今週のヘッドライン: 2023年02月 4週号
山間の急傾斜地に位置する埼玉県秩父市吉田石間(いさま)の沢戸(さわど)集落では、点在する畑地約7ヘクタールの草刈りや農道・遊歩道の整備などに住民一体で取り組み、集落の環境や景観の維持に努めている。一部農地では、条件不利地でも低樹高で管理しやすいカボスやユズ、ミカンなどの果樹を栽培し、市内の道の駅などに出荷。販売収入を得ながら遊休農地の発生を防いでいる。活動は吉田石間地区全体で組織する「天空だんべぇ石間協議会」に広がり、遊歩道や名所をまとめた散策マップを共同作成し、険しい傾斜地に築かれた集落の魅力を発信。多くの人を呼び込み、住民がガイドを担当するなど、活気を生んでいる。
野生鳥獣による農作物被害金額は2010年をピークに減少傾向にあるものの、農作物への被害が離農や耕作放棄を招くなど依然として農村に深刻な影響を与えている。高齢化が進む中山間地域では集落の維持さえ難しく、鳥獣害対策まで手が回らないなど現状は厳しい。農林水産省は17日、全国鳥獣被害対策サミットを開催。鳥獣被害対策に係る人材育成をテーマに、自治体や研究・専門機関、民間企業の代表らが事例を発表した。鳥獣被害の心配なく、営農や暮らしが続けられるよう地域の実情に応じた人材の育成確保や関係機関との連携強化などの支援が求められる。
農林水産省は21日、農林業センサス研究会を開き、2025年農林業センサスで実施する農業集落調査の見直し案を説明、了承された。当初廃止方針が示された集落調査は、調査対象者の選定方法の変更や郵送での回答依頼など手法を見直して実施する。
同省は、20年の集落調査で、調査対象となる集落事情に詳しい自治会長らの名簿の提供について、個人情報保護などを理由に市町村などから協力が得られない事例が多発したとして廃止を提起していた。
NOSAIわかやま(和歌山県農業共済組合)では、自然災害の頻発や農産物の価格低下などに備え、収入保険の普及に力を注ぐ共済部長(NOSAI部長)がいる。リスクの高まりから「経営継続に収入保険は欠かせない」と話し、周囲に加入を呼びかける和歌山市松江北の岡﨑悦也さん(57)に話を聞いた。
飼料用米の専用品種「北陸193号」1.34ヘクタールを栽培する栃木県芳賀町の増渕文明さん(74)は、2021年産で10アール当たり収量が地域平均より約300キロ多い871キロを確保した。「専用品種だから多収とも限らない。収量確保には、天候と基礎的な管理の要素が大きい」と説明する。毎日の圃場観察による丁寧な水管理と追肥で生育を確保。収穫後は春作業も含めて計5~7回の耕起で稲わらを十分にすき込んで、腐熟を促進し、土づくりにつなげる。
農林水産省によると、2022年の米と米加工品の輸出額は前年比17%増の613億円となった。日本酒が18%増の475億円、米(援助米を除く)が24%増の74億円、パックご飯などが33%増の8億円となり、米粉・米粉製品も76%増の1億円になった。2%減の55億円だった米菓を除き実績を伸ばしている。
飼料や資材の高騰と生乳需給の緩和で、酪農経営が厳しさを増す中、消費者理解を醸成し、牛乳の消費拡大につながる酪農教育ファーム活動は大切だ。中央酪農会議などは20日、東京都内で酪農教育ファーム認証研修会を開催。NOSAI千葉(千葉県農業共済組合)北部家畜診療所技術主査の山村文之介獣医師が「酪農教育ファーム活動における安全・衛生・防疫対策の基準」をテーマに講演した。概要を紹介する。
【大阪支局】「大きな災害が発生したときの収入減少と、病気やけがで農作業ができなくなったときに備えて収入保険に加入した」と話すのは、貝塚市の小川智彦〈おがわ・ともひこ〉さん(52)。両親と妻との4人で、水稲30アール(「コシヒカリ」「ヒノヒカリ」「マンゲツモチ」)、ハウス3棟28アールで水ナス(裏作=軟弱野菜)、キャベツ「松波」13アールを栽培する。水ナスは10アール当たり約900本定植。全量をJA大阪泉州へ出荷していたが、今年から新たに漬物加工会社への出荷が始まる。父の農作業にいそしむ姿を見て育ってきた小川さんは、「子どものころ、農業はやりたくないと思っていた」と苦笑い。会社勤めをしていたが、農業なら子どもたちに仕事をする姿を見せることができると33歳で就農を決意。「前職で充実した気持ちで満足できる仕事に取り組めたことも、家業の農業を継ぐきっかけとなった」と振り返り、「父が達者なうちにいろいろと農作業を教えてもらおう」と考えたという。2018年9月の台風21号では、ハウスのアーチパイプが曲がり、柱は斜めに傾いた。ハウスの資材がない状態だったが、水ナスの苗を注文してあったので何とか原状を回復、定植することができ、若干の収入減少で済んだという。「水ナス栽培では、ホルモン剤を利用した着果促進処理が一番手間のかかるメインの仕事。摘葉と花弁を除去してホルモン剤を散布する。灰色かび病などの病気の発生を防ぐため、花弁を一つずつ丁寧に手作業で取り除く」。小川さんは「最近、経費や燃料高騰の割に野菜価格が下がっている。今後は作型を変えるなどして工夫していかないといけない。どんな状況でも同じものを作れるようにしたい」と前を向く。
〈写真:着果した水ナスを見回る小川さん。病気の発生を防ぐため花弁は除去してある〉
【岩手支局】宮古市赤前の「宮古東部ファーム(佐々木積〈つもる〉組合長=73歳、組合員17人)」(以下、東部ファーム)は、東日本大震災後に整備された復旧田を耕作する機械利用組合として2015年に設立。19年の台風災害などを経験しながらも、地域農業の担い手として奮闘している。赤前地区は大震災の津波で、休耕田を含む約9ヘクタールの農地が被災したほか、各農家が所有していた農業機械の多くが流された。東部ファームは、国の被災地域農業復興総合支援事業を利用して導入したトラクターなどの農業機械の管理と、水稲栽培の作業受託による地域農業の復興を目的に組織された。15年に国の農用地災害復旧関連区画整理事業が始まり、17年5月には圃場整備が完了した2ヘクタールで先行して作付けした。東部ファーム設立時から機械オペレーターを担う伊藤壽雄〈としお〉さん(71)は「整備後初めての作付けは、稲がしっかりと育つか心配だった。生育にむらがあったが、予想を上回る収穫量を確保できた」と振り返る。大震災以前、同地区では10アール以下の圃場が多くを占めていたが、区画整理で30アールの圃場が中心となった。圃場への乗り入れ回数が減り、作業工程の削減につながっているという。地域農業の再生が順調に進んでいたさなか、19年10月の台風19号で同地区は再び大きな被害を受けた。伊藤さんは「保管していた約800キロのもみ55袋のうち27袋が水没し、乾燥機2台も水没して動かなくなった」と振り返る。米価の下落や肥料高騰など、農業を取り巻く状況は厳しいが、導入した農業機械と整備された圃場の存在が、営農への意欲を長続きさせているという。23年産水稲は、岩手県オリジナル品種「銀河のしずく」を中心に、7.4ヘクタールで作付けるという。「機械と圃場の条件はそろっているので、意欲のある後継者が出てきてほしい」と伊藤さん。宮古農業改良普及センターでは「東部ファームは地域の水田農業をけん引している中核的な組織。被災の困難を乗り越えた経験を生かし、さらに発展してほしい」と期待を寄せる。
〈写真:春の作業に向けてトラクターを整備する伊藤さん〉
【愛媛支局】宇和島市の「NPO法人柑橘〈かんきつ〉ソムリエ愛媛」は、かんきつの魅力をもっと知ってもらおうと、独自のライセンス制度「柑橘ソムリエ」を立ち上げた。現在までに約80人のライセンス取得者を輩出している。地元のかんきつ農家を中心に15人で活動する同法人の理事長・二宮新治さん(42)は「楽しく学び、かんきつの良さを周りに伝えてほしいです」と話す。今年は東京での講座を初めて開く予定で、日本各地での講座開催を目標に掲げている。ライセンスを取得する講座は2020年10月に開始した。新型コロナウイルス対策として受講者を四国限定にするなど工夫しながら続け、3月には第6期の講座を開く。講師を務めるのは同法人のメンバー。講座は2日間で、かんきつの知識や種類に関する学科と、目利き・味覚・表現を問われる実技の審査を経て、柑橘ソムリエに認定される。受講資格は特に設けていない。これまでに高校生から70代までの幅広い年代が受講した。かんきつが好きだという人をはじめ、農家や加工業などの仕事に資格を役立てたいという参加者が多い。「講座を通じて、かんきつに対する熱量や知識のある方に出会える機会が増えたことが本当にうれしいです」と二宮さん。受講の申し込みが1日たたないうちに埋まったり、次回開催日の問い合わせがあったりと盛況だ。「コミュニケーションを取りながら楽しく学ぶことを大事にしているので、今は人数を抑えています。受講したいという声に応えられるように開催回数を増やすことなどを検討しています」。講座の知名度が少しずつ高まり、最近では受講者の半数が県外からの応募だという。今年は東京での開催を考えている二宮さんは「活動を始めて約8年たち、柑橘ソムリエの需要は確実にあると手応えを感じています。今後も長く続けていきたいです」と意欲的だ。(第6期講座は松山市で3月18日(土)・19日(日)、4月1日(土)に試験。第7期講座は10月、11月に開催予定。先着順で受け付け。詳細はホームページ)
〈写真:柑橘ソムリエの認定バッジ(右上)と講座で使用する独自の教材(写真提供=柑橘ソムリエ愛媛)〉
【福島支局】白河市で「つのだアスリートファーム」を営む角田英明さん(60)は、皮ごと食べられるマイヤーレモンを栽培して5年目になる。中学校教師として陸上競技の指導をしていた経験から、「疲労回復に欠かせないビタミンCなどを、サプリメントに頼らず摂取することが大事なのでは」という思いから栽培を始めた。山形県の農家で栽培方法を教わり、苗木は東京の八丈島から取り寄せた。気候に慣れさせるため、ハウス1.31アールで約60本を鉢で栽培する。害虫駆除のため葉は、一枚一枚の汚れを拭き取り、農薬は一切使わない。今後は山形県で実績のある地植え栽培を目指すという。現在は同市内の1店舗に出荷する。角田さんは「1個250㌘を超えるマイヤーレモンは、輸入レモンと大きさや色がまったく違う。販路を拡大し、より多くの人に知ってほしい」と話す。
〈写真:「皮がとても柔らかいので、ぜひ味わってほしい」と角田さん〉
▼修理に出していたひな人形が奇麗になって帰ってきた。業者に送ったのは昨年の夏ごろで、桃の節句に間に合うだろうかと気をもんだ。木目込みの内裏びなは、娘の初節句の際に姿や表情が気に入ってそれなりに奮発した。目立っていた男びなの顔のシミも消えて若々しい。
▼ひな祭りの起源は、千年以上さかのぼる平安時代の中期ごろとされる。3月初めに自分の災厄を人形に託して流した「上巳(じょうし)の祓(はら)い」や少女のままごと「ひいな遊び」などが合わさって形成されてきたという。祓いの要素が消えて女性のお祭りへと変化したのは、戦国の世が終わり平和になった江戸時代初期とされている。今年の大河ドラマでは、徳川家康が若い頃に人形遊びに熱中する演出があった。不自由な人質生活で、そんな息抜きを楽しんだのかもしれない。
▼頻繁に買う物ではないが、買い物に出かけてひな人形の展示があると知ると、顔や衣装を見ようと足を運んだ。同じ作家でも作品ごとに表情が違っていて素人なりに楽める。少子化の影響もあるのか、昨今は随分と売り場が縮小してしまい寂しい限りだ。
▼江戸時代には、人形が華美になり過ぎだと幕府がお触れを出したり、明治維新後は新政府が節句行事の廃止を打ち出したりと受難もあったよう。最近は、女の子らしさ、男の子らしさを求めないという考えも広がっている。単純に子どもの健康を願う日にするなど工夫し、伝統的な行事や工芸品などが失われないようにしたい。