今週のヘッドライン: 2022年11月 1週号
「地域の農地を守ることが会社の理念」と話すのは、京都府福知山市で水稲や野菜などを栽培する株式会社味歩里(みぶり)の桐村正典代表(63)。多くの農地を受託する同社では、昨年12月26日から降り続いた大雪で、農業用ハウスが全壊するなどの被害に遭った。園芸施設共済の共済金などでハウスを再建し、経営維持を図っている。「今年も油断はできない」とハウスを補強し、冬に備える。
野生イノシシで豚熱の感染が広がり、農林水産省と環境省は、15日から始まる狩猟期間に合わせて狩猟者向けのチラシを作成、ウイルス拡散を防ぐ豚熱対策の徹底を呼びかけている。また、新型コロナに伴う入国者総数の上限が撤廃され、インバウンド(訪日外国人)が増加する中で、海外で猛威を振るうアフリカ豚熱の侵入リスクも高まっている。水際対策の徹底とともに、養豚場では基本的な飼養衛生管理基準を順守し、フェンスの設置など農場周辺からの野生動物の侵入防止対策を再確認しておきたい。
野村哲郎農相は10月25日、衆参農林水産委員会で所信表明を行った。生産構造の転換により輸入農産物・資材への過度な依存を減らし、農林水産業の持続的な成長と食料安全保障の強化を図るとした。「食料・農業・農村基本法」の見直しについては「今日的な課題に応え、将来を見据えたものとなるよう、検証・検討を進めていく」と決意を示した。
冬季は大雪による農業用ハウスの倒壊・破損などのリスクが高まる。気象庁が発表した寒候期予報(12~2月)では、冬型の気圧配置が強く、降雪量は東・西日本日本海側では平年並みか多く、北日本日本海側は平年並みの見込み。今のうちから、点検、補修など適切な保守管理や補強を講じておきたい。収入保険や園芸施設共済に加入していれば、もしもの際も早期の営農再開を後押しする。セット加入すれば手厚い補償が受けられ、さらに安心だ。補償の内容や加入に向けた手続きの要点をまとめた。
静岡県農林技術研究所は、難防除害虫のミナミキイロアザミウマに対して高い誘殺効果を持つ緑色の粘着トラップを企業と共同開発した。ガラス温室のメロン栽培での実証では、従来の青色に比べ4倍の誘殺効果が確認されている。温室メロンを900坪で年4作栽培する静岡県掛川市の森下憲司さん(47)は、圃場内に大量に設置し、薬剤散布回数を半減させた。ミナミキイロアザミウマは薬剤抵抗性が課題となっている。「薬剤で防ぎきれなかった中、明らかに葉の被害が減った。今では防除の要だ」と評価する。
日に日に寒さが厳しくなり、暖房器具が活躍する時季となった。石油暖房機の安全使用に関する注意点を、一般社団法人日本ガス石油機器工業会の中村剛さんに解説してもらう。
【山口支局】「この保険がなければ、間違いなく廃業していました」と話すのは、山口市徳地の岡本佳之さん(59)。ハウス6棟(19アール)で主にピーマン2品種を栽培する。これまで災害や病害で収量が減少したことは一度もなく、順調な経営を維持していた。ところが2021年、市場価格の低下で大きく減収し、収入保険のつなぎ融資を申請した。「電車が好きで、本が好きで、土いじりが好きだったんです」と笑顔で話す岡本さん。東京都出身で、国鉄や図書館での仕事を経て農家に転身した。縁あって山口市に移住。07年に同市徳地農業公社の「新規就農者技術習得支援制度」を利用し、研修を2年間受けた後に独立した。「安定した収量や運搬の負担を考慮し、ピーマンを主力野菜に決めました」と岡本さん。多い年で年間19トン収穫する。「この地域でNOSAIが講習会を開くというので、参加してみたんです。そこで収入保険を知りました。市場価格が下がった年や、各地で発生する自然災害を見ているので、不安とはいつも隣り合わせ。加入のために青色申告に切り替えました」。青色申告書の作成には専用ソフトを使う。日々の入力さえしておけば、誰でも簡単に取り組むことができる。そのほかの手続きもインターネットでできるためとても便利だという。順調だった農家生活は、21年に激変。市場価格の低下と長雨による斑点病が重なり、収入は大きく減少した。「経験したことのない事態に廃業を覚悟しましたが、つなぎ融資のおかげで乗り切れました」。気持ちを切り替え、ピーマンの定植に臨んだ今年4月、全体の葉がしおれているハウスがあることに気付いたという。原因を究明するため、文献などで調べ続けたところ、「ケラ」による虫害だと突き止めた。岡本さんは「収量は今年も平年より少ないです。農家になって今が一番の正念場です。でも、収入保険に加入しているので心の負担は少ないです。リスクは必ず存在するので、セーフティーネットとして収入保険に加入することが大切ですね」と話している。
〈写真:「NOSAI全国連のホームページに掲載される『加入者の声』をよく読みます。頑張っている全国の農家さんを見て、勇気をもらっています」と岡本さん〉
【岩手支局】花巻市東和町の菅野和〈かず〉さん(67)は、夫の徳主〈とくしゅ〉さん(67)と「農泊徳さん」を営み、利用者に農村の魅力を伝える。東和町の魅力や農村の暮らしを伝える活動に、30年ほど前から地元の仲間と取り組む和さん。岩手県移住コーディネーターとしても活動し、地域づくりには移住・定住促進が重要だという考えから、2019年に農泊の営業を始めた。和さん方は、60アールの田と20アールの畑で米やタマネギ、食用菊などを栽培する。利用者は菅野さん夫妻と一緒に野菜を収穫・調理し、食卓を囲む。農村ならではの体験を求めて、修学旅行生や子ども連れなどさまざまな利用者が訪れるという。和さんは「農作業が楽しかったのか、県内観光の予定を取りやめて、滞在中に農作業ばかりしていたグループがあった」と笑顔を見せる。10月には花巻市へのお試し移住ツアーの参加者を受け入れた。参加した北上市在住の照井信樹〈しんじ〉さん(31)一家は、食用菊の摘み取り体験と調理に挑戦した。将来は東和町への移住を考えているという照井さんは、「子どもたちにはこのツアーでたくさんの自然に触れてほしい」と話した。和さんは「農村の魅力を発信するために、今後も仲間と楽しく頑張りたい」と意気込む。
〈写真:「愛する郷土と農村の魅力を知ってほしい」と和さん〉
【埼玉支局】「豪雪で鉄骨ハウスが倒壊して以降、園芸施設共済に加入していることは安心感につながっています」と話すのは、川越市の澤田勇夫さん(73)。妻の千恵子さん(74)と共に水稲2ヘクタールのほか、ハウス3棟約18アールでキンギョソウの栽培に取り組む。キンギョソウは切り花として出荷。品種はバタフライ系とレジェ系で、白や黄色、ライトピンクなど5色以上だ。播種は6月下旬、定植は7月下旬から10日間隔で4回。本葉2枚で摘心し、2本仕立てにする。成長に合わせてフラワーネットの位置を引き上げることで、真っすぐに育てることができるという。収穫は10月から翌年5月の母の日ごろまで続く。キンギョソウは切り花にすると、花同士の接触などで花が落ちやすいため、収穫作業や荷造りには細心の注意を払う。店頭に並んでからもきれいに咲き続けるよう、念入りに水揚げをするなど、高品質なものを出荷できるように努める。2014年2月の降雪では、3連棟の鉄骨ハウスが倒壊した。「あれほどの積雪は過去に経験がなく、想定外の出来事。倒壊したハウスを翌日見て、まさかと思いました」と澤田さん。2月14日の積雪は40センチほどで、15日の深夜に雨へと変わったことで雪が水分を含み、重くなったことが倒壊につながったという。「生育が順調だったので、とてもショックでしたが、共済金を受け取ったため、同等の規模で栽培を続ける意欲につながりました」と振り返る。20年には、ビニールの破損などの小さい損害にも対応できるように「小損害不填補1万円特約」を付けて補償を充実させた。「すぐ近くを河川が流れています。台風などによる浸水の危険があるので、園芸施設共済には継続して加入していきたいです」と澤田さん。「水稲とキンギョソウの栽培を両立しながら規模を維持し、より良いものを出荷していきたいですね」と話している。
〈写真:ハウスでキンギョソウの摘心に取り組む澤田さん〉
【島根支局】「食料自給率の低さやコロナ禍で生活環境が変化したこともあり、IT関係の会社を辞めて就農することに決めました」と話すのは、益田市美都町でイチゴ栽培の準備を進める藤原大巌〈だいげん〉さん(50)。昨年5月に東京から同町へIターンし、農業研修を受け、今年の冬に就農する予定だ。「イチゴ栽培は、収穫後のパック詰めや病気対策に時間をとられることを研修で感じました。そこで、センサーを用いた水分や土壌管理、換気などの自動化で作業量を約40%削減することを目指します。ヒートポンプを使った加温で燃料費の低減にも取り組みます」と藤原さん。スマート農業を目指し、IT技術を導入したハウス(18アール)の完成に向けて準備を進める。研修先で同町の田中農園の田中克典さんは「この地域では先進的な栽培が取り組まれています。藤原さんは、作業効率や負担を減らす方法を今までに無い形で考えているので、これからも協力していきたいです」と期待する。多品種をそろえたイチゴ狩りのほか、イチゴを冷凍保存し、夏場に「削りイチゴ」をキッチンカーで提供するなど、付加価値を高めた販売を目指す。農閑期にはジビエ(野生鳥獣肉)料理の販売を考えており、同市の補助を受けながら料理を検討中だ。藤原さんは「楽しんで生きるということを見せればIターン者が増え、次の世代につなげられると思うので、頑張りたいですね」と笑顔で話す。
〈写真:イチゴの管理に励む藤原さん〉
▼学校や事業所などで自動体外式除細動器(AED)を見る機会が増えた。突然の心停止に対応し、専門知識のない人も救命活動ができる。心肺停止時の救命率は1分ごとに10%低下し、救命活動は5分以内が望ましいという。救急車を呼んでも到着まで平均10分弱かかるそうで、助かる命が増えるならありがたい。
▼日本農業労災学会などが先ごろ開いたシンポジウムで、同学会顧問を務める東京農業大学の江口文陽学長があいさつし、車にAEDと挿管できるエアバッグを常に積んでいると明かした。専門は林学で、山に出かける機会が多いためとの説明だ。
▼ただ、救命活動の重要性は、高校生の頃に友人の父親がコンバイン作業中に亡くなった事故や、ハウスの土壌消毒中に倒れて後遺症が残った近所の農家の事例を経験し、強く意識したと話した。刃物や機械を扱う農作業では、一瞬の気の緩みが大けがや死亡事故につながる。農村部にこそAEDの設置を増やす必要があるだろう。
▼農作業従事者を対象とした労災保険の特別加入制度への加入も増えてほしい。危険性を放置したままでは就農希望者も二の足を踏む。