今週のヘッドライン: 2022年12月 1週号
施設園芸では燃油高騰を受け、省エネが大きな課題だ。越冬の大玉トマトをハウス計64アールで栽培する栃木県上三川町の野口和宏さん(44)は、天候に応じてヒートポンプや被覆資材などを組み合わせて暖房効率を高める。「単なる燃油使用量の削減ではなく、経営の収支を意識して効率を高めたい」と説明。厳寒期も気温12度以上で管理し、長期どりでの品質・収量を維持する考えだ。摘果の工夫などで秀品率を高め、経営の黒字化につなげる。
NOSAI協会(全国農業共済協会)は11月24日、東京都内で「『安心の未来』拡充運動令和4年度全国NOSAI大会」を開いた。自然災害の多発や依然として続くコロナ禍の影響、さらに穀物・資源の価格高騰などで農業経営が厳しさを増す中、農業保険が農業経営の基幹的セーフティーネットとして機能を発揮できるようNOSAI役職員が一丸で取り組むことを確認。農業保険制度の周知・定着に努め、収入保険のさらなる加入拡大や、農業共済では無保険者を出さないよう収穫共済の加入推進と園芸施設共済の加入率向上を図るとした大会決議を満場一致で採決した。
日本飼料用米振興協会は11月18日、東京都内で米政策と飼料用米に関する意見交換会を開き、農家や専門家などが参加した。主食用米からの転換で飼料用米の作付面積が過去最高となる一方、農林水産省は2023年度から水田活用の直接支払交付金による支援を見直す方針。会合では専用品種の種子確保や多収技術の確立・普及のほか、施策の継続・安定的な実施を求める発言が相次いだ。飼料用米の振興は主食用米の需給安定や飼料自給率向上などに加え、持続可能な食料生産基盤である水田の維持・保全にも重要だ。耕畜連携の推進を基本に生産現場の取り組みを後押しする施策の展開が求められる。
収入保険は品目の枠にとらわれず、自然災害のほか農業者の経営努力では避けられないあらゆるリスクに対応して収入減少を補てんする仕組みだ。個人経営体や事業年度が1月開始の法人経営体は、2023年の収入保険の加入申請期限が12月末に迫っている。加入を検討する農業者から寄せられた制度に関する質問と回答を紹介する。
収穫を控えたダイコン畑が広がる通り沿いに「農家の畑ごはん」と書かれた大きなのぼり旗が現れ、「農家の畑ごはん たねやキッチン」と名付けたキッチンカー(移動型店舗)で泉水淑子さん(52)が迎えてくれた。千葉県市原市深城で、ダイコン約9ヘクタールなどを生産する「たねや泉水農園」(泉水良仁代表、50歳)では、キッチンカーでダイコンを中心とした料理の製造・販売を4月から始めた。規格外品の有効活用や食品ロスの削減につなげようと、毎週木・日曜日にダイコン圃場脇で開店。栄養バランスに配慮した創意あふれるメニューで、地元客を笑顔にしている。
農林水産省は、環境負荷を低減する「みどりの食料システム戦略」の実現に向けた技術カタログに、2030年までに利用可能と見込まれる81の技術を追加収録した。同戦略が掲げる化学農薬の使用量低減や有機農業の面積拡大には、効果的・省力的な雑草対策が欠かせない。新たに収録された技術の中から、水稲、大豆、野菜の除草に期待できる技術を紹介する。
【岩手支局】奥州市胆沢小山で肉用牛を飼養する芳賀俊甫〈はが・しゅんすけ〉さん(30)。リゾートホテルで板前をしていたが、畜産農家の父・二郎さんの後継者となるため、2年前にUターン就農した。繁殖経営を基盤に、肥育や食肉販売を構想するなど、一貫した牛の飼養を目指して意欲的に取り組む。芳賀さんは繁殖牛23頭、子牛10頭を飼養する。奥州農業改良普及センターの助言で、国や奥州市の補助を受けて2020年に就農した。「畜産経営と牛舎建設に対する補助金を受けることができた。牛舎の建設費用の3分の1ほどを補助金で賄えたので、非常に助かった」と話す。今後は地元で使われなくなった牛舎を借りて飼養する構想があるという。現在は繁殖経営が主になっているが、将来は肥育にも取り組むことを考えている。「市場の子牛は、どのような育ち方をしてきたのか見ただけでは分からない」と芳賀さん。「自分が育てた子牛は自分が一番よく知っている。飼料の与え方など、適切で効率的な管理で肥育できると思う」と話す。飼養コストの大部分を占めるのが飼料代だ。価格高騰で負担が特に増えているという。芳賀さんはコストを抑えるため、食品などを作る際に残るビールかすやおからなどで作られたエコフィードを導入した。エコフィードは、規格外の農産物や売れ残りの食品などをリサイクルして製造する飼料のため、安定した価格と供給が見込める。「環境に配慮され、かつ安価な飼料をなるべく使用したい」。自分が育てた牛の食肉販売が夢だという芳賀さんは「肉は切った部分から酸化して味が落ちる。ブロックをその場でさばき、肉が持つ本来のおいしさをたくさんの人に提供できる店を持ちたい」と意欲的だ。
〈写真:「ブランド牛に負けない牛を育てていきたい」と芳賀さん〉
【岡山支局】「その年の売り上げに基づいて保険金が支払われるので、納得しやすいと思い加入しました。それに加えて特例で収入や規模の増加など、個人の現状が補償に反映されるので、制度が充実していると感じましたね」。こう話すのは、吉備中央町でブドウとモモを栽培する本郷達郎〈ほんごう・たつろう〉さん(39)。就農当初は果樹共済に加入していた。収入保険に移行した決め手は、青色申告書類という目に見える根拠資料を基に、全体の補償金額や支払額が決まる「分かりやすさ」からだ。就農当初から青色申告を実施していたこともあり、スムーズに移行できたという。2022年2月、家族全員が新型コロナウイルスに感染した。モモの剪定(せんてい)時期と重なり作業は遅れたが、収入保険に加入していたことで、優先順位を冷静に判断できたという。「収入が落ちても大丈夫という安心感があり、無理せず作業を切り上げることが必要だと思いました。計画よりは減収する予測ですが、被害を最小限に抑えられたので、保険金の請求はせずに済みそうです」。「問題が起きると、2人では遅れを取り戻すにも限界があります」と夫婦での経営に不安はあるものの、「何かあっても対応できるように、作業効率を上げて品質向上を第一に考えていますが、その中で収入保険はお守りのようなものですね」と笑顔を見せる。
▽ブドウ50アール=「ピオーネ」「オーロラブラック」「シャインマスカット」、モモ10アール=「清水白桃」「おかやま夢白桃」
〈写真:「収入が安定しづらい農家を支えてくれる保険の存在は大きい」と本郷さん〉
【広島支局】神石高原町上(かみ)にある「神石高原日本ミツバチ研究所」所長の東〈ひがし〉一史さん(71)は、2015年に同研究所を設立し、ニホンミツバチの生態を研究するほか、巣箱を開発・製作する。「ニホンミツバチは自然そのもの。ニホンミツバチを増やすことで自然豊かな町にしたい」と東さん。蜜源の森づくりなど新たな取り組みが進められている。同研究所では、巣箱の管理とともに採蜜・加工し、蜂蜜やミツロウ(ミツバチが巣作りのために作り出すロウを精製したもの)を販売。誘引しやすい巣箱の作り方を指導するほか、希望者には販売する。ニホンミツバチについて語り合うサロンや巣箱作りの工房を兼ねていて、養蜂家などが訪れるという。東さんは、全国約150人の会員に向けてインターネットで情報を発信。飼い方などを個別にアドバイスする。最も力を入れる活動が、皆伐された山にニホンミツバチが好む木や花を植え、蜜源の森にする取り組みだ。今年2月、神石高原町観光協会の協力でクラウドファンディングを実施し、集まった資金でヤマザクラとエゴノキを100本ずつ購入。その山を「三和 蜜の里山」と名付け、4月末に開催した植樹祭には町内外から約80人が参加した。植樹祭は来春も開催予定で、「子どもたちが昆虫や植物採集をしたり、地域の人が花見をしたりするような森にしたい」と東さん。同観光協会の冨山公明専務理事は「豊かな広葉樹林の森として、季節ごとに楽しめる観光名所となるよう、これからも協力していきたい」と話す。小学校の教員をしていた東さんは「子どもたちにふるさとの山は宝の山だと感じてもらいたい」と、ニホンミツバチの飼育授業を始め、その授業をきっかけに現在の活動を始めた。「豊かな自然を守ることでふるさとに貢献し、みんなに喜んでもらいたい」と話している。
〈写真:「一緒にニホンミツバチを育てましょう」と東さん〉
【新潟支局】胎内市の花卉〈かき〉農家の3姉妹が、球根を育てるために摘み取ったチューリップの花びらをフラワーボトルに生まれ変わらせた。「URA mizusawa flower farm」のブランドを立ち上げて、インターネットやイベントで販売し、人気を得ている。製造・販売を手がけるのは、長女の伊藤愛美さん、双子の次女・比企美穂さんと三女の水澤知絵さん。実家の屋号をローマ字読みにしたURAがブランド名だ。チューリップの球根を大きく育てるためには、4月中旬から5月上旬にかけて花を摘み取り、球根に栄養を与えることが必要。今までは摘み取った花は放置していたが、何とか利用したいと考え、フラワーボトルの製造を始めた。「土に返るだけだった花が、価値のあるものになるのがうれしいですね」と愛実さん。花びらは手作業で一つ一つ丁寧に摘み取り、ドライフラワーにしてから瓶に詰める。12品種のチューリップをベースに、ラベンダーなどのハーブを組み合わせた新商品やキャンドルなどの開発にも力を入れる。知絵さんは「キャンドル作りはたくさん勉強しました。好きなことが形になるのは幸せなことですね」と笑顔で話す。今後は多くの人にURAを知ってもらうため、いろいろなイベントにも積極的に参加する計画だ。美穂さんは「フラワーボトルは観賞用のインテリアとして販売を想定していましたが、手作りキャンドルの飾りやアクセサリーの材料に使っていただくなど、いろいろな可能性があると思っています。性別や年代を問わず、誰でも一つの素材として遊んだり楽しめたりするようにしたいです」と話す。
〈写真:URAのフラワーボトル〉
▼総務省によると、都道府県や市町村の移住相談窓口などの2021年度の相談件数が、調査を開始した15年度以降で最多の32万4千件になった。コロナ禍を契機に都市部の若い世代を中心に地方回帰の動きが強まっていると分析する。つい新規就農も選択肢にと期待してしまうが、仕事や暮らしの考え方は人それぞれ。まずは地方を移住先に選んでくれるだけでよしとすべきか。
▼経済エッセイストの藻谷ゆかり氏の近著『山奥ビジネス 一流の田舎を創造する』(新潮新書)には、本場イタリアで世界大会のチャンピオンになり、故郷の町で人気店舗を営むジェラート職人、地域に根を下ろしたものづくりで全国に30店舗の直営店を展開し、武家屋敷を改装した宿経営も手掛ける衣料・雑貨企業など先進事例が登場する。どの経営者も東京などの大都市ではなく、その地域でビジネスをしたいと起業して成果を積み上げた。人材を呼び、新たなビジネスを生むなど周囲にも影響を及ぼし、食材の提供など農業との関わりも広がっている。
▼藻谷氏によると、成功する山奥ビジネスのコンセプトは(1)ハイバリュー・ローインパクト(2)SLOC(3)越境学習――だ。(1)は、価値が高い財やサービスを生み、環境や土地の文化への負荷が低いこと。(2)は、英語のスモール、ローカル、オープン、コネクテッドの頭文字で、小さく地域的な企画・事業がオープンにされてつながり、他の地域にも展開されること。(3)は、自分が育った土地を離れた人が新たな技能や価値観を身に付けること、などと解説する。
▼人口減少と少子高齢化が進むと、将来的に全国の約半数の自治体が存続できなくなる消滅可能性の恐れから、地方の市町村は移住・定住に力を入れる。経済的な自立を支える産業の創出は大きな課題だ。藻谷氏は、水や景色などの環境や歴史、古民家など地域資源を活用する観光業を重要視する。鍵は越境学習した人材のUターン推進にあるという。