今週のヘッドライン: 2022年08月 4週号
愛知県豊川市長沢町地区では、水田30ヘクタール、畑8ヘクタールを管理する一般社団法人ファーム長沢の里(小野博史理事長=72歳、理事5人、会員4人)と住民が協力し、獣害対策を実践する。30キロにわたる侵入防止柵を管理するとともに、捕獲おりで年間イノシシ80頭を筆頭に、ニホンジカ、ニホンザル、ヌートリアなどを捕獲。捕獲で交付される補助金は地区で管理し、狩猟免許やおりの更新などに充てるほか、愛知県などが開発した軽量のネット柵を導入して侵入防止柵をかさ上げした。おりの確認や柵の整備には地区内の住民も参加するなど、地域一体で獣害に強い集落づくりを進めている。
政府・与党はこの秋から「食料・農業・農村基本法」の見直しに向けた検証作業を本格化させる。新型コロナやウクライナ侵攻などの情勢変化は、肥料や飼料、燃油など生産資材価格の高騰を招き、食料の安定供給に関するリスクとして表面化した。基本法の制定から20年以上が過ぎ、基幹的農業従事者数や農地面積は減少。基本計画で掲げた食料自給率目標は一度も達成できていない。食料安全保障の強化に向けた検証とともに、農業・農村を支える人材や農地の確保、消費者の理解促進などの課題についても議論を尽くし、食料の安定供給や自給率の向上を実現できる農政に転換すべきだ。
岸田文雄首相は15日、「物価・賃金・生活総合対策本部」で、輸入小麦の政府売り渡し価格を10月以降も現行水準に据え置くよう野村哲郎農相に指示した。輸入小麦を原料とする食品の値上げを抑制し、家計への負担軽減を図るのが狙い。対策本部では、ガソリンなど燃油価格高騰対策や地方創生臨時交付金の増額などを含めた追加策を9月上旬をめどにまとめる。
NOSAIとやま(富山県農業共済組合)では、地域の事情に精通する共済部長(NOSAI部長)が活躍している。コロナ禍で従来のような集まりが難しい中でも、NOSAI職員と組合員、双方とのコミュニケーションを欠かさず、情報共有に努めて円滑な事業運営に力を注ぐ。地域農業の振興に尽力する入善町の共済部長2人に話を聞いた。
福島県の農業生産者・団体と外食チェーンのバイヤーが、情報交換する産地見学・商談交流会が先ごろ開かれた。14社20人のバイヤーが富岡町のタマネギ選別場や郡山市の菌床シイタケの栽培施設などを見学。商談では、農業法人やJAが米、野菜、乳製品、牛肉・豚肉など福島県産ブランドの魅力をPRした。
日々の生活や仕事など、どんなときでも頑張ってくれている働き者の「手」。手荒れや関節のこわばりなどを感じても、面倒だからとそのままにしている方が多いのではないか。仕事の合間などちょっとした時間にでき、体調の改善に役立つハンドマッサージの方法を、ソフィアフィトセラピーカレッジ校長の池田明子さんに教えてもらった。
作物に施用して、高温・湿害などへのストレス耐性や光合成効率などを高める資材「バイオスティミュラント」の実用化が進んでいる。土づくり推進フォーラムは4日、東京都内でバイオスティミュラントをテーマに講演会を開き、研究機関やメーカーが複数の成分や資材を組み合わせた利用事例などを発表した。発表された各資材の特徴や効果を整理した。
【静岡支局】浜松市の株式会社アイファームの池谷〈いけや〉伸二代表取締役(44)は、ブロッコリー延べ130ヘクタール(秋冬作75ヘクタール・春作55ヘクタール)を栽培。独自の農業経営管理システムを構築し、小型無人機(ドローン)や人工知能(AI)画像解析などの先端技術も積極的に取り入れる。池谷代表は2008年に建設業から農業に参入。耕作放棄地を積極的に借り入れ規模拡大を進めた。作業工程を分業化することで、従業員の技術習熟度が短期間で上がり、効率化につながっている。16年に法人化し、県内有数の農業法人となった。アイファームの農業は、データと効率性の重視が特徴だ。ブロッコリーは同じ圃場内でも生育にバラつきが出るため、市場規格に適合するサイズを選別して収穫すると、一つの圃場で何度も作業することになる。これを「ブロッコリー農家が抱える無駄」と考え、注目したのが業務用の出荷だった。業務用はカット野菜として出荷するため、サイズにかかわらずに収穫が可能だ。蓄積したサイズごとの重量データと、カメラ搭載のドローンが撮影した画像をAIで解析する技術を組み合わせることで、圃場ごとに収量が最大化するタイミングを判断して1度に収穫できるようになった。作業効率の向上でコスト削減と生産現場の労力削減につながったという。「自然災害は最大のリスク」と池谷代表。農業の難しさは「自分たちがどのようなリスクにさらされているか分かりにくいところ」と考え、蓄積したデータを活用して減災につなげる取り組みも進めている。詳細なデータの収集を始めたのは台風の被害調査がきっかけだった。当時は対応方法が分からず、まずは状況を確認するため被害圃場の定点観察を開始。植え替えるしかないと思っていた圃場の中に、回復が見込める場合があることに気づいた。「今までは感覚でやっていて、事実が分かっていなかった」と感じたという。その後もデータの蓄積を続け、現在では回復が見込める圃場の復旧作業を優先することが可能となった。さらに圃場ごとのデータと組み合わせ、早期に被害収量や被害額を算定することで、迅速な経営の立て直しを図る。これまでの取り組みが評価され、農林水産省と全国担い手育成総合支援協議会共催の「令和3年度全国優良経営体表彰」生産技術革新部門で農林水産大臣賞を受賞した。今後について池谷代表は「将来はAI画像解析技術と組み合わせ、より迅速な被害状況の把握を目指したい」と話す。
〈写真:商品開発にも力を入れる池谷代表。消費者ニーズを捉え、機能性表示食品としてのブロッコリーに取り組むほか、袋のままレンジで加熱できる商品などを開発する〉
【和歌山支局】ウメ産地を次の世代につなごうと、みなべ町の4Hクラブ「みなべ梅郷〈ばいごう〉クラブ」は耕作放棄地を整備するプロジェクトに力を入れている。クラブ員の山本宗一郎〈やまもと・そういちろう〉さん(35)が、「第60回全国青年農業者会議」プロジェクト発表・地域活動部門で、「梅産地を未来につなげる伐採班の活動」を発表したところ、最優秀賞にあたる農林水産大臣賞に輝いた。町内では後継者不足や高齢化が進み、耕作放棄地が増加。隣接する園地で病虫害や獣害が発生する状況にある。プロジェクトが始まったきっかけは、2019年に地元の農家有志が、耕作放棄地の梅木伐採をボランティアで請け負ったことだった。20年には、みなべ梅郷クラブが有償で伐採を請け負う活動を山本さんが企画した。「耕作放棄地の整備には費用を掛けたくないという声も多く聞いた」と山本さん。対策として、アンケートを実施して現状把握に努めるとともに、「結果を踏まえ、可能な限り安価に設定することで利用してもらいやすいようにした」と話す。「産地を守っていくためには、伐採を希望しない人にも耕作放棄地の整備の重要性を地道に訴えていかなければいけない」と山本さん。他団体との交流や相互協力がこれまで以上に重要になると考え、「この活動を通じて、後継者や新規就農者などの次の世代がやりやすい環境にしないといけない」と展望する。(山本さんの経営規模=ウメ400アール、温州ミカン30アール、水稲20アール)
〈写真:一粒一粒丁寧に作業する山本さん。「産地を守りたい」と精力的に活動する〉
【愛知支局】愛西市早尾町でレンコン12ヘクタールとサツマイモ40アールを栽培する株式会社水谷グルッポの代表取締役・水谷真也〈みずたに・しんや〉さん(33)は、レンコン農家だった祖父母の後を継ぎ、就農して9年目を迎える。規格外のレンコンを活用できないかと考え、2年前に「れんこんパウダー」の製造と販売を開始した。すべて自社生産で、下処理が大変なレンコンを皮ごと粉末にする。栄養素を壊すことなく、手軽に取り入れることができるという。食物繊維が豊富で、腸環境を整えるのはもちろん、ビタミンやミネラルを多く含み、免疫力向上や花粉症の緩和も期待されている。パウダーは料理や飲み物に加えたり、パウンドケーキやドーナツなどに使ったりすることも可能だ。水谷さんは「お勧めの食べ方はヨーグルトで、乳酸菌との相性もいい。毎日食べています」と話している。
〈写真:れんこんパウダーを手に水谷さん〉
【愛媛支局】西予市三瓶町周木の川西高司〈かわにし・たかし〉さん(47)は妻の美楠子〈みなこ〉さん(46)と、「ムラサキ」や「トウキ」などの薬草を11アール、かんきつを78.8アールで栽培。収入保険への加入で、かんきつの収入減少に備えている。会社員時代に商品開発に携わった経験を生かし、「当帰茶」を西予管内の道の駅で販売。ムラサキを使った化粧品「オールインワンジェル」を開発中で、来年春の完成を目指す。高司さんは、前職の野菜の接ぎ木苗を生産・販売する会社で、漢方薬原料生薬の国内自給率向上を目的とした厚生労働省の薬用植物国産化・利活用促進プロジェクトに参画。「この時に薬草と出合いました。ムラサキの根のきれいな紫色に興味を持ち、調べると効能も魅力的。本格的に薬草を育て、商品化したいと思いました」と話す。薬草栽培の土作りには、身近で手に入る有機物を活用。真珠の貝殻は粗めに砕いて畑に散布することで、成分がゆっくり溶け出し、土壌のpH調整効果が長く続く。海藻、米ぬか、廃土を寝かせ、カリウムやアミノ酸を多く含む肥料を自分で作る。化学肥料や農薬を使わず、健康や環境に配慮した農業を実現した。「農作業で肌荒れした母の手が心に残っています。農業を頑張る女性を応援したいという思いから化粧品開発を始めました」と高司さん。ムラサキには、やけどや切り傷など皮膚の炎症を鎮静化し、肉芽形成を促進する作用があり、これを生かしたオールインワンジェルの開発に取り組んでいる。ムラサキのほか、地域特産の宇和海産パールと野村町産シルクをエキス化して配合。3種の原料で「四国西予ジオパーク」の海・里・山を表現した。香りや使い心地などは美楠子さんの意見を積極的に取り入れ、試作は最終段階を迎えているという。
〈写真:試作段階のオールインワンジェル。パール(海)、シルク(里)、ムラサキ(山)のエキスを使用〉
▼コロナ禍で迎えた3回目の夏休み。子どもたちはどのように過ごしただろう。行動制限こそなかったものの、第7波で感染者数は全国的に高位で推移し、天気は大雨になるか猛暑になるかという極端な経過で、行楽に出かけるのは難しかったかもしれない。ただ、2年間も3密回避や行動自粛を強いられたのだ。せめて開放的な環境で発散する機会を作ってあげたい。
▼子どもたちが気になったのは、夏休み明けに増えるという自殺を防ぎたいと考えたからだ。厚生労働省によると、小・中・高生の自殺は一昨年が過去最多、昨年は過去2番目の多さだった。しかもコロナ禍が始まった一昨年に急増している。
▼自殺者数はコロナ禍前から増加傾向にあり、背景にいじめなど子ども社会の問題があるのは確かだろう。専門家によると、そこにコロナの感染拡大で3密回避の対応などが求められ、ストレスが重なった。多くの大人も不安やストレスを抱えているのだから子どもも例外ではない。
▼厚生労働省は、関係省庁や自治体などと連携し、子どもや若者を対象とした啓発活動などを強化している。電話のほか、親しみやすいようSNS(交流サイト)による相談窓口も用意した。「まもろうよこころ」でネット検索すれば窓口のサイトに行ける。もう一つ、周囲の大人や友達が普段と違う表情や行動などのサインに敏感になることも大事だ。「休んでいい」「逃げていい」と伝えよう。