今週のヘッドライン: 2022年05月 1週号
もちもち食感のパンや麺類などが製造できる"もち性"小麦の特産化が、東北や近畿などで進む。青森県おいらせ町の観光農園「アグリの里おいらせ」では、特有の食感を生かした6次化や販路開拓に取り組む。生産を広げ、2022年産は小麦約10トン分を販売予定だ。苫米地義之代表(61)は「食べたお客さんに喜んでもらえて、加工や販売などで地域に働く場も生まれる」と話す。
政府は4月28日、原油価格・物価高騰等総合緊急対策に2022年度予算の予備費から約1兆5千億円の支出を閣議決定した。農林水産関係は総額751億円。配合飼料価格安定制度の異常補てん基金の積み増しや輸入依存度が高い小麦の国内生産の振興、化学肥料原料の調達先多角化などを支援する。ロシアによるウクライナ侵攻の長期化に伴い、燃油や穀物、資材などの一層の価格高騰も懸念される中、政府はさらに約2兆7千億円を22年度補正予算で措置し、社会経済への影響緩和を図る方針だ。
農林水産業からの温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げた「みどりの食料システム戦略」を進める新法が4月22日、参院本会議で全会一致で可決・成立した。農業者や団体が土作りや化学農薬・化学肥料の使用低減、温室効果ガスの排出量削減などに取り組む活動計画を都道府県・市町村が認定し、農業改良資金の償還期間の延長などの特例措置を講じるほか、特定区域でのスマート農業技術の活用、地域の農業者らの栽培管理協定に基づく有機農業の団地化を推進する。公布から6カ月以内に施行し、施行から5年をめどに見直す。
「今年こそは収量的にも品質的にもいいタマネギを収穫し、 自信を持って全国の消費者へ届けたい」と話すのは、北海道北見市常呂町の清井兼太郎さん(44)。北海道では昨年7月、記録的な少雨、高温で干ばつとなり、農作物に甚大な被害が発生、清井さんも14ヘクタール作付けるタマネギが収量減や品質低下となった。経営の柱が打撃を受けて大幅な収入減少となり、収入保険のつなぎ融資を受けて営農を継続した。
トマトやナス、ジャガイモなどナス科のほか、インゲンマメの葉や果実を加害する外来害虫のトマトキバガに警戒が必要だ。昨年10月、国内で初めて熊本県で確認されて以降、九州各県で相次いで確認されている。万一、国内でまん延すると、大きな被害が出る恐れがある。圃場内の観察を強化し、疑わしい虫を発見した際は、各県の病害虫防除所への連絡が欠かせない。
鹿児島市喜入(きいれ)地区の子育て支援団体「喜入子育てコミュニティKADAN」は、地元住民による交流・観光と草刈り作業を組み合わせた「草刈りツーリズム」に取り組んでいる。代表の亀井愛子さんに、きっかけや活動の工夫を教えてもらった。
【山形支局】長井市九野本〈くのもと〉の「色摩〈しかま〉園芸」では、「九野本きゅうり」のブランドを築き、新鮮な野菜の対面販売と地域密着型の農業に取り組む。代表を務める色摩尚宏〈たかひろ〉さん(25)は、弟の保洸〈やすひろ〉さん(23)とパート10人で、ハウス13棟(80アール)でキュウリを中心にトマト、「くきたち菜」を栽培するほか、丸ナス、トマト、キュウリの苗などを生産する。九野本きゅうりは、皮が柔らかく甘みがあり、パリッとした食感が特徴。サラダや漬物のほか、みそを付けて丸ごと食べてもいいと評判だ。ハウスに隣接する直売所には多くの人が連日訪れ、朝収穫したキュウリが午前中に完売するという。バラ売りのほか、贈答用の箱詰めも人気だ。「『1本食べたらもう1本食べたくなる』『また買いに来た』など、お客さまから多くの声をいただき、栽培する情熱につながる」と尚宏さん。消費者とつながり、新鮮な農作物を提供できる対面販売を最も大切にしているという。キュウリは7割を直売所で販売するほか、市場経由で主に関東方面に出荷する。尚宏さんは子どもの頃から父・清隆さんの農業に向き合う姿を見て育ち、日本一のキュウリ農家を一緒に目指したいと考えるようになった。県立農業大学校(現農林大学校)では野菜栽培を学び、21歳で父が経営する色摩園芸で就農。実践の農業を学んでいた23歳の時、父が突然他界した。「農業の師匠であり、良きパートナー、一番の理解者だった父が亡くなった時は、ショックで何も手に付かなかった」。失意の中にあった尚宏さんだったが、消費者からの励まし、祖父や母の助けが支えとなり、父が大切にしてきた九野本きゅうりのブランドを守り抜こうと一念発起した。会社員として働いていた保洸さんを呼び寄せ、父から受け継いだ「野菜は土作りが大切」という信念を胸に、有機肥料(米ぬか・骨粉・鶏ふん・菜種油かすを混ぜて発酵)で土壌に活力を与え、安全・安心な農作物を栽培する。地域住民の支えに感謝しているという尚宏さんは、「父が取り組んできた地元の小学生を対象にしたキュウリの収穫体験や、給食にみそとキュウリを提供する活動を今後も続けていきたい」と地元への恩返しを忘れない。「顔の見える対面販売に引き続き心掛け、地域に根ざした農業経営で、お客さまに喜んでもらえる農作物を作っていく」と意気込む。
〈写真:「手間を惜しまず、生育に合わせた作業を心掛けている」と尚宏さん〉
【石川支局】有限会社安井ファーム(安井善成代表取締役社長)は、白山市七郎町でブロッコリー、水稲など北陸最大規模の複合経営に取り組む。自社産の野菜を販売する直売所「花蕾屋(からいや)」を2019年にオープン。主力商品のブロッコリーを中心に、多いときで20種類の野菜が並ぶ店内は、味が濃く、おいしい野菜を求める客でにぎわう。同社は栽培面積ベースで石川県産ブロッコリーの約3割をシェアし、年間約190万株を出荷する。直売所店長の鈴木良輔〈すずき・りょうすけ〉さん(39)は「『安井ファーム=ブロッコリー』ということを発信し、何をしている会社か知ってもらえるのが直売所のメリット」と話す。「ここの野菜しか食べられないと言ってくれる常連客もいる。手をかけて作ったものが売れるのを直接見られるのがうれしい」。店内や商品の写真と最新情報を写真共有サイト(インスタグラム)で発信している。1800人余りがフォローし、地元以外の集客につながった。農業体験も実施する。春と秋の年2回で、今年の春はジャガイモを植えた。畑は区画貸出制で、鈴木さんが管理する。親子連れや友人同士など幅広い層に人気があるという。今年3月にはインターネット販売を開始。オンライン購入を希望する消費者の声に応えた。まずはブロッコリーから始め、商品の種類を徐々に増やす予定だ。「子どもが野菜を食べられるようになったなど、うれしい声や改善してほしいことまで、さまざまな声を聞く。声を直接受け取れるのが直売所の良さ」と鈴木さん。今後はインターネット販売を充実させるほか、イベントに積極的に出店し、さらなる集客を目指していくという。
〈写真:接客中の鈴木さん。おいしい食べ方を伝えるなど、コミュニケーションを大切にする〉
【鹿児島支局】「大好きな牛の世話をお父さんとお母さんと頑張りたい」と笑顔で話すのは、垂水市二川の今村穂乃花さん(11)。繁殖牛32頭、子牛17頭を飼う父の義之さん(51)と母の美紀さん(46)の作業を手伝う。自宅の近くに牛舎があり、幼い頃から自然と作業するようになった。給餌、清掃、出産前の親牛の見回りなどに取り組む。作業の合間にはバドミントンをしたり、山菜を取ったりと楽しみながら牛の世話をする。「餌やりをすると、牛たちが寄ってきてとてもかわいいです」とほほ笑む。美紀さんは「手伝いをしてくれるのでありがたいです。どんなことでもいいので、自分の好きなことを頑張ってほしい。全力で応援します」とエールを送る。
〈写真:「牛たちがかわいいです」と穂乃花さん〉
【岩手支局】一戸町奥中山の「おさんぽジャージー三谷牧場」では、5月から12月まで、朝夕2回の搾乳作業時間を除いて放牧酪農に取り組む。三谷剛史代表(45)は、2003年に妻の雅子さんと共に同町で就農。現在は4ヘクタールの牧野で、ジャージー牛18頭(搾乳牛15頭、子牛3頭)を放牧する。1日に150~300キロを搾乳し、生乳は主に自宅の工房で製造するヨーグルトやチーズなどの加工品に使う。「ジャージー牛は乳脂肪分が高く、濃厚な味わいが特徴。全国のお客さまから注文が入る」と三谷代表。「時期によって食べる草が異なるため、季節によって変化する牛乳の味を感じてほしい」と話す。飼料は放牧期間は牧草、冬期間は干し草を与える。肥満などによる病気のリスクを減らすため、タンパク質の多い配合飼料の割合を減らすという。「搾乳量は減るが、牛の寿命が延びて平均分娩回数が増えた」。三谷代表は「牛の生き生きとした姿を見ると、自分もうれしい。今の規模を維持しながら酪農を楽しみたい」と話す。
〈写真:「放牧酪農がしたくて一戸町に移り住んだ」と三谷代表〉
▼5月は水防月間(北海道は6月)だ。梅雨や台風の時期を前に、国民一人一人が水防の意義や重要性について理解を深められるよう定められた。昨今は前線の停滞による大雨がほぼ毎年発生し、各地に大きな被害をもたらしている。居住地域のリスクを家族で確認し、避難経路や避難場所を決め、持ち出し品などを準備しておきたい。
▼水害のリスクや避難行動の検討に必要な情報は、市町村のホームページや国土交通省のハザードマップ情報提供サイトで確認できる。近所に高齢者世帯などがある場合は、緊急時にサポートできるよう避難時の考えなどを事前に確認し、情報を共有しておくと安心だ。
▼気候変動による水災害リスクの増加に備えるため、国土交通省は河川流域ごとの関係者の連携による「流域治水」を推進している。大雨の際に水田に水をためる「田んぼダム」もその一つ。全国で約4万ヘクタールとの推計もあり、地域の防災力強化に貢献している。
▼ダムの役割を果たすには水田機能の維持が大前提だ。地域住民の応援も得て水田維持の仕組みを広げられないか。食料安全保障の点からも命を守る備えになる。