今週のヘッドライン: 2022年08月 2週号
兵庫県のブランド和牛「但馬牛」の繁殖に取り組む豊岡市の「こうのとり風土セントラルファーム」(綿田謙代表=52歳)は、飼料におからや酒かすなどの食品残さを使った「エコフィード」を利用。粗飼料の自給、放牧などを組み合わせ、地域資源の活用によるコストを抑えた経営を実践する。役割を終えた経産牛は再肥育し、精肉をインターネットや自社の店舗で販売。「地元の餌で育った地元の牛」を前面にPRし、顧客をつかむ。耕畜連携を図りながら農地の維持にも力を注ぎ、持続可能な畜産を目指す。
農林水産省は3日、自民党の農林関係合同会議に2023年度農林関係予算概算要求の主要事項案を示した。世界的な食料需給を巡るリスクの顕在化への対応を含め、食料安全保障の確立と農林水産業の持続可能な成長の推進に向け、生産基盤の強化など8項目を柱に据えた。8月末までに概算要求をまとめ、財務省に提出する。肥料や飼料、燃油など生産資材価格の相次ぐ高騰が農業経営を圧迫する中で、生産現場の不安を払しょくし、離農など生産基盤の弱体化を食い止める十分な予算の確保が不可欠だ。
農林水産省は3日、配合飼料価格高騰に伴い、2022年度第1四半期(4~5月)の生産者実負担価格は、トン当たり7万8834円で過去最高になるとの見通しを明らかにした。配合飼料価格安定制度による補てん単価は同9800円(見込み額)。生産者実負担価格は1年前(21年4~6月)に比べ、1万2176円(18%)上がっている。
両端が丸みをおび、白みがかった黄緑色の「馬込半白キュウリ」と、小ぶりで厚皮の「寺島ナス」など、東京都小平市小川町の宮寺光政さん(72)の圃場(30アール)には、特徴的な野菜が実っている。野菜を生産する傍ら、江戸時代から栽培されてきた在来種「江戸東京野菜」を約10品目生産する。病害に弱いものの、防除回数は増やさず、手をかけた管理を実践。外食需要のある豊洲市場に出荷するほか、小平市内のJA系列の直売所にも出荷。認知度とファンの増加に向けて、地域の公民館で市民講座の講師を務めるなど精力的に活動し、魅力を広めている。
農研機構などは、野菜生産で問題となる土壌伝染性病害10種=表参照=を対象に、圃場ごとの発病しやすさを人工知能(AI)で診断するアプリ「HeSo+(ヘソプラス)」を開発した。土壌の理化学性や栽培管理などの情報をスマートフォンやパソコンから入力すると、発病しやすさを診断し、その対策法が提示される仕組み。病害ごとのAIの正確度は73.6~86.5%だ。アプリは、HeSoDiM(ヘソディム)―AI普及推進協議会が4月から販売。土壌消毒剤の使用低減にもつながり、農業による環境負荷の低減を目指す「みどりの食料システム戦略」の実現に貢献すると期待されている。
良食味のサツマイモ品種が次々と登場し、「さつまいもブーム」に対応した生産増に期待がかかっている。近年は、ねっとりした食感や甘みを持つ焼き芋などを中心に国内需要が拡大。最近発表された新品種は、高品質・多収とともに、端境期出荷や、栽培が難しかった北海道・東北での栽培適性などを持ち合わせ、周年供給や産地拡大に貢献すると注目されている。
【山梨支局】北杜市明野町の農業団地でトマトの養液栽培に取り組む有限会社アグリマインドは、セミクローズド型温室(※)約2ヘクタールで年間1200トンを生産する。「地域とのつながりを大切にしたい」と藤巻公史代表取締役社長(40)。地元の農産物直売所の指定管理者になるなど、地元農家と連携して地域の発展を目指す。同社はカゴメ株式会社が販売する生食用トマト「高リコピン」の栽培を依頼され、2014年に設立。強い農業づくり交付金を利用し、最先端の温室や設備を総工費9億円で整え、15年には10アール当たり70トンを超える収穫量を達成した。天然素材のココヤシ殻を培地にした養液栽培に取り組む。養液の成分を毎週計測し、栽培の段階に合わせて肥料を調整する。育苗は外部に委託し、12月半ばごろに苗を定植。2月初めから11月末まで、40段取りで収穫する。作業人員は通年で社員やパート、実習生ら60人。作業は写真付きのマニュアルで確認できるようにした。作業後、従業員が作業内容をシステムに入力するので、効率的な人員配置と労務管理に役立っている。藤巻社長は「経験や技術が無くても施設栽培に取り組める栽培・労務管理のパッケージができれば」と仕組みの開発に意欲を示す。現在は積算温度などを活用して環境を管理するほか、画像認識を基に人工知能(AI)が予想した出荷量や出荷日を参考に作業している。19年からは指定管理者として「あけの農さん物直売所」を運営。ほぼ一年中ある自社のトマトや加工品のほか、地元農家の野菜を多くそろえて集客する。1袋500円のトマト詰め放題が人気だ。コロナ禍になってからは野菜セットなどのネット販売も始めた。アグリマインドは今年、収入保険に加入。3年前、千葉県に温室を建設した矢先、台風による停電、その後の大雨で浸水被害に遭い、保険の必要性を感じた。基準収入が高いため、補償の下限を7割に設定して保険料を抑えている。
※セミクローズド型温室=設置数が少ない小さな天窓が特徴。側面のファンで外気を取り入れ、室内の圧力が上がると天窓が自動で開き空気を放出する。窓から外気を入れないので虫や病原菌の侵入を最小限に抑えられる。
〈写真:藤巻社長(奥)に温室の状態を報告する役員の西海健太さん(30)。「狙い通りトマトが生育すると、やりがいを感じますね」と話す〉
【山形支局】「農家は経営者。世の中の流れを読み、適切な対策で経営を持続させる責任がある」と話すのは、鶴岡市蛸井興屋〈たこいこうや〉の佐藤憲章〈のりあき〉さん(46)。妻や2人の息子、近隣住民と協力して「はえぬき」や「雪若丸」など水稲約34ヘクタールを作付けている。2019年に収入保険に加入した。2年前に父から経営を引き継いだ際は、必要性をあまり感じず、次年の契約を見合わせようか検討していたという。しかし、20年になると新型コロナウイルスの感染が拡大。行動制限などで米の需給バランスが崩れて価格に影響することを見越し、加入の継続を決めた。予想が的中し、昨年は米価の下落で収入が大幅に減少した。「資材価格の高騰が重なり打撃は大きかったが、保険金を受け取り、経済的、精神的に救われた」と話す。「収入保険の加入継続は正しい判断だった。何が起きるか分からない時代に、手頃な保険料でリスク回避できる収入保険は必須」と信頼を寄せる。収入保険の加入に加え、経費節減を意識して経営を守る佐藤さん。前職のタイヤ販売で培った知識を生かし、自ら農機具を修理するほか、農薬・化学肥料を低減した栽培を実践する。農薬使用量を慣行栽培の3割ほどに抑えるほか、追肥量や消毒回数を減らしながらも高品質・多収量を実現できるよう研さんに励む。「農家の高齢化などを背景に、受託面積が毎年約3ヘクタールずつ拡大している。40ヘクタールまで増やして法人化し、従業員を1人雇用することが目標。農機具販売・修理部門を設け、経営を安定させたい」と佐藤さん。収入保険という味方を得て、新たな農業スタイルの確立を目指す。
〈写真:「幅広いリスクに対応しているのが収入保険の魅力」と佐藤さん〉
【京都支局】農業を起点に2次、3次産業までの企画を立て、生産物の価値をさらに高める6次産業化の取り組みを進めるのは、京丹波町の「株式会社京都ハバネロの里」。京都丹波地域の農家にハバネロ栽培を委託し、生の状態で出荷するほか、ハバネロソースを製造・販売する。代表の高田潤〈たかだ・じゅん〉さん(27)は「わが社は、ハバネロを25年前に国内で初めて商業生産しました。生産量や品質はどこよりも優れ、ハバネロといえば京都ハバネロの里と言われるほどになりました」と話す。同社が栽培を始めた当時、ハバネロは収穫できる時期が限られ、常に取り扱えず、1週間ほどで鮮度が落ちるため、廃棄することが多かったという。「収穫したものをすべて使い切るには加工する以外ない」と、10年前にハバネロソースの商品化に取り組んだ。初めは販路がなかったが、府内をはじめ全国の展示会に積極的に出展するなど営業を重ね、昨今の激辛ブームが追い風となり今では人気商品となっている。同社の製品を販売する地元の道の駅「京丹波・味夢の里」代表の野間孝史さんは「ハバネロソースはメディアなどで紹介され、道の駅でもよく売れています」と話す。同社ではさまざまなトウガラシの試験栽培に取り組み、府内をはじめ兵庫県、香川県、大分県など全国各地約150戸の農家と業務委託契約を結んだ。メキシコ原産ハラペーニョやタイ原産プリッキーヌのほか、パクチーなどの香辛野菜を栽培する。全量買い取り方式で、同社の倉庫に集荷。首都圏を中心にレストランなどへ直売する。インターネットでも販売し順調だという。高田さんは高校卒業後、生産者をはじめ東京の販売店などで5年間修業。その後、同社で仕事内容を習得し、1年前に代表になった。「今までの取り組みの経験を生かし、6次産業化に興味のある農業者の相談にのって、具現化の伴走をしていきたい」と話す。
〈写真:トウガラシの生育を確認する高田さん。自社の畑で30品種以上を試験栽培する〉
【岡山支局】リンドウを1ヘクタール、18品種栽培し、年間15万本出荷する新見市の奥山亮〈おくやま・りょう〉さん(45)。今後は20万本まで増やす予定だ。「平成30年7月豪雨」の浸水で株が弱り、以降5年間の農業収入は想定の3分の1になった。リンドウは一般的に5年間は同じ株から収穫する。すべてを一度に植え替えるには膨大な費用と手間がかかり、出荷は定植2年目まで待たなければならない。このため、年ごとに5千から6千株ずつ植え替え、今年ですべての作業が終わる。「やっと水害前の状態に戻ったが、収入保険の基準収入が元に戻るまで安心できない」。高品質での出荷を維持するため、週1回の防除は必ず実施する。長さ50メートルの畝100列を往復して薬剤散布しながら、花の状態を確認。病気の発生によるロスはほとんど防げるが、重労働になるのが悩みだ。以前から新品種の開発によるPRや、地域のリンドウ農家の所得向上に積極的に取り組み、JA晴れの国岡山のリンドウ生産振興協議会会長を務めるなど信頼は厚い。「花段数が少ないリンドウは廃棄対象だったが、JAと協力して出荷先を開拓し、今は1段でも出荷できるようになった」。近年は地域の小学校の児童を受け入れ、定植から収穫までの農業体験を実施する。2年目の今年は、7月6日に3、4年生11人が圃場でリンドウを収穫し、収穫後はJAの選花場を見学した。「目標は、モモやブドウのように『岡山といえばリンドウ』と言われること。今後もPRに努めたい」と意欲を見せる。
〈写真:「農業と並行して振興に取り組むのは大変だが、みんなのためと思えばやる気が出る」と奥山さん〉
▼ある県の農林水産統計協会から組織解散のお知らせが届いた。季刊で統計情報誌を発行し、地域の話題を取り上げたいとの依頼があり、農業共済新聞地方版掲載の記事を提供していた。数年とはいえ縁があった組織の解散は寂しい。
▼統計は、対象の実態を把握し、対応策などを検討する基礎になるものだ。日本では各省庁が多種多様な統計をまとめ、施策の立案に生かしている。農林水産省は、5年に1度実施する農林業センサスをはじめ、分野別品目別の統計を実施、公表している。
▼ただ、調査には手間や予算がかかる。そのため行財政改革の流れなどを受けて見直しが進み、全体的には縮小されてきた。農林水産省は先ごろ開いた有識者会議で、2025年農林業センサスで集落の寄り合い実施状況など農業集落調査を廃止する方針を提示。複数の委員が継続を求めたという。
▼高齢化・過疎化が進む集落では、共同活動など農業や生活、文化に関わる機能が衰退し、適切な措置や振興策の推進が急務だ。最新の情報通信技術を駆使して実態把握ができないか。廃止ありきは早計だ。