今週のヘッドライン: 2023年02月 1週号
NOSAI山梨(山梨県農業共済組合)では、損害防止活動の一環として、水稲や果樹などを栽培する組合員を対象に土壌診断を実施している。適正施肥を推進し、経費節減と良質な農産物を安定生産してもらうのが狙い。肥料価格が高騰する中、本年度は新たに水稲農家向けの土壌診断講習会を開き、土壌診断に基づく土づくりの要点を説明した。
2024年度からトラックドライバーの時間外労働時間の規制が強化される、いわゆる「2024年問題」により、トラック輸送が大半を占める農産品物流への影響が懸念されている。コロナ禍前の19年の貨物輸送量などと比較した試算では、輸送能力は14.2%不足する見通しで、輸送トン数換算で4億トンに相当する。特に発荷主別では農産・水産品出荷団体、地域別では中国や九州、関東で輸送能力の不足が見込まれるという。食料の安定供給に影響が及ばないよう物流の効率化やデジタル技術の活用など対応策の構築と実行を急ぐべきだ。
Jミルクは1月27日、2023年度の生乳と牛乳・乳製品の需給見通しを発表した。全国の生乳生産量は前年度比1.3%減の747万トンと予測。22年度の生乳生産量も1.1%減の756万5千トンに昨年9月の予測から下方修正した。生乳需給緩和に伴う生産抑制の効果を織り込み、北海道、都府県ともに2年連続の減産となる。ただ、Jミルクは物価高を背景に一層の需要減退の可能性を指摘。特に学校給食用牛乳が休止となる春休みから5月の大型連休にかけて「処理不可能乳の発生の懸念は予断を許さない」とし、酪農・乳業業界一丸となった消費拡大運動などの必要性を訴える。
確定申告の時期を迎えた。収入保険に加入する農業者は、収入保険の保険料等や保険金等などの記載が必要だ。NOSAIでは保険金等の見積額算出をサポートしている。確定申告に向けた手続きなどについて、稲穂ちゃんがNOSAI職員のみのるさんに聞いた。
農林水産省が現場への導入が期待される成果をまとめた「最新農業技術・品種2022」では、需要に応える果樹新品種として、農研機構育成のスモモ「ハニービート」とクリ「ぽろすけ」を選定した。いずれも既存品種より早い時期から収穫でき、甘さや食べやすさなど消費ニーズに対応した付加価値を備える。
次世代の農業経営者育成を目的とする日本農業経営大学校(東京都港区、合瀬宏毅校長)は先ごろ、第4回となるビジネスコンテストを都内で開催した。1次審査を通過した5人の同校卒業生が、それぞれに目指す経営の実現へ向けたプランを発表した。最優秀賞(賞金200万円)には、長野県佐久市の井上隆太朗さん(2期生)が選ばれた。輸入が中心となっているケーキ用夏秋イチゴの市場獲得を目指すとした発表内容を紹介する。
【新潟支局】南魚沼市の「m.u.k Lab 南魚沼米袋研究所」は、大量に出る使用済みの米袋を再利用し「米袋バッグ」を製造。米袋になじみのない県外の人や海外の人からも土産物として人気となっている。同研究所は農家や作家などが集まり、本来は捨てられるものを作り替えて新たな商品として再利用する「アップサイクル」活動に取り組む。毎年出る使用済みの米袋を再利用するに当たり、米袋が丈夫にできている点を生かしたバッグを製作した。外見は「新潟米」「魚沼コシヒカリ」などの文字を前面に出すことで、インパクトを与えている。内側には布を縫い付けて耐久性を上げ、2年以上使い続けても壊れないほど丈夫だ。見た目と耐久性、エコバッグの普及などで、イベントなどに出品すると人だかりができるほどの人気商品となっている。研究所代表の川島亜紀子さんは「購入者はもとより、商品を見た人に廃棄されるものが再利用できる。また、自分でもできることに気付いてもらえたら」と話す。バッグの製作には子育て中の女性を応援するNPO法人「みんなの庭」と協力し、育児中の人や冬期間で仕事がない人の収入源にもなっている。ワークショップや学校に出向いて製作体験も企画。「体験を通じて環境問題だけでなく、農業や食育にも興味を感じてほしい」と川島さんは笑顔で話す。商品はインターネットでも購入可能。バッグのほかにポーチやストラップなどもある。
〈写真:商品を手に「環境問題に地域全体で関心を持ってほしい」と川島さん〉
【北海道支局】有限会社オオネ道下農業(代表取締役・道下隆宏さん=54歳)は、帯広市大正地区でダイコン123ヘクタール、ゴボウ5ヘクタール、ナガイモ10ヘクタール、小麦20ヘクタールを作付ける。JA帯広大正のダイコンの生産量は北海道内JAで2番目。大正地区で生産されるダイコンの3分の1を同社が占める。従業員7人、海外からの特定技能実習生ら19人を通年雇用する体制だ。収入保険が始まる時に、NOSAI主催の説明会に参加。その後は担当者から詳細な説明を受けたが、保険料、積立金、事務費の自己負担額が大きく、いったんは加入を見送った。野菜中心の経営で、特にダイコンが不安定なことから、リスクヘッジが必要だと痛感していた道下さん。会社の経営を安定させるにはどうしたら良いか考えていたところ、自身の経営を管理するコンサルタントのアドバイスもあり、収入保険への加入を決断した。野菜類は新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、売り先からの注文が減った上に値段が安定せず、大きな損失になった。そのため収入保険のつなぎ融資を申請。道下さんは「つなぎ融資で経営を助けてもらい、事業を継続することができた」と話す。「野菜類を作付けるのであれば、しっかり投資し収入保険に加入することで、経営の安定と後ろ盾があるので、良いものを安心して生産することができる」と道下さん。「収入保険が担保となり、背中を押してくれることで、6次産業化を視野に入れ、新しいことにチャレンジしていきたい」と意気込む。
〈写真:「引き続き収入保険に加入し、安心と安定した農業経営を目指していきたい」と道下さん〉
【岩手支局】九戸村江刺家〈えさしか〉の小井田立体農業研究所(小井田寛周〈こいだ・ひろのり〉代表=36歳)の農場では、3ヘクタールで乳牛11頭と採卵鶏70羽を飼養。乳牛は搾乳作業時間を除いて昼夜放牧する。同農場では10年前から、放牧酪農が盛んなニュージーランドの種牛を使って交配。現在、ニュージーランド由来の牛が全体の3分の2を占める。体が小さく足腰が丈夫で、牧草を牛乳に変える能力に優れているのが特徴だ。牛の餌には農場内や同村内で採草した牧草ロール、稲わらなどの粗飼料を中心に、発酵させたおからを補助的に与える。「稲わらは食物繊維が多く、発酵させたおからはタンパク質などの栄養分が豊富で、配合飼料の代わりになる」と小井田代表。1頭当たりに与える配合飼料は1日2~3キロ程度だという。「ニュージーランド由来の牛は牧草を好み、配合飼料をあまり与えなくても乳量が得られる」。小井田代表は「昼夜放牧を始めてから病気になる頭数が減少し、1頭当たりの寿命が延びた。牛のストレスを軽減させるために、今後も放牧経営を継続したい」と話す。
〈写真:「粗飼料の自給率を上げて、飼料の高騰に耐えたい」と小井田代表〉
【鹿児島支局】第12回全国和牛能力共進会が2022年10月に開かれ、特別区「高校および農業大学校の部」に出場した県立曽於高等学校(前田良文校長、曽於市末吉町)は、優等賞1席という成績を収めた。引き手を務めた矢野輝星〈ひかる〉さん(3年生)は「地域の方々の支えがあってここまで来ることができた。みんなの思いが形になった」と喜びをかみしめる。出場したのは19年に計画交配で誕生した「しえな」と、同校畜産食農科畜産コースの生徒で構成する畜産同好会の矢野さん、小倉香澄さん(3年生)、德重美南海さん(2年生)、田實夢佳さん(1年生)。大会に向けての準備では「体高が目標値より大きいことが課題だったので、改善策を出し合い、練習を繰り返した。日誌を付けて全員で情報を共有し、管理・調教したことで、問題が起こったときにスムーズに相談できた」と振り返る。「美しい姿勢の維持」を目標に、午前中は繋牧〈けいぼく〉、放課後はブラッシングやシャンプー、引き運動を実施。矢野さんは「引き運動では約20分間つきっきりで走ることもあり、体力的につらいときもあったが、積み重ねたことで信頼関係を築けた。しえなの変化に誰よりも気付けるようになった」とほほ笑む。同校畜産食農科の太田裕士教諭は「最初は指示を待っていた生徒たちが、自分たちで話し合い、考えながら世話や調教をするようになっていた。時には生徒自ら指導員さんに相談に行ったりと、成長を感じる一年だった。授業だけでは学べない貴重な経験になったと思う」と話す。同校では、県共進会に向けて準備を始めている。矢野さんは「習得した技術や知識を後輩につないでいきたい」と力強い。
〈写真:全共に出場した「しえな」と矢野さん〉
【埼玉支局】「イチゴの自動販売機って珍しいですよね。無人販売にしようかとも考えたのですが、盗難などが心配で自動販売機にしました」と話す守屋裕介さん(32)。秩父市で「まるまめ農園」を営み、露地とハウス合わせて1ヘクタールでイチゴ、トマト、ニンジン、ネギを栽培する。自販機は保冷機能が付いた食品販売専用タイプで、イチゴのハウスから50メートルほどの場所に設置。県育成の品種「あまりん」を40パック収容でき、多い日で1日3回補充する。貨幣を投入し、商品棚の番号を入力すると取り出し口までパックが運搬される仕組みだ。その過程で果実が傷つく心配はほとんどないという。以前からロッカータイプの自販機があることは知っていたが、イチゴ販売に適したものがあるのではと考え、自販機を取り扱う企業を視察し探し出した。あまりんは高糖度で食味が良いため人気だが、高価格帯の品種。同園では市内のスーパーやホテルへの出荷がメインで、ホテルではスイーツに使うほか、朝食のバイキングにも並ぶ。「地域の皆さんにも食べていただきたくて、買いやすい量と値段で販売しています」と守屋さん。イチゴの販売は1~6月ごろまで。トマトも同時に販売する。最初は売れるか不安だったが、評判は良く、数パックまとめて購入する人がいるという。コロナ禍で対面せずに販売できることもメリットだ。
〈写真:イチゴは保冷温度を5度に設定、トマトは常温で陳列する〉
▼最近聞くようになったエシカル消費(倫理的消費)について、正直なところ分かりにくいと思っていた。しかし、『シチリアの奇跡 マフィアからエシカルへ』(新潮新書)を読み、納得できた。著者は、イタリアで始まったスローフード運動を日本に紹介した島村菜津さんだ。
▼本書は、シチリアをはじめイタリアの人々がマフィアとの関係を絶とうと活動してきた経緯を追う。映画「ゴッドファーザー」で定着したシチリアとマフィアのイメージを変えたいとの思いが根底にある。
▼1980年代以降、多くの企業家や判事、警官などが殺される苦難の連続は目を覆いたくなる。ただ、先人の遺志を引き継ぐ中で反マフィア運動の「さよなら、みかじめ料運動」が生まれ、加盟店や消費者のネットワークづくりが進んだ。
▼消費者はマフィアと関係しない企業の商品や飲食店を選んで消費し、運動を応援する。マフィアから押収した農地で始めた有機農業の支援が広がり、国で一番の有機農業地域になっているという。商品の背後にある貧困や差別、環境などの問題に目を配る消費者の行動が広がれば、社会を動かす力になる。