今週のヘッドライン: 2022年05月 4週号
国産濃厚飼料の増産に向け、イアコーンサイレージを都府県で普及させようと、各地で実証試験が進んでいる。都府県の約3割のコントラクター(作業受託組織)が所有する汎用(はんよう)型飼料収穫機に装着できる専用のスナッパヘッドを農研機構が開発。水田転換畑や冬春野菜圃場に作付け、イアコーンは畜産側が活用し、茎葉は緑肥としてすき込むことで耕畜双方に利点がある。黄熟期でも収穫できるイアコーンは、関東以西で台風による倒伏などのリスクも低減できる。トウモロコシ国際相場が高騰する中、12%(2020年度)にとどまる濃厚飼料自給率の向上へ期待は大きい。
政府は27日、2021年度「食料・農業・農村白書」を閣議決定した。「変化(シフト)する我が国の農業構造」を特集し、基幹的農業従事者の高齢化と減少傾向が続く中で、20~49歳層は15年と比較して2万2千人増の14万7千人になったと報告。法人経営体数も増加傾向で推移し、特に畜産部門では採卵鶏や豚で約9割を占めるなど、農業構造の変化を示し、「今後の持続可能な農業構造の実現に向けての大きな方向性を示す道標(みちしるべ)となる」と分析した。トピックスでは「新型コロナウイルス感染症による影響が継続」など7項目を盛り込んだ。本編は4章で構成。第1章「食料の安定供給の確保」では、新型コロナやウクライナ情勢による食料供給リスクを見据え、食料安全保障確立の重要性を強調した。
農地利用と担い手を結び付けた「地域計画」(人・農地プラン)の法定化を柱とする改正農業経営基盤強化促進法など農地関連法が20日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。地域ごとに10年後に目指す農地利用の姿を表示する目標地図を作成し、市町村が目標地図を含めた地域計画を策定・公表する。市町村には、法施行(2023年4月予定)から2年後までの策定を求める。
NOSAI香川(香川県農業共済組合)管内では、水田営農や新規品目の振興など地域農業の核となる経営者が共済部長(NOSAI部長)を担い、農業保険への信頼感を高めている。地区ごとの代表が参加する共済部長協議会では、制度改正や事業推進方策の内容を学び、組合員へ伝える。地域のJAや農業委員会とも関わって、さまざまな施策への理解を深め、地域の農業振興に尽力している。
夏場にかけて、圃場の畦畔〈けいはん〉や法面〈のりめん〉などの草刈りをする機会が増える中、刈払機の使用による事故に注意が必要だ。農作業中の負傷事故数は、機械別で最多を占める。農作業安全情報センターとして機械別、作業別の安全作業のポイントをホームページで公開する農研機構農業機械研究部門の皆川啓子主任研究員に、刈払機の事故防止対策を聞いた。
農業用ため池に転落し、命を落とす事故が全国で相次いでいる。特に暑くなる5~9月に増える傾向にあり、死亡事故原因の割合では、釣りや水遊びなど「娯楽中」が22%と最も多い。一般社団法人水難学会の斎藤秀俊会長に、農業用ため池の注意点や転落してしまった際の対応方法などを紹介してもらう。
東京都農林総合研究センターなどは先ごろ、庭先直売所の売り場をリアルタイムで見られるアプリ「見えベジ」を共同開発し、直売所情報サイトでの公開を始めた。店頭に並ぶ商品と、その売れ行きをスマートフォンなどで確認できるのが特徴だ。適時の補充で品切れを防げるなど生産者と消費者、双方の利便性を高めるとともに、売り上げ向上も期待できると注目を集めている。
リスクヘッジで栽培に注力
徳島県阿南市 安田 均さん
▽やすだ・ひとし、58歳▽洋ラン45アール、水稲1.07ヘクタール
洋ラン農家の父の後を継ぐため、2010年に東京から徳島へUターンし、シンビジウムの栽培を始めました。洋ランは繊細な花なので、最初はいろいろな困難がありましたが、中でも悩まされたのが自然災害によるハウスの被害です。地理的に強い雨風を受けることが多く、ハウスの倒壊や水没などを経験しました。ひどいときには、水没したハウスの中を魚が泳いでいることがありました。経営のためには、販売収入の安定のほかに、ハウスなどの損失に対する補てんも必要だと考え、19年に園芸施設共済への加入を決めました。現在はハウス25棟で、3年から4年かけて育てた切り花を、毎年6万本ほど出荷しています。施設の規模が大きいため、被害に対する不安は常につきまといます。夏季は洋ランを鉢ごと高冷地に移し、暑さから遠ざけて育てる「山上げ栽培」をするため、移動先にもハウスが必要になります。山上げ栽培のハウスは標高900メートルにあるため、強風や冬の雪害などの心配がつきものでしたが、共済加入後はそうした不安が解消されたように感じます。リスクヘッジを取ったことで、安心して栽培に励めるようになりました。先輩農家に助けられた経験から、経営には周囲との情報共有や助け合いも重要だと考えています。最近は県内の若手の洋ラン栽培農家が集まった青年倶楽部が、台風への対策案や農業保険のような公的な補償制度の情報を、メーリングリストを通じて共有するなど、横のつながりを強めています。農家の経営努力では避けられない部分は、農業保険の力を借りつつ、知恵や経験を寄せ合って、徳島県のシンビジウム産地としてのブランド力を強化していくとともに、お世話になった仲間に恩返しをしていきたいです。(徳島支局)
〈写真:「出荷できるようになるまでに3、4年かかるので、はらはらする場面がたくさんあります」と安田さん〉
【福井支局】勝山市長山町の門善孝〈かど・よしたか〉さん(72)は、6アールの畑でギョウジャニンニクを栽培。通常は出荷まで5年以上かかるが、株分けすることで、栽培期間を短縮することができた。畑がある同市北谷町は、過疎化に伴い耕作放棄地が増加し、一部は林地のようになったという。門さんは増えていく放棄地を活用しようと、2014年に同町の山中に自生するギョウジャニンニクを株分けし、放棄地に定植し始めた。ギョウジャニンニクは、半日陰で低い気温と水気の多い場所を好む多年草。獣害や積雪に強く、手間があまりかからない作物で、栽培方法が分かれば簡単に作付けできるという。県内ではギョウジャニンニクが認知され始め、新たな特産品になるよう、栽培を希望する同町の農家10人に株分けするなど、生産規模の拡大に努めている。出荷は5月上旬で、主な販売先の北谷町コミュニティセンターでは、地元の住民だけではなく観光客にもよく売れているという。門さんは「より簡単な栽培方法を見つけ出すとともに、ギョウジャニンニクの活用法の研究にも取り組み、耕作放棄地の減少につなげていきたい」と意気込む。
〈写真:「多くの人に買い求められていると聞き、栽培の励みになっている」と除草に精を出す門さん。ニンニク風味の葉や健康づくりへの活用法なども研究する〉
【福岡支局】肥育牛550頭を飼育する田川市の山崎竜也さん(33)は、1カ月に24頭ほど出荷するサイクルを組む。出荷先の業者からは「肉質が良く、もっと卸してほしい」と要望があるという。山崎さんは「家族で経営しているので、出荷頭数を増やすのは難しいところはありますが、素直にうれしいです。モチベーションが上がりますね」と笑顔を見せる。祖父の代から畜産業を営み、F1(乳用牛と肉用牛の交雑種)を3年前に導入するなど肥育に力を入れ、昨年9月に初出荷した。「飼料が高く、経営的にも苦労しましたが、何とか出荷できました。苦労した分、喜びは大きいですね」と話す。最近では、SDGs(持続可能な開発目標)を意識した飼育方法を導入した。SDGsの目標の一つ「気候変動に具体的な対策を」では、気候変動やその影響を軽減する対策が急務とされ、飼料高騰の一因にも異常気象が挙げられている。山崎さんは、異常気象の原因となる温室効果ガスの排出を減らせれば、飼料価格の安定につながるのではと考えた。牛のげっぷから放出されるメタン(農林水産省は主要な温室効果ガス排出源と位置付けている)を抑制するため、カシューナッツ殻液を配合した機能性飼料「ルミナップ」を飼料に混ぜて与えている。「私一人の力は小さなものかもしれませんが、何かしら対策に取り組んで改善につなげていきたいです」と山崎さん。「牛舎にまだ空きがあるので、そこを利用して出荷頭数を増やしたいです」と意欲的だ。
〈写真:メタン抑制効果のある機能性飼料「ルミナップ」を飼料に混ぜて与えている〉
【山形支局】小国町本町地区で繁殖牛78頭、肥育牛30頭を飼養する「株式会社遠藤畜産」では、自給飼料生産による循環型農業の推進と、遊休農地10ヘクタールを活用した放牧飼育に取り組む。また、県が実施する「シマウシ」による吸血昆虫対策の検証に一役買っている。「牛の体調を時間をかけて毎日観察している」と話すのは、同社で取締役を務める遠藤寛壽〈かんじゅ〉さん(36)。2003年に就農し、現在は年間60頭の子牛と肥育牛15頭を出荷する。18年に同社を立ち上げ、寛壽さんが和牛部門全般を担い、代表取締役には父の和彦さんが就いた。生後約9カ月で出荷できる子牛生産は、寛壽さんが考える経営にマッチしており、繁殖牛の規模拡大に力を入れてきた。より健康な牛を育てるため、水田を活用した自給飼料の生産に取り組む。自社所有に加え、地域の農地を借り受けて生産性を高めている。排出物の堆肥化を図り、飼料生産圃場に散布することで、良質な飼料と低コスト化を実現。必要な飼料の約8割を自給する。増頭を進めるには畜舎内だけの飼育では限界があるため、遊休農地での放牧を積極的に取り入れた。「給餌や排せつ処理などの省力化はもちろん、牛の足腰が強くなり、分娩事故が減った」と話す。昨年から県置賜総合支庁産業経済部農業振興課の指導の下、ゼブラ柄塗装による繁殖牛の吸血昆虫対策の検証に携わる。繁殖牛に白い樹脂塗料でしま模様を描くことで、アブやサシバエなどの接近を防ぎ、放牧時のストレス軽減の効果を検証する。「面白い試みに興味が湧いた。明るい話題を提供したいと思い、喜んで引き受けた」と寛壽さん。同課によると、模様ありと模様なしの牛を比較したところ、虫を避けるための足踏みや頭を振る行動が、模様のない牛より4~8割少ないことが確認された。今年は模様が消えないような塗料を選び、長期間放牧で経過を観察するという。寛壽さんは「ここまで効果があるとは思わなかった。今後も協力していきたい」と話す。
〈写真:しま模様に塗られた「シマウシ」〉
▼中国に流出したブドウ「シャインマスカット」について、許諾契約料を試算すると年間100億円以上になると農林水産省が示した。栽培面積は2020年で5万3千ヘクタールであり、さらに拡大傾向にあるという。19年で1840ヘクタールの日本とは29倍の差がある。
▼政府は、農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略を改訂し、新たな事項として知的財産対策の強化を盛り込んだ。具体的には、育成者権者に代わって専門家が知的財産権の管理・保護を行う「育成者権管理機関」の設立を検討。改正種苗法で措置された海外持ち出し制限の実効性を確保する方針だ。
▼フランスには、種苗企業の出資で設立した管理機関があり、国内外の4400品種を管理。年間98億~126億円の使用料収入があるそうだ。試算に過ぎないとはいえ、シャインマスカットの価値の大きさに驚く。
▼日本の農産物の強みは優れた品質にある。輸出先市場での競争力確保に品種の権利保護は不可欠だ。違法な流出を許しては育成者の労苦に報いることもできない。