今週のヘッドライン: 2023年11月 3週号
かんきつの新たな高品質果実安定生産技術「シールディング・マルチ栽培(NARO S.マルチ)」の導入が広がっている。排水設計した園地に専用の「NARO S.シート」を埋設して根域への雨水の流入とマルチ外への根の伸長を防ぎ、確実に乾燥ストレスを与える技術で、農研機構が開発した。併せて灌水〈かんすい〉設備の導入により乾燥ストレスの調整を可能にした。2020年に公表後、現在は約10ヘクタールで普及。九州で研究会が立ち上がるなど、各産地の栽培条件に適用させる検討が進められている。
〈写真:シールディング・マルチ栽培〉
農研機構は7日、従来品種よりも3割以上多収で豆腐加工に向く大豆新品種「そらみずき」と「そらみのり」を育成したと発表した。そらみずきは関東~近畿地域、そらみのりは東海~九州地域が栽培適地としている。
両品種とも収量が高い米国品種と加工適性が高い日本品種を交配して育成した。そらみずきは「フクユタカA1号」に米国品種「UA4805」を交配。そらみのりは「九州148号」に米国品種「Santee」を交配した。
政府は10日、2023年度補正予算案を閣議決定した。農林水産関係の総額は8182億円で、食料安全保障の強化に向けた構造転換対策に2113億円を計上し、水田の畑地転換を進める「畑地化促進事業」は750億円を確保する。物価高騰影響緩和対策は1001億円を盛り込み、計画的に省エネに取り組む産地に補てん金を交付する「施設園芸等燃料価格高騰対策」に45億円を措置。「収入保険制度の実施」は37億円を確保し、加入者と国による積立金を原資とする「特約補てん金」の財源を積み増す。
「収量減だけでなく、品質低下にも対応できる収入保険は、経営に欠かせない」と話すのは、モモ22アールとリンゴ50アール、水稲30アールを栽培する長野県松本市波田の百瀬惣介さん(68)。8月1日に松本市などで局地的に降ひょうが発生し、百瀬さんもモモとリンゴに被害を受けた。今年は、春先の霜によるモモの着果不良や猛暑によるリンゴの日焼けなどもあり、ダメージが重なった。10月下旬、収穫を控えた「ふじ」は傷果が目立つ。葉摘みや玉回しを徹底し、少しでも着色を良くしようと丁寧な管理を続けている。
空気が乾燥し、火災が発生しやすい冬。暖房器具を使う頻度が増え、特に電気ストーブなどの扱いには注意が必要だ。インターネットの生活総合情報サイト「AllAbout(オールアバウト)」で白物・美容家電ガイドとして活動する田中真紀子さんに、暖房器具による火災防止のポイントを聞いた。
石川県農林総合研究センター砂丘地農業研究センターは、通常の農薬登録の薬剤を利用できるホース装着型小型無人機(ドローン)をダイコン圃場で試験し、病害虫防除での省力効果を明らかにした。セット動噴のノズルを機体に取り付けてホースを引いて飛行する。散布時間は、5頭口ノズルによる手作業でのセット動噴散布に比べて27%削減の10アール当たり11分程度となった。今後の利用拡大を見据え、研究センターでは共同利用や経済性などの評価を進めている。
【岩手支局】二戸市金田一の小林由広さん(56)は、自家産野菜を市場出荷するほか、自身が経営するカフェで規格外品を料理に利用。スイーツなどに加工して販路を増やし、出荷できず廃棄していた野菜を減らしている。今後は畑とカフェを活用して農業体験施設としての利用を目指す。小林さんは2006年から畑36アールでピーマンなど数十種類の野菜を栽培する。市場や産直施設以外の販売先を増やすため、10年ごろから規格外の野菜を自宅でペーストやスイーツに加工し、SNS(交流サイト)を利用して販売を始めた。「リンゴやサツマイモを使ったタルト、ケーキなどが特に好評で、多い年には年間300個ほど販売していた」。昨年11月、同市仁左平〈にさたい〉に所有する畑の敷地内にカフェ「パプリカヘヴンCafe」を開店した。自家産野菜を使う料理を提供するほか、加工品を販売する。「食品ロスを減らすために、その日に提供できる食材でメニューを考える」と小林さん。夏場に大量に収穫するトマトなどは、ソースに加工して冷凍保存し、パスタソースなどに通年で利用する。「ピーマンは甘さが特徴の『スイートロング』など4~5品種を作付け、料理によって使い分ける」。小林さんは「今後はカフェと畑を農業・料理体験ができる施設にして、お客さまが自分で収穫した野菜を料理して楽しむ場を提供したい」と意欲的だ。18年にはビニールハウス1棟(1.6アール)を導入し、トマトやメロンなどの栽培を始めた。妻面に換気窓を設置し、ハウス内が高温にならないようにしている。3年前、ハウスのビニールが強風で飛ばされた経験から園芸施設共済へ加入した。小林さんは「農業は天候に左右される。自分でできる対策を取り、農業共済加入で万一に備えていきたい」と話す。
〈写真:野菜の一部を販売するため、プチ産直「麦わら農園」の準備を進める小林さん〉
【山口支局】「私の両親が、この地でネギ栽培(露地42アール)を始めて31年になります。今ではハウス57棟(約5ヘクタール)になりました。規模が大きくなればなるほど経営リスクは大きくなっていると実感しています」と話すのは、山陽小野田市の有限会社グリーンハウス(従業員46人)代表取締役の松村正勝さん(54)。豪雨対策などの機器を設置するほか、農業保険に加入して自然災害に備えている。松村さんは「ここは干拓地のため、台風と水害に苦労してきました。2004年の台風で、海水が堤防を越えて圃場に入り、作物が全滅。2カ月間出荷できなかったことがありました」と話す。対策として、敷地内に5基の強制排水装置を設置。停電時にも装置が稼働するよう、発電機を設置して水位の上昇を防ぐ。「台風が来るたび、ハウスを守るか作物を守るかの2択に悩まされます」。一刻を争い、作物を守ることを優先した際は、2連棟のハウスが倒壊。かろうじて残存したほかのハウスは、パイプが曲がり傾いたことがあったという。「ハウスを守るために、一時的にビニールをはがしますが、その作業は大きな労力が伴います。みんなの力があるからこそできることです」。災害への対策を適宜講じているが、万全の備えは難しく、昨年9月の台風などでは強風でビニールが裂ける被害を受けた。「昨年、県の掛金補助をきっかけに園芸施設共済に加入しました。ビニールだけではなく、ハウス本体の補償や撤去費用も対象となるところが安心ですね」。同社は20年に収入保険に加入した。その翌年、新型コロナウイルス感染症の影響で売り上げが減少。松村さんは「県内をはじめ東京、大阪、広島の市場に出荷していますが、単価が上がらず、人を動かせば動かすほど費用がかかります。ネギをすき込まざるを得なくなりました。収入保険には助けられましたよ」と振り返る。「農業経営を続けていく上で、ハウスを守り、作物も守れる農業保険は心強い支え」と話す。
〈写真:「土日祝日に災害が起きることも多い。復旧や対策を急ぐため、被害状況の対応などでNOSAI職員との連携が欠かせないですね」と話す松村さん(手前)と妻の孝子さん(53)〉
【石川支局】完売必至の壺〈つぼ〉焼き芋店「テンプルファームストア」が羽咋市柴垣町にある。製造・販売するのは、寺田彰吾〈てらだ・しょうご〉さん(40)と妻の友美〈ともみ〉さん(38)。サツマイモを中心とした自然栽培に取り組む野菜農家だ。同店では、2カ月以上熟成させたサツマイモを、壺窯で1時間30分ほどじっくり焼く。甘さを存分に引き出した焼き芋は好評で、昨年1月のオープン以来、リピーターが続出している。取り扱うのは「べにはるか」をはじめ6品種。20アールの畑で自ら栽培するほか、量を確保するため集落内の農家に生産を依頼する。今年9月に収穫したものは12月に販売予定だ。寺田さんは2018年に同市に移住。サーフィンのカメラマンとして活躍する傍ら、野菜作りを始めた。生産・販売だけではなく、ワークショップを主催し、芋掘りやみそ造り体験を提供する。
〈写真:畑の様子を見る寺田さん夫妻。愛犬のリリーは畑仕事をいつも見守っている〉
【山形支局】東根市神町の武田駿〈しゅん〉さん(32)は県内でいち早く果樹栽培に「盛土〈もりど〉式根圏制御栽培法」を取り入れている。地面に敷いた遮根シート上に盛り土して苗木を植え付け、樹〈き〉を地面から隔離し、少量の培地を用いて養水分を灌水〈かんすい〉装置から供給する栽培法だ。武田さんは2012年の春から、当時の県園芸試験場(現・県農業総合研究センター園芸農業研究所)の研修生として果樹栽培を1年間学び、翌13年に就農。このときに、従来の立ち木での栽培方法では、労働者の高齢化により脚立を使用した作業が難しいこと、樹の老化や紋羽病などが発生することなど、園地の課題が分かった。盛土式根圏制御栽培法は新聞で知ったという。栃木県へ視察研修に赴き、15年に同栽培法を取り入れた。現在は管理するサクランボ200アールのうち14アールと、洋ナシ「ラ・フランス」10アールで同栽培法を実践するとともに、樹高を抑え、脚立を使わずに収穫できる園地づくりを進めている。サクランボでは、10アール当たり苗木150本以上を定植。灌水設備を導入する必要があるため初期投資が多くなるデメリットはあるものの、従来の仕立て方と比較すると、約半分の年数で収穫が見込める短期成園化が可能だ。野ネズミ駆除のため除草剤を使用した草刈りの簡素化や、植え替えによる品種更新が容易になるなどメリットも多い。武田さんは「従来の仕立てより高品質で約1.5倍のサクランボが収穫できる」と手応えを感じている。直線状の作業動線を確保した見通しが良い園地のため、従業員に細かい指示を出しやすく、収穫作業の効率化が図れているという。今後はサクランボの根圏制御栽培法を確立させ、ジョイントⅤ字仕立てを導入するなどさらに軽労化を図りながら園地の拡大を目指す考えだ。
〈写真:脚立を使わずに収穫する従業員(写真提供=武田さん)〉
▼中国による日本産水産物の輸入停止で影響が懸念されていたホタテについて、ふるさと納税の返礼品寄付額が急増したと報じられた。ふるさと納税サイトの運営事業者によると、今年9月の寄付額が前月比で9倍超になったという。殺伐としたニュースが多い中、少しほっとした気持ちになれた。
▼農林水産省が公表した9月の輸出実績では、中国向けの水産物輸出額は昨年9月比9割減、53億円だったホタテ貝輸出額はゼロになった。ただ、中国の輸入停止と同時に10都県からの輸入を規制した香港へのホタテ輸出額は、昨年9月比で約5割増の17億円になった。急にホタテブームが起きたのでなければ、香港からどこかへ転送されていないか。
▼政府の輸出拡大実行戦略では、中国向けに安価に輸出されるホタテの多くは殻むき加工後に米国などに再輸出されている。産地の北海道、青森県は労働力が不足し、国内加工が困難なためだ。対応策では、省人化機器の導入で国内加工を増やし、高品質品の欧米向け輸出を増やすとしていた。
▼欧米向けの輸出は規格認証など課題も多いそうだが、一大輸出国でもある中国から離れる機会と捉えたい。安定出荷と手取りの確保を考えても体制の整備は急務だ。