と傳野さん〉
【奈良支局】「地域農業を守ろう」と曽爾村で農業を営む平畠裕文さん(48歳、「燦燦ファーム平畠」)と山下竜一郎さん(44歳、「種の実」)は2023年4月、生産者グループ「曽爾Food~風土~」を設立。メンバーは農業者14人となり、農作業の負担軽減や地域の活性化に取り組んでいる。
グループは同村農林業公社の支援のもと、個々が持っていた配送ルートを集約化したり、「楽しく」をモットーに地域交流に取り組んだりしている。
今年4月にはメンバーが生産した作物や考案した料理などの販売会を開催した。平畠さんは「初イベントなので近所の人を対象に小規模開催の予定だったが、村内各地から人が集まり、思っていたよりにぎわった」と笑顔で話す。
〈写真:販売イベント会場で笑顔を見せるメンバーら〉
【山梨支局】「生態系の中で行う農業がしたい」と話すのは、2022年に就農した津田祐太さん(41)。都留市で農薬と化学肥料を使わずに水稲20アールと野菜9アールを栽培する。
水稲1筆(8アール)で冬期湛水不耕起栽培を行い、田植えも手植えだ。「カエルやヘビ、サギなどが生息する環境をつくるため、なるべく機械は使いたくない。冬に水をためておくことで、ヤマアカガエルが産卵に来るようになった」と津田さん。
就農当時は、借りた田んぼを2カ月かけてくわで耕したが、23年から冬期湛水不耕起栽培を実践。10アール当たり収量は就農1年目が360キロ、2年目の23年が430キロで、地域平均の8割ほどの量を収穫できた。
地域の高齢農家から水田を借りて規模を拡大方向だが「耕さないので世間体が心配」という。「作業が安定し、自身の取り組みが近隣農家に周知できたら、冬期湛水不耕起栽培の圃場を増やしたい」と意気込む。
前職は小学校教諭の津田さん。授業で子供たちが育てたジャガイモの葉を虫に食べられてしまったが「子供が触れるものなので、農薬は使いたくない」と思い、農薬不使用の栽培について調べ始めたのがきっかけだった。本やインターネットで調べた方法を学校の畑で取り入れようとしたが、異動のため断念。「自分で試すには今しかない」と退職を決め、就農した。
〈写真:手植えする津田さん。6月上旬に成苗まで育てた苗を前年の株間に1本植えし、中干せず分げつさせる〉
▼日本人の1人1年当たりの食用魚介類消費量は22キロ(2022年)で、ピークの約40キロ(01年)から半減。食用魚介類の自給率は56%(22年)で、これもピークの113%(1964年)から半減した。2023年度水産白書によると、消費の魚離れや漁業の厳しい状況は変わらず、魚食文化の危機を感じる。
▼現在の漁業従事者数は12万3100人(22年)で前年比4.8%減となった。年齢は65歳以上が4割弱を占める一方、39歳以下も約2割を占め増加傾向という。年間1600人ほどいる新規就業者の7割ほどが39歳以下と説明する。ただ、漁業は海上での長時間労働など負担が多く、体力に合わせて仕事ができる農業に比べリタイアが早いのかもしれない。
▼白書は、意識・意向調査の結果を基に消費拡大のポイントを示す。肉類に比べて健康によい効果への期待やおいしさが強みと分析し、価格の高さや調理・後片付けの手間などを課題に挙げた。しかし、昨今は出来合いの刺し身を買う人が多く、切り身なども骨取りずみがある。ほぼ下ごしらえ不要で調理できて食べられるのだ。精肉を調理するより手間はかからず手軽ではないか。
▼肉料理もいいが、海に囲まれた日本で暮らすからには、多種多彩な海の幸をおいしいご飯と楽しみたい。おかわりで米の消費も増える。