今週のヘッドライン: 2023年04月 1週号
改正植物防疫法が1日、施行された。温暖化などの気候変動や国際的な人・モノの移動の活発化などにより海外からの有害な植物病害虫の侵入リスクが高まる中、検疫の強化に加え、全国一斉での侵入調査の実施や緊急防除の迅速化などを規定。病害虫の侵入・まん延防止対策を強化する。ひとたび重要病害虫などの侵入・まん延を許せば、地域農業に重大な影響が及び、根絶には多くの労力と時間を要する。改正法の施行を契機に、国全体で防疫対策を徹底・強化したい。
農林水産省は3月27日、食料・農業・農村政策審議会基本法検証部会を開き、情勢変化を踏まえた農業施策の方向を示した。農業従事者の減少が予想される中、農地の受け皿となる経営や規模の大小にかかわらず付加価値向上を目指す経営体の育成・確保が必要と明記。具体的な支援の考え方では個人経営の経営発展や農業法人の経営基盤の強化など13項目を挙げて整理した。個人経営の支援では、第三者を含めた円滑な継承へ対策を講ずるとした。食料安全保障の確立など基本法見直しの議論を通じ、生産現場の課題解決につながる道筋を明確にしていく必要がある。
政府は3月28日、物価高克服などの追加策に2022年度予算の予備費2兆2226億円を支出すると閣議決定した。農業関係では、飼料価格高騰緊急対策などに総額1310億円を計上した。野村哲郞農相は同日の記者会見で「価格高騰による影響の緩和などの効果が速やかに発揮されるよう、事業の着実な実施に努める」と述べた。
965億円を計上した飼料価格高騰緊急対策のうち配合飼料価格高騰緊急特別対策事業には514億円を措置した。
日本一のビワ産地・長崎県では、1月24~25日の大寒波で、露地ビワの幼果の約76%が凍死する甚大な被害が発生した。露地ビワ40アール、かんきつ30アールを栽培する長崎市大崎町の山﨑玄海さん(30)は、約2割の減収を見込む。今冬の低温予報を踏まえて結実を遅らせる管理をしたものの、被害に遭った。「露地ビワは経営の柱。収入保険に加入する安心感は大きい」と話す。長崎市は、共同摘房作業への緊急支援を実施し、2024年産の農業保険加入を要件化した。将来のリスクに万全に備えてもらう方針だ。
飲んで食べて応援しよう。私たちが月に一度、コップ1杯分(200ミリリットル)の牛乳を追加で飲むだけで生乳需給が改善し、生産抑制に取り組む酪農家の負担を減らすことができる。牛乳を使った料理も有効だ。一般社団法人Jミルクのサイト「MilkRecipe(ミルクレシピ)」「乳和食」から閲覧数が多い人気レシピを紹介する。
例年よりも春先に気温が高く推移して果樹の生育が早まり、産地では急な気温低下による凍霜害のリスクが高まっている。福島県では果樹の凍霜害危険度推定シートを開発。現場での活用を呼びかけるとともに、すぐに実践できる防霜技術などについて情報発信し、対策を促している。凍霜害危険度推定シートは、予想気温から、生育ステージごとの危険度を推定し、果樹の防霜対策を効率的に実施できる。
【鳥取支局】包装資材メーカーの株式会社メイワパックスは、2020年に株式会社メイワファームHYBRIDを設立。温泉熱の活用をはじめ、ハウス内の環境を自動制御するICT(情報通信技術)を導入したイチゴ栽培に取り組む。メイワパックスは鳥取市の企業誘致で県内に進出。温泉を活用した事業を鳥取市から提案され、温泉地の同市鹿野町で、2018年に品種登録されたイチゴ「とっておき」の栽培を始めた。メイワファームはハウス3棟(1棟756平方メートル)で、社員2人、従業員11人体制でイチゴを栽培。株元の温湯管に鹿野温泉の温泉水を通し、培地を温めている。培地が温まると、ハウス内温度が高まるとともに、イチゴの成長が促進されるという。ハウス内の温度を維持できるため、冬場にボイラーを使う必要がなくなり、その結果、二酸化炭素を排出しない環境に配慮した農業ができるようになった。イチゴ栽培は一からの挑戦だったため、地元の農家が協力。当初は実の出来過ぎで栄養が行き渡らなかったため生育不良になった。農家と相談し、肥料などの試行を重ねた結果、特殊な農法を確立し、実の硬さや甘みをコントロールすることを可能にした。販売当初はパック売りだけで認知度は低かったが、地元の和菓子店から「イチゴ大福用のイチゴを仕入れたい」と相談があり、大粒のイチゴを卸した。大粒のイチゴ大福が話題になり、SNS(交流サイト)を中心に、メディアでも取り上げられている。認知度が上がったことで、地元の店舗から仕入れ先として選ばれるようになった。さらに、道の駅や鳥取県内のスーパーなどで販売する加工品「温泉いちごミルクのもと」に人気が集まっているという。同社CTO(最高技術責任者)の米澤隆嗣〈よねざわ・りゅうじ〉さん(49)は「地域や企業と連携してイチゴの一大生産地になれればと思います。多種多様な企業を誘致し、より大きな観光地にしていきたい」と話す。
〈写真:温泉とイチゴをイメージしたイラストを描いたメイワファームの事務所〉
【北海道支局】有限会社大橋さくらんぼ園を経営する大橋正数さん(58)は、芦別市上芦別町で7ヘクタールの園地に約60品種のサクランボを1500本栽培。6月末から8月末までサクランボ狩りが楽しめる同園には、海外からも多くの観光客が訪れ、北海道を代表する観光果樹園の一つとして知られている。サクランボは毎年5月に花が咲き、6月に実がつき始めるが、2008年は3月の急激な気温上昇で4月の早い時期に花が咲いた。5月上旬には降霜が発生し雌しべが消失。約6割の木に実がつかなかった。さらに11年、14年にも同様の被害が発生し、収入が8割減となった年もあったという。大橋さんは「霜対策で暖房や早期にビニールハウスを被覆するなどの対策を講じても、どうにもなりませんでした。サクランボは春先につまずいたら、その年の経営に甚大な影響を及ぼします。販売収入に対して補償される収入保険は分かりやすく、さまざまな減収要因にも対応できるので、すぐに加入を決めました」と話す。21年は、新型コロナウイルス感染症の影響で入園者数が大きく減少したほか、春先の低気圧通過に伴う強風で、ビニールハウスとサクランボに大きな被害も発生した。収入減少が大きく見込まれたため、NOSAIへ事故発生を通知し、つなぎ融資を受けた。手続きは簡単で、希望してから受け取りまでわずか1カ月程度。経費を削減し、ギリギリの経営状況だったので、加入して本当に良かったと実感したという。「保険金をもらわないことが一番です。自然を相手にして、安定した経営を維持するため、さまざまな工夫をしていますが、うまくいかないこともたくさんあります」と大橋さん。「収入保険に加入していることで、安心して経営することができ、新たなことに挑戦する意欲も湧いてきました。収入保険と園芸施設共済は、私には欠かせません。今後も農業者に寄り添い、日々変わる農業情勢に見合った保険になっていくことを願っています」と期待する。
〈写真:「営農に収入保険と園芸施設共済の加入は欠かせません」と大橋さん〉
【岩手支局】岩泉町門〈かど〉の佐々木雄哉さん(36)は2019年に就農し、同町特産の畑ワサビの6次産業化に着目し、経営者育成研修などを受講しながら加工品開発を始めている。就農当初は25アールの圃場で栽培していたが、19年秋に10アール、20年春に20アールを追加し、積極的な面積拡大に取り組む。現在、連作障害による生産量の減少を抑えるため、1ヘクタールの圃場を約30アールずつに分け、栽培と休耕のローテーションを組み、年間5トンを生産する。21年に、先進的な農業経営者を育てる「いわてアグリフロンティアスクール」を1年間受講。6次産業化の取り組み事例や農産物の流通を学び、「アグリ管理士」の資格を取得した。現在も民間企業などが主催するセミナーへ積極的に参加する。経営の新たな展開として、畑ワサビの6次産業化を目指す。「自然豊かな岩泉町で育てた畑ワサビに誇りを持っている。自分で加工して消費者に直接届ける農業経営をしたい」生産・加工に一貫して取り組むことで、現在の栽培面積を維持したまま収益の向上が期待できるとみている。今年から県内の水産加工会社と協力し、加工品の試作を始めた。「たこわさびなどの商品化を目指している。産直やインターネットを通じて県内外に販売したい」。作業体制を整備するため、事務所や作業場の建設を検討中だ。「6次産業化が実現できれば、やりがいを感じられると思う。畑ワサビの栽培状況や開発した商品を、SNS(交流サイト)で発信したい」と意気込む。
〈写真:「摘花でワサビの茎が太くなることを畑ワサビ農家から教わった」と佐々木さん〉
【石川支局】「昨年のキャベツは定植直後の寒波の影響で収量がほとんど取れないほど減少したが、今年は圃場いっぱいに育った」と話すのは、七尾市中島町の農業法人フラッグシップファーム合同会社代表社員の大森幸太郎〈おおもり・こうたろう〉さん(39)。5年前に同年代の10人の若手農家が販路の拡大を目的に集まり、小売りをメインとする共同出荷グループを結成。その後、個人の規模と出荷量が増え、加工業務用野菜にも挑戦するときに同社を設立した。12~4月中旬が収穫期のキャベツは60アールから始め、外葉が厚く加工用向けの「冬くぐり」、加工用や普通用ともに使える「彩音」の2品種合わせて2.5ヘクタールを栽培。そのほかピーマン、ネギなども栽培し、県内外のスーパーに出荷する。「法人メンバー個人の出荷も行っている。野菜の納品数量や価格の交渉なども兼ねているので大変だが、やりがいもある。今後は各自が力をつけ、さらなる販路拡大と、現在、特に規模を拡大させているジャガイモの生産にも力を入れていきたい」と意気込む。
〈写真:「今年のキャベツは大きさも過去一だ」と大森さん〉
▼「日本には、食料政策を総合的にみる行政機関がない」と指摘するのは、京都橘大学経済学部の平賀緑准教授だ。食料・農業・農村基本法の見直しをテーマにした農業問題研究学会のシンポジウムで食料政策について報告した。
▼基本法見直しで農林水産省は、基本理念に「国民一人一人の食料安全保障の確立」を掲げる考えを示した。「国民一人一人が活動的かつ健康的な活動を行うために十分な食料を、将来にわたり入手可能な状態」と定義し、平時からの食料安全保障の達成を図る。背景には格差や貧困など十分な食料を入手できない社会的な問題があり、フードバンクの強化など対応方向を示した。
▼ただ、平賀准教授は「食品の寄付が前提の日本のフードバンクでは供給量や質が不安定になりやすい。また、生産物を供給するだけでは必要な人に届かず、食事として摂取できるようにする政策が求められる」と訴える。母親の帰りが遅いひとり親家庭では、子どもにも作りやすいよう包丁や火を使わない食品を届ける配慮が必要という。
▼特に子どもの貧困対策は、内閣府と厚労省、文科省が分担し、新設のこども家庭庁も加わる。機能優先の政策実施を望む。