今週のヘッドライン: 2023年10月 3週号
「有機安納芋といえば五島といわれる産地を目指している」と話すのは、長崎県五島市三井楽町の株式会社アグリ・コーポレーション代表の佐藤義貴さん(42)。五島列島の福江島にIターンで新規就農し、有機サツマイモ23ヘクタールを栽培する。青果はスーパーや生協など50社と取引。規格外品は自社の有機JAS認定工場でペーストやパウダーに加工する。耕作放棄地も開墾して規模拡大してきた。さらなる生産拡大を目指し、近隣の農業法人4社と五島甘藷研究会を組織。2030年に有機安納芋の生産量4千トンを目指している。
〈写真:有機安納芋を収穫する佐藤さん(手前)〉
農林水産省は6日、2023年8月の農林水産物・食品の輸出額が前年同月比7.9%減の1034億円となったと発表した。2カ月連続の前年割れ。東京電力福島第1原発の処理水海洋放出を巡り、中国が日本産水産物の全面的な輸入停止を措置したことに加え、猛暑による国内農産物の生産減で輸出仕向け量が減った。1~8月の累計は前年同期比6.1%増の9355億円となっているものの、伸び率は鈍化した。政府は25年に2兆円とする達成目標を掲げ、10月末に策定する総合経済対策に支援策を盛り込む方針だ。中国政府に禁輸措置撤回を強く求めるとともに、国内供給力の強化へ輸出産地の育成・確保が課題となる。
農林水産省は11日、適正な価格形成に関する協議会を開き「飲用牛乳」と「豆腐・納豆」を対象にそれぞれワーキンググループ(WG)を設置し、先行して適正取引の仕組み作りを検討することを決めた。米や野菜などに比べ、流通経路が簡素でコスト反映も比較的可能と判断した。
農林水産省は、園芸施設共済での損害認定について、災害によって原形を失った農業用ハウスなどは、スマートフォンなどでの撮影画像で確認可能とする方向で改正手続きを進めている。災害の激甚化などを踏まえてNOSAIによる損害評価を効率化し、共済金の早期支払いなどにつながると期待される。11月にも施行する予定だ。
「鈴木さんができるなら、私も農業できるかも、という誰かのきっかけづくりができたらうれしいですね」と話す、東京都武蔵野市でこびと農園を営む鈴木茜(あかね)さん(30)。同市と小金井市に、計30アールの生産緑地を借りて季節の野菜年間約80品目を少量多品目で栽培する。全量を直接販売するほか、農業の魅力と面白さを伝えたいと、農作業体験や農福連携事業に手を広げ、農業の可能性を追求している。
日本草地畜産種子協会は、「持続可能な畜産物生産に関する全国セミナー」をオンラインで開催した。肉用牛の周年親子放牧体系に適した牧草種と作付け計画法について農研機構西日本農業研究センター周年放牧研究領域周年放牧グループの堤道生上級研究員が説明。島根県での試験結果から西日本平野部など寒地型牧草の夏枯れが心配される地域では、春秋はトールフェスク、夏はバヒアグラスを中心にした組み合わせが放牧期間の延長によるコスト削減に有望と解説した。
【石川支局】「仕事は楽しんでやること。ちょっとでもおいしいものを食べたいという気持ちで頑張っています」と笑顔で話すのは、小松市の農事組合法人かすかみ(大間外茂吉代表)で理事を務める川﨑義光〈かわさき・よしみつ〉さん(78)。同法人では水稲種子の生産をメインに主食用米、麦、大豆、サトイモなどを約28ヘクタール栽培する。収益向上の取り組みとして6次産業化に力を入れ、地域農業の振興に尽力している。「小松市の中海地区では2002年に中海地区種子生産組合を設立し、水稲種子栽培を本格的に始めました」と川﨑さん。18年に同市原町・桂町が共同で農事組合法人かすかみを創立し、同地区の6.5割の生産を担っている。同法人では、種子用「コシヒカリ」や県のブランド米「ひゃくまん穀」など4品種を12ヘクタール作付け。生産には圃場審査に厳格な基準が設けられ、出穂期、登熟期、刈り取り前などに審査が実施される。川﨑さんは「見た目や大きさが重視され、品種が混ざってはいけません。良い種子を栽培するために気を使っています」と話す。産業用無人ヘリコプターによる防除は、もみを傷つける恐れがあり、動力噴霧機を使用。千倍に薄めた薬剤を2回散布する。深水管理にして雑草の繁茂を防ぐほか、あぜの部分は手作業で除草。異株がないか小まめにチェックし取り除く。葉の色を見極め、有機肥料を多く含む穂肥を適量施用することで倒伏に強い稲が育つという。農薬使用を減らした栽培を目指す同法人では、馬ふんや野菜くず、麦などを発酵させた堆肥を製造。10アール当たり8トン程度投入し地力増進を図っている。直売がメインの主食用米には、ミネラル含有量が多い土壌改良材を使用し、食味を向上させている。19年には法人の米と大豆を使ったみその製造を冬季に始めた。一般よりも米麹(こうじ)の割合が多く、昔ながらの製法で米の甘さが際立つ。「リピーターが多く手応えを感じます」と川﨑さん。今冬は2.5トンを販売する見込みだ。「これからも法人の役割である地域密着を貫きたい」と話す。
〈写真:たわわに実った稲を手に「今年の仕上がりも上々です」と川﨑さん〉
島根県大田市 有吉 誠志〈ありよし・せいし〉さん(65)
農業は天候の影響を受けやすく、病害虫などもあり、収入が不安定です。計画的な農業経営をするためにも、収入を補償する保険があるといいと思っていました。説明を受けたとき、とても良い保険ができたと思い加入しました。2021年、ブドウの収穫前に肩を痛め、腕が上がらなくなりました。ブドウ栽培は頭上での作業ばかりで、妻と2人でしたから青くなりました。健康なときは、まさか体調を崩すとは思わないですが、予期せぬことは突然起こるものだと実感しました。NOSAIから収入保険の対象になると聞き、加入して良かったと心の底から思いました。加入してからは、基準収入を意識するようになり、基準収入をもっと上げるにはどう工夫すればいいかなど、自分のモチベーションを上げてくれます。頑張っている農業者のために適正な引受けをして、長く続く保険になってほしいですね。
▽ブドウ(ハウス80アール)=「シャインマスカット」「デラウェア」「神紅」 (島根支局)
広島県三原市 中村 淳〈なかむら・じゅん〉さん(40)
田舎に引っ越したいと思い、地図をたまたま開いたとき、瀬戸内の佐木島を見つけました。地域おこし協力隊に採用されたことも後押しになり、2022年4月に移住し、その活動と並行して農業をしています。東京都出身で、11年から茨城県で農業経営をしていました。台風で防風ネットが倒壊し大雨で畑が冠水して、収入が大きく減ったことがありました。自然災害の恐ろしさを痛感し、収入保険に加入しています。現在、茨城での経営は移譲しましたが、移住直後は従業員に管理を任せ、私は広島の農場に専念。瀬戸内特有の気候や真砂土での野菜作りが心配だったので、両県分の経営を合わせて収入保険に加入しました。22年は、茨城で豪雨や台風による被害で収入が半分以下に。資材費や肥料代が高騰していたので、保険金を受け取ることができて助かりました。今後も佐木島で規模を拡大したいと考えています。設備投資や自然災害は経営リスクに直結します。将来にわたり営農ができるように収入保険で備えたいです。
▽野菜1ヘクタール(ニンジン、ルッコラ、ミズナなど)、かんきつ15アール (広島支局)
【山形支局】「自然にあるものを農業資材として生かしたい」と話すのは、鶴岡市東岩本の宮崎広和さん(68)。柿18アールやソバ35アールのほか、モウソウチクと「月山筍〈がっさんだけ〉」をそれぞれ約15アールを管理する宮崎さんは、5年ほど前から柿栽培でモウソウチクを支柱や土作りに活用する。 宮崎さんが作る支柱は、竹を柿の木の高さに合わせて切り、竹の節部分で柿の枝を支えるというもの。宮崎さんの柿畑近くに竹林があり、その竹を活用したいと考えていた際に知人からアドバイスを受けて実践した。支柱は同じ箇所に設置すると枝に傷が付き、全体に栄養が行き渡らなくなるため、支点を毎年変えることが大切だという。「枝を高くすることで草刈りや消毒作業の効率が上がり、サルによる食害も防止できる」と宮崎さん。竹は3~4年で入れ替え、使い終わった竹は地面に敷き詰める。上から土壌改良資材や鶏ふんを散布することで3~4年で腐葉土となり、肥沃〈ひよく〉な土壌づくりに役立つ。宮崎さんは「化学肥料の使用を最小限にして、おいしい柿を栽培していきたい」と話す。
〈写真:「『甘くておいしい』というお客さまの声がやりがい」と宮崎さん〉
▼高齢化・過疎化が進む農村部の振興策の一つに、特定の地域と関わる関係人口や交流人口の創出がある。農林水産省は、財務省に提出した2024年度予算概算要求で農山漁村振興交付金として約117億円を計上し、その中に農泊の推進や棚田など中山間地域の農業振興支援などを盛り込んでいる。
▼25年度までの達成目標には交流人口1540万人、農泊地域での延べ宿泊者数700万人などを設定した。交流人口は、グリーンツーリズム施設への宿泊など農山漁村体験などを行った人数を集計したもの。18年度には1212万人の実績をあげたが、コロナ禍で半減した。旅行需要が回復する中で、地域資源の活用や情報発信などが課題となろう。
▼先般開かれた農村型地域運営組織(農村RMO)推進研究会では、地域で管理が困難になった傾斜地の樹園地にサクラやモミジなどを植え、催しで人を呼び込むとの報告があった。最近見たニュースでは、耕作者不在のクリ園を住民が管理し、労力のかかる収穫は地域外の家族連れなどをボランティアに招き、手伝ってもらうと紹介していた。
▼"関係人口や交流人口の創出を"と構えてしまえば何から手を付けるか腰が引けてしまうかも。できる範囲で活動し、できない部分は助けてもらうと肩の力を抜いた方が人も集まりやすいだろう。地域を訪れるきっかけは「サクラや紅葉を楽しみに」「クリ拾いをしたい」でよいのだ。