今週のヘッドライン: 2022年08月 3週号
東北地方を横断する低気圧や北陸地方で停滞する前線に向かい、暖かく湿った空気が流れ込んだ影響により、3日以降、北日本から東日本の広い範囲で記録的な大雨に見舞われた。山形県と新潟県に大雨特別警報が発令されたほか、発達した積乱雲が続く線状降水帯が複数の地域で発生した。国土交通省によると、東北や北陸など69の河川が氾濫(8日時点)し、土砂災害なども相次いだ。農業関係でも農地や農業用施設などで多数の被害が報告され、農林水産省によると、10日午前9時30分時点で農林水産関係の被害額は64億3千万円に上り、調査の進展により今後も増加する見込みだ。
農林水産省は5日、2021年度のカロリーベース(供給熱量)の食料自給率が前年度比1ポイント増の38%と発表した。小麦、大豆の作付面積と単収の増加、コロナ禍で低迷していた米の外食需要の回復などが寄与した。過去最低だった前年度よりも改善したものの、依然として低水準にとどまっている。食料・農業・農村基本計画では、カロリーベースの自給率を30年度までに45%とする目標を掲げる。新型コロナやロシアのウクライナ侵攻、急激な円安など食料の安定供給を脅かすリスクが高まる中で、食料安全保障の確立に向けた国内生産基盤の強化が急務だ。
農林水産省は、2022年度予備費を活用して実施する「肥料価格高騰対策事業」の詳細を公表した。22年6月から23年5月までに購入した肥料を対象に、増加した肥料費の7割を支援する。23年度までに化学肥料低減メニュー(15項目)の2項目以上取り組むことを要件とし、申請は5戸以上のグループで行い、JAや肥料販売店などがまとめて申請も可能。申請時には、注文票など購入価格が分かる書類が必要だ。
8月に入り、北海道、東北、北陸で大雨となる一方、関東以西は猛暑が続いている。本年産の水稲は、出穂―登熟期の高温に伴う品質低下に十分警戒してほしい。白未熟粒や胴割れ粒が多発する要因であり、1等米比率が低下し、稲作経営に大打撃を与えるためだ。NOSAIでは関係機関と連携し、品質低下が多数見込まれる場合は注意喚起する態勢を取る。その際、水稲共済加入者は必ず収穫前に被害申告をしてほしい。水稲の品質低下への対応について、稲穂ちゃんがNOSAI職員のみのるさんに聞いた。
近年、日本に接近・上陸する台風では、園芸施設の大規模被害などが発生している。気象予報で台風接近が分かった後も、部材の点検や簡易な補強など、すぐに実施できる被害防止対策がある。千葉県がまとめた「農業用ハウス災害被害防止マニュアル」から、台風襲来1~2日前にできる事前対策を中心に紹介する。
新型コロナの感染拡大やロシアによるウクライナ侵略をはじめ、物価高騰や頻発する自然災害など暗い話題が多い中、気分が落ち込んでいる人も多いのでは。「日本笑い学会」の副会長を務める医師の昇幹夫(のぼりみきお)さんに「笑う大切さ」について寄せてもらった。
【秋田支局】2018年に就農した大館市道目木の太田美鶴さん(35)は、長ネギ80アールとナシ50アール、リンゴ10アールを手掛けている。果樹を究めたいという思いから就農を決意。畑や園地の管理に細かく気を配りながら、規模拡大を目指す。ナシやリンゴなどに興味があり、大学では果樹を専攻した。卒業後は東京都で果樹関係の専門職に就職。全国の落葉果樹の作柄や耕地面積のほか、生産量や出荷量を調査し、統計を出す業務を担当した。太田さんは「全国の果樹園地を見て回る中で、農業に直接携わりたい気持ちが強くなっていった」と振り返る。エネルギーがあるうちに果樹栽培に挑戦したいと思い、30歳で帰郷して就農。初期投資が少なく就農当時に価格が安定していたネギの栽培を始めた。先輩農家から技術を教わり、20年からは念願のナシとリンゴの栽培に取り組む。日々の作業では、やるべきことや園地の状態をリスト化し、整理した内容を確認してから作業に取り掛かる。困ったことがあれば、果樹や野菜部会の部会員、先輩農家の助言をもらい、迅速な問題解決を心掛けているという。「周りの人に助けてもらいながら、失敗しても試行を重ねて前進できている」と話す。太田さんは昨年の春先に霜とひょうの被害を受け、収量を落とした経験を持つ。「野菜と果樹の複合経営で危険分散を図っていたが、気候の影響などで予期しない病害虫や生育不良の被害に遭うことがある。災害に対する備えは重要」と説明する。今年からは収入保険に加入し、安心して営農できているという。今後について「果樹園地を広げていき、今の倍以上の面積を作付けしたい」と張り切る。
〈写真:「果樹もネギも栽培が楽しい」と太田さん。ナシ「幸水」の収穫を8月末に控えている〉
【山梨支局】「あらゆるリスクが取り巻く今の時代には、収入保険への加入は必須。地域の農家や仲間にも勧めているよ」と話すのは、韮崎市新府地区の山形喜久太さん(46)。「白鳳」「なつっこ」「日川白鳳」「川中島白桃」「浅間白桃」などモモ8品種を2ヘクタールで栽培する。就農前、営農指導員だった山形さんは、地元農家から頼られる存在。新規就農者や専門学校山梨県立農林大学校の学生にも技術指導する。東日本大震災後のモモの市場価格低下や、3年前に流行したせん孔細菌病などのリスクに備える必要があると考え、2021年に果樹共済から収入保険に移行した。21年6月、従業員の1人が新型コロナウイルスに感染した。陽性者が触れたモモを介して感染する懸念から、保健所の指示で出荷が停止に。出荷目前だった日川白鳳1万3千個が廃棄になってしまった。山形さんはNOSAIの担当職員にすぐ連絡し、収入保険で補償されるかを確認。「まさか収入保険で補償されるとは思っていなかったので、加入していて本当に良かった」と振り返る。確定申告の結果、18%の収入減少となり、積立方式から補てん金が支払われた。山形さんは「果樹共済の加入申込は、品種・樹齢ごとに細かく書かないといけないし、損害の評価は類ごとで難しい。収入保険は分かりやすい仕組みで、手続きがシンプルでいいね」と話す。新府地区ではモモの単品目経営の農家が多い。共選場が稼働する夏の44日間に何かあれば、経営へのダメージは大きい。「だからこそ、さまざまなリスクを補償する収入保険を強く勧めたい」と強調する。山形さんの勧めもあり、新府地区では現在56戸中27戸が収入保険に加入している。今後は「異常気象に備えて、品種構成を検討したい。秋から冬にかけて食べ頃を迎え、花粉がある品種がほしい」と山形さん。主産地の出荷が終わった後に収穫期を迎える晩生品種で、より危険分散を図ろうという試みだ。「新府のモモ産地を守るため、末永く経営していけたらいいね」と話す。
〈写真:色づきを確認する山形さん。従業員が新型コロナに感染した当時、「モモを園から持ち出すことが禁止され、私も自宅待機になった」と話す〉
【鹿児島支局】錦江町神川でショウガ1.4ヘクタールを栽培する命苫〈めいとま〉政義さん(59)は、タバコ栽培で使う管理作業車に中耕用の管理機を取り付け、畝をまたげるように改良。ショウガの土寄せ作業に活用している。管理機での土寄せ作業中に、回転しているローターが硬い土で跳ね返った衝撃で大けがをした経験から改良を決意。事故防止になっただけではなく、作業効率の向上、病害対策にもつながった。ショウガは日光に当たると緑化し、商品価値が下がるため、土寄せが必要だ。雑草対策にもなるため、これまで土寄せは5~6回作業していた。土あげの深さ、畝立ての角度をレバー1本で調整できるような油圧式に改良したことで、作業を1回で済ませることができた。作業回数が減ったことで、土寄せの際にかかるショウガへのダメージが少なくなり、根茎腐敗病などになるリスクが軽減された。命苫さんはショウガ栽培用に、さまざまな農機具の改良に取り組んできた。現在は親種ショウガを拾う作業に使う農機具を開発中で、「中腰の体勢が続くため、作業員の負担を軽減したい」と話す。
〈写真:ショウガの土寄せ作業機と命苫さん。「今後も農機具の開発に取り組みたい」〉
【富山支局】「ほかの農家とは違う工夫をすることが大切」と話すのは、射水市黒河で「藤岡農園」を営む藤岡正明さん(77)。主にナシを栽培し、53アールの園地には「幸水」「豊水」などさまざまな品種があり、水稲330アール、タケノコ30アールの栽培も手掛ける。同園のナシは「きららか梨」というブランドを確立し、県内だけではなく、東京や沖縄など全国にファンが広がっているという。きららか梨の一番の特徴は、年間を通じて良食味を味わえることだ。「冬にもおいしいナシを食べたい」という客の要望に応えるため、藤岡さんは長期保存方法の開発を始めた。富山県立大学の協力を得て、氷温保存法をナシに適用することに成功。水やりには富山湾海洋深層水を使用し、より甘みの強いナシを作っている。きららか梨が全国に広がるブランドとなったのは、これらの技術や工夫によるものだ。藤岡さんは「農業が好きだからこそ、こだわりを持ったナシ作りができる」と話す。
〈写真:摘果作業中の藤岡さん。夏季は8月下旬から幸水の販売を予定している〉
▼今年は、梅雨が早く明けたと思ったら猛暑となり、暑さが続くのかと思うと大雨となる極端端な気象推移だ。8月に入って北海道、東北、北陸では大雨、関東以西では猛暑が続く。海外でも、欧州西部の英国やスペインは40度を超える猛暑となり、各地で山火事が発生。川が干上がり、渇水状態に陥る地域もあるなど日本以上に過酷な状況だ。
▼気象庁は、30年間の気温などの平均値を「平年並み」として予報などに用いるが、一方で平年並みの推移になる年はないともいわれている。災害の頻発に、「たまには平年並みで頼むよ」と空に向かって訴えたい。
▼極端な気象の要因とされる地球温暖化に対し、国際的に協調して取り組むための枠組みがパリ協定だ。しかし、ロシアのウクライナ侵攻を機に、エネルギー価格の高騰や供給不安が生じ、温暖化対策の後退が懸念されている。
▼非難の応酬が続くが、対立を続けても誰も得をしないのは明らか。各国首脳には溝を埋める努力の継続を望む。