今週のヘッドライン: 2022年06月 1週号
「農業保険は、園芸産地へ若い人を受け入れる上で重要な制度。特に影響が大きい設備投資後の災害に備えて補償が不可欠」と、高知県黒潮町の施設20アールでキュウリ・オクラ、水稲95アールを栽培する田辺尚実さん(76)。施設キュウリ・オクラなどの産地である同町は、台風や津波など大災害への備えとして園芸施設共済が広まり、加入率は9割を超える。園芸施設のレンタルなど新規就農の促進事業と組み合わせ、産地振興が図られている。加えて、築年数にかかわらず新築時の資産価値まで補償される特約や、収入保険とのセット加入も選ばれている。
JA全農は5月31日、2022年肥料年度秋肥(6~10月)の価格を公表した。前期(春肥)比で尿素や塩化カリ、硫安(粉)などの単肥は25~94%値上げした。複合肥料の高度化成(15―15―15)も同55%値上げした。肥料原料は、世界的な穀物相場の上昇で需要が旺盛となる一方、ベラルーシや中国、ロシアからの輸出が停滞し、需要ひっ迫に拍車がかかっている。急激な円安の進行もあり、今後の価格や調達への影響は見通せない状況だ。輸入に依存する生産資材や飼料なども高騰し、農業経営を直撃している。増加するコスト負担の影響緩和対策や価格転嫁への理解醸成が喫緊の課題だ。
農林水産省は2日、2022年産米などの都道府県別の作付け意向(第2回、4月末現在)を発表した。主食用米の作付面積の減少幅は全国で約3万5千ヘクタールと見込まれ、需給安定に必要とされる約3万9千ヘクタールに届いていない。同省は、引き続き麦・大豆や飼料作物などへの転換を促す方針だ。
主食用米は37県が前年産実績比で減少傾向、10県が前年産並みで、増加傾向はなかった。第1回(1月末時点)に比べ、減少傾向は15県増えた。
収入保険は、自然災害や価格低下などによる販売収入の減少を補償対象とする。台風などで農業用ハウスが損壊した場合、早期の再建、経営再開には園芸施設共済による備えが欠かせない。農業用ハウスなどの再建を手厚くサポートする園芸施設共済と、青色申告の実績を基に販売収入の減少を補填(ほてん)する収入保険。セットで加入すれば、もしものときも安心だ。
NOSAI協会(全国農業共済協会、髙橋博会長)は5月28~29日、獣医学系大学の学生を対象としたNOSAI獣医師職員の採用説明会を開いた。28日は東京都武蔵野市の日本獣医生命科学大学、29日は相模原市の麻布大学で実施し、両会場合わせて82人の学生が参加した。
鮮やかな花の青さが目を引く「バタフライピー」のハーブティーが、写真映えや美容効果への期待などもあり、カフェやレストランなどで人気が高まっている。東南アジアの作物だが、静岡県伊東市などでハーブ・エディブルフラワー(食用花)を研究する「ミエコズガーデン」の小松美枝子さんによれば、国内でも家庭で簡単に栽培できるという。魅力と栽培のポイントについて教えてもらった。
水稲などの緩効性肥料に使われるプラスチック被膜殻の海洋流出防止が喫緊の課題となっている中、滋賀県農業技術振興センターは、水稲や小麦作でプラスチック被覆の代わりに硫黄被覆やウレアホルムを用いた肥料でも、同等の収量を得られると確認した。品種は水稲「コシヒカリ」、小麦「びわほなみ」で、異なる土壌条件で2年間試験した。被覆肥料は全国の水田面積の約6割で使われ、施肥の省力化に欠かせない。環境に配慮した代替技術の開発加速化が期待されている。
育苗ハウスの保険は絶対必要
【山梨支局】「キュウリは苗が大切だから、育苗ハウスには保険が絶対必要。仲間や新規就農者に勧めているよ」と話す都留市の瀧口大祐さん(74)。25アールでキュウリ1700本を露地栽培し、園芸施設共済には2011年から加入する。瀧口さんのキュウリは市場関係者が集荷に直接来るほど引き合いが強い。手作業で接ぎ木して育てた丈夫な苗が高品質の秘けつだ。2500本を育苗し、地域の農家にも提供する。3月末に播種し、10日ほど育成した後に接ぎ木。台木用カボチャ「エイブル」にキュウリ「Vアーチ」を接ぐ。苗床の下に電熱線を引いて加温し、生育や気候に合わせて温度を調整。接ぎ木部分を風に当ててはいけないため、ハウス内にトンネルを設置して管理を徹底する。接ぎ木苗は、5月上旬と6月中旬の2回に分けて定植。5月末から9月ごろまで収穫するため、葉が混み合わないよう株間は70センチを確保する。水田だった畑には、有機肥料だけを施用するとともに、水が抜けるように穴を数カ所掘り、もみ殻を入れるなどの工夫を凝らす。昨冬、2棟あるハウスのうち1棟の屋根面全体のビニールが強風で損傷し、共済金を受け取った。瀧口さんは「自分たちで張り直すので、ビニールの購入費用として共済金は十分。とても助かった」と振り返る。14年2月の大雪では1棟が全壊。その後、パイプ径を19ミリから22ミリに変更し、今までよりも20センチ深く土に埋め込むことで強度を上げた。筋交いを設置し、強風時や降雪時には自作したアーチ部への支柱を立てて補強している。瀧口さんは「息子が就農し、今後は新しいハウスを建築する予定。ソーラーと蓄電池を使って、燃料費がかからず、SDGs(持続可能な開発目標)にも配慮した農業を目指したい」と話す。
〈写真:強風で損傷し、張り替えた屋根面を指す瀧口さん〉
【新潟支局】新発田市横山にある髙橋農園の髙橋健太さん(64)・幸子さん(57)夫妻は、モモ(スモモを含む)45アール、ナシ50アール、ブドウ75アール、リンゴ110アールのほか、水稲1.6ヘクタール、水稲育苗ハウスを活用したトマトなどの野菜や、休耕田を活用してフキノトウの栽培にも取り組む。現在、多目的防災網施設を利用したモモの栽培に力を入れている。園全体を多目的防災網で覆うことで、多方向に対する高い防風効果が得られるほか、慣行の薬剤防除との併用で、せん孔細菌病の発病を大幅に抑制できるという。「多額の設備投資が必要でしたが、安定生産が実現できれば採算が取れると確信して取り組みました」と髙橋さん。同技術は、県農業総合研究所園芸研究センターが2019年度に発表し、県内では髙橋さんだけが取り組んでいる。同農園では、米は主にJAに出荷し、果実や野菜は自ら運営する直売所のほか、JAや商業施設のインショップなどでも販売。果物や米、加工品は新発田市のふるさと納税の返礼品にもなっている。直売所の販売と加工品の製造は幸子さんの担当で、ジャム、ジュース、コンポートなどは同農園の果実が原材料だ。髙橋さんは「就農当時は父から引き継いだブドウ、リンゴ、ナシで取り組んでいましたが、現在は5本の柱プラスアルファで、新たな作物栽培を日々模索しています。今後はリンゴやナシでも多目的防災網施設を取り入れられれば」と意欲的だ。
〈写真:「多目的防災網で覆うことで、暴風に対して高い効果がある」と髙橋さん〉
【岩手支局】「農業は災害や病気などのリスクと常に隣り合わせ」と話すのは、奥州市水沢の「佐々木果樹園」の佐々木朋滋さん(42)。多品目の果実を栽培することで、自然災害などのリスクを分散させた。果実はコンポートなどに加工品し、地元のスーパーや産直などで販売する。佐々木さんは勤めていた会社を退職し、2008年に実家で就農した。現在は2.5ヘクタールの圃場で、父の省市さんが始めたリンゴのほか、モモやナシなど6品目の果実を栽培する。「就農当初、リンゴの中でも早生や中生の品種が多く、販売単価が安かったため、経営はあまり良い状態ではなかった」と佐々木さん。その後、リンゴの早生品種を減らし、販売単価が高いモモやナシの栽培を始め、安定した経営を目指した。モモやナシは、リンゴより早い7月中旬から収穫が始まる。「奥州市内では、リンゴをメインで栽培する人が多く、モモやナシを栽培している人は少ない。リンゴの作業の手が空くタイミングで対応できるので、効率的に収入を増やすことができる」。経営を安定させるため、土地に合った品種の栽培を考えている。「新しい品目を見つけたら栽培するようにしている。何度も失敗したが、自分のペースで新しいことに挑戦できるのが農業の魅力」。モモの果実をシロップに漬けたコンポートを19年から販売する。「加工することで賞味期間を長く保つことができる。生に近い状態を味わえるので、多くの人に食べてもらいたい」と佐々木さん。「品目をばらけさせることで、今後も自然災害などのリスクを分散させていきたい」と力を込める。
〈写真:「モモとナシは気温が高いうちに収穫すると実が軟らかくなりやすいので、気温が低い朝と夕方に収穫する」と佐々木さん〉
【福井支局】芳香と効能が特徴のシソ科植物「ホーリーバジル」。池田町水海〈みずうみ〉の合同会社結舎〈むすびや〉代表・杉茂樹〈すぎ・しげき〉さん(68)は、1.6ヘクタールで栽培し、茶やハーブ水などに加工して販売する。栽培地の拡大や雇用などにも取り組み、「地域の人の生きがいや元気を生む場をつくりたい」と話す。ホーリーバジルはインド原産。さわやかな香りと薄紫のかわいらしい花が特徴だ。茶やハーブ水にすると、抗酸化作用や免疫力を高めるなど多くの効能があるという。耕作放棄地で安定して栽培できるほか、特有の香りでイノシシやシカによる食害を受けにくいため、新たな農作物として注目されている。杉さんは、千葉県の障がい者福祉施設で働く傍ら、2007年からホーリーバジルの栽培と商品開発に携わっていた。定年退職後、知人の誘いで池田町を訪れ、環境の良さと人の温かさに触れ、家族とともに15年に移住した。移住後、千葉県で栽培していたホーリーバジルと比べ、草丈は低いものの、葉が肉厚で茎の色が濃く、香りがしっかり感じられるようになった。杉さんは「今の環境が変化をもたらしているのでは」とみている。地域の人から「ハーブ水を室内に散布すると、これまで出ていたカメムシが室内に入ってこなくなった」と聞き、調べてみると、カメムシやムカデなど害虫に対する忌避効果があることが分かった。「ホーリーバジルは知られていない効能が多い。これからもっと新しい発見ができそうで楽しみだ」と杉さん。今年は同町角間地区でも3ヘクタールで栽培を始め、今後も町内全域での耕作放棄地解消に取り組む予定だ。種まきや収穫などの繁忙期と商品加工の時期は、地域の人を雇用し、活性化にもつながっている。杉さんは「5ヘクタールの圃場で観光農園を開きたい。今後も地域の人に元気と夢を与えられる場所をつくっていきたい」と意気込む。
〈写真:昨年収穫し自然乾燥させたホーリーバジルを手に杉さん。さわやかな香りがしっかりと残る〉
▼2021年度食育白書が閣議決定された。新型コロナ感染症の感染拡大が続き、その影響は人々の行動や意識、価値観にまで波及したと指摘。テレワークなどの在宅時間増加に伴い、家族で食を考える機会が増え、家庭での食育の重要性が高まっていると報告した。
▼家庭や地域などの具体的な取り組みは、第2部に記述する。こどもの生活習慣づくりでは「早寝早起き朝ごはん」を紹介。朝食を毎日食べる子の方が、食べない子に比べ、学力や体力で優位との裏付けも示した。
▼ただ、21年度の朝食欠食率は小学生で5.1%、中学生で7.1%となり、若干だが前回調査(19年度)比で上昇した。朝食を食べない親世代の習慣が、朝食を食べない家庭環境に影響している可能性があるとする。在宅時間が増えても親世代に朝食の習慣がなく、欠食率を高めてしまったか。
▼親世代への働きかけでは「"おとう飯(はん)"始めよう」キャンペーンを報告する。おいしければ手間を掛けず簡単な料理でよいと父親に家事への参加を促す。不慣れな人に"おいしければよい"は難しい。「おいしい」と伝える気遣いが背中を押すだろう。