今週のヘッドライン: 2023年06月 3週号
高知県三原村の農事組合法人三原やまびこでは、今年もシシトウの収穫・出荷作業が本格化している。働くのは村に住む70~80代の農家女性ら14人。20アールのビニールハウスで年間約12トンを安定的に生産し、約10万パックを全量JAに出荷する。各自の都合に合わせて作業できるよう、収穫量とパック詰め個数に応じた出来高払いを採用。作業場へのエアコン設置や温水洗浄便座の導入など働きやすい環境整備にも力を入れる。「"みんなで楽しく長く働く"を大事にしています」と代表の岩井清さん(74)。生涯現役で心豊かに暮らせる村づくりの一翼を担っている。
農林水産省は9日、2023年産主食用米などの都道府県別の作付け意向(第2回、4月末時点)をまとめ、公表した。主食用米は「前年並み」(増減1%以内)が30県で、前回(1月末時点)から5県減り、「前年より減少傾向」(1%超減少)が17県で、5県増えた。「前年より増加傾向」(1%超増加)はなかった。同省は3月に公表した主食用米の需給見通しで、23年産の生産量を22年産と同水準の669万トンに設定。22年産と同程度の作付け転換を実施すれば、需給は均衡する見通しとなる。
農林水産省は13日、畜産・酪農の適正な価格形成に向けた環境整備推進会議の第3回会合を開き、中間取りまとめを決定。飼料費のほか、輸送費や光熱費など生産コストの指標を活用した仕組みとする方向を示した。専門家によるワーキングチームを設け、まずは牛乳・乳製品で具体化を検討する。
NOSAI獣医師は全国で1771人(4月1日時点)が働く。家畜共済での保険診療や事故低減対策に加え、家畜防疫・家畜衛生や畜産の生産性向上、獣医学教育などにも役割が増大している。各地のNOSAIでは、獣医師を目指す学生の実習受け入れをはじめ、採用後も働きやすい職場環境づくりなどを図っている。
東京電力など大手電力7社は、6月1日の使用分から電気料金を値上げした。家計への影響をなるべく抑えるため、節電を始める人も多いだろう。インターネットの生活総合情報サイト「All About(オールアバウト)」で、節約ガイドとして活動する家事アドバイザーの矢野きくのさんに家庭でできる節電のポイントを紹介してもらう。
水田転換畑で麦・大豆や野菜などを安定生産する場合、排水対策が欠かせない。農研機構では、大型から小型のトラクターに装着でき、農家自身が暗渠(あんきょ)の施工や全層心土破砕をして土層の透水性を高める「カットシリーズ」4機種を開発。順次市販され、今後の普及が期待されている。特徴を紹介する。
【埼玉支局】「近年の異常な猛暑でも確実な収入へつなげるため、高温や病気に強く、高収量で食味が良い理想の稲をつくりたいと思い、独学で育種を始めました」と話すのは行田市犬塚の赤羽修一さん(65)。水稲18ヘクタール、麦35ヘクタールを作付けるほか、品種登録した水稲「次世代シリーズ」の育種と種子の販売に取り組む。次世代シリーズは、現在3品種を登録。シリーズの先駆け「次世代の夢」は、埼玉県の品種「彩のきらびやか」を親に、突然変異種を選抜育成したもの。紋枯病、いもち病に強く、縞〈しま〉葉枯病に抵抗性を持つ。稈長は低く、茎が太くて強い。赤羽さんは「道路標識が倒れるほどの暴風雨でも倒伏しませんでした。台風を気にせず栽培することができます」と説明する。「次世代のまなざし」と「次世代の七光〈ななひかり〉」は、次世代の夢の突然変異種から育種。次世代の夢の特性を引き継ぎ、それぞれに新たな利点も付加している。次世代のまなざしは3~5センチほどの長い芒〈のぎ〉が特徴。この芒を害獣が嫌う傾向があり、スズメやイノシシ、シカなどからの食害に遭いにくい。鳥獣害の多い中山間地での栽培に勧められるという。次世代の七光は米粒の大きさと良食味が特徴。千粒重は34グラムと「コシヒカリ」よりも15グラムほど重い。もちもちとした独特の粘りがある。弁当店からは「米を次世代の七光に換えてから残飯が大幅に減った。この米はどこで買えるのかという問い合わせも受けている」と評価が高い。次世代シリーズは元肥と追肥ともに多肥で栽培することで、猛暑に負けない多収量の稲ができる。通常の水稲栽培では、徒長による倒伏につながる施肥量のため、栽培農家の中には抵抗感がある人もいたという。赤羽さんは種もみの購入者に栽培マニュアルを配布し、適正な収量を得られるようサポートしている。埼玉県では2010年、平均気温が熊谷気象台の観測史上1位となる猛暑に見舞われた。高温障害による白未熟粒が多発するなど県全域で深刻な被害になったが、赤羽さんが作付けした次世代の夢は、例年より減収したものの10アール当たり収量650キロを確保した。「品種登録のための育種は、数年をかけて200項目以上のデータを採取します。種もみの採種はほかの品種と混ざらないよう慎重に栽培しなければならないなど苦労は絶えません。その分、理想の米が収穫できたり、栽培農家や種苗店から好評の声が届いたときのうれしさは格別です」と赤羽さん。「新たな次世代シリーズの品種登録に向けて、試験栽培を重ねています。シリーズ最多収量を目指します」と意欲的に話す。
〈写真:次世代の夢の播種作業に汗を流す赤羽さんと妻の典子さん(63)〉
【秋田支局】オウトウを1.3ヘクタールを栽培する湯沢市三関地区の嵩下功〈だけした・いさお〉)さん(42)は、東京都内で福祉関係の仕事に就いていたが、妻の実家がある同市でオウトウ農家が後継者を探しているという話を聞き、2019年に移住した。県の未来農業のフロンティア育成研修生として果樹栽培を2年学び、21年に事業を承継して新規就農。嵩下さんは「初めての農業経営で、自然を相手にし、技術面を含めた心配は尽きなかった」と振り返る。事業の承継に当たり、NOSAI職員から収入保険の説明を受けた。「収穫量の減少だけではなく、病気やけがによる減収にも対応するなど補償内容が幅広い」と制度に理解を示す。前経営者の実績を引き継ぐことができ、経営実態に即した補償が得られることも加入の決め手になったという。昨年のオウトウは、開花期間中に降雪などの天候不良に見舞われ、訪花昆虫の減少もあり深刻な結実不足になった。また、収穫期前の降雨で裂果が多発するなど記録的な不作に陥った。保険金等を受け取るまでの間につなぎ融資を受け、早期に来年へ向けた運転資金を確保。申告後はつなぎ資金以上の保険金等を受け取ることができた。「保険金等を受け取るだけではなく、確定申告へのアドバイスや経営相談などのサポートを受けることができた。日々の生活に安心感を得られた」と話す。今後は、高齢者や障害者の人たちが就労や生きがいづくりの場を生み出せるよう農福連携にも力を入れる考えだ。「福祉施設の利用者に収穫体験をしてもらっている。農福連携にアイデアを加えて、笑顔あふれる農業を経営したい。収入保険に継続加入して、これからも前向きに農業に取り組んでいく」と意欲を見せる。
〈写真:「今はとにかく剪定〈せんてい〉作業を勉強中」と嵩下さん〉
【新潟支局】「田んぼに入れておくだけで除草作業の回数が減り、有機米栽培の助けになります」と話すのは、株式会社ヰセキ関東甲信越新潟営業部新潟推進グループの安岡茂人課長。井関農機株式会社では2023年1月に、水稲有機栽培での除草作業の労力低減を目的に「アイガモロボ」の販売を開始。水田の新たな雑草対策として注目を集めている。21年に農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」では、50年までに日本の耕地面積の4分の1を有機農業に拡大することを目指している。水稲の有機栽培は、消費者の安全・健康志向の高まりなどを受けて少しずつ拡大しているが、課題が多い。農薬使用に制限があるため、生産者は雑草対策に多くの時間をとられ、慣行栽培と比較すると大きな負担となっている。アイガモロボは田植え後に投入するだけで、専用アプリで設定した範囲を移動していく。抑草の仕組みはシンプルだ。機械下部のスクリューが水流を起こし、泥を巻き上げて水を濁らせ、背の低い雑草は光を遮られて成長が抑制される。さらに、土壌の表層5ミリにトロトロ層(粒子の細かい泥の層)が形成され堆積することで、雑草の種子を覆い発芽を防ぐ効果も期待できるという。ソーラーパネルで充電しながら稼働するため、途中で燃料を補給する手間はない。大人1人で持ち運べる軽さや、メンテナンス性の良さもアイガモロボの優れた点だ。安岡課長は「ほったらかしにしておいても雑草対策をしてくれるので、有機米生産者の労力低減につながる大変魅力的な商品」と期待を寄せる。
【福井支局】「インターネットや農業雑誌などから得たいろいろな情報を、自身で試しながら、おいしい野菜を作っていきたい」と話す越前市新道町の水野剛志〈みずの・つよし〉さん(38)。栽培技術などの営農情報を収集し、丸ナス5アールやカボチャ5アール、ズッキーニ1アールなどの少量多品目栽培に生かしている。学生時代から農業に興味を持っていたという水野さんは、2016年に脱サラし、県の園芸カレッジへ入学。農業技術を2年間学んだ後、18年に就農した。就農後、他県の農業試験場で公開していた緑肥作物の「ソルゴー」を利用した防風対策を知り、すぐに自身の圃場で検証を始めた。圃場の周囲にソルゴーを植えてみたところ、8月には背丈が2メートル以上となり、十分な防風効果を得られた。さらに、アブラムシなどのナスの害虫に対して、天敵となる益虫を呼び寄せる防虫効果も実感し、ソルゴーでの防風対策を毎年続けている。
〈写真:「お客さんからおいしいという声を聞くと、作って良かったと喜びを感じる」と水野さん〉
【広島支局】庄原市西城町で青ネギ(ハウス12棟=約18アール)を栽培する宮本雅幸さん(48)は今年4月、地域特産の青ネギ「ヒバゴンネギ」やイノシシ肉を販売する「増田屋」を開業。コロナ禍で青ネギの収益は減ったが、付加価値を高めるために開発した「ネギキムチ」が主力商品になった。キムチ作りのノウハウは同市内の韓国料理専門店の店主から学び、約1年かけて商品化した。「辛さや味付けのアドバイスが大変参考になった。青ネギ本来のうまみを生かせるように辛さは控えめにしたので、さまざまな食材に合います」。出荷規格に合わない青ネギを加工用にして、1回のキムチ作りで約8キロ使う。1週間漬けて100~110個のネギキムチが完成。増田屋のほか、町内のコンビニ、同市高野町の「道の駅たかの」でも販売する。宮本さんは「購入された市外の方からも好評の声をいただいています。ネギの栽培はもちろん、キムチの安定した生産・販売ができるように頑張っていきたい」と話す。
〈写真:宮本さんが作るネギキムチ(100グラム400円)〉
▼50年後の日本の総人口は現在の7割に減少し、65歳以上がおよそ4割を占める――との将来推計人口を国立社会保障・人口問題研究所が公表した。2020年の国勢調査確定数を基に算定しており、総人口は1億2615万人から70年に8700万人になると見込んだ。
▼将来推計人口は、5年ごとに公表していたが、今回はコロナ禍で1年遅れとなった。17年に公表した前回推計と比べ、出生率は低下するものの、平均寿命の延伸に加え、日本に在住する外国人人口の増加傾向を反映し、人口減少の進行は前回推計に比べやや緩和すると見通している。
▼日本の総人口は、04年12月の1億2784万人をピークに減少に転じた。一番の懸念は、生産年齢人口といわれる15~64歳層の減少で、経済力など国力の低下に結びつくとされる。岸田文雄首相が注力する次元の異なる少子化対策も生産年齢人口を増やし、生産性の向上や経済成長の維持が目的だ。
▼政府が閣議決定した「こども未来戦略方針」では、24年度からの3年間を集中取り組み期間と位置づけ、3兆円を超える予算を投じるという。重要な課題と理解するが、戦略や加速化などと力を入れ過ぎると肝心の若者に敬遠されそうで心配になる。