今週のヘッドライン: 2024年01月 3週号
東北地域がタマネギの産地化に動き出している。広域連携を目的に農業者や農研機構、商社などで「東北タマネギ生産促進研究開発プラットフォーム」を組織。生産・加工・流通システムの構築を進めている。タマネギは年間を通じて需要があるものの、西日本産から北海道産に切り替わる前の7~8月が国産の端境期で、主に中国からの輸入で対応している。秋まき作型に加え、気象条件に合わせて開発された春まき作型で端境期に東北産を出荷して、国産の周年供給力強化を図るとしている。
観光庁は、2023年の訪日客旅行消費額(速報値)が5兆2923億円となったと発表した。コロナ禍前の19年を9.9%上回り、統計開始(10年)以降の最高を更新、政府目標の5兆円を達成した。2506万6100人と19年の約8割に回復した訪日客数や円安傾向などが寄与した。国内人口が減少する中、政府は訪日客数と消費額のさらなる拡大を目指す方針だ。日本の食への評価・関心が高まる中、農村地域に訪日客を呼び込み、農業・農村の活性化につなげていくことは重要だ。一方で、観光客の急増が住民生活などに悪影響を及ぼす「オーバーツーリズム」の問題も指摘されており、政府には地域の実情に応じた受け入れ体制の整備・強化へきめ細かなサポートが求められる。
農林水産省が、国内のナシ・リンゴ農家などが保管する中国産花粉について入手時期や生産年度にかかわらず使用しないよう強く呼びかけている。果樹の重要病害「火傷病」の発生に伴う中国産花粉の輸入停止措置に関連し、花粉を介して細菌に感染する恐れがあるため。中国産花粉は買い取り・廃棄対象としており、所有者には都道府県担当部局への連絡を求めている。
農作物共済と園芸施設共済の共済掛金標準率が改定される。水稲、陸稲は2024年産、麦は25年産から、園芸施設共済は24年4月以後に責任期間が開始する加入から、おおむね引き下げとなる予定だ。農業共済の共済掛金標準率は、3年ごとに直近20年間の被害率などに基づき算定。農相が食料・農業・農村政策審議会農業保険部会に諮って決めている。NOSAIでは、農家の経営に応じて充実した補償を選択できるよう補償内容の説明と加入推進に努めている。共済掛金標準率の改定などについて、稲穂ちゃんがNOSAI職員のみのるさんに聞いた。
全国の高校生が新たなビジネスのアイデアを競う「第11回高校生ビジネスプラン・グランプリ」(日本政策金融公庫主催)の最終審査会がこのほど、都内で開かれた。全国505校、5014件の応募から、書類選考を通過した10校の生徒が独自のプランを発表。3題あった農業関連のプランのうち、横浜市立南高校が審査員特別賞を受賞した。アオミドロなどの糸状藻類からバイオ燃料を開発し、燃料抽出後の糸状藻類は土壌改良肥料に活用して地球環境の改善につなげるプランを発表した。
高知県農業技術センターは、促成ピーマンで問題となっているコナカイガラムシ類の防除に、ヒメカメノコテントウの放飼とバンカー植物(ミニソルゴー)の植栽による生物的防除、寄生葉や残さをハウス外に持ち出す物理的防除を組み合わせた新技術を開発した。同センターでは、アザミウマ類のまん延防止を目的とした前作終了時のキルパー処理もコナカイガラムシ類の密度抑制に有効とし、総合的な防除体系として普及を図っていく。
【島根支局】出雲市大社町でブドウを栽培する高橋英治さん(50)と伊藤康浩さん(51)は、タッグを組んで独自の環境モニタリングシステムを開発した。高橋さんは2018年に島根にUターンして島根県立農林大学校で学び、ハウス4棟(50アール)で栽培。伊藤さんは観光ブドウ園などを2.7ヘクタール経営する。「前職でのプログラミング経験やロボットの『ペッパーくん』などに興味があったこともあり、農業セミナーでITやIoT(多様なものをインターネットで制御する仕組み)を活用したスマート農業の話を聞いたときに、チャレンジしたいと思いました」と高橋さん。ブドウハウス内に環境モニタリングシステムを作った。どこに居てもスマートフォンで情報を確認できるほか、情報を基に換気・灌水〈かんすい〉を自動化。システムは、超小型コンピューターや通信販売で買えるモーターなどを組み合わせた機械部分と、制御するソフトウェアでできており、すべて高橋さんが製作した。ここまで作り上げたシステムは、知識豊富な先輩農家の伊藤さんのアドバイスで今の形になったという。伊藤さんは、既製品で環境モニタリングや自動開閉を別々に運用していたが、高橋さんがスマート農業を始めたと聞き、開発初期段階からシステムの導入・改良に一緒に取り組む。「出雲の環境に合わせてシステムの改良点などを話し合い、すぐに対応してくれるので、日々いいものになっています。高橋さんのようなITの専門知識を持っている人が地元にいることは、すごい強みです」と伊藤さん。今後、人手不足が懸念される中で規模を拡大するには、IT・IoT化が不可欠だと考える伊藤さんは、3圃場でシステムを導入した。有効性を確認したことから、今年中には3圃場増やし、6圃場でシステムを運用するという。高橋さんは、環境モニタリングシステムのほか、売り上げや農薬などを管理するスマートフォン用アプリも作成した。今後は、ブドウの光合成促進と生理障害抑制での高品質・多収穫や再生可能エネルギーなどの活用、省力化のためのロボットなどを開発し、「出雲にスマート農業を広げていきたい」と二人は夢を膨らませている。
〈写真:災害に備え収入保険に加入する高橋さん(左)と伊藤さん。高品質・多収穫を目指してシステムを日々改良している〉
福井県若狭町 田中 正志〈たなか・まさし〉さん(60)
営農指導員として長年携わってきた中で、担い手不足を感じ、地域農業者の中核になりたいと思うようになりました。2013年にJAを退職し、株式会社チームみかた五湖を設立。スピード感を持って経営判断ができる株式会社方式で経営しています。当初は、水稲と若狭特産「福井梅」がメインの経営でしたが、リスクの分散を図るため、ネギやニンニクなどの園芸作物を積極的に取り入れ、多品目の複合経営にしています。園芸作物は、青果のほか加工品にして付加価値を付けて販売することができます。栽培するニンニクは、一部を黒ニンニクに加工して県内のスーパーなどで販売し、「甘みがあり健康に良い」と好評です。栽培面では土作りに力を入れています。処分に困っていた白ネギの未利用部分をウメの園地に肥料として活用したところ、生育が良くなり収量が安定したことで、土作りの重要性を知りました。現在は地力を最大限に生かすため、スーダングラスなどの緑肥や有機肥料を導入しています。23年は夏の異常な猛暑で主力の白ネギが壊滅的な被害を受けましたが、収入保険に加入していたので、つなぎ融資を受けることができて本当に助かりました。収入保険は品目の限定がなく、どんな不測の事態にも対応できるので、複合経営には必要不可欠で、チャレンジする大きな力となっています。若い人が農業に憧れを少しでも持ってもらえるように、これからもいろいろなことにチャレンジして、地域農業の活性化に貢献していきたいです。
▽株式会社チームみかた五湖代表取締役▽水稲7.4ヘクタール、白ネギ1.6ヘクタール、ウメ1.4ヘクタール、ニンニク98アール、エダマメ30アール、レモン30アール (福井支局)
〈写真:レモンの園地で「レモンは管理がしやすく需要が高い。耕作放棄地を活用した果樹栽培を計画中で、若狭初のフルーツランドをつくりたい」と田中さん〉
【新潟支局】小千谷市桜町の「株式会社イチカラ畑(代表取締役・吉田勇童〈ゆうどう〉さん=43歳)」は、雪国では珍しいソバの二期作に取り組み、増産と収穫の分散化でリスク軽減を図っている。同社は2007年にソバ栽培を始めた。「堀之内在来」「キタワセソバ」「とよむすめ」を農薬不使用で有機栽培し、全国の有機JAS認証ソバのシェア40%を占めている。堀之内在来は、魚沼市堀之内地域で栽培される在来種。香りが良い反面、栽培に手間がかかり、収量が少なく、近年ではほとんど栽培されていない。同社の栽培面積40ヘクタールのうち10ヘクタールは堀之内在来で、夏ソバのキタワセソバの収穫後に秋ソバのとよむすめを栽培する。「土壌の成分管理や夏秋の作業が重なる時期は大変です。昨年の猛暑で秋ソバが減収しましたが、夏ソバでカバーできました」と吉田さん。10年前に自社製麺所を造り、製粉から製麺までの工程をタイムラグなく進め、より風味の高いソバや関連商品が提供できるようになった。吉田さんは「今後も作業の効率化や高品質生産を目指し、将来的には自社の飲食店を開店したり、海外出店も視野に入れたりと事業を拡大していきたい」と話す。
〈写真:吉田さんと自社製品。「香りが良い堀之内在来を味わってほしい」と話す〉
【富山支局】小矢部市胡麻島にある株式会社宇川農産では、2020年にイチゴ栽培を開始。22年には、小矢部産のイチゴなどを扱う直売所・カフェ「おやべ しぇ・ここね」を開業した。栽培するイチゴは「心を込めて丁寧に」という意味を込め「おやべ いちここね」のブランド名で出荷している。イチゴはビニールハウス8棟で栽培。地面から1メートルほどの高さに、土の入った培地を設置して苗を植える高設養液栽培を採用した。灌水〈かんすい〉や養液はスマートフォンなどによる遠隔制御で与える。「紅ほっぺ」「やよいひめ」など5品種を栽培し、糖度は14~15度と高い。県内のイチゴ農家で初めてフリーズドライ(真空凍結乾燥)の設備を導入し、「ドライいちご」も販売する。同社の宇川純矢〈うかわ・じゅんや〉社長(52)は「農業は現状維持では難しい」と話す。管理費や肥料代が高騰し、極めつけはここ数年の気温の高さが課題だ。高温障害で炭疽〈たんそ〉病が発症し、収穫時期が遅れるなどの大きな問題に直結するが、宇川社長は苗の仕入れ先を変えるなどして臨機応変に対応するという。同社ではインスタグラム(写真共有サイト)での情報発信や夜間のイチゴ狩りを実施している。「都会にいけばいろいろあるが、田舎にはない。来てもらうには、ほかでは体験できないことをやって、差別化すること。楽しい経験の選択肢の一つになればいい」と宇川社長。同市内のこども園や保育所の計8カ所の年長児に、イチゴ狩りを体験してもらう取り組みも始めている。これまでは近くの保育所を招いていたが、市内全域の子どもたちにも楽しんでもらおうと企画した。宇川社長は「これからもたくさんのことにチャレンジし、おいしいイチゴを作っていきたい」と話した。
〈写真:店で今一番人気の「いちごみるくスムージー」とフリーズドライされた「ドライいちご」〉
▼能登半島地震は、発災から3週間になる。しかし、大きな余震が続く状況も災いし、電気や水道などインフラの復旧が大幅に遅れ、避難所の生活も不自由を強いられている。今回の震災では、土砂崩れや陥没で国道など主要な道路が多くの箇所で寸断された。多数の集落が孤立状態となり、救命や消防などの活動が十分にできず、支援物資の輸送に支障を来した要因と指摘されている。
▼1995年の阪神・淡路大震災では、建物の倒壊などで主要な幹線道路が塞〈ふさ〉がれ、緊急車両の通行を妨げた。これを教訓に避難や救助、支援物資の輸送などを優先する緊急輸送道路の整備が進められ、高速道路や国道など都道府県知事が指定する道路は全国で10万キロを超える。同時に沿道建築物の耐震化も促すとしていたが、どこまでできていたのだろう。今回の事態を検証し、交通網を確保する対応策を講じてほしい。
▼ただ、並行して孤立状態になった場合の備えも必要に思う。この点では、主要な道路沿いにある「道の駅」の防災機能強化に期待している。現在は全国1209カ所のうち、39カ所を「防災道の駅」に選定。耐震化や無停電設備の導入、緊急ヘリポートの整備など、災害時に防災拠点機能が発揮できるようハード・ソフトの強化が図られている。
▼防災・減災と国土強靱化は政府の重要政策だが、大規模な災害が起きる度に新たな課題が表れ、対応に追われる繰り返しだ。それでも災害による不幸を減らすには、一つ一つ対策を積み重ねていくしかないのだろう。