今週のヘッドライン: 2022年09月 1週号
「飲用乳価がキロ10円、約8%引き上げられ、とりあえず良かった。ただ、生産費は新型コロナ前と比べて5割増えており、焼け石に水だ」と、千葉県八千代市米本の加茂太郎さん(56)は嘆く。経産牛110頭、育成牛70頭を飼養する株式会社加茂牧場の代表として、配合飼料や乾牧草、燃料費などの高騰に対応する。泌乳牛に給与する粗飼料はほぼ自給し、飼料用米やエコフィードの活用で飼料費低減に努めている。ただ、8月には副産物の乳用種(雄)初生牛の相場が暴落した。生乳需給が緩和する中、酪農経営は大幅な生産コスト増加に直面し、一層厳しさを増している。
農林水産省は8月24日、自民党の農林関係合同会議に2023年度農林水産予算概算要求案を示し、了承された。総額は22年度当初予算比17.7%増の2兆6808億円。生産基盤の強化と経営所得安定対策の着実な実施など8項目を重点に据えた。農林水産物・食品の輸出力強化や「みどりの食料システム戦略」、麦・大豆など戦略作物の本作化、国産飼料の生産拡大などの関連予算は増額要求した。原材料価格の高騰に伴う価格転嫁の円滑化に向け、消費者への理解醸成などの支援には1億円を新規で計上した。食料安全保障の強化に向けた予算は、要求額を明示しない「事項要求」とし、年末までの予算編成過程で検討する。
NOSAI協会(全国農業共済協会)の髙橋博会長は8月24日、自民党農林関係合同会議に出席し、2023年度農林水産関係予算概算要求に向け、収入保険と農業共済の適切で円滑な実施に必要な関係予算確保を要請した=写真。
露地ダイコン延べ7ヘクタールを中心に経営する栃木県鹿沼市の市田博さん(54)。被覆による夏の高温対策も取り入れて作期を拡大し、地元青果卸1社と連携を強め、スーパーや飲食店など県内向けに、年間40万~50万本を出荷する。「定時定量を維持し、必要とされる農家として経営していきたい」と考えを話す。コロナ禍で市場価格が下落する中、収入保険の補てんで経営資金への影響を回避できた。安定した取引で流通先からの信頼を確保し、次世代へ継承できる営農を目指している。
全国野菜園芸技術研究会は8月18日、東京都内で東京大会を開催。全国土の会の後藤逸男会長(東京農業大学名誉教授)が「このままでよいのか! 施設園芸の土づくり」と題して講演した。全国の施設園芸農家から寄せられた土壌を診断した結果、全体の約40%で可給態(有効態)リン酸が過剰となり、硫酸イオンの蓄積からEC(電気伝導率)がやや高い傾向が見られたと指摘。土壌病害の発生防止や上昇する肥料費抑制などの観点から、土壌診断に基づく効果的・効率的な施肥の徹底を呼び掛けた。以下、概要を紹介する。
9月1日は防災の日。地震や河川の氾濫など自然災害に備えるには、平時からの対策が欠かせない。非常持ち出し袋と防災備蓄による家庭の防災について、合同会社ソナエルワークス代表で、備え・防災アドバイザーの高荷智也さんに教えてもらう。
【埼玉支局】春日部市倉常の「相鴨飼育農場 倉常ファーム」では、八木橋喜一代表(75)、息子の正幸さん(51)、アルバイト2人で、アイガモを年間約4万4千羽肥育するほか、水稲8.1ヘクタールの栽培に取り組む。アイガモは孵化〈ふか〉場から仕入れた「チェリバレー」種のひなを約8週間かけて平均3.8キロほどに肥育し出荷。飼育場は四つの区画に分け、2週間ごとに隣の区画へ移動させて効率の良い出荷動線を確保している。ひなの区画は入れ替えごとに消毒する。成鳥の区画はわらを小まめに敷き込むなど衛生面には細心の注意を払っていたが、2021年に収入保険加入後、鳥インフルエンザが全国的に流行。ひなの仕入れ先だった千葉県の孵化場でも感染が確認された。「本農場への感染は確認されなかったので安心しました」と八木橋代表。「しかし、孵化場で鳥インフルが発生した時期のひなを入荷していたので、念のため1回転1300羽ほどを殺処分することになりました。大切に育てたアイガモが殺処分されることはつらかったですね」と唇をかむ。孵化場が再出荷するには約6カ月を要した。その間は収入が大幅に減ったため、つなぎ融資を申請し、アルバイトへの給与や畜舎の維持費に充てた。ひなの入荷は21年7月に再開。カモ肉の需要が増す年末には出荷量がおおむね回復していた。ところが、22年1月に再び千葉県の孵化場で鳥インフルが発生。飼育中のアイガモは発生前に入荷していたことと、保健所による検査で陰性と診断されたことから殺処分は免れたという。「今まで感染症とは無縁でしたが、2年連続で鳥インフルが発生したことは、とても恐ろしく感じます。収入保険に加入していなければ、経営の再建は難しかったかもしれません」と八木橋代表。「飼育羽数を以前の規模に戻し、『おいしい』と言っていただけるカモ肉を皆さんに届け続けたいです」と話す。
〈写真:「経営努力では避けられないリスクに備える重要性を再確認しました」と八木橋代表〉
岩手県釜石市 藤井 秀宣〈ふじい・ひでのぶ〉さん(53)
就農して35年目になります。就農当時はパイプハウスだけでキュウリとトマトを栽培していましたが、2007年に鉄骨ハウスを2棟建設し、規模を広げました。大豆かすや菜種かすなどの有機肥料と、効き目が長いロング肥料を使って栽培し、コスト削減に努めています。収入保険には制度開始初年の2019年に加入しました。値崩れなど、自分ではどうしようもないときも補償してくれるので、継続して加入しています。昨年はキュウリの市場価格が下がったため、収入が約3割減少し、保険金の支払対象になりました。産直施設やスーパーでは、販売する野菜の価格を自分で決めることができますが、市場では野菜の価格が安くても売らなければならないので、収入が安定しないのが不安ですね。まだ学生の子どもがいるので、家族のために農業を続けていきたいと思っています。収入保険は保険料を経費として計上できるので、経営の一部として考えることができるのも魅力の一つだと思います。今後も収入保険に加入してリスクに備え、少しでも不安を減らして安定した経営を続けていきたいです。▽キュウリ17.5アール、トマト11.1アール(鉄骨ハウス2棟、パイプハウス11棟) (岩手支局)
〈写真:「不安要素を減らすために、これからも加入していきたいです」と藤井さん〉
福井県あわら市 竹内 孝輔〈たけうち・こうすけ〉さん(42)
2020年に父から経営を引き継ぎ、家族5人と従業員5人で、水稲をメインに麦と大豆との2年3作体系で営農しています。水稲の約3割は有機肥料が主体の栽培で、一部では農薬を使わない栽培にも取り組み、直販だけで完売するほど好評です。ほかにも大豆「エンレイ」やソバ、キャベツなど、実際に要望のあるものを栽培するように心がけています。新型コロナウイルス感染症まん延など、近年は予想もしないリスクが発生するようになりました。対策の一つとして、全国の若手農業者とさまざまな情報を共有しながら、リスク回避に努めています。従業員の安定した雇用確保の一環として、19年から収入保険に加入しています。経営者として、一定の収入確保が見込めるのは心強く、さまざまな農作物の損害が補償されることが、今の経営形態に合った保険だと感じています。10年後には経営面積が100ヘクタールとなる見込みで、その時のために、今から施設や設備、雇用などを計画的に整備しています。水稲の転作率は今後も引き下げられることはないと感じています。このまま転作率が上昇し続けても対応できるように、生産体制の見直しなどを考え、先を見越した経営を目指していきます。▽有限会社竹内農園代表取締役▽水稲26ヘクタール、麦8ヘクタール、大豆9ヘクタール、ソバ10ヘクタール、キャベツ4ヘクタール▽園芸施設共済、農機具共済にも加入 (福井支局)
〈写真:「これからも『農地を守り、人を守り、地域を守る』をモットーに頑張っていきたい」と竹内さん〉
【広島支局】「千代田ジビエ工房 池田屋」(北広島町)は、シカやイノシシを解体処理し、ジビエ(野生鳥獣肉)として販売する。「シカやイノシシからいただいた命を無駄にしたくない」と話す代表の池田謙一さん(44)は、自身も猟師で、昨年は約200頭を食用に解体・販売。今年は300頭を目指している。池田さんは「獣害に困っている農家を助けたい」と北広島町全域へ足を運ぶ。「わなに掛かったという連絡が入ると仕留めに行く。農家からの『ありがとう』や『助かる』の声にやりがいを感じる」。池田さんが所属する捕獲班の班長・島筒〈しまづつ〉洋二郎さん(43)は、水稲約26ヘクタールや麦、大豆を栽培しながら、狩猟に参加する。「池田さんとは3年の付き合いで、元気で行動力がある人。捕獲後の処理をしてくれて、めちゃくちゃ助かっている。これからも一緒に頑張りたい」と話す。池田さんは「害獣の大小にかかわらず、命を大切にしたい。その命を大切にすることを子どもたちに伝えたい」と、昨年11月から町内の小学校の給食にジビエを提供。ジビエの消費を促進するほか、食育活動にも力を入れる。栄養士と相談し、「鹿肉のキーマカレー」や「猪肉のタコライス」などが給食として振る舞われた。「子どもたちから『シカ肉を初めて食べたけど、おいしかった』というメッセージをもらい、とてもうれしかった。栄養価が高く、ジビエは体に良いもの。これからも提供を続けていきたい」と話す。同工房は2020年7月にオープン。インターネット販売やイベントへの出店でジビエの消費拡大に努めてきた。最近では、鉄分が豊富で貧血予防になることが着目され、産婦人科医院から「病院食に使いたい」という依頼があった。現在、パート従業員はいるが、増える害獣に人手が足りないという池田さん。「販売価格や人手といった課題はあるが、ジビエがもっと普及するよう頑張りたい」と話している。
〈写真:「臭い、硬いといったジビエのイメージを変えたい」と池田さん〉
▼「大木の道に倒るゝ野分哉(かな)」「大水や刈田は海の如(ごと)くなり」災害関係の資料をネット上で探していたら、正岡子規の俳句が表れた。東京で暮らしていた1896(明治29)年に台風と水害に遭った体験を詠んだ。同年は全国各地で水害が発生し、「今年は全国大雨にて洪水ならぬ處(ところ)もなき」との記述も残るという。
▼記録では、台風は8月30日と9月7日の2度襲来し、中部の木曽川、関東の荒川、江戸川、多摩川などが氾濫した。7月には中部地方から東北にかけての広い範囲で洪水被害が発生し、北海道も雨が続いた。さらに津波で2万人を超える死者・行方不明者が出た明治三陸地震もこの6月の災害だ。
▼9月1日は「防災の日」。広く国民が災害に対する認識を深めて備えを強化し、災害の未然防止と被害の軽減につなげようと1960年に制定された。23年に発生した関東大震災にちなんでおり、台風シーズンを前に注意を喚起する意味も込めている。
▼子規が句を詠んで120年以上が経過し、気象予報の精度は格段に向上した。ただ、一方では温暖化が進行し、大雨の発生数増加や台風などの被害激甚化を招いている。現状を子規ならどう詠むだろう。