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今週のヘッドライン: 2023年02月 3週号

酪農 長引く飼料・資材の高騰 苦境に負けない ―― 青沼光さん(富山県高岡市)(1面)【2023年2月3週号】

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 穀物の国際価格の高止まりや円安に伴う飼料・資材費の高騰は、いまも終わりが見えない。経産牛40頭、育成牛30頭を飼養する富山県高岡市佐加野東の青沼光さん(36)は、飼料代を捻出するため、昨年は育成牛20頭を売却した。規模拡大に向け、牛舎の増築計画が進む中での誤算だ。エコフィードの活用など生産費低減に努めているが、建築資材の高騰で、建築費は計画よりも約5千万円高くなるなど苦境に立たされている。今年から発酵粗飼料(WCS)用稲など10ヘクタールを耕畜連携で栽培するなど自給飼料の生産を危機打開への一歩としたい考えだ。

(1面)

〈写真:建築中の牛舎の前で青沼さん(右)と従業員の佐藤佳樹さん(27)。増頭に向け、昨年11月から雇用している〉

危機脱却へ酪農家らが集会 現場に沿った緊急支援を(1面)【2023年2月3週号】

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 飼料・生産資材の高騰などで酪農・畜産がかつてない危機にあるとして、農民運動全国連合会(農民連)など4団体が14日、参議院議員会館(東京都千代田区)で集会を開いた。非常事態からの脱却に向け、枠組みにとらわれない緊急的な対策や価格転嫁への働きかけなどを政府に訴えた。

(1面)

〈写真:登壇した神奈川県茅ヶ崎市の𠮷田雅章さんは「酪農家が一日でも早く上を向いて歩けるように要望を伝えていく」と話した〉

3月から農作業確認運動 安全を最優先に 機械の転落・転倒対策が重点(2面・総合)【2023年2月3週号】

 農林水産省は、3月から「春の農作業安全確認運動」を展開する。「徹底しよう!農業機械の転落・転倒対策」を重点推進テーマに、農業者への声かけ運動を強化し、研修を通じた転落・転倒対策などの充実を図る。2021年の農作業事故死亡者数は前年比28人減の242人で、2年連続で前年を下回った。ただ、65歳以上の死者数が84.7%を占め、農業従事者10万人当たりの死亡者数は10.5人で他産業に比べ依然高い水準にある。事故発生は家族はもとより地域農業にも深刻な打撃を与える。個人で地域で国全体で事故撲滅につながる取り組みを強化・徹底する必要がある。

(2面・総合)

高まる自然災害のリスク 農機具共済で備えを 新品価格での加入が大事(3面・農業保険)【2023年2月3週号】

 春作業が本格化する時期を迎え、農機具の点検などは進んでいるだろうか。近年は、稼働中の事故のほか、前線の停滞など記録的な大雨により河川の氾濫や低地の浸水で農機具が水に漬かるなどの事故が発生している。経営規模が拡大し、大型の農機具も増える中、修理や更新には多額の費用が必要となり、負担が非常に大きい。オールリスクで損害を補償する農機具共済に加入し、備えることが大切だ。

(3面・農業保険)

ブドウ苗木 低樹高一文字仕立て 台木栽培を省力化 安定生産へ ―― 福岡県農林業総合試験場(7面・営農技術・資材)【2023年2月3週号】

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 福岡県農林業総合試験場は、ブドウの苗木生産を安定化できる「低樹高一文字仕立てによる台木の省力栽培」技術を開発した。台木の新梢〈しんしょう〉管理作業で腕を肩より上げる"つらい姿勢"での作業時間を削減でき、樹冠面積当たりの採穂数も増加する。また、苗木の育成時にマルチ被覆すると生育が促進され、成苗率が向上することを明らかにした。生産現場での台木不足を解消するとともに、省力的で安定した苗木生産につなげたいと普及に努めている。

(7面・営農技術・資材)

〈写真:真上に伸ばした新梢を高さ180センチで捻技し、真下に誘引する。「省スペースで栽培できるのも利点」と話す四宮亮研究員〉

サツマイモ ブームから定着へ おいしさ無限大 ―― さつまいも農カフェきらら代表、地域特産物マイスターの新谷梨恵子さんに聞く(5面・すまいる)【2023年2月3週号】

 「べにはるか」などねっとり系品種の普及も背景に、サツマイモのスイーツなどのブームが続いている。新潟県小千谷市でイモを使った農家カフェを運営し、「さつまいもマニア」としても知られるさつまいも農カフェきらら代表の新谷梨恵子さんに、魅力を教えてもらう。

(5面・すまいる)

経営継承を後押し 収入保険の安心感【2月3週号 岡山県】

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 【岡山支局】「まったくの未経験から父の後を突然継ぐことになりましたが、収入保険の存在が就農の後押しになってくれました」と話すのは、倉敷市船穂町でスイートピーを栽培する淺野慎之佑〈あさの・しんのすけ〉さん(29)。急逝した父の経営を引き継ぎ、2022年に就農した。現在は祖父母や従業員、所属するJA晴れの国岡山船穂町花き部会の部会員など、多くの助けを受けながら、ハウス3棟、30アールを栽培。23年1月には「令和4年度岡山県花き共進会」で岡山県花き生産協会会長賞を受賞した。就農以前は不動産業界で働いていた淺野さん。父はスイートピー産地の同町のベテラン農家として信頼を得ていたので、その後を継ぐプレッシャーは大きかったという。就農を後押ししたのは収入保険だ。「栽培の経験はなく、子供が生まれ、家を建てたばかり。右も左も分からない中で、収入保険で少なくとも今年の収入は補償される、失敗しても大丈夫と思える安心感は大きかったです」。就農して一番苦労したのは「先を見越した作業ができないこと」で、初めは目先の作業すら分からなかったという。周囲から教えを受けながら手探りで栽培したが、実際に花が咲くまでは不安の連続だった。「1年でも栽培経験があれば、順序立てて行動ができますが、研修を受ける間もなく就農したので、『学んで即実践する』の繰り返しでしたね」。努力のかいあって無事に花が咲き、出荷にこぎつけた。「栽培を通して感じたのは、植物はうそをつかないということ。手をかけた分だけ成長するのでやりがいがあります」。目下の目標は、栽培技術に習熟するとともに、自分なりのやり方を見つけること。新しい技術の導入にも積極的で、システムエンジニアの経歴を持つ同部会員が開発した温湿度管理システムを試験導入した。同システムはハウス内温湿度をスマートフォンでリアルタイムに確認できる。適切な温度管理で品質の向上が見込めるほか、過去の計測データをグラフで確認し、生育の分析にも活用できるという。淺野さんは「今後はシステムやヒートポンプを活用しながら、より高品質な生産を目指したいです」と意欲を見せる。

〈写真:「便利な物があふれる世の中で、便利ではないけれど人の心に寄り添う花の存在を広めていきたいです」と淺野さん〉

収入保険・私の選択 担い手確保へ複合化【2月3週号 富山県】

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富山県入善町 農事組合法人島・代表理事 藤田 保生〈ふじた・やすお〉さん(72)
〈農事組合法人島〉水稲約40ヘクタール、大豆約18.3ヘクタール、サトイモ約36アール、イチゴ900株

 水稲や大豆の主穀作に加え、サトイモやイチゴなどの野菜を栽培する複合経営です。2006年に法人を設立し、当時は水稲だけの経営で転作作物は委託していました。しかし委託経費や通年雇用による労働力の確保が難しく、このままでは今後の経営が厳しくなると思い、複合経営にシフトすることを決断しました。まず委託していた大豆を組合で栽培し始め、2年前からはハウスでのイチゴ栽培にも取り組んでいます。イチゴ栽培のメリットは、担い手の確保につながることです。作業期間が農閑期の12月から翌年6月までのため、通年雇用での採用が可能になります。担い手の確保に向けて、新規就農フェアや高校生への見学会などで取り組みをアピールできます。しかし初期投資が高いことに加え、天候や環境によるさまざまな影響を受けやすいため、イチゴの生育にふさわしい環境を整えることは難しいです。ハウスに雪が積もると日光が当たらず日照不足になることや、受粉活動をしてくれるハチの動きが鈍い日があるなど、毎日管理しないと分からないことも多く、悪戦苦闘の日々です。多品目を栽培しているので、減収や価格低下に備えて収入保険に加入しています。収入が減ったとき、品目ごとの補償では保険金の対象になりませんでしたが、すべての品目が対象の収入保険は理想的ですね。今後は担い手の確保をしつつ、外部委託に頼る部分を減らしていきたいと考えています。リスク分散は毎年見直していく必要があります。余裕ができればイチゴハウスの増設に投資したいです。
 (富山支局)

〈写真:右から藤田さん、従業員の長谷川健一さん(40)、中瀬貴幸さん(25)。藤田さんは「若い力で農業を支えてほしいです」と期待する〉

高設ベンチ、ワゴンを自作 作業効率が格段に向上【2月3週号 福島県】

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 【福島支局】イチゴ「よつぼし」「かおり野」「紅ほっぺ」をハウス35アールで栽培する須賀川市の「マーリー苺〈いちご〉ファーム」代表・斑目〈まだらめ〉和也さん(67)。高設ベンチと作業用ワゴンを自作し、作業効率化を実現した。斑目さんは規模拡大を機に土耕栽培から高設栽培に転換。高設ベンチの導入に当たり、農業誌で高設栽培施設の記事が掲載されていたことを思い出し、資料を取り寄せた。作業をする家族全員が使いやすいと感じられる高さを割り出し設計したという。限られたスペースで収量を多く得られるように栽培ベッドの幅も調整した。灌水〈かんすい〉設備は塩ビパイプを利用して自作。高設の中央から左右に灌水できるようにしている。「高設栽培を始めるに当たり、イチゴの収穫・運搬が楽なワゴンの製作が必須だった」と斑目さん。多少の振動でもイチゴが転がらないように作業者側を低くし、手前から並べることで傷み果を減らせるように工夫した。トレーがいっぱいになった際は下の格納スペースに置け、より多くのイチゴを一度に収穫できるように工夫。「作業の効率が格段に上がった」と斑目さんは効果を実感している。

〈写真:高設ベンチと同様に家族全員が使いやすい高さに製作したワゴン〉

規格外・傷果を活用 果樹農家仲間とジェラートを販売【2月3週号 鹿児島県】

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 【鹿児島支局】マンゴー10アール、パッションフルーツ5アール、茶50アールを栽培する中種子町の山浦拓己さん(48)。地域の果樹農家仲間と共に、規格外品や傷がついて売り物にならなくなった農作物を持ち寄り、ジェラートに加工・販売している。「手をかけて育てても、傷がついたり、大きさによって規格外品になったりと、味は変わらないのに出荷できず廃棄される農作物があることが悔しいと思っていた。自家消費するにも限りがある」と山浦さん。県のモデル事業「ポストコロナ農業生産体制革新プログラム事業」が後押しとなり、果樹農家仲間に声をかけ、加工品作りを始めた。「みんなに喜ばれるものを」と、賞味期限がなく、年中販売できるジェラートの商品開発に着手。現在販売する商品は10種類で、原料にはおのおの持ち寄った自家農作物を使っている。「砂糖の量や原料の比率、原料の質など組み合わせで味も口当たりも変わってくる。まだまだ研究中」と、より高品質な商品を目指し試行する。手土産に使ってもらえるように今後もさらにレパートリーを増やしていく予定だ。1年半前にジェラート作りを始め、現在は年間約2千から3千個を販売。「少しずつ売れ行きが伸びている。イベントなどに積極的に参加して知名度を上げ、商品を広く売り出したい」と販路開拓に意欲を見せる。実家の茶農家の後継ぎとして2013年に就農した山浦さん。茶業界の低迷を受けて新たな経営基盤の構築に向けて歩みを進めている。「相場が崩れにくく、安定した収入の確保が期待できる加工品で新たな経営基盤を確立しながら、茶農家の後継ぎとして今後の方針を固めていきたい」と笑顔を見せる。

〈写真:「商品購入の際は『種子島のやまうら農園』で検索してほしい」と山浦さん〉

防風林「食料安全保障を支えるのは国民の行動【2023年2月3週号】」

 ▼昨年10月から始まった食料・農業・農村基本法の検証作業は、分野ごとの意見聴取と協議が一段落し農林水産省は基本理念や施策の方向を議論する次回以降の日程を示した。6月に中間とりまとめを予定する。1999年の基本法制定から四半世紀ほどに過ぎないが、検証作業を通じて情勢変化を実感した。
 ▼食料安全保障について基本法は、不測時の食料確保と分配に重点を置く。一方、国際的には「国民一人一人が健康な食生活を享受できる」状態を目指す平時の問題とされる。背景にある貧困や栄養不足のリスクは日本でも顕在化しており、経済的弱者対策や供給体制の在り方などが論点に挙がる。
 ▼コロナ禍とウクライナ情勢は、経済のグローバル化とともに張り巡らされた供給網を混乱させ、燃料や穀物(食料、飼料)、肥料原料などが軒並み高騰した。穀物の国際相場は一時期に比べ落ち着いてきた。だが、早期にコロナ禍前の状態に戻るのは難しいだろう。
 ▼政府は、過度な輸入依存からの脱却に向けた構造転換とそれを支える国内の供給力の強化を目指すとする。その実現には、農業・農村を向いた施策だけでなく、貧困問題などの解決も必要だ。国産を選ぶ国民の存在があってこそ、生産と消費の好循環を後押しする力になる。

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