今週のヘッドライン: 2022年07月 3週号
ピーマン4900本の定植を終えた露地とハウスの圃場を、農事組合法人HHA泉畑の戸來邦次代表(72)と研修生の米澤真弓さん(27)、小野寺貴大さん(28)が見回る。ハウスでは主枝の誘引具合などを確認。「主枝を誘引用のひもに巻き付けて上に伸ばそう」と、誘引方法をアドバイスした。同法人は、岩手県花巻市太田で水稲17ヘクタール、大豆16ヘクタール、ピーマン1ヘクタールなどを栽培する傍ら、新規就農希望者を受け入れている。岩手県農業公社は、「就農促進実践研修支援事業」で研修生の受け入れを支援しており、2020年度の事業開始から7人が独立就農した。
参院選は自民党が単独で過半数を獲得し、与党は安定的に政権運営ができる基盤を手にした。一方で、新型コロナやウクライナ情勢など、世界的な社会や経済の困難は続いており、対策が急務だ。岸田文雄首相は11日の会見で、この状況を「戦後最大級の難局」と評し、有事の政権運営を強調した。国内農業についても肥料、飼料、燃油など生産資材価格の高騰が農家の経営を圧迫している。不測の事態にも揺るがない食料安全保障の確立も課題だ。農業経営の維持が困難となれば、離農など生産基盤の弱体化は避けられない。一刻も早く経営安定を図り、持続的な営農が展望できる農政の方向を示すべきだ。
農林水産省は8日、農産物の知的財産管理に関する検討会の中間論点整理を公表した。登録品種の海外流出防止に向け、育成者権者に代わって知的財産権の管理や国内外での侵害の監視・対応などを行う専任的な管理機関を設立すべきと提起。海外での育成者権者の保護・活用により、国内農業の振興や輸出促進に役割を果たす必要を強調した。対象とする品目や国、具体的な業務の在り方を協議し、年内にも取りまとめ、2023年度中の立ち上げを目指す。
夏を迎え、農産物の収穫作業が本格化する。農作物共済や果樹共済、畑作物共済の加入者には、保管中農産物補償共済の加入を検討してほしい。収穫後に納屋や倉庫で保管する農産物が水害などの自然災害や火災、盗難などに遭った場合に補償する仕組みで、各共済の加入者が加入品目を選択できる。保管中農産物補償共済の仕組みを、稲穂ちゃんがNOSAI職員のみのるさんに聞いた。
雨よけハウスで夏秋ピーマンを栽培するJAおおいたピーマン部会豊後大野支部(123戸)では、4割が天敵利用など総合的病害虫・雑草管理(IPM)を導入し、重要なウイルス病のトマト黄化えそ病(TSWV)の発生を5分の1に減らした。事務局長を務める福井敏之さん(65)は12アール栽培し、病原を媒介するアザミウマなどの対策として、天敵製剤の利用に加え、土着天敵が集まる天敵温存植物を圃場周辺に植えるなど工夫を凝らす。年間の薬剤散布回数は3割削減した。「作業が楽で、防除効果も高い。明らかにメリットを感じている」と話す。
夏休みは旅行や祭りなど楽しいイベントが多い。手軽に利用できるスマートフォンのカメラで、夏の思い出をたくさん撮ろう。写真家の尾辻󠄀弥寿雄さんに上手に撮影するポイントを教えてもらう。
【新潟支局】「生キクラゲのおいしさを最大限に引き出すポイントは火を入れすぎないことです」と話す長岡市黒津の反町敏彦さん(58)。妻の加代子さん(58)とパート従業員とともに、全国的にも珍しい生キクラゲを生産する。キクラゲの生産を始めたのは2018年。長年、農閑期はシイタケを栽培してきたが、キノコの種類を増やそうと着目したのがキクラゲだった。キクラゲは国内生産量が少なく、消費量の大半を輸入に頼っている。中でも、生キクラゲの国内市場は3%程度とごくわずかだ。プリプリとした食感が特徴で、販売店舗が少ないため、珍しさから需要があるのではないかと考えた。種菌を植える培地や栽培用のハウスなど、シイタケ栽培で使う設備をそのまま流用できたことも、栽培を始める決め手となった。「キクラゲは暑さに強いので、夏場の冷房は不要です。一つの株から何回か収穫できて、場所を広く取らずに栽培できますし、育てやすさも魅力ですね」と敏彦さん。栽培には水分が欠かせないため、ハウス内が乾燥しないように、タイマーをセットしてミストを噴出し湿度を管理する。水分を与えすぎると生育に影響が出ることから、日々の天候を見極めて散水量を調整。収穫は手作業で、加代子さんが中心となってスタッフをまとめている。販売当初の売れ行きは思わしくなかったが、昨年、テレビ番組で生キクラゲの特集が放送されたところ、需要が一気に伸び販路が拡大した。現在、県内各地の直売所やスーパーへ出荷している。購入者の評判は上々で、問い合わせも多いという。敏彦さんは「販路が拡大したのはうれしいですね。多くの方に生キクラゲを味わってもらいたいです」と話す。
〈写真:「妻の力がなかったら、うちは回りません。とても感謝しています。これからも仲良く二人三脚で頑張っていきます」と敏彦さん〉
【岩手支局】宮古地域では、JA全農オリジナル品種のミニトマト「アンジェレ」の作付けを2021年に始めた。アンジェレは、へたを付けず、ばらで出荷するため、作業の負担を大幅に削減した。契約栽培で価格が安定し収益性が見込めるため、JA新いわてが生産者と共同で産地化を目指している。アンジェレは、ゼリー分が少なく、冷やすと果肉はサクサクとした食感がある。糖度が高く食味が良いことから、小売りでの人気が高い。栽培管理では灌水の多さが特徴だ。吸水性が高く、ほかの品種の倍近い灌水量を必要とする。ほかのミニトマトは、吸水量が増えると裂果が心配されるが、裂果が少ない品種のため収穫遅れの心配が少ない。「大玉トマトやミニトマトの栽培経験がある方は灌水量の多さに驚く」とJA新いわて宮古営農経済センターの佐々木舟〈しゅう〉さん。「アンジェレは水を与えても裂果が少なく、糖度がのりやすい」と話す。宮古市田老の扇田〈おおぎだ〉友和さんは、21年からアンジェレを栽培する。今年はハウス3棟(4.5アール)で5月下旬に900株を定植し、7月中旬に出荷が始まった。「へた無し・ばらで出荷するので、出荷作業が楽になった」と扇田さん。出荷規格はS・M・Lの3段階だが、約9割が販売単価の高いM規格に分類され、規格外品は非常に少ない。果実全体が濃い赤色になってから収穫するため、収穫期を見極めやすいという。「契約栽培で販売価格が決まっていて、収入のめどを立てられるので雇用を確保しやすくなる」と手応えを感じている扇田さん。JA新いわての佐々木さんは「アンジェレの栽培管理は比較的容易なので、新規就農者も挑戦してほしい」と勧めている。
〈写真:アンジェレの生育を確認する扇田さん。誘引はハウスの形状に合わせた方法が可能だ〉
【島根支局】大田市祖式町の「楽荏会〈らくえいかい〉(石原太美昭代表=73歳、構成員7人、1ヘクタール)」は、耕作放棄地を利用してエゴマ栽培に取り組む農家のグループだ。自家消費・自家栽培をモットーに、設立時は荒れ地だった農地を拠点に耕作する。「‟楽しくエゴマを作る会"という名の通り、グループ活動の負荷を極力なくし、構成員のペースで栽培してほしい。苗作りなどはみんなで協力している」と石原代表。同会のエゴマの油は市販品より色が濃く、特有の臭みがないと好評だ。構成員の北野茂美さん(70)は「自分たちで育て食べるものだから、より良い品質を求めている。そのため栽培意欲が湧いてくる」と話す。石原代表は「農地保全への使命感は大事だが、そのやり方も大事。『自分もやらなきゃ』と刺激し合う今の体制で、農地の維持につながれば」と期待する。
〈写真:楽荏会のメンバー。左から髙橋恒子さん、金田やす子さん、北野さん、石原代表〉
【京都支局】「伝統があり、質の高い『丹波くり』の増産・再興は、地域活性化につながると思う」と話す福知山市の奥田友昭〈おくだ・ともあき〉さん(41)。2018年に「くりのうえんプロジェクト」を始動し、耕作放棄地4.5ヘクタールに約2千本移植した。奥田さんはデザイン会社を経営し、福知山商工会議所青年部員として地域づくりに腐心している。「ここでしかできないこと」と注目したのが丹波くりだ。農業の経験が無かったため、地元のクリ農家に師事し、青年部などの協力を得て栽培に取り組む。ペーストに加工して市内の飲食店に卸すほか、自ら運営するカフェで丹波くりの焼き菓子を販売。今後は輸出を視野に入れている。成木期の収量は8~9トンを見込み、「自分が成功モデルになることで生産者が増えてくれれば」と意気込む。
〈写真:「丹波くりを目当てに足を運んでもらえるようにしたい」と奥田さん〉
▼新型コロナウイルス感染症の感染者数が急増している。政府は、重症化リスクの高い高齢者などを守り、医療提供体制の人員を確保するため、医療従事者と高齢者施設従事者を対象としたワクチン接種などの対策を打ち出した。早期に感染拡大を抑え、日常生活を取り戻してもらいたい。
▼今回は数えて「第7波」だという。この間、新型コロナウイルスは変異を繰り返した。現在主流のオミクロン株の系統は、ワクチンを接種していても発病する人が多いとされる。
▼新型コロナウイルスの変異株は、ギリシャ文字と番号で整理されている。オミクロンは、24あるギリシャ文字の15番目だ。使っていない文字もあるが、番号も含めれば変異株の数はいくつになるのか。最後のオメガを使う前にせめて風邪並みに治る病気にしてほしい。
▼新型コロナ感染症と闘う医療現場を描いた夏川草介氏の小説『臨床の砦(とりで)』を読んだ。感染症指定医療機関に勤める現役の医師であり、際限のない診療と感染への恐怖、患者と向き合えないつらさなどを率直につづる。手探りの中で「正解とは言えなくても最善の道を選んだ」との記述が印象に残った。