今週のヘッドライン: 2023年09月 2週号
山形県天童市川原子で、果樹10ヘクタールを経営する株式会社やまがたさくらんぼファーム。経営の主軸であるサクランボの収穫・出荷では、通年雇用者を中心に短期アルバイトなどを組み合わせた班体制で熟練者以外も作業しやすくする。矢萩美智代表(47)は「誰か一人の力でなくチーム全体で経営を回す仕組みづくりを大切にしている」と話す。時期によって労働時間を変える変形労働時間制を採用し、通年雇用を実現。安定出荷の基盤とする早朝作業は給与の単価を割り増すなど人手の確保・定着で成果を挙げている。コロナ禍で取り組んだ通販拡大などにも柔軟に対応。観光や個人向け販売などを合わせた売り上げで、12年連続で黒字を達成している。
農林水産省は5日、豚熱・アフリカ豚熱防疫対策本部(本部長・野村哲郎農相)を開き、九州7県を豚熱のワクチン接種推奨地域に設定した。各県にワクチン接種プログラムの策定と体制整備など早期の実施を促すとともに、農場の飼養衛生管理や野生イノシシ対策の強化を図るとし「農林水産省として最大限の緊張感を持って取り組む」とする大臣メッセージを発出した。豚熱が再発した2018年9月以降、九州では初となる佐賀県の豚熱発生を受け、養豚産地が集中する地域でのまん延防止対策を徹底する方針だ。
農林水産省と環境省は8月30日、自民党の鳥獣被害対策合同会議で、シカ・イノシシの捕獲強化対策を説明した。特に生息数が減らないシカの集中的な捕獲など特別対策を実施するとした。
2024年度の予算概算要求では、シカ特別対策を含む鳥獣被害対策に121億7900万円を要求。都道府県へのシカ捕獲対策に係る補助率や雌ジカの捕獲支援単価の引き上げ、ICT(情報通信技術)など新技術を活用した捕獲対策支援などを実施する。
10月1日から消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートする。事業者が仕入や経費の消費税額を控除する際には、原則仕入れ先から交付されたインボイス(適格請求書)の保存が必要だ。仕入れ先が免税事業者の場合は、インボイスが交付できないため、取引価格見直しや取引先変更など免税事業者が不利益を被る懸念がある。免税事業者が多くを占める農業者はどう対応すれば良いか、特例など経過措置を含めてポイントを整理する。
農林水産省は8月31日、オンラインで「野菜の日」シンポジウムを開催した。宮尾茂雄氏(東京家政大学大学院客員教授)が「つけもの―その魅力と健康力―」と題して基調講演。「漬物は生よりも食べやすく、加熱するより栄養成分も保持できる優れた調理法」と強調し、漬物での野菜摂取と消費を呼びかけた。概要を紹介する。
愛知県農業総合試験場は、粗飼料に代替する竹飼料の乳用牛への給与技術を開発した。破砕した竹に酢かすを20%(原物)混合して製造する酢竹は、脱気して長期保存が可能。製造コストはキロ当たり約42円で、輸入乾牧草と比べて安い。試験では分娩〈ぶんべん〉後15週まで、酢竹を8.6%(乾物)混合したTMR(完全混合飼料)をホルスタイン種に給与したところ、乳生産に悪影響を及ぼさなかった。円安などの影響で輸入粗飼料の価格が高止まりする中、飼料コストの低減につながると期待される。
【広島支局】ホウレンソウ(82アール)を軸に、露地野菜50アール、水稲2ヘクタールを手がける株式会社中原ファーム(北広島町中原)。代表取締役の多川純利〈まさとし〉さん(37)は「常に挑戦し続け、地域に貢献し、地域の農業のモデルとなる」を経営理念に、規模拡大、加工品製造へと前進する。周年でホウレンソウを栽培し、ハウス37棟で6.5回転させ、年間45万束を出荷。「天気で灌水〈かんすい〉が変わったり、虫が多い年があったりするので、先をどう読んでいくか。当たったときはうれしい」と話す。多川さんは2013年に新規就農。規模を徐々に拡大し、21年に法人化した。現在はパート従業員10人、特定技能のベトナム人2人を雇用し、多川さん夫妻と両親で営農に取り組む。多川さんは「中山間地域で農地をいかにして守っていくか」を考え、野菜の付加価値を高めようと、野菜を練り込んだパスタを商品化。ホウレンソウ、カボチャ、ニンジンそれぞれのスパゲティやマカロニをオンラインで販売する。加工を担当するのは妻の桂子さん(37)。自宅横の加工場で、野菜を乾燥させパウダー状にし、小麦粉・米粉と合わせてパスタを製造する。「『もちもちしておいしい』と言ってもらっている。ニンジンが苦手なうちの子も食べてくれる」。今年7月に販売を始め、贈答用としても力を入れていきたいという。桂子さんは「ほかの野菜を使った期間限定の商品などバリエーションを増やしたい」と話す。
〈写真:「加工品を成功させて、地域のモデル経営体になれれば」と多川さん夫妻〉
【滋賀支局】米原市柏原の山根左近さん(49)が代表取締役を務める「有限会社ファームやまね」では、山根さんと従業員9人で、水稲85ヘクタール、麦40ヘクタール、大豆28ヘクタールを管理する。山根さんはもともと機械好きで、現在は最新の田植機や草刈機などを使いこなす。さらに効率の良い栽培を実現するため、生産履歴管理システムアプリ「フェースファーム生産履歴(ソリマチ株式会社)」を駆使している。父が生産していたころは25ヘクタールほどだったが、徐々に拡大し、2021年に法人化。新たな品種に取り組みながら、安定した経営ができるように、それまで加入していた水稲共済から収入保険に移行したが、その後間もなく米価が下落した。「米価の下落はどうしようもないし、努力のしようがない。収入保険はそういうときに補償してくれるのが良い」と山根さん。「ただ、その年の分の収益は何とかなったが、それだけじゃ経営はできない。従業員がいるし、翌年にゼロからじゃ経営はできないしな」と頭を抱えた。21、22年と米価が下がる中、つなぎ資金を経営資金に充てた。「収量は減っていないから、農業共済では対象にならなかった。収入保険なら補償対象となる上に、つなぎ資金まで受けられる。良い保険だ」。「経営規模が大きいと自己責任部分の1割が大きくなるため、なかなか保険対象になりにくい。大規模農家を助けるプランを検討してほしい」と制度の充実に期待を寄せる。
〈写真:「おいしくても高く売れるわけじゃない。でも、おいしさ、安さなどどれを取るかというとき、わが社の商品を選んでもらえるとうれしい」と山根さん〉
【福井支局】プロサッカークラブ「福井ユナイテッドFC」では、2022年春に、あわら市にあるナシ農園「波松喜左衛門〈なみまつきざえもん〉」でナシの木のオーナーとなり、シーズンを通して地域の魅力発信と農業振興に一役を担っている。選手らは同園を定期的に訪れ、4月の授粉や袋がけなどの作業に携わり、味のおいしさだけでなく生産の大変さを知って、より地元愛が深くなったという。収穫したナシは、選手自らが梱包〈こんぽう〉、手製のメッセージカードを同封し、クラブのホームページや試合会場で販売。約400玉のナシは年内にほぼ完売するほど好評だった。オーナーを受け入れている同園の寺崎洋視〈てらさき・ひろし〉さんは「地元のサッカークラブを応援したいという気持ちから始めたが、選手のファンや県内外の新しいお客さんが増え、うれしい相乗効果となっている」と話す。クラブの担当者・吾田真一〈あずた・しんいち〉さんは「当初は地域貢献を目的としていたが、地域の農産物をPRできただけでなく、販売収益がクラブの新たな収入源の一つとなり助かっている。これからも試合で勝利をつかみ取りながら、オーナーとして地域の魅力を発信する架け橋となり、福井を盛り上げていきたい」と笑顔で話す。
※波松喜左衛門の「喜」は「七」を三つ並べた漢字
〈写真:寺崎さん(右)から管理の説明を受ける大西将亜選手(中)と樽谷誠司選手(写真提供=福井ユナイテッドFC)〉
【福島支局】キュウリ10アールを作付けて3年目となる二本松市の塩田幸治さん(44)は「周りの人が取り組んでいないインパクトがあるものを始めたい」と、星やハート形などのデコレーション用キュウリの栽培に取り組み、直売所での売り上げは上々だ。デコレーション用キュウリは、実の太さが1センチほどに成長したら、市販の専用の型にはめ込む。3日ほどすれば収穫が可能だ。塩田さんは「実が大きくなりすぎると形を壊してしまうので、生育速度に気を配ります」と話す。デコレーション用はキュウリの最盛期を避けて栽培する。「たくさん作ることはできませんが、要望があれば用意します。無理なく出荷を続け、縁があれば飲食店に出荷したい」。塩田さんは、主に化成肥料と有機肥料を使う。足りない成分は微量要素を含む肥料で補うことで、苦みやえぐみを抑え、食味が良いキュウリができるという。「経営規模を維持したまま収量を年間10トンまで増やしたい」と話す。
〈写真:星やハート形に育てたキュウリ〉
【北海道支局】NOSAI北海道(北海道農業共済組合)オホーツク統括センター興部支所紋別家畜診療所の山崎隼也獣医師は、牛の骨格標本を製作し、博物館での展示に向けた準備に追われている。山崎獣医師は「正常な骨格を理解することは非常に重要で、骨折や損傷の診断と治療に役立ちます」と話す。ほかの牛との接触や難産介助中など、さまざまな状況で発生する骨折に対して、正確に診断するにはレントゲン撮影が必要だが、正常な骨格標本を備えることでより正確な診断が可能になるという。展示では、子牛の骨格標本や獣医師の仕事も紹介する予定だ。「普段から製作している標本の一部で、産業動物獣医師の仕事を垣間見ていただきたいです。動物の骨格に関する新たな知識を得ていただければ幸いです」と展示への意気込みを話す。「牛の骨格展」は10月7日から29日に紋別市立博物館で開催する。
〈写真:診療業務の合間を縫って製作した骨格標本〉
▼少し考えると当然かと納得するが、生物の中で"老いる"のは人間だけだという。野生生物は、老化する前に食べられてしまうか、食料がとれずに大半は死んでしまう。老化する期間はあっても相当に短いそうだ。生物の老化を研究する小林武彦氏の『なぜヒトだけが老いるのか』(講談社現代新書)に学んだ。
▼小林氏によると、ほとんどの哺乳動物は子どもを産める期間を終えると寿命を迎え、人間に近いゴリラなどは50歳前後で亡くなる。また、人間は55歳以降にがんで亡くなる人が急速に増えると指摘。50~60歳以降を老後とすれば人生の40%が老後だとする。
▼ただ、悲観する必要はなく、老後が長いのは人が進化の過程で獲得した性質と訴える。子育てや社会の維持などはシニア層の多い集団の方が有利なために残ってきたと考察し、少子高齢化の時代こそ社会で多数を占めるシニア層が活躍すべきと提起する。
▼著書に従えば、すでに自分も老後に入った。他の動物にはない特別な期間と捉え、有意義な使い方を考えてみたい。