今週のヘッドライン: 2023年01月 3週号
四国の最西端、佐田岬半島に位置する愛媛県伊方町。同町中浦地区のミカン農家で組織する農事組合法人「笑柑園(しょうかんえん)ナカウラ」では、離農者の園地を引き受けて共同で管理し、地域のかんきつ生産の維持に力を注いでいる。現在整備を進める園地では、県との連携で高収益モデル園を設置。新技術・新品種を取り入れ、人材の確保・育成に努めながら、次世代に産地をつなごうと奮闘している。
障害者らの社会参画を農業分野で実現し、農業の振興にも寄与する「農福連携」が広がっている。障害者側には就労の場や働く意欲、生きがいの創出など生活の質の向上が期待されている。農業側にも働き手の確保や農地の維持・拡大、地域コミュニティーの存続などメリットが多い。その一方、取り組み拡大には受け入れ側の理解や環境整備、双方をつなぐマッチング支援などが課題に挙がる。働き手の確保と就業の場の創出という課題解決にとどまらず、農業と福祉双方の発展や地域の活性化など多くのメリットにつなげ、定着させることが重要だ。
農林水産省は17日、国連食糧農業機関(FAO)が認定する「世界農業遺産」に和歌山県の「有田・下津地域の石積み階段園みかんシステム」を申請すると発表した。
世界農業遺産は特徴的・伝統的な農林水産業を営む地域を認定する制度。2002年に創設され、国内ではこれまで13地域が認定されている。
有田・下津地域では400年以上前から傾斜地に石積み階段園を築き、ミカンを栽培。優良品種系統の選定・導入や多様な地勢・地質に適応した栽培技術などを確立するとともに、土壁の蔵でミカンを熟成させる独自の貯蔵技術などを受け継ぎ、高品質ミカンの長期リレー出荷を実践している。
水稲は近年、局地的豪雨やトビイロウンカなど甚大な被害をもたらす自然災害や病虫害が各地で発生しており、農業保険への加入が欠かせない。青色申告者には収入保険への加入がお勧めだが、個人経営体などを対象とする今年1~12月を保険期間とする加入は既に締め切られ、加入は来年になる。収入保険未加入者や白色申告者は、水稲共済の全相殺方式に加入し、万全に備えてほしい。水稲共済の全相殺方式などについて、稲穂ちゃんがNOSAI職員のみのるさんに聞いた。
イタリアンライグラスの種子を小型無人機(ドローン)で散布し、収穫前の発酵粗飼料(WCS)用稲の株間に播種する「稲立毛間播種」を効率化する技術が九州などで実証されている。同播種技術は、播種前後の耕うんや鎮圧などの作業工程を省略し、播種時期を早めて生育期間を確保する。日本草地畜産種子協会などがドローンでの最適な散布方法や省力効果などを検証し、試験での種子散布時間は10アール当たり3~5分程度。雑草との競合も抑えられ、コントラクターなどによる農地を最大限に生かした粗飼料の増産を目指す。
「田んぼにじかに入ってもらうことで、自然の豊かさや生物の多様性を実感してもらい、健康な心身を育むきっかけにもしてもらいたい」と、埼玉県川越市久下戸で「小江戸 南古谷農園」を営む代表の田中邦和さん(43)。合計約2ヘクタールで水稲「コシヒカリ」「彩のきずな」を生産するほか、古代米の黒米とマコモを化学肥料や農薬、除草剤を使わずに各15アール栽培する。特に黒米は、家族連れなど消費者を招き、苗を1本ずつ手植えして収穫後のはさ掛けまでの米作り体験を提供。自然との共生、環境保全や生物多様性の保護、健康維持の大切さなどを感じてもらう機会としている。
【富山支局】黒部市宇奈月町の「株式会社アグリとりの原」は、昔ながらの方法で効率的に土壌を改良するため、「もみ殻くん炭」の製造・販売に取り組む。もみ殻くん炭を土に混ぜ込むと、土中の通気性、保水性などが向上し、作物が丈夫に育つ効果がある。マルチング資材として苗の株元にまくと、雑草抑制や土の保湿・保温効果も期待できるという。同社では水稲「コシヒカリ」「てんたかく」「こがねもち」を合わせて約34ヘクタール作付ける。もみ殻くん炭作りは2021年10月に本格的に始めた。もみ殻をくん炭器の中で煙が出なくなるまで約3時間燃やし、表面に少量の水をかけて蒸気を発生させ、完全に密封する。翌日までそのままにし、シートに平らに広げて乾燥させると完成だ。「工程は難しくないが、着火を確実にすること、消火の確認をしっかりすることの2点は守らなければならない」と同社代表の中康史〈なか・やすし〉さん(65)。燃焼中は大量の煙が出るため、事前に近隣住民の許可をとるなど配慮しているという。自社製のもみ殻くん炭に納豆や乳酸菌を混ぜ、3回発酵させた「もみ殻くん炭ぼかし肥料」も製造。くん炭とともに昨年2月に製造販売許可を取得した。原材料はもみ殻と有機物で、有機栽培農家や造園業者から注文があり好評だという。自社サイトに掲載したところ、県外の農家からも注文があった。購入者にはリピーターが多い。同社産の野菜にもくん炭とぼかし肥料を使う。「生育が良くなった。以前より大きく、おいしい野菜が収穫できた」と中さん。「くん炭を土に混ぜ込む場合は土の1割程度の量が目安だが、化学肥料と違い、きっちり量らなくてよいので使いやすい。さまざまな効果があるもみ殻くん炭が広まってほしい」と話す。
▽もみ殻くん炭=1袋40リットル1500円、もみ殻くん炭ぼかし肥料=2500円▽直接販売のほかオンラインショップでも対応▽どちらも湿気のないところで約2年間保存が可能▽ホームページ=https://torinohara.com
〈写真:くん炭は土に混ぜ込むほか、種の上や苗の株元にひとつかみほどまいて使う(写真提供=アグリとりの原)〉
宮城県色麻町 鴇田 広太〈ときた・こうた〉さん(43)
水稲は主食用12.1ヘクタール、米粉用6.1ヘクタールで、大豆が6.1ヘクタール、ビニールハウス21棟44アールでホウレンソウを家族で栽培し、JAへ全量出荷しています。
コロナ禍で米価が下落し、ホウレンソウの価格も低迷している中、昨年は7月の大雨でホウレンソウの収量が減少しました。その上、資材や肥料の高騰は農業経営を圧迫します。
収入保険には2020年から加入しています。米だけではなく、ホウレンソウも補償対象に含まれているのが加入の決め手となりました。自分の経営に合った補償の保険があれば良いと以前から考えていました。
加入後は、新型コロナの影響で米価下落、夏場の猛暑や大雨の影響でホウレンソウの収量減少などで、補てん金の支払いを受けました。
経営努力だけでは避けられない価格低下も補てんされるので、セーフティーネットとして心強く、安心して農業経営ができることを実感しています。
今後は、収入保険で経営リスクに備え、若手農業者の人材の確保・育成に力を入れつつ、米やホウレンソウの販路拡大も進め、法人化も見据えた農業経営を考えています。
〈写真:「NOSAIには、農家との信頼関係を維持しつつ、保険の拡充を期待しています」と鴇田さん〉
【山形支局】米の生産のほか加工品を製造する鶴岡市藤島の「農事組合法人庄内協同ファーム」(代表理事=今野裕之さん、組合員38人)は、玄米だけで作った加工品「gnocco(にょっこ)」を昨年10月から販売している。にょっこは直径約5センチのドーナツ形。米の消費拡大を目指し、ニョッキ(ジャガイモと小麦粉を団子状にしたパスタの一種)をイメージして開発した。冷凍で販売し、3分間ゆでるだけで、パスタやスープなど多様な料理に合う。副代表理事の小野寺紀允さん(41)は「栄養豊富で風味の良い玄米を手軽に楽しめる商品を作りたくて、2018年に商品開発を始めた。団子や餅とは違う風味や食感に仕上がった」と自信を見せる。餅加工の閑散期(4~7月)に製造。団子は米を蒸した後にひねりながらつぶしてつくが、にょっこは玄米を粗びきにした後、蒸して練り上げる。そうすることで玄米の粒感ともちもちとした食感を同時に楽しめる商品に仕上がった。ドーナツ形にしたことで見た目がかわいらしく、調味料が絡みやすく、口当たりが良くなったという。ホームページでは、さまざまなレシピを紹介している。
〈写真:「米の新たな楽しみ方を提案していきたい」と小野寺さん〉
【島根支局】大田市三瓶町の田中眞〈たなか・まこと〉さん(72)は、知人から種を譲ってもらったことをきっかけに、マメ科植物「アピオス」を栽培。少しずつ生産量を増やし、3年前から産直市で販売している。収穫したアピオスはさまざまな大きさがあり、調理することを考え、サイズ別に袋に詰めて販売。自分でもよく食べるという田中さんは「小さいものは皮ごと素揚げにして、塩をまぶすといくらでも食べられます。栄養満点の上に、味もおいしいですよ」と話す。珍しい野菜は購入してもらうことが難しいが、食べてみようと思ってもらえるように、商品にはお勧めの食べ方やそれぞれの特徴などを記載したPOP(ポップ)を付けている。
〈写真:「根茎が間隔を空けて肥大し、数珠のようになります」と田中さん〉
【鹿児島支局】錦江町宿利原地区で廃校跡地を利用した「雑貨商店やまなみ学校」を営む笑喜南〈しょうき・みなみ〉さん。義父の和則〈かずのり〉さん(67)が有害鳥獣駆除で捕獲したイノシシの肉で、加工品の開発から販売まで手がけている。当初は食肉の販売を考えていたが、加工場の増設を含め膨大な設備投資が必要な上、肉量の安定的な確保が必要となる。このため、簡易的に作ることができるペット用ジャーキーの開発に着手した。商品開発で一番力を入れたのは、肉の厚さ。犬だけではなく猫も食べられるように、1.5~2ミリにスライスし、1ミリ以下の厚さになるよう乾燥させる。給餌試験を繰り返し、1ミリ以下の厚さが食い付きが一番良かったため採用した。肉は人間があまり好まないモモ肉を使用。繊維質だが、高タンパクで低脂質だという。保存料・調味料は一切使用していない。県内の30~40代を中心に売れ行きは好調だ。利用客からは「量販店で販売されているジャーキーより食い付きがいい」と好評だ。南さんは「骨や内臓を使った商品を開発して廃棄される部分をもっと減らし、マルシェなどを通じて宿利原地区を盛り上げていきたいですね」と話す。
〈写真:商品を手に「ペットブームやペットへの健康志向の高まりに、さらなる需要増を期待しています」と南さん〉
▼江戸時代の日本の都市は、諸外国に比べ極めて衛生的だったことで知られている。江戸には亨保6(1721)年ごろ、すでに100万人が暮らしたとされる。し尿や炊事後の灰は周辺の農家に運ばれて肥料にされ、収穫した野菜などは江戸で消費する資源循環ができていた。
▼一方、フランス革命(1789年)当時のパリの人口は54万人ほど。しかし、市民はおまるで用を足し、し尿やごみをそのまま道路に捨てるため、街じゅうに汚物が堆積する劣悪な衛生環境だったという。ベルサイユ宮殿もトイレの数が少なく、庭に汚物があふれていたとの話が伝わっている。
▼政府は、ウクライナ情勢を受けて価格が高騰し、少数国に多くを依存する問題が指摘された肥料原料について、堆肥や下水汚泥など国内資源の活用を促進する方針だ。2030年までに堆肥と下水汚泥資源の使用量を倍増する目標を設定。堆肥はペレット化による高品質化や広域流通などを促し、下水汚泥はリンの回収や汚泥コンポストの取り組みを支援して利用拡大を図っていく。
▼下水汚泥は、現状では大半が焼却されて埋め立てや建設資材に使われ、肥料利用は1割程度にとどまるそうだ。国内資源の有効活用で輸入依存度を低くできるなら取り組み推進に異存はない。ただし、普及に向けて"下水汚泥由来"のイメージや重金属への不安も指摘されている。科学的な根拠を示しつつ、よいイメージを持ってもらえる方策はないだろうか。