今週のヘッドライン: 2022年06月 3週号
大阪府では、独自の「大阪版認定農業者制度」を設け、共同での機械導入・施設整備の補助や技術指導など都市近郊の中小規模農業者の活動支援に力を入れる。国の認定農業者に加え、地産地消や特産品の安定生産に取り組む都市農業の担い手確保を目指している。ブドウ産地の羽曳野市では、大阪版で認定を受けた若手農家など5人がスマート農業機器を導入。作業時間の削減や販売価格の向上で成果を挙げている。
中央酪農会議(中酪)は15日、この1年間に酪農家の97.0%が「経営環境の悪化」を感じ、現在の環境が続いた場合は55.8%が酪農経営を「続けられない」と回答した実態調査の結果を公表した。経営悪化の要因には、円安やウクライナ情勢、原油高、コロナ禍などが挙がっており、経営努力では対応が困難な状況だ。経営悪化に伴い現場からは乳価の期中改定を求める声が上がり、関東生乳販売農業協同組合連合会(関東生乳販連)は乳業メーカーに交渉を要請した。危機的な状況から脱し、離農など生産基盤の弱体化を招くことがないよう政府には万全の対応が求められる。
NOSAI団体は16日、2023年度の農業保険関係予算の必要額確保を求める要請書を金子原二郎農相に手渡した。新型コロナウイルスの影響による収入減少、台風や豪雨など自然災害の頻発、国際情勢の変化による悪影響が懸念される中、農業者の早期の経営再開・営農継続に向け、共済金の早期支払い、収入保険の補てんやつなぎ融資による資金対応に組織を挙げて取り組んでいると説明。収入保険と農業共済が農業経営のセーフティーネットとして国内農業の生産基盤強化、農業・農村の次世代への継承に貢献できるよう、収入保険の保険料および積立金、共済掛金にかかる国庫負担金の確保などを強く要請した。
5月下旬から6月上旬にかけて関東や東北などの広範囲で降ったひょうは、麦や果樹、園芸施設などに大きな被害をもたらした。自然災害に遭った際、収入保険や農業共済加入者は、忘れずにNOSAIに事故発生通知や被害申告をしてほしい。収入保険は「つなぎ融資」で農家の資金繰りを支援。農業共済は迅速・適正な損害評価と、早期の共済金支払いに全力を挙げている。つなぎ融資を受け取るまでの流れなどを、稲穂ちゃんがNOSAI職員のみのるさんに聞いた。
東京都農林総合研究センターは、野菜など多品目栽培を支援する「東京型農作業スケジュール管理アプリ」を民間企業と共同で開発。スケジュール管理のデジタル化と見える化などにより「作業効率や作物の品質向上につなげられる」と利用者を増やしている。現在、スマートフォンやパソコンなどで使える農業支援アプリ「Agrihub〈アグリハブ〉」の機能の一部として統合され、地域を問わず、生産者は無料で利用可能だ。
水田には、イネに網を張るクモ、畦(あぜ)や水面を歩き回るクモなど、さまざまな種類が生息している。農研機構農業環境研究部門(通称:農環研)農業生態系管理研究領域で上級研究員を務める馬場友希さんは、農地での生態系への関わりや、害虫の天敵としての役割などを研究するクモの専門家だ。身近なクモを通して、農業や環境への理解を深めよう。馬場さんに、水田のクモの多様性や観察のポイントを教えてもらった。
【山形支局】「地域の特産品を生み出し、放置竹林の解消につなげることができれば」と話すのは、山形市の村木沢地区振興会で会長を務める加藤昇〈かとう・のぼる〉さん(67)。同振興会では、人口減少や裏山の荒廃などの問題解消に向け、「裏山探検~村木沢の宝再発見~」をテーマに、メンマ作りなどの活動を展開している。テーマの一つとして取り組むメンマ作りは、地域の生産物を生かした特産品を作り出す目的で実施し、今年で3年目。同振興会メンバー約10人で結成した「メンマつくり隊」が、原材料のモウソウチクの採取から加工までを担う。同地区では、放置された竹林が年々広がり、農地への影響やイノシシによる被害が問題となっていた。そこで、成長が進み、生では食べられなくなったモウソウチクを活用したメンマ作りを始めた。タケノコ掘りのシーズンが終わる5月中旬に、1~1.5メートルほどに伸びたモウソウチクを採取し、皮をむいて約20センチにカット。その後、砂糖を加えて湯がき、乳酸発酵、天日干しの過程を経てメンマが完成する。2年前に初めて手がけた際は、加工段階で雑菌が混入してしまったことから、県農業総合研究センターから発酵手順などの指導を受けた。その後、漬物樽で発酵させる際はビニールを敷き、モウソウチクを隙間なく詰めるなど、加工技術を改良。昨年は歯ざわりの良いメンマを作ることに成功したという。専用の加工所が必要となるため商品化は未定だが、活動に興味を持った団体や企業に作り方を普及している。メンマつくり隊の隊員・広谷幸江〈ひろや・ゆきえ〉さん(66)は「竹林の管理に困っている方たちに、メンマ作りを広げていきたい」と話す。同振興会では、自然を生かしたサイクリングコースの設定や、史跡とパワースポットを巡るウオーキングマップ作成などの活動にも取り組む。「どれも村木沢の魅力を感じられる活動になっている。ぜひ足を運んでいただきたい」と加藤さん。今後も地域活性化に力を入れていきたいと考えている。
〈写真:メンマに加工するモウソウチクを隊員らと採取する加藤さん(右)〉
被害防止の対策徹底も大切
岡山市 居石 和宣〈すえいし・かずのり〉さん(55)
園芸施設共済に加入してすぐに被害に遭うとは思っておらず、申し訳ない気持ちがいっぱいで、備えることの大切さを改めて感じました。2019年の台風10号が去った翌日、ハウスの屋根全面が破れ、ショックを受けました。小さな切れ目からの風で破れ、作物は全滅でした。幸い、作物の半分は収穫して、ほかのハウスは無事だったので、収入面の影響はそこまで大きくありませんでした。農業を始めるまでは、台風がこんなにも怖いものだと思っていなかったので、それ以来、天候は常に気にしています。児島湾に面する地域なので、波の高さまで確認していますよ。強風対策として、少しでも風が強いと感じる日は、必ずビニールを固定し直します。切れ目があれば、どれだけ小さくてもすぐに補修するように徹底しているので、今のところ被害は防げています。近年は異常気象で予測のつかない災害が多いです。日頃の対策も大切ですが、万が一のセーフティーネットとして、園芸施設共済への加入が重要だと思いますね。
▽ハウス9棟・30アール(コマツナを中心に軟弱野菜)
(岡山支局)
〈写真:「さらなる備えとして、今年から収入保険にも加入しています」と話す和宣さんと妻の友美さん(53)〉
【北海道支局】広尾町の角倉円佳〈すみくら・まどか〉さん(39)は、株式会社マドリンの代表として酪農を営む傍ら、帯広市でラジオ番組のパーソナリティーを務める。農業の世界だけではなく、地域や都市に向けて酪農の意義を伝える活動に取り組む。同社は2007年に設立。搾乳牛約60頭、年間出荷乳量はおよそ714トンだ。コントラクターやTMR(混合飼料)センターを利用するほか、育成預託などは外部委託し、搾乳に特化した経営形態となっている。角倉さんは大学卒業後にカナダで酪農研修を2年半経験。現地の女性経営者に強い影響を受け、帰国後に1人で牧場を立ち上げた。十勝は酪農が盛んな地域だが、その楽しさを世間に発信する人や場が少ないように感じ、ラジオ局に自ら売り込んだという。酪農を楽しんでいる人たちが、その楽しみを発信していかないと未来につながらないと感じ、酪農家が子供たちの夢として目指すものになるよう、酪農の楽しさを発信している。同社は本年度、畜産農場におけるHACCP(ハサップ=危害分析・重要管理点)の考え方を取り入れた衛生管理手法「農場HACCP」の認定を受けた。「経営がきちんとなされ、牛が健康でなければほかのことはできない。認定を受けたことで、牛たちを安全に管理するという意識がさらに高まる」と角倉さん。「作業を可視化することで、従業員に教えやすく、徹底できなかった作業が細かく対応できるようになってくる」と期待する。実習生の受け入れを通じて、酪農家を育てたいという思いがより強くなったという。実習生たちの新たな経験に対する反応を見ることは、楽しく、励みにもなっている。「『牧場を女性1人で経営する』『女性同士や男女の友人同士で共同経営をする』などの考え方が広がってもよいのではないか」と角倉さん。「酪農をやりたいと思っていても、女性だからという理由であきらめないでチャレンジしてほしい。酪農の世界がもう少し多様化し、地域としても新たなやり方を受け入れていく体制が整ってほしい」と話す。
〈写真:ラジオ番組のパーソナリティーを務め、情報発信に余念がない角倉さん(右)〉
【和歌山支局】有田市の「有限会社ヒカル・オーキッド(佐原宏代表=65歳、従業員数55人)」は、コチョウラン108アールを栽培。SDGs(持続可能な開発目標)の一環で独自ブランドを開発し、環境に配慮した農業に取り組む。コチョウランの鉢植え出荷は、一般的に樹脂や陶器の鉢に植え、花姿を整えるため金属の支柱を使う。こうした資材は、花が枯れた後は不燃ごみとなる。佐原さんは「ギフトは最後まで喜ばれるものとして、後の処理まで考えなくては」と考え、独自ブランド「フォアス」を立ち上げた。フォアスは、同社の理念「一つしかない地球のために=For One Earth」から名付けられ、地球環境に配慮した持続的な農業の実現を目指す。鉢植えの資材には、竹ひごの支柱や再生紙で作った植木鉢を使い、不燃ごみが出ないように徹底した。資材は自社で開発し、環境に配慮した独自の設計となっている。観賞後のコチョウランの回収・再育成事業にも力を注ぐ。花は散ると廃棄されるのが一般的だが、「専門家が手を加えることで再び花を咲かせる。人々に笑顔を届ける贈り物に再利用することが可能」と佐原さんは話す。現在、コチョウランの付加価値の向上にも挑戦している。和歌山県の伝統工芸「紀州漆器」「熊野黒竹」と連携し、鉢植えにアートの要素を加え、運送用の木製パレットの廃材を鉢で再利用するなど、SDGsの活動に対するメッセージ性をより高められるように取り組んでいる。佐原さんは「これまでの6次産業化に、環境への配慮による付加価値、アートによる付加価値を加えて、農業の8次産業化を目指している」と話す。
〈写真:独自ブランド「フォアス」のコチョウラン〉
▼農研機構が、ウェブサイト「東北農業気象『見える化』システム」を公開した。1キロ四方のメッシュ気象データを使い、東北6県の日々の気象を地図やグラフなどの画像で表示する。気温と日照時間の平均・積算値マップは高温障害のリスクや登熟進度の目安が確認でき、日々の寒暖の目安マップはその日の気温と平年の同じ時期との高低差が分かる。
▼同システムの前身は「水稲冷害早期警戒システム」だ。1993年の大冷害をきっかけに準備を進め、96年にスタートした。東北地方の気象と水稲生育に関する情報を集約し、水稲の生育ステージや葉いもち予察などの情報を発信した。
▼画期的だったのはモニター農家の参加だ。各農家から自身や地域の生育状況などが報告され、システムの改善にも生かされたと聞く。システム自体は、ネット接続の環境があれば誰でも利用でき、多くの農家が営農の参考にしたのではないか。当然、自分も取材の一環として定期的に参照していた。
▼新たなシステムは、最近の気象状況を踏まえ、低温・高温双方に対応できる内容という。気象災害は激甚化・頻発化が懸念されている。営農の参考にぜひ活用してほしい。