今週のヘッドライン: 2023年11月 2週号
中山間地域に合う高収益作物としてエディブルフラワー(食用花)に注目し、ハウス内の4アールほどで年間約10品目を栽培する高知市土佐山のよしむら農園の吉村忠保さん(51)。「小面積でも収益性が高い。防除には周辺からの土着天敵の力が生かせる」と話す。土耕栽培で1作当たり約半年間、毎日収穫でき、レストランなどに販売し、少量多品目の経営で貴重な収入源となっている。料理人向けに食べ方や魅力を提案。イベントや小ロットにも対応して多様な販路を築き、さらなる需要拡大を図る。
〈写真:色系統に分けて詰めたパックを手に吉村さん〉
収入保険には、2023年9月末時点で青色申告を行う農業経営体の25.5%に当たる9万133経営体が加入している。国内外の農業保険を研究する摂南大学農学部の吉井邦恒教授に、収入保険の評価などを聞いた。
農林水産省は10月31日、自民党農業基本政策検討委員会に水田の畑地転換を進める「畑地化促進事業」のうち「畑地化支援」の交付単価を2024年産から引き下げる方針を示したが、議員から大幅な減額に反論が続出、継続検討となった。23年産で野菜や果樹など高収益作物は10アール当たり17万5千円、麦・大豆など畑作物は14万円とした1回限りの支援単価を一律10万5千円に見直すとした。畑地化支援は、過度な輸入依存からの脱却に向けた構造転換を掲げる政府方針を裏付ける対策だ。水田の畑地化は水利も含め地域合意の下で丁寧に進めていく必要があり、定着するまで安定・継続的な支援が求められる。
薬用作物産地支援協議会は10月31日、「薬用作物(生薬)産地化推進のための行政担当者情報交換会」を東京都内(オンライン併用)で開催した。漢方製剤などの原料となる薬用作物は、中国からの輸入が8割を占め、価格上昇や安定確保の面から国産のニーズが高まっている。先進事例として、秋田県八峰町と三重県鈴鹿地域の取り組みを報告。生産の工夫や販売面の課題、産地化への展望などについて県や市町村の担当者らが意見を交わした。
本格的な新米シーズンが到来。今年は夏場の記録的な猛暑などの影響で高温障害が多発傾向にあるものの、食味には影響はなく、白未熟粒(乳白米)が多く含まれていても、ちょっとした工夫で例年と変わらずおいしい新米が食べられる。お米料理研究家のしらいのりこさんに、家庭で新米をおいしく炊くポイントなどを紹介してもらった。
農研機構はこのほど、水稲の良食味多収品種「にじのきらめき」を用いて、収穫後のひこばえを栽培・収穫する再生二期作の技術を開発。福岡県内の試験圃場で、2回の収穫の合計で10アール当たり約950キロが得られたと発表した。苗を4月に移植し、1回目は地際から40センチと高い位置で刈り取り、切り株に蓄積されたでんぷんや糖などを利用すると再生が旺盛になる。大幅なコスト削減が求められる輸出用米や業務用米生産への利用が期待されている。
【栃木支局】芳賀町下高根沢の有限会社黒崎乳業は、地域の耕種農家にソフトグレインサイレージ(SGS)稲の栽培を依頼し、飼料自給率が向上した。飼料価格高騰による経営圧迫を抑え、地域農家にとっては経費削減の助けとなっている。黒崎浩〈くろさき・ひろし〉代表(61)は「畜産農家は輸入飼料に頼っている面が大きいが、SGSなら自給率を上げられ、一年を通して使用できる。耕種農家は普段のコンバインを使用し、運搬や荷受けの時間を短縮できる。圃場と生産現場が近いメリットを生かし、地域の後継者と一緒に地域農業をつないでいきたい」と話す。黒崎乳業では、乳用牛約200頭と繁殖和牛約20頭を飼養。地域農家にSGS稲120ヘクタールと発酵粗飼料(WCS)用稲30ヘクタールなど計約300ヘクタールを委託する。稲SGSとは、籾〈もみ〉付きの米を粉砕し加水した後に乳酸菌を加えたもの。密閉容器に入れ真空状態で約1~2カ月発酵を待つと給餌できる状態となる。畜産農家は飼料として使用することで餌代を削減。耕種農家は圃場から生産現場へ直接搬入できるため、乾燥調製による手間と経費の削減が期待できる。「飼料高騰が話題になる前に、他県でのSGS稲生産を酪農団体の職員に聞き、濃厚飼料も自分たちで生産できないかと思った」と黒崎代表。「密閉したままなら約12カ月持つ。空気に触れてしまうと注意が必要で、夏場では開封後2日を目安に使い切らないとカビ毒による牛への健康被害の恐れがある」と注意点を話す。耕作から生産は、2015年に設立した芳賀南高地区耕畜連携協議会の会員が担う。会員は当初8人だったが、現在は18人に増加した。協議会設立のきっかけは、耕種農家が生産する飼料用米の単位当たり収量を上げるため、稲わらと堆肥の交換を始めたことだ。21年にSGS稲の生産を67ヘクタールで開始。22年には世界情勢を踏まえ飼料の価格が上がると予想し、WCS用稲に加え、WCS用麦の栽培も開始した。会員が交代制で作業し、荷受けから梱包〈こんぽう〉まで重さや水分量などを記録しながら管理する。整理整頓された生産現場で丁寧な作業を心がけているため、不良品率は低く抑えられているという。黒崎代表は「SGSなどで飼料自給率を6割まで上げ、濃厚飼料の割合を3割削減できた。経費を削減でき、乳脂肪率が上がっている」と手応えをつかむ。現在は生乳を出荷する酪農とちぎ農業協同組合(宇都宮市)へも販売する。委託を受ける耕種農家は「乾燥調製の手間が省けコストの削減につながっている。荷受けの順番は品種や出来を見て決めている。品質も確保できている」と話す。
〈写真:「稲SGSはフレコンバッグ1袋が500キロになるが、力が要らないように工夫している」と黒崎代表〉
【北海道支局】大槻幸司さん(46)は「函館農業生産法人有限会社」の代表取締役、「農事組合法人函館つるの生産組合」では理事を務め、函館市で野菜などの栽培に取り組む。中でもブランド名「海の神」と名付けたアスパラガスが人気だ。さらなる安定した経営を目指し、収入保険と園芸施設共済に加入している。函館農業生産法人は、ニンジン、ブロッコリーなどを25ヘクタール栽培し、2023年4月に収入保険に加入。函館つるの生産組合は、ビニールハウス51棟でアスパラガスを153アール栽培し、22年12月に園芸施設共済に加入した。大槻さんは加入したきっかけを「野菜の栽培面積が多く、農業保険の加入は見送っていましたが、近年は極端な気象による収量減少や品質低下が増えたため、収入保険に加入しました。海沿いで雪が少ない地域ですが、大雪が降ることがあるので、もしもの備えで園芸施設共済に加入しました」と話す。大槻さんは、同社の会長で父・寅男さん(73)の指導の下、2年前から農作物の栽培管理を担当。「スーパーや市場への出荷が多く、安定供給のため余裕を持った栽培面積を心がけています。会長からも常々言われていますが、自分たちの世代が頑張って次世代にバトンをつなぎたいです」と意欲を見せる。アスパラガスを栽培するビニールハウスは15年前と比較し40棟増加した。海が近いため、函館市の名産の真コンブの根や魚介の残渣〈ざんさ〉を含んだ「昆布根加工肥料」を使用。ミネラル豊富な土壌で栽培し、2L以上の規格を満たしたアスパラガスを厳選し、海の神として出荷する。味の良さと品質の高さから有名百貨店で人気を呼んでいるという。「肥料にコンブを使用しているため、塩分濃度が高くなり過ぎて生育不良となった苦い経験から、土壌分析を毎年行っています」と、代々引き継がれるアスパラガスの栽培方法を守っている。「収入保険は安定経営のため、もしものときの"安心料"。必要経費と考え加入しました。販売収入の補償のため、現在の経費高騰による所得減少時の補償もあれば助かります」と大槻さん。「アスパラガスを冷凍加工して、販売期間を延ばしたいです。ロスを減らし、ほかの野菜も海の神のさらなるブランド化を目指していきたいです」と意気込む。
〈写真:「海の神」を手に大槻さん〉
【福井支局】福井市円山地区では、市街部と農村部の交流を図ろうと、県内では珍しいリゾット米を2016年から栽培。20年には、県農業試験場が新たに育成した調理用品種「越のリゾット」に切り替え、同地区の特産にしようと商品開発や販路拡大に力を入れている。越のリゾットは、食物繊維と似た機能を持つ難消化性でんぷんを多く含む高アミロース米で、消化吸収がゆっくりと進むため、血糖値が気になる人にお薦めだ。育苗から精米まで一貫して携わる河戸文雄さん(73)は「越のリゾットは、稈長が短いため倒伏しにくく、栽培しやすい品種」と評価する。22年には同地区の特産にしようと地域おこし協力隊を募集。農業法人で6次産業化の経験があり、地域プランナーの日芳佳奈子さんを迎え、商品開発などを始めた。「リゾットやパエリア用というだけではなく、家庭の炊飯器で気軽に調理でき、パラリと煮解けしにくい特徴を生かした新商品が必要だと考えた」と日芳さん。「あきさかり」をブレンドした「チャーハンブレンド」や「コシヒカリ」をブレンドした水っぽくならない「炊き込みブレンド」など3種類の商品を開発した。同市のふるさと納税の返礼品にもなっており、東京にある県のアンテナショップでも販売が始まっている。
〈写真:「スープをしっかり吸ってくれるので雑炊にもお薦め」と話す河戸さん〈左〉と日芳さん〉
【島根支局】松江市の株式会社さんちゃんファームが運営する「たいばら農園」(田中正彦代表取締役社長=65歳、従業員10人)のトマトジュースが、モンドセレクション2022金賞、同2023最高金賞を受賞した。モンドセレクションは、世界各地にある優れた製品を評価・顕彰することを目的に設立された国際的な品評機関。認知度の高いモンドセレクションを受賞することで、製品の品質の高さを伝え、メディアに取り上げられることで認知度と売り上げの向上につながるといわれている。受賞の効果について同社の藤田等専務取締役(55)は「今年からJU米子高島屋で桐〈きり〉箱入りのトマトジュースを販売しています。ほかの百貨店からもコラボレーションの打診があり、安全・安心が認められた証しだと思います」と話す。たいばら農園は、日本海に面した小さな漁師町の同市鹿島町御津にあるハウス2棟(約20アール)で、土を使わないアイメック農法で中玉トマト「フルティカ」を栽培する。アイメック農法では無数の穴が開いた特殊なフィルムを使う。余分な水分や雑菌を通さず必要な養液だけを供給。従来の農法に比べ、水と肥料の量が大幅に減り、適度なストレスを与えることで高糖度・高品質のトマトが生産できる。
〈写真:フルティカを収穫する従業員〉
▼「自国で食料をつくる資源や技術を持ちながら輸入した方が得という経済力のある日本・韓国のような国は、途上国や貧困国に回るべき食料の一部を奪っているに等しい」と指摘するのは、愛知大学名誉教授の高橋五郎氏だ。新刊『食料危機の未来年表 そして日本人が飢える日』(朝日新書)で間近に迫る世界的な食料危機を警告し、早急な対応を訴える。
▼同書では、国連食糧農業機関(FAO)のデータを基に共通の考え方と算式で食料自給率を試算。日本のカロリー(供給熱量)ベース自給率は18%と低く、182カ国・地域で128位と報告する。また、気候変動や人口増加、戦争・紛争など、輸入による食料供給が止まるリスクは多く、経済力低下による買い負けも含め、日本は飢餓に陥りやすい「隠れ飢餓」状態と断じる。
▼次期通常国会で予定する食料・農業・農村基本法の改正で、食料安全保障の強化は重要な課題だ。ただ、値上げは続いても不足や飢餓を感じる状況になく、国民的な関心は低いよう。自給の必要性や輸入依存の問題をもっと発信しなければ。