今週のヘッドライン: 2023年05月 2週号
東京都練馬区では、農家を講師に市民へ農作業を教える農業体験農園で、子育て世代や会社員など従来より若い受講者が増加傾向にある。「田柄すずしろ農園」を家族で運営する吉田真理子さん(53)は「(コロナ禍の)テレワークなどを機に、若い人も農業への関心が高まっている。今まで以上に、広い範囲へ農業の魅力や重要性を伝えたい」と話す。長年のノウハウを土台に、講習の補足資料配布や交流サイト(SNS)での情報発信などコロナ禍の経験も生かした新たな工夫も加えている。
農林水産省は先ごろ、5月1日から9月30日を「熱中症対策強化期間」に定め、農業現場で熱中症対策の徹底を呼びかける通知を関係機関や団体に発出した。特に体が暑さに慣れていない初夏からの救急搬送が増加傾向にあるとして、農業者への声かけなどを働きかける。気候変動の影響による猛暑日の増加などで熱中症による被害拡大の恐れがある状況を踏まえ、高温時の作業を避け、小まめな休憩や適切な水分・塩分の補給など予防策の実践が大切だ。「自分は大丈夫だ」と過信せず、暑さが本格化する前から命を守る行動を最優先にしたい。
農林水産省は4月28日、2022年度の生乳生産量が前年度比1.5%減の753万2500トンとなったと発表した。月別では8月以降、前年割れとなり、3月は4.7%減の64万1100トンだった。
10月1日の消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)の開始まで5カ月を切った。国税庁はインボイス発行事業者(以下、発行事業者)の登録申請数は今年3月末時点で、約320万件となり「課税事業者全体の約9割は申請済み」と発表。さらに課税売上高が1000万円以下の農業者など免税事業者も販売先などとの関係に合わせて発行事業者の登録の必要性について検討を呼びかけている。同庁の特設サイトから制度のポイントや手続きの方法、経過措置などを改めて整理した。
ネギの仲間であるソサエティガーリック(別名:ツルバキア、ルリフタモジ)は、優雅な見た目の花が楽しめる一方、花や葉は強い風味を持つ食材として利用できる。静岡県伊東市を拠点にハーブやエディブルフラワー(食用花)を研究する「ミエコズガーデン」の小松美枝子さんによれば、家庭で簡単に栽培でき、見た目と味のギャップなどから、数ある栽培品目の中でも来場者の反響が大きいという。魅力や栽培方法を教えてもらう。
和牛繁殖と水稲、麦・大豆の複合経営を行う福井県坂井市坂井町の瓦惣一さん(67)は、六条大麦「ファイバースノウ」を3.8ヘクタールで栽培。2022年産は、10アール当たり収量528キロ(県平均316キロ)、全量1等を達成した。麦作では表面排水を重視し、水稲収穫後にできるだけ早くトレンチャーで額縁明渠(めいきょ)を掘り、圃場を乾かす。栽培中は自宅と牛舎を毎日行き来する際に生育状況や水が停滞していないかなどを確認し、適期・適量の追肥に努めている。
【岩手支局】盛岡市上太田の「桜木農園(藤澤毅広代表=55歳)」では、ICT(情報通信技術)を駆使したイチゴ栽培に取り組む。栽培記録をデータ化し、知識や経験を次世代へつなげるためだ。商品の種類を増やすほか、規格外品は加工品として販売し、収益の向上を実現している。知人の農作業を手伝った際に、「誰かのために生きる農業のやりがいにひかれた」という藤澤代表。異業種から農業の道へ進み、2012年に桜木農園を設立した。就農当初はミニトマトを主に栽培していたが、「幼いころに食べた思い出深いイチゴを、よりおいしいものにしたい」と、17年にイチゴ栽培を始めた。現在は4人の従業員とともに、ハウス5棟(20アール)で「紅ほっぺ」をメインにミニトマトも栽培する。栽培に当たってはICTを活用。温度管理や遮光カーテンの開閉などはそれぞれ調整していたが、すべて連動する統合環境制御を導入し、作業効率が向上した。経験や感覚ではなく、過去のデータを基にハウス内の環境を整えられる。藤澤代表は「ICTを駆使して品質を向上させ、自分の経験や知識を次世代へつなげたい」と話す。販売面では、贈答用のほか1人暮らしの人に向けた少量サイズなど、複数の規格をそろえた。「他県ブランドとの差別化を図るため、手に取りやすいように規格を増やして販売する」規格外品は「いちごソース」などに加工して販売するなど、廃棄品を一切出さない経営に取り組み、収益の向上につなげている。「日々の食卓でイチゴをより身近なものにしたい」と藤澤代表。「より多くの方に販売できるよう、生産性の向上と利益率の最大化を目指す」と意欲的だ。
〈写真:「お客さまや販売先の方とのつながりを大切にしている」と藤澤代表〉
山口県山陽小野田市
藤井 沙由梨〈ふじい・さゆり〉さん(40)
長男・良真〈りょうま〉君(11)、長女・美有〈みゆ〉さん(9)
●沙由梨 結婚するまで犬より大きい動物を実際に見たことがありませんでしたが、今では大きな牛に愛情を持って接しています。少しでも力になりたいと思い、2021年に家畜人工授精師の資格を取りました。今夏は受精卵移植師の資格を取る予定です。お産のときは家に帰るのが夜遅くになり、子どもたちに寂しい思いをさせていると思いますが、ちゃんとお留守番してくれます。健康第一に、笑顔を絶やさずに育ってほしいです。
●良真・美有 仕事を頑張っているお母さんは、かっこいいです。手作りの砂糖入りの卵焼きと、僕たちの考えていることを何でも分かってくれているところが大好き。
▽乳牛70頭(山口支局)
〈写真:「お菓子をみんなで食べているときが癒やしのひととき」と沙由梨さん〉
【北海道支局】北見市でバレイショ8.6ヘクタール、テンサイ14ヘクタール、秋播き小麦8.6ヘクタールを作付ける遠藤正人さん(40)は、農作業の合間を縫って演奏活動に取り組み、SNS(交流サイト)などで情報発信するなど、幅広く活動。2023年4月には同市内でギター演奏会を開催した。演奏会は、遠藤さんと交流の深い同市留辺蘂町温根湯地区の酪農家女性グループ「みるくVACCA」の代表を務める石井加代子さんが発起人となって実現した。当日はオリジナル曲「秋蒔〈ま〉き小麦」や「馬鈴薯〈ばれいしょ〉」を演奏。激しくダイナミックな曲調で収穫風景を表現するなど、独自の世界感があふれる音楽を披露した。遠藤さんは08年にワタナベレーベルからメジャーデビューを果たし、農業をしながらアコースティックギターやウクレレの演奏活動などを続けている。オホーツク観光大使を務める遠藤さんは、イケメン農業者を選ぶ純農Boyコンテストではグランプリを受賞。動画投稿サイト「ユーチューブ」でも情報を発信する。さらに、野菜ソムリエの資格を持ち、堆肥などによる土作りと、農薬・肥料の使用を減らすSDGs(持続可能な開発目標)にも積極的に取り組んでいる。遠藤さんは「柔軟な思考で物事を考えられるように教養を深めています。人間関係を大切にすることで、心身ともに健康で人生を豊かにしたいです」と話す。
〈写真:演奏する遠藤さん(右)。「お世話になっているNOSAI職員に聴いてもらいたい」という石井さん(左)の提案で演奏会が実現した〉
【和歌山支局】白浜町日置でコーヒーを栽培する青木孝尚〈あおき・たかなお〉さん(59)は、「この取り組みが過疎化や後継者不足が進む地域農業の起爆剤になれば」と話す。建設業に携わっていた青木さんは、地域が抱える過疎化などの問題に関心があり、「何か自分にできることはないか」と模索していた。その折、岡山県でのコーヒー栽培を知り、現地まで足を運び栽培技術を学んだという。2020年7月に株式会社アドバンス4Companyを設立して日置地区に約50アールの農地を購入。「南紀白浜ファーム」と名付け、ハウス3棟12アールでスタートした。現在はハウス4棟約15アールで「ティピカ種」を313本管理。22年は実を約200キロ収穫した。生豆、焙煎(ばいせん)、粉などの商品を自社のホームページで販売する。「今年の収穫量は400キロになる見込みですが、需要に対して生産が追い付いていません。国産コーヒーをメジャーにすることが目標であり、収穫量を増やすのが当面の課題です」と青木さんは話す。
〈写真:コーヒー園で作業する青木さん〉
▼スーパーの仕入れ担当者を取材した際、トマトの旬が話題になった。トマトには夏野菜のイメージがあり、故郷で祖母が作っていた露地トマトはやはり7、8月が旬といえた。しかし、施設園芸が普及した現在は4、5月が出回り量も多く、味もよいという。言われてみればと納得した次第だ。
▼日本施設園芸協会が公表した2022年度の大規模施設園芸・植物工場実態調査・事例調査によると、操業中と回答のあった117施設のうち太陽光型は52、人工光型は49、併用型は16だった。正確な実態ではないと注釈はあるが、人工光型の施設数が太陽光型と肩を並べるほど多いのだと驚いた。
▼栽培品目は太陽光型施設の7割をトマトが占め、人工光型の9割はレタス類とすみ分けされている。人工光型の施設は棚を積み上げて栽培でき、大きく成長して場所をとるトマトよりもレタス類が適するそうだ。
▼以前、レタスは夏が旬の高原野菜と思っていたが、最近は暖地の冬野菜という印象も強い。今後は年間を通じた旬野菜となるのかも。