今週のヘッドライン: 2022年09月 4週号
新型農機や情報通信技術(ICT)などを活用して、荒廃農地の再生と国産資源を生かした繁殖牛管理につなげる「スマート放牧」の実証が、島根県大田市で進んでいる。2021年は、5年間管理できていなかった放牧地の雑木などを粉砕処理し、1週間で約10ヘクタールを草地化可能な状態に回復できた。現在はデータに基づく草種の選定や効率的な堆肥施用など草地を造成しながら、放牧牛の遠隔監視、自動体重計測などを組み合わせ、子牛や育成牛の増体を確保して高収益の生産体系を目指す。
岸田文雄首相は9日、官邸で食料安定供給・農林水産業基盤強化本部を開き、食料・農業・農村基本法の見直しを指示。「関係閣僚連携の下、総合的な検証を行い、見直しを進めてほしい」と述べた。岸田首相が掲げる「新しい資本主義」の下で展開する(1)スマート農林水産業などによる成長産業化(2)農林水産物・食品の輸出促進(3)農林水産業のグリーン化(4)食料安全保障の強化――の4本柱について、世界的な社会情勢や気候変動など今日的課題への対応・検討を求めた。国内生産を基本にした持続可能な農業の確立と食料安定供給の確保へ、農業・農村が抱える諸課題を克服できる道筋を開く必要がある。
NOSAI青森(青森県農業共済組合)では、自然災害など高まるリスクに備え、収入保険の普及に力を注ぐNOSAI部長がいる。青森県では8月上旬の記録的な大雨により岩木川流域のリンゴ園が浸水し、収穫前の果実に大きな被害が発生した。組合員とのコミュニケーションを深めながら、収入保険への加入を呼びかける2人に話を聞いた。
「産地では、各家庭で生の芋からこんにゃくが作られている。香り高く、もっちりとした"本場のこんにゃく"を売りにしている」と話すのは、群馬県昭和村糸井でコンニャクイモを20ヘクタール栽培する石井メイドオリジナルの石井邦彦代表(35)だ。加工場を整備して「生芋こんにゃく」(200グラム)などを製造し、ホームページ(HP)などで販売する。こんにゃくの包装袋には自らの写真を印刷し、HPのブログなどでこんにゃくの魅力を発信する。自宅でこんにゃく作りを体験できるキットやオリジナル商品も開発し、こんにゃくを身近な存在として感じてもらおうと活動している。
麦は湿害に弱く、特に都府県の水田転作では、排水対策の徹底が生育の鍵を握る。降雨後に圃場内に滞水せず、施工した明渠〈めいきょ〉や暗渠を通じて速やかに圃場外に排水できているだろうか。国産麦の増産が求められる中、排水対策を中心に多収をあげるポイントを紹介する。
捕獲した鳥獣肉を食材に利用するジビエが、有害鳥獣を地域資源に転換する方策として注目されている。高たんぱく、低カロリーなど食材としても魅力が多いという。一般社団法人日本ジビエ振興協会常務理事・事務局長の鮎澤廉(あゆざわれん)さんに栄養価などを詳しく紹介してもらう。
【島根支局】「味は変わらずおいしいのに、割れたメロンは破棄していました。そんな現状に、もったいないという気持ちが募り、何かできないかと活動を始めました」と話すのは、益田市飯田町の渋谷さやかさん(41)。県内屈指のメロン産地の同市で、渋谷さんのほか真庭幸〈みゆき〉さん(40)、松本裕美〈ひろみ〉さん(42)のメロン農家3人を中心に、グループ「ほしみっつ+(プラス)」を立ち上げた。メロンの栽培面積は減少傾向で、贈答に利用する人は年配者が多いことに危機感を抱き、2018年に規格外メロンを使った商品のPR活動を開始した。当初はメロンピューレを自ら試作し、販売を検討したものの、家業の合間での作業は難しかった。このため、同市で酒造りに取り組む株式会社岡田屋本店に相談。規格外メロンを持ち込み、味やデザインを追求したメロンリキュール「あむめろ」を共同で開発した。19年に地元スーパーや道の駅で販売したところ大きな反響があったという。製造を担当した同社の大谷弘二〈こうじ〉取締役COO(最高執行責任者)は「アムスメロン本来の味に近いものを目指し、果汁を40%も使いました。ロックで飲むのがお勧めで、アムスメロンの味を存分に楽しんでいただければ」と話す。「アムスシェイク」やメロンをそのまま削った「けずりメロン」など季節限定の商品なども提携販売する。「シェイクを飲んだ方から『おいしい』と言ってもらえたのがうれしかったです」と真庭さん。加工品向けの需要は年々増え、今年は規格外のアムスメロン約317キロを出荷した。もっと欲しいという声はあるが、栽培状況や生食との兼ね合いで難しく、今後の検討課題だ。「もちろん、規格外となるメロンは少ないほうが良いです」と松本さんは苦笑する。「バウムクーヘンなどのお菓子作りやメロンフェアなど、幅広い年代へPRして、メロン栽培を継続できる環境をつくっていきたいですね」と3人は話す。
〈写真:メロンリキュールあむめろ(税込み880円)を前に、右から松本さん、真庭さん、渋谷さん〉
高知県土佐市 山本 昇司さん(54)
ピーマンを作り始めて28年目です。4年前に「株式会社緑と青と」として法人化しました。今は62アールで栽培し、収穫作業を手伝ってくれる従業員5人を雇用しています。園芸施設共済には継続して加入しています。附帯〈ふたい〉施設や復旧費用といった特約が新設され、補償が拡充した際は必ず加入内容を見直してきました。大規模な地震や津波で被害を受けても、新しいハウスを建て直せる補償内容にしています。1989年の豪雨の際は、ハウス1棟の全体が冠水し、竜巻で本体が被害を受けました。最近は落雷によるヒートポンプの故障といった被害が増えてきていますが、園芸施設共済で充実した補償を受けられるので、安心して栽培に専念できています。昨年は夏季の暑さによる青枯病の発生が多かったので、今年は植え付けたばかりの苗が収穫までに被害に遭わないか不安な部分はあります。法人化して5年目を迎え、販売収入を安定させたいことと、収入がなくなり従業員の給料が支払えなくなったときの備えとして、雇用者の生活を守るために収入保険に今年加入しました。強いて要望するなら、重油や肥料、電気代の高騰もあり、経費がかさんで負担になっているので、そこも含めて補償してくれるともっと助かります。私の父は今年76歳となりましたが、「120歳まで頑張る」と意気込んでいます。私も負けずに、これからも営農を続けていくためと健康のためにも、早寝早起きを心がけていきたいと思います。応援や協力をしてくれる妻と娘2人には感謝の日々です。
(高知支局)
〈写真:「台風シーズンに定植するので心配です」と山本さん〉
【香川支局】生産資材や燃油が高騰する中、多度津町の廣瀬有児さん(51)は、自己資金と行政の助成金などを活用し、10アールのイチゴハウスを新設。2021年8月、同町で唯一のイチゴ農家としてスタートした。2年目の今作は、年間出荷量6トン(県平均は約3.5トン)を目標に作業に励む。施設本体と高設栽培システムを合わせた費用は、価格高騰前の18年と比較し約1.25倍かかった。「それでも少し安い時期に導入できて良かったです。今もどんどん値上がりしていますから」と廣瀬さん。人件費を節約するため、整地は土木建設業を営む友人に依頼し、親類の力を借りながらコンクリートを搬入した。新規就農者を資金面で支援する事業は、年齢などの制約があって受けられないものが多かったが、香川県の「さぬき讃フルーツ拡大支援事業」の助成金は受けることができた。農地法に基づく農地の権利取得の下限面積は、多度津町の場合は露地で30アール。施設栽培用地は前例がなかった。廣瀬さんは町と相談し、小規模でも収益性の高い作物で所得が見込めることを証明する就農計画を農業委員会に提出した。町の担当者は「今までにない事例でしたが、農業振興につながるため、就農できるようにサポートしました」と話す。農業委員会へ就農計画を申請し、ハウス建設地として承認され、無事に農地を購入できた。周辺より少し高い位置にあるため、日差しが遮られないというメリットがある一方、風が吹き抜け突風被害を受けやすいリスクがある。園芸施設共済があることは香川県立農業大学校の就農準備研修で知っていたので、復旧費用と小損害不てん補1万円の特約を付帯して加入した。「農業共済という備えがあると、安心して農作業に専念できます」。冬季は燃料代が高騰したが、品質重視で管理したという。内張りを外し、日光をハウス内にくまなく取り入れ、室温は10度を下回らないように暖房機で加温した。廣瀬さんは「時間がかかる収穫とパック詰め作業の効率を上げて出荷数を増やし、喜ばれる新鮮なイチゴを少しでも多く届けたいです」と意気込む。
〈写真:「さぬきひめ」の葉かぎをしながら「9月下旬に花を咲かせるように管理したいです」と廣瀬さん〉
【山形支局】寒河江市の芳賀あゆみさん(52)は、水稲10ヘクタールやサクランボ45アール、花き13アールなどを栽培する株式会社芳賀にこにこ農園を家族で経営。その傍ら、「子どもたちに少しでも農業に興味を持ってもらえたら」と、農業の楽しさを描いた絵本の読み聞かせ活動を続けている。この活動は「アグリバトンプロジェクト」と呼ばれ、農林水産省の「農業女子プロジェクト」のメンバーが中心となって取り組む。全国で53回、県内で10回の読み聞かせを開いた。今年は「絵本#キャンペーン」を実施した。SNS(交流サイト)で10投稿につき絵本1冊を、協賛する企業が近隣の小学校などに寄贈する。芳賀さんの呼びかけに応えた県内の企業を含め、全国で128冊が贈られた。現在は「命をいただくこと」をテーマにした第2弾の絵本を制作中で、芳賀さんは「東北でもこの活動を広げていきたい」と話す。
〈写真:絵本の読み聞かせをする芳賀さん〉
▼8日に96歳で逝去した英国のエリザベス女王は、その2日前に保守党党首のトラス氏を首相に任命するなど公務をこなした。この数年は健康不安を抱えていたそうだが、亡くなる直前まで元気に活動する"ピンピンコロリ"のモデルのようだ。
▼健康的に制限なく日常生活ができる「健康寿命」を伸ばし、平均寿命との差である不健康な期間をいかに短くするかは、高齢化社会の重要課題だ。少しずつ短縮しているものの、2019年で男性は8.73年、女性は12.06年の差がある。高齢夫妻の2人世帯や高齢の1人世帯が増える中、生活維持の支援も課題だ。
▼ドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』は、85歳で認知症を発症した母親と、90歳を超えて介護と家事に励む父親の生活を娘の信友直子さんが記録した。テレビ制作に携わり、普段は離れて暮らしている。進行する認知症と老老介護の日常を丁寧につづった。
▼同名の著書で信友さんが挙げた反省点は、地域包括支援センターへの相談が遅れたことだ。「自分たちでできるうちはいい」との言葉に甘え、全て抱え込む「引きこもり暮らし」に陥っていたとする。介護支援を受け、悩みを相談できる環境で精神的にも楽になり、家族で笑う機会が増えたという。例え病気を抱えても幸せは逃げないと勇気をもらった。