今週のヘッドライン: 2023年11月 1週号
トマト、ナス、ジャガイモなどナス科作物やインゲンマメなどの葉や果実を加害する侵入害虫、トマトキバガの発生確認が相次いでいる。2021年10月に熊本県で確認されて以来、九州・四国・本州・北海道に拡大し、23年10月24日時点で35道府県で確認された。特に北海道では、トマトの葉・果実で幼虫による食害も確認されている。圃場で発生が認められた場合には、薬剤散布とともに、被害葉や被害果実は土中に埋却するなどの定着を防ぐ対策が欠かせない。疑わしい虫・被害を発見した際は、各県の病害虫防除所に通報するなど迅速な対応が必要だ。
農林水産省は10月20日、適正な価格形成に関する協議会の飲用牛乳ワーキンググループ(WG)の初会合を開き、具体的な仕組み作りの検討を開始した。会議は非公開で、酪農・乳業をはじめ、卸や小売り、消費者など各団体の代表者などが出席。「指定団体などから乳業間」「乳業から卸・小売り間」「小売りから消費者間」の三つの価格について仕組みや取引実態、コスト反映の課題などを聞き取り、さらに検証・議論することを決めた。飼料価格の高止まりや生乳の需給緩和など国内酪農の危機は続いている。飲用牛乳の消費は季節によって変動し、日持ちがしないため需給調整が難しい。消費者の理解をもとに社会全体で持続的な酪農経営を支える仕組み作りが求められる。
子牛価格の下落を受けて、農林水産省は10月20日、黒毛和種を対象にした肉用子牛生産者補給制度に基づく補給金を交付すると発表した。2023年度第2四半期(7~9月)の平均売買価格が1頭当たり52万1600円となり、発動基準である保証基準価格(黒毛和種は同55万6千円)を下回ったため。同期間に販売、自家保留された子牛を対象に基準価格との差額(同3万4400円)を全国一律で補てんする。
黒毛和種での補給金発動は2002年以来、21年ぶり。
国内外の農業保険を研究する摂南大学農学部の吉井邦恒教授は、日本の収入保険は米国やカナダの農業保険と比べて「けがや病気が補償の対象になるなど幅広いリスクに対応し、農業者の経営安定に貢献している」と評価した。先ごろ、青森県弘前市で開かれた東北農業経済学会で「農業保険と農業経営の安定」をテーマに報告したもの。学会報告の概要を紹介する。
畜産に関わる女性たちが畜種を超えて交流する全国畜産縦断いきいきネットワーク(事務局・中央畜産会)は10月23日、東京都内で全国大会を開催した。オンライン併用で、北海道から九州まで100人以上が参加した。畜産のすばらしさを生産現場から発信し、消費者との交流を深めて国産畜産物の消費拡大を呼びかけることなどを掲げた大会宣言を採択。会場の参加者から、次世代に魅力ある畜産経営に向けた意見発表を行っている。主な意見の要旨を紹介する。
〈写真:大会宣言を採択する会場の参加者ら〉
神奈川県海老名市下今泉で果樹30アールを中心に、少量多品目で家族経営する市川晋さん(31)は、スマートフォンのアプリを駆使し、作業の効率化につなげている。「作目や作業ごとに年間どれだけ働いているかが数値で分かる。無駄をなくして、休みを確保していきたい」と話す。データをパソコンの表計算ソフトで整理し、独自に栽培暦を作成して作業や経営の改善に応用している。
【福島支局】東日本大震災に伴う原発事故の影響で畜産農家が激減した葛尾村で、株式会社真〈まこと〉畜産(代表取締役・丹伊田拓真〈にいた・たくま〉さん=36歳、従業員3人)は、畜産業を復興させるため福島再生加速化交付金を活用し、繁殖・肥育一貫経営に奮闘している。震災以前、丹伊田さん方は祖父が肥育牛約300頭を飼養していたが、原発事故の影響で廃業せざるを得なくなった。丹伊田さんは畜産業に就く気はなかったが、運送会社で飼料を運搬するなど畜産関係者と関わるうちに、気持ちに変化があったという。「葛尾村の畜産を復興させたいという気持ちが次第に強まっていき、事業にチャレンジすることを決断した」。経営方針や戦略、資金計画など分からないことは、大規模牧場に勤務する弟に相談し、株式会社真畜産を2017年に設立した。設立当初、祖父が使用していた牛舎1棟と借りた1棟で繁殖和牛38頭を飼養。丹伊田さんは1人で牛を飼育するのが初めてだったため、父から飼養技術を学んだ。現在では、繁殖和牛80頭と預託肥育牛130頭を飼養する。近年の飼料高騰で配合飼料などの低コスト化に着手し、今年から牧草10ヘクタールを自家採取するとともに、面積を拡大する予定だ。今年、福島再生加速化交付金を活用し、同村が12月に新築する牛舎と堆肥舎、事務所、車庫、倉庫を借り受ける。葛尾村地域振興課の吉田将則さんは「震災で壊滅状態となった葛尾村の畜産業は、若い人たちの手で少しずつにぎわいを見せ始めている。今後が楽しみです」と話す。丹伊田さんは今後も頭数を増やし、24年までに繁殖用雌牛を180頭まで増やす計画だ。「将来は繁殖・肥育の一貫経営で500頭を目指したい」と意気込んでいる。
〈写真:「大きな事業になるので従業員を募集中です」と丹伊田さん〉
【北海道支局】株式会社北海道サラダパプリカは、2021年に収入保険に加入した。同社代表取締役社長の田辺利信さん(65)は、釧路市大楽毛〈おたのしけ〉で害虫を昆虫に食べさせる「天敵昆虫」を利用し、農薬に頼りすぎない方法でパプリカ2.3ヘクタールを栽培する。田辺さんは「年間生産量600トンを維持し、さらなる売り上げを目指すためにいろいろなことを考えています」と意気込む。同社は、温度や湿度などの環境維持センサーや、日照時間が短いときのための高圧ナトリウムランプなど最新技術を導入し、16年に植物工場を建設。当時、パプリカは9割ほどが輸入品で、道内には生産者がほとんどいなかったことから栽培を始めた。「植物工場といえども天候に左右される農作物なので、従業員の雇用や経営を続けていく上で、経営の安定的な支えとなるセーフティーネットとして収入保険は必要だと思い、加入を決めました」。加入した年は、天候不順や新型コロナウイルスの影響で収入が著しく低下し、保険金を受け取った。「売り上げが落ちた分、どうやって賄うかを考えていたときに、年度末に収入減少分の補てんが支払われたことが経営の安定につながりました」。収入が減少したときの補てんで翌年の経営に対する備えができ、保険料が高いというイメージはないという。「現在の保険制度は実績を評価するため、軌道に乗り始めている新規就農者の経営基盤をつくる手助けができるよう、保険対象にするような制度や経営目標が達成できなかったときにもう少し強い後押しとなる制度を期待します」と田辺さん。「保険の上限設定は意欲を評価する形にして、本人の努力によらないものは特例措置を通じてあまり下げないなど、意欲的な人が頑張れる制度になれば、より加入者が増えると思います」と要望する。
〈写真:パプリカを手に「NOSAI職員の丁寧な説明が加入の後押しになりました」と田辺さん〉
【岩手支局】「子牛の元気な姿が一番の励みになる」と話す八幡平市安代の阿部奈穂子さん(47)。2006年に就農し、現在は繁殖和牛14頭を飼養するほか水稲を40アール作付ける。阿部さんは異業種から農業の道へ進んだ。「もともと動物が好き。衝動に駆られて、気付いたら牛を飼っていた」と笑顔を見せる。就農当初は、牛の体調の変化にいち早く気付くのが難しく、戸惑いばかりだった。JAなど農業関係団体の指導を受けて知識を日々深めたという。「今では畜産農家との交流が増えた。同業者の話はとても勉強になる」と阿部さん。「頭数を増やして経営を安定させたい」と話す。牛舎の近くにクマが出没するため「大事な牛を守りたい」と、19年に第一種銃猟免許、わな猟免許を取得した。同市の猟友会に所属し、猟師としても活動。現在はほかの猟師に同行し、狩猟方法や山の歩き方などの指導を受ける。「私が見逃してしまうような獲物を猟師の先輩方は瞬時に見つける。経験を積んで、洞察力など猟師としてのスキルを磨きたい」。今後も狩猟に取り組むことで、牛を守りながら地域に貢献したいと考えているという。「今年からニホンジカ猟を始める。さばき方を勉強してジビエ(野生鳥獣肉)料理に挑戦したい」と意気込む。
〈写真:「生き物を育てることは大変だが、楽しいので続けられる」と阿部さん〉
【山口支局】「自分で奪った命。余すことなく使いたい」と話すのは、下関市菊川町で食肉処理施設「鹿っちゃ」を経営する猟師の木原由紀恵さん(44)。シカやイノシシの狩猟、解体、加工、販売まで1人で取り組む。「自給自足の生活に興味があり、自家用の米や野菜は以前から栽培していました。『肉も自分で捕ってみたい』と思うようになり、看護師をしながら狩猟免許を取得しました」と木原さん。県外で看護師をしていた木原さんは、両親が高齢になり農業を続けるのが難しくなったため帰郷した。菊川猟友会に所属し、シカやイノシシの捕獲を始めた。「狩猟はけがと隣り合わせで、山で野生動物と遭遇する怖さもあります」と話す。「捕獲したシカやイノシシのほか、わなに入ったものも含め、年間100頭程度解体します。解体にかかる時間は、シカ1頭でおよそ20分。素早く解体することで、鮮度が保たれ、おいしい肉になります」。自ら解体する木原さんは「人が食べることのできる部分は、全体の10%しかありません。すべての部位を大切に利用していきたい」と話す。解体した肉は食用のほかペットフードとして加工、シカの角やイノシシの牙はアクセサリーにして販売。ペットフードの売れ行きは好調で、主力商品になっているという。木原さんは「ジビエ(野生鳥獣肉)料理を皆さんにもっと食べてほしいです。保健所の認可を受けた施設で衛生的に解体、加工しています。家庭で簡単に調理できるものに加工し、ジビエの良さを広めていきたいです」と話す。
〈写真:「苦手な人もいると思いますが、いただいた命ですので、解体も見ていただきたい」と木原さん〉
▼11月は災害に強い施設園芸づくり月間だ。農林水産省は、降雪時期を迎える前に暖房機など設備の点検や施設の補強、雪の滑落を妨げる障害物の撤去など事前準備を呼びかける。さらに災害への備えとして園芸施設共済や収入保険への加入を促している。
▼園芸施設の設置面積は、2020年で全国に約4万ヘクタールあり、うち4割が加温設備を備える。小面積でも収益が得られる労働生産性の高さが特長で、近年は積雪地域でも園芸施設が増え、営農による冬季の収入確保が可能になった。トマトやイチゴは国内生産の約8割、キュウリは約6割を施設ものが占める。
▼一方で施設面積や農家数は1999年をピークに減少傾向にあるという。高齢化による労力不足などが要因で、特に1ヘクタール未満の経営が減っている。さらにこの冬は、高止まりする燃料価格が重くのしかかる。施設園芸は、経営費のうち燃料の経費が3割から4割を占め、省エネの工夫が不可欠だ。
▼農林水産省は、23年度補正予算案に施設園芸等燃料価格高騰対策を措置し、省エネの計画策定や産地(組織)を要件に燃料価格が一定基準を超えた場合の補てんを行う方針だ。離農の理由とならないよう、小規模農家なども多く囲える運用を望む。