今週のヘッドライン: 2023年09月 3週号
「おいしい野菜は人を感動させられる。最高のイチゴを食べてほしい」と話す、京都府八幡市内里東ノ口の上村慎二さん(51)。有機イチゴをハウス6棟(30アール)で土耕栽培する。甘みと酸味のバランスがよい有機イチゴはオーガニック専門店などからも高く評価されている。良食味の決め手は植物性有機肥料による土作りで、作付け前におからと米ぬかを混ぜたボカシ肥料と竹堆肥をそれぞれ10アール当たり400キロ施用。年間8品目作付ける野菜は、全て有機JAS認証を取得する。農業スクールの講師として後進の育成に努め、有機栽培のノウハウを伝え、新規就農者も生まれている。
〈写真:イチゴのランナーをピンで固定する上村さん〉
第2次岸田再改造内閣が13日に発足。農相に就任した衆議院議員の宮下一郎氏は14日に会見した=写真。来年の通常国会への食料・農業・農村基本法改正案提出へ施策の具体化を進める考えを強調した。就任会見の概要を紹介する。
農林水産省の食料・農業・農村政策審議会と同基本法検証部会は11日、食料・農業・農村基本法の見直しに向けた最終取りまとめを決定し、野村哲郎農相に答申した。ウクライナ情勢や顕在化する気候変動の影響など食料生産と供給のリスクが高まる中、新たな基本理念として「国民一人一人の食料安全保障の確立」を打ち出した。政府は来年の通常国会への提出に向けて改正法案の検討を加速化する。基本法検証部会が開いた地方意見交換会や国民からの意見募集では、生産者や生産者団体から適正な価格形成の仕組み構築や多様な担い手の育成・確保などを求める声が相次いだ。政府には食料安全保障の根幹をなす国内生産基盤の維持・強化につながる具体策の提示と実行が求められる。
〈写真:右から野村農相(当時)、審議会の大橋弘会長、基本法検証部会の中嶋康博部会長〉
地域によっては麦の播種作業が始まる時期だ。麦は収穫時期の降雨などの影響を受けやすい。万一の災害に備えるには、農業保険(収入保険、麦共済)への加入が基本となる。2024年1月から収入保険への加入を予定している人も、まずは麦共済に加入して収入保険の保険期間が始まるまでの無保険期間をなくすことが重要だ。収入保険と麦共済について稲穂ちゃんがNOSAI職員のみのるさんに聞いた。
収穫の秋。農作業の合間に、取れたての野菜や果物の撮影を楽しもう。まずはスマートフォンでもOK。野菜や農家、農村風景の撮影を専門とする農業カメラマンの網野文絵さんに、魅力を引き出す写真撮影の一工夫や面白さを教えてもらった。
埼玉県越谷市の農業デザイン株式会社は、市農業技術センターに協力してメロンの水耕栽培を実証している。今夏に初収穫し、1株当たり収量30個を実現した。播種から約3カ月で収穫開始でき、1果重1.5~2キロ、糖度13度前後を確保。栽培棚で頭上に結実させ、管理や収穫などでかがむ必要がない。高橋直之執行役員(36)は「農業経験が少ない人も、少人数で栽培できる。地域に合った生産・販売の仕組みをつくりたい」と話す。市では、省力的に栽培ができる高収益作物として普及を目指していて、同社では飲食事業と組み合わせたブランド化を図る。
【福井支局】「越前町で育てたオリーブで、チュニジアで味わった感動の味を再現したい」と話すのは、越前町の地域おこし協力隊の吉田文武さん(26)。2022年11月に同町へ移住し、地域おこし協力隊として地域の人と協力しながら、耕作放棄地などを有効活用したオリーブの生産に取り組んでいる。越前市出身の吉田さんは、大学進学とともに県外へ行き、そのまま一般企業のサラリーマンとして3年間働いていた。大学在学中に休学し、チュニジアで青年海外協力隊として水泳指導の活動をしていたことがあり、自然と関わる仕事がしたいと感じていたとき、越前町でオリーブの生産に携わる地域おこし協力隊の募集を見つけた。「その募集を見つけたときに、チュニジアで味わった新鮮なオリーブオイルのおいしさに感動した感覚が思い出され、すぐに応募した」。同町茂原地区でオリーブを栽培する地域おこしグループ「TEAM越前夢おこし」の南和孝さんらのサポートを受けながら栽培方法を学んだ。現在は同地区の耕作放棄地など1.7ヘクタールでオリーブ600本を管理する。TEAM越前夢おこしでは、オリーブの植樹を21年に始め、同地区の城崎小学校周辺でオーナー制度を取り入れた生産に取り組む。現在は70人以上のオーナーの協力のもと、74本を管理し、吉田さんはその活動を手伝う。吉田さんが主体となり、オリーブの葉で作るパウダーを利用した商品を開発。地元の菓子店や企業と連携した商品開発にも取り組んでいる。今年9月には、地元の企業と連携してパウダー入りの生どら焼きとカステラを県内のイベントで販売した。「自分一人では今の活動はできなかった。地域の人の協力や南さんのサポートがあったから、ここまで増やすことができた」と吉田さん。「管理は大変だが、地域の農地を守りながら、自分の理想とするオリーブオイルや加工品などの開発を目指し、オリーブが地域の特産となってくれればうれしい」と話してくれた。
〈写真:「ゆくゆくはオーナーが剪定〈せんてい〉した葉などを使った商品を提供してきたい」と話す南さん(右)と吉田さん〉
【大阪支局】「予想外の事態に備えるため、収入保険を選択した。安心感がある」と話すのは、柏原市でブドウ(ハウス3棟30アール)を栽培する松井善弘〈まつい・よしひろ〉さん(76)。2020年に収入保険に加入した。松井さんは、約35年前に父からブドウ園地を受け継いだ。収入保険に加入するまでは収入が大幅に減少した経験はなかったが、NOSAI職員の積極的な推進と知り合いの農家から勧められたことで、加入を決意した。加入後の20年2月、農作業中のけがで計画どおりに営農できなかったという松井さん。「加工用ブドウが増え、加工品業者へ出荷したが、収入が減少した」と振り返る。21年5月には病気を患い入院し、収穫時期と重なったことで約7割が収穫できず大幅な減収となった。「病気やけがで農業収入を補てんする保険はほかにはない。非常にありがたい」と笑顔を見せる。以前は果樹共済に加入していた。「収入保険は自然災害や病虫害による収量減少だけでなく、価格低下など幅広く補償されることに魅力を感じた」と移行した理由を話す。先祖代々の農地を守るという強い意志で農業を続けられているという松井さん。「経営安定のため、収入保険が続くことを願っている」と期待する。今後は「栽培面積を維持しつつ、直売所に訪れるお客さんの声を大事にしながら、高品質のブドウを作り続けていきたい」と意欲的に話す。
〈写真:「お客さんの『おいしい』の声に、やりがいを感じる」と松井さん〉
【富山支局】砺波市庄川町の有限会社泰栄農研〈たいえいのうけん〉では、7ヘクタールの畑で栽培する約14万本のトウモロコシ「ゴールドラッシュ」が収穫最盛期を迎えた。ミネラルを補給するため同町の温泉水を利用して栽培する。当初は地域活性化の一環として始めたところ、標準と比べ10~20倍の濃度の温泉成分でトウモロコシの甘みが増したという。温泉水は、生育に合わせて10日に1回のペースで散布する。選果場では、日本に数台しかないという選別機で重さごとに振り分け、作業の効率化を図った。導入前はバネ秤〈ばかり〉で選別していたため時間がかかっていたが、誰でも簡単に仕分けできるようになり、出荷量の増加、従業員の負担減少につながった。選果後はスーパーや道の駅、旅館、居酒屋、すし店にも出荷。さらに、南砺市にあるジェラート店「Gelateria ZUCCA」と連携したジェラートをはじめ、学校給食や道の駅にペーストを提供するなど加工品にも取り組む。代表を務める柴田泰利〈しばた・やすとし〉さん(40)は「四季折々の地域の景観を残していきたい。そのためには基本をしっかりやり、おいしいものを作り、温泉水の利用は一つのエッセンスとして続けていきたい」と話す。
〈写真:「トウモロコシは、ゆでる・蒸す以外にも使い方があり、面白い」と柴田さん〉
【島根支局】安来市今津町の加藤隆志さん(55)は、コーヒー好きが興じて自家栽培・自家焙煎〈ばいせん〉し、ぜいたくなコーヒータイムを楽しんでいる。加藤さんのコーヒーを飲んだ友人・知人の評判は上々だという。加藤さんはコーヒーの香りと味に魅せられ、2022年に苗を購入し栽培を始めた。栽培には、水はけの良い肥えた土壌や年平均20度の気温、一定の降水量などが必要となる。日本の気候では栽培が難しいと思った加藤さんは、ビニールハウスを利用し栽培に適した環境を整備した。コーヒーの木は直射日光に弱く適度な遮光が必要で、気温の変化にも敏感だという。「夏場の気温上昇や冬場の気温低下に伴うハウス内の温度調節がとても大変です」と加藤さん。「農薬を使わず安心して飲めるコーヒーを目指しています。収穫量が増えてきたので、自分たちで楽しむだけではなく来年は出荷をする予定です」と話す。
〈写真:「アラビカ種の『ティピカ』を400本栽培しています」と加藤さん〉
▼クマによる4~7月の人身被害件数が2010年度以降の同期間では最も多く、出没件数も過去最多ペースで推移しているという。この秋は餌となるブナなど堅果類の不作が見込まれ、環境省などは人身被害が多くなる秋に向けて十分な警戒を呼びかけている。
▼近年は集落や市街地に出没するクマが増加。人や車がいても恐れない様子から"新世代クマ"とも呼ばれる。従来は、人の生活圏である里山に侵入するクマは少なかった。ただ、耕作放棄地の増加に伴い森林と里山の境界が不明瞭になるなど環境が変わり、車や人の生活音などに慣れたとされる。
▼環境省の『クマ類の出没対応マニュアル』によると、クマの出没を減らす鍵は、出没抑制対策の徹底による「すみ分け」だ。住宅や農地と山林との間に緩衝帯を整備し、餌になる農作物や生ごみなどの撤去や近づいたときの追い払いが対策の基本になる。
▼しかし、高齢化や過疎化が進む中、地域住民だけでは対策の実践は困難。個体数の調整や新世代クマの侵入時の駆除を担うハンターも高齢化などで減少の一途をたどる。この秋は、餌の撤去に加え、クマの痕跡に近寄らずクマ鈴やラジオで人の存在を知らせるなど、極力出会わない対策が欠かせない。