今週のヘッドライン: 2023年03月 4週号
「サル被害は、適切な対策で必ず防げる。各地の諦めムードを解消したい」と強調する滋賀県獣害対策アドバイザーの一円憲一さん(75)。対策の中核を担ってきた滋賀県多賀町の一円集落では、集落を囲む2キロの恒久柵を点検・修理する活動を効率化し、被害防止効果を維持できている。支柱全てに通し番号を付け、異常が見つかった場所を記録してデータを共有し、住民が交代で行う点検・修理など維持管理活動の負担軽減につなげている。
政府は22日、物価・賃金・生活総合対策本部を開き、物価高の克服に向けた追加策などを決定した。農業関係では、2022年度第4四半期(1~3月)の配合飼料価格について第3四半期で講じた緊急対策を拡大し、畜産農家のコスト負担を抑制する。また、配合飼料価格の高止まりで急増が懸念される飼料コストを抑えるため、配合飼料価格安定制度内に「新たな特例」を創設する。特に酪農では、牛乳・乳製品の需要減に加え、飼料価格の上昇、子牛価格の下落などで離農が増え、窮地に立っている。この危機的状況を早期に打開し、経営継続が見通せる展望を示す必要がある。
酪農家の84.7%が赤字経営となっており、43.6%は1カ月の赤字額が100万円以上に上ることが、中央酪農会議(中酪)が17日に発表した実態調査で明らかになった。赤字額の最高額は2千万円に上るなど厳しい酪農経営の実態が浮き彫りとなった。
3月2~13日に国内の酪農家157人にアンケートを実施した。
NOSAI山口(山口県農業共済組合)では、地域農業の担い手でもある共済部長(NOSAI部長)が活躍している。自然災害や獣害が多発する中、組合員農家の営農と暮らしを守る一助として「NOSAIの重要性は、ますます高まっている」と強調する共済部長2人に話を聞いた。
ハウス2棟(900坪)でバラを栽培する神奈川県小田原市上曽我の稲毛農園(代表・稲毛朋信さん、51歳)では、農業用環境モニタリングシステムを導入。自動測定されるハウス内の気温や湿度、培地中の水分などをスマートフォンなどで確認し、適正値となるよう管理する。うどんこ病やべと病などの病害抑制や品質の向上に加え、ハウスでの管理作業を午後5時頃で終えることが可能となった。自作したハウス側面の2層カーテンや、1日2回の二酸化炭素施用など、設備や管理作業の効果の確認にも生かしている。
「健康は足元から」ともいわれ、自分の足に合った靴を履くことが大切だ。靴の選び方や履き方のポイントを、一般社団法人足と靴と健康協議会の木村克敏事務局長に解説してもらった。
米粉用米の需要が拡大している。農林水産省によると、2022年度の需要量は前年度比4千トン増の4万5千トンとなる見込み。ウクライナ情勢などによる国際的な小麦価格の高騰を背景に、国産米粉に代替する動きがあるためだ。23年産生産量も22年産と同程度の増産傾向が継続し、4万8千トンと見通している。同省は、パンや麺用の米粉専用品種の生産を支援するほか、拡大する世界のグルテンフリー市場に向けたノングルテン認証など輸出にも力を入れ、30年度の生産量を13万トンとする目標を掲げている。
【香川支局】高麗人参〈こうらいにんじん〉の生食用スプラウトの水耕栽培に取り組む三豊市高瀬町の農事組合法人高瀬茶業組合。香川英則組合長(68)は「茶の産地を守るためにも新たな経営の柱としていきたい」と話す。茶の生産量と収益が下がる中、荒茶加工場の製造ラインの一部を改修し、一度に2千本植えられる日本最大規模の施設で全国一の量産をねらう。茶業組合がある同町二ノ宮地区は、県内を代表する茶の産地。近年は、生産者の高齢化や後継者不足に加え、茶の消費はペットボトルが主流となり、茶葉の販売量は減少傾向になっている。健康志向が高まる中、伝統ある茶の生産を残しつつ、新たな事業として高麗人参の栽培を2022年に開始した。太陽光の波長に設定したLED(発光ダイオード)ライトを据え、ミスト式水耕栽培プラントを20基新設した。原産地の韓国から輸入した苗を、プラントに定植し、出荷までの1カ月で全長25㌢に成長させる。栽培では、温度と湿度を一定に保つことが重要。天候や時間帯によって大きく変動するため、管理が難しく、細かくデータを記録することで対策につなげる。結露を防ぐため、新たにファンを取り付ける予定だ。一般的には根の部分を生薬に用い、収穫まで6年ほどかかる。栽培の難度が高く、適した培土を用意し温度管理や病害虫対策など、長期間にわたり細心の注意が必要だ。スプラウトで出荷することで、栽培期間を短縮できるほか、生育の違いが出にくく安定生産できるメリットがある。根だけではなくすべてを食べられ、栄養を余すことなく摂取できるという。三豊市農林水産課の大矢哲也課長は「農業情勢は厳しいですが、高麗人参が新たな特産品となり、地域活性化につながってほしい」と期待する。敷地内の直売所では商品を丁寧に説明。ホームページとは別に高麗人参の専用サイトを開設し、問い合わせを受け付ける。栽培担当の荒木直樹製造部長は「高麗人参の食べ方をまだ知らない人が多い。販路開拓のため宣伝活動にも力を入れたい」と話す。認知度を上げようと、薬膳教室を開催するほか、市内の事業者と協力し加工品に取り組む計画もあるという。
〈写真:栽培プラントで生育状況を確認する香川組合長(左)と荒木部長〉
【島根支局】「農業は奥が深くて面白いです。失敗することもありますが、いい先輩に囲まれているから大丈夫。毎日が楽しいですよ」と話すのは、大田市温泉津町井田地区で繁殖和牛13頭を飼養する吉田淳一さん(35)。農機具小売店で整備士として勤めていたが、農家と話をする中で、自ら農業を営み、地元を盛り上げたいという思いが強くなり、2016年に就農した。就農後は家畜人工授精師の資格を取得し、将来は18頭まで増やすとともに1年に12頭以上の出荷を目指す。吉田さんは耕畜連携にも取り組む。稲刈り後のわらはロールにして保管し、飼料用稲(2.6ヘクタール)やイタリアンライグラス(1.5ヘクタール)を栽培。水田の耕作放棄地を活用し、荒廃地の減少に一役買っている。「自宅と牛舎が離れているので、朝夕の餌やり時の観察は時間をかけています。牛舎に繁殖管理用カメラを設置し、スマートフォンでいつでも確認できるようにしたところ、分娩〈ぶんべん〉時の事故が格段に減りました」と吉田さん。牛の異常を早めに発見することが事故防止にもつながった。吉田さんが中心的メンバーとして活動する温泉津町和牛改良組合の森徳行組合長は「吉田君はとても真面目に頑張って、いい牛を育てています。ゆくゆくは和牛改良組合の代表として、これまでの歴史を背負って立つ人だと思っています」と期待する。和牛繁殖の傍ら、アスパラガスを28アールで栽培。高い収穫量が期待でき、収益性の高い半促成栽培に取り組む。昨年から出荷できるようになり、今後は露地栽培に挑戦したいと意欲的だ。石見銀山アスパラガス生産組合の岩崎勝男組合長は「今年は出荷量が増えることを期待しています。若い方に頑張ってもらい、組合を盛り上げてほしいですね」と話す。今年結婚し公私ともに充実しているという吉田さんは「収入保険や園芸施設共済、農機具共済に加入しているので、安心して農業に取り組めています。育ってきた温泉津を盛り上げていけるように、前向きな仲間と頑張っていきたいです」と話す。
〈写真:「吉田君は人一倍働いて気遣いもできますし、頻繁に相談に来てくれます」と話す森組合長(左)と吉田さん〉
徳島県阿波市 阿部 正德さん
▽あべ・まさのり、72歳▽ハウス6棟18アール(サツマイモ苗)、水稲(主食用米)50アール、WCS(発酵粗飼料)用稲750アール、キャベツ250アール
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両親から家業を継ぎ、就農して50年になります。園芸施設共済制度がまだなかったころに、建設したばかりのハウスが強風で倒壊し、建て直すといったことがありました。自力で再建する大変さを痛感した経験が、園芸施設共済制度の実施後に加入を決めたきっかけです。園芸施設共済への加入に併せて、クロスタイバーや筋交いを設置して補強するなど、万一のための「二重の備え」で、安心感を持って営農を続けられています。施設を補強していても、近年頻発する大型台風などで被害を受けることはあります。一昨年の突風では、園芸施設本体に大きな被害を受けました。しかし、制度が改正され本体への補償がより充実していたおかげで、修理に対して十分な支払いを早急に受けることができました。24歳のとき農業派米研修に参加し、海外の大規模農業に触れ、大きな刺激を受けました。農業の効率化を目指し、販路の開拓や農地の集約、区画整理などで規模を拡大していく中で、農業機械を多く導入し機械化を図ってきました。農業機械の事故があったときに、農機具共済にも加入していたことで共済金の支払いを受けることができました。営農の早期再開のためにも、「備え」は必要不可欠だと感じました。効率化を進めた結果、作業時間と人手にゆとりが生まれました。その時間を使って作物栽培の研究ができ、品質の向上と安定した供給につながり、昔は人を雇っていた経営が今では親子3人で営農規模を維持できています。(徳島支局)
〈写真:「できる限り長く家族で農業を続けていくことが私の目標です」と阿部さん〉 【岡山支局】「未経験で就農したため不安は大きかった。地域のサポートのおかげで今がある」と話すのは、合同会社竹中農園(倉敷市玉島)代表の竹中祥晃〈たけなか・よしあき〉さん(40)。モモを栽培していた祖父の影響で農業に興味を持ち、いつか就農したいと考えていたという。知人が営む玉島のモモ農園を訪れた2015年に就農を決意。会社を退職し、家族で玉島へ移住した。就農に当たっては、高齢化や継承者不足の影響で増加する耕作放棄地に着目。4カ月かけて不法投棄物や岩を撤去し、圃場を確保するとともに地域の課題解決に取り組んだ。モモ栽培は年間を通して細かな手作業が続き、繁忙期は特に人手が必要となる。農福連携技術支援者でもある竹中さんは、同市の就労継続支援B型事業所と連携し、ともに作業に取り組む。「非常に大きな手助けになっていて、感謝の気持ちでいっぱい。就労支援に協力できることもうれしい」と竹中さん。「玉島の地域全体で農業を盛り上げていきたい。新規就農者の方を歓迎する」と話す。
〈写真:「新しく農業を始めようとする人を後押しできるように頑張っていきたい」と竹中さん(写真提供=竹中さん)〉
▼通勤に使う自宅からの最寄り駅近くに農業体験農園がある。2月末に耕起と区画整理が行われ、最近になって小さなトンネルが並んだ。今年の栽培が始まったようだ。参加方法を調べると、新規申し込みは空きが出た分だけの募集になるため、競争率が高かった。
▼くわなどの農具や肥料、寒冷しゃなどの資材は農園が用意し種苗も都度提供する。農園では、年間の作付け計画に沿い、数回に分けて植え付けや管理の教室を開く。参加者は手ぶらで農園に通えばよく、翌年の年明けまで季節ごとの野菜を楽しめるのだ。
▼1区画は3坪くらいで1人で管理できる広さだが、休日は家族連れも多くにぎわう。年間数万円の受講料も家族で楽しむレジャー経費と考えれば安いものだ。何しろプロ農家が教えてくれるのだから失敗もない。
▼農業体験農園は東京都練馬区の農家が1996年に始めた。今では関東の都市部を中心に関西や九州などにも広がっている。食料安全保障などの政策議論では「消費者の理解醸成」が課題に挙がる。農業体験農園には、その糸口があるのではないだろうか。