今週のヘッドライン: 2022年03月 3週号
「研修時から子供が生まれたときに必要な費用などを見込み、経営を長期的に考えることができた。アスパラガスをJAに出荷し、収入を安定して確保できている」と話すのは、熊本県阿蘇市一の宮町でアスパラガス32アールを栽培する綿住輝さん(47)。新規就農支援に取り組むNPO法人九州エコファーマーズセンターを利用して10年前に就農した。同センターは就農後も安定して営農できるよう、研修時からライフプランに合わせた経営計画策定などを支援。19年間で輩出した約150人の就農者は現在も営農を続けている。
政府・自民党は、食料安全保障政策の強化に向けて現行施策の検証・検討を始めた。穀物の国際相場上昇や生産資材価格の高騰、頻発する自然災害など各種リスクを洗い出し、関連施策の見直し・充実を図るのが狙い。農林水産省は、省内検討チームを設置。自民党は食料安全保障に関する検討委員会を立ち上げ、5月にも政府への提言をまとめる方針だ。新型コロナの影響長期化によるサプライチェーン(供給網)の混乱やロシアによるウクライナ侵攻を機に、国内国外とも食料安定供給のリスクが高まり、不確実性が増している。国民的な理解の下、国内生産基盤の強化を大前提にした新たな食料安全保障の確立が求められる。
農林水産省は4日、原油価格高騰に対する緊急対策を発表した。農業関係では、施設園芸等価格高騰対策を拡充。施設園芸セーフティネット構築事業の補てん金発動基準について、新たに170%相当までの高騰に備えるメニューを追加する。
同事業は、農家3戸以上でつくる農業者団体などが対象で、国と生産者が1対1の割合で基金を積み立て、燃油価格が発動基準価格(2022年は1リットル当たり81.6円)を超えた場合に、その差額を補てんする仕組み。補てん割合は、農家が基準価格の115%、130%、150%相当の中から選択する。22年事業年度(22年10月~23年6月)は170%相当も選択肢に加える。
農機具共済の引受け実績は、2020年度は共済金額ベースで前年度比102.1%に増えた。衝突や接触などの事故や自然災害による損害などさまざまなリスクから農家の財産(農機)を守り、営農を支える。さらに、スマート農業の普及を踏まえ、搭乗を前提に自動運転が可能な「レベル1」のロボット農機の引受けを21年度から全ての農機具共済実施県で開始。農業の規模拡大や人手不足が進む中、農機を守る備えとして加入の重要性が増している。
農研機構はこのほど、最大45度の傾斜角で作業できる無線リモコン式の小型ハンマーナイフ式草刈機を、株式会社IHIアグリテック、福島県農業総合センターと共同で開発した。1メートルを超えるセイタカアワダチソウやつる性雑草のクズなど多用な草種に対応し、安全な場所から操作ができる。実証試験では、市販の刈払機やリモコン式、歩行型の草刈機と比べ、2倍以上の作業能率を確認した。6月から市販化される予定だ。
学校給食がなくなる3月下旬~4月上旬は、生乳の需給が緩和する恐れがある。牛乳を使った料理を作って、酪農家を支えよう。料理研究家の島本薫さんに「牛乳といちごのゼリー」と「牛乳わらび餅」のレシピを教えてもらった。
【福井支局】「家族を支えるだけではなく、女性が農業経営をリードするモデルになる」と話すのは、坂井市坂井町の伊藤彩華〈あやか〉さん(30)。父親の浩一〈ひろかず〉さん(55)が経営する「株式会社ef」で、妹の優希〈ゆうき〉さん(27)と美香〈みか〉さん(24)とともに、最新のスマート農業技術を利用しながら、多品目を栽培する複合経営に取り組む。彩華さんは大学卒業後、地元の企業に就職したが、2018年に浩一さん夫妻が始めたefの人手が足りなかったことから、長女の自分が支えようと、19年に脱サラし就農した。子供のころから農業を手伝っていた彩華さんが、就農して一番苦労したのが農業機械の操縦だ。浩一さんに教わりながら、トラクターや田植機に乗るものの、まっすぐ進むことも難しかった。その横で、きれいにすんなりとこなす父の姿を見て、技術と経験のすごさを改めて実感したという。そんな中、スマート農業のことを知った浩一さんは「この技術を活用すれば、経験が少ない女性にも、働きやすい環境づくりができるのでは」と考え導入に踏み切った。20年に導入した直進アシスト機能が搭載された田植機の作業では、直進作業が蛇行することなく安定し、1圃場にかかる作業の手間が少なくなった。2人がかりだった肥料散布は、優希さんとともにドローン(小型無人機)操縦資格を昨年取得し、おのおので作業することで、省力化に加え、適期を逃さず散布できるようになった。昨年は三女の美香さんが入社。イチゴのカット加工や販売に貢献している。浩一さんは「今では3人がメインに作業してくれているので、自分の作業負担が少なくなり、とても助かっている」と笑顔で話す。彩華さんは「私たちのような女性でも、スマート農業のおかげで農業機械の作業ができている。これから三姉妹で女性の営農スタイルを確立していきたい」と意気込んでいる。(栽培品目と規模=水稲18.1ヘクタール、麦9.8ヘクタール、大豆5.3ヘクタール、ソバ2.7ヘクタール、白ネギ1.5ヘクタール、イチゴ12アール)
〈写真:イチゴを収穫する彩華さん(手前)、優希さん(左)、美香さん。「コロナが収まったら家族でUSJに行きたい」と話す〉
石川県金沢市 前川 欣裕〈まえかわ・よしひろ〉さん
兼業で水稲栽培を続け、20年になります。特徴のある米作りをしたいと思い、さまざまな農法を研究してきました。良いと思ったことは積極的に挑戦して、肥料の種類や施肥のタイミングなど、5パターン以上は毎年試しています。2016年に「ピロール農法」を知り、1ヘクタールの「コシヒカリ」で実践中です。ピロール農法とは、光合成をすることで土の中に酸素を排出するラン藻という微生物を増やす資材を使う農法です。慣行栽培との大きな違いは、土の中で酸素を放出することです。従来は、微生物が土の中で酸素を使って有機物を分解し活動するため、土壌の酸素が欠乏しやすくなり、根腐れなどが起きやすくなります。ピロール農法は、ラン藻が二酸化炭素を吸収して、酸素を土の中に生み出すことで、微生物の活動が活発化し、ビタミンなどの有用な物質を供給します。通常の米は弱酸性ですが、ピロール農法で育てた米は弱アルカリ性。ビタミン、ミネラルが豊富で体への吸収が良いのが特徴です。販売は主にインターネットです。甘味が多い、体調が改善したという声があり手応えを感じています。大雨で水がつきやすい圃場があり、万が一に備えて収入保険に加入中です。個人の収入を補償の基準にするので、私の経営に合っていて、新しいことに挑戦しやすいことも魅力ですね。今後は、米の食味を今まで以上に向上させる研究をしていきたいです。▽60歳▽水稲7ヘクタール (石川支局)
〈写真:ピロール農法で育てたコシヒカリを手に「抗酸化力が強く、造血ビタミンB12を含有しています」と前川さん〉
【栃木支局】不動産や太陽光発電システム事業などを扱う株式会社アル・ホーム(真岡市)は、2019年にキクラゲ栽培を開始した。栽培規模と販路を年々拡大し、加工品も製造。キクラゲ狩り体験や試食会などで知名度向上に取り組む。栽培のきっかけは、地元の農業用ハウスの有効利用だった。同社の髙橋尚志〈たかはし・なおゆき〉代表取締役(36)は「真岡市はイチゴ栽培が盛んな地域。後継者問題でハウスを処分する農家の相談を受け、何か良い方法はないかと考えた」と話す。国内消費の98%が外国産で、生キクラゲが珍しかったことも栽培を始める決め手となった。栽培を手掛けるのは、髙橋代表の父を含む知人の5人で、平均年齢77歳の「コットンキクラゲ5(ファイブ)」。初めての栽培だったため、那珂川町の「ともちゃん農園」で学んだ。4月中旬に菌床栽培を始め、5月上旬から11月末まで収穫可能だ。商品名「コットンキクラゲ」は、特産品の真岡木綿にちなんで命名。19年は300菌床、20年は1500菌床、21年は3千菌床と栽培規模を順調に拡大した。直売のほか、真岡市内の道の駅や直売所、スーパーで販売。つくだ煮やピクルスなどの加工品開発に力を入れる。キクラゲの知名度向上や地域と交流するため、キクラゲ狩り体験のほか、地域の人を招待した漬物やお好み焼きなどアレンジ料理の試食会を定期的に開く。髙橋代表はカンボジアで働いた経験を生かし、人材確保と同国でのキクラゲ事業の布石として技能実習生を採用する予定だ。「規模拡大も大切ですが、事業の継続を一番に考えていきたい」と話す。
〈写真:栽培担当のコットンキクラゲ5〉
【奈良支局】五條市の「株式会社エー・ジー・エフ・ホールディングス(農業法人株式会社アスカグリーンファーム、山本人彰(やま もと ひと あき)社長=56歳、従業員数14人)」は、大和野菜と、ハウス7棟12アールでアラゲキクラゲを生産する。同社取締役営業統括本部長の蔡顯人〈さい・けんと〉さん(56)は「『明日香きくらげ』を日本全国に広めたい」と意欲的だ。2004年に設立した同社は15年にキクラゲの栽培を始め、現在は年間約20トンを生産する。菌床は国内のメーカーから取り寄せ、黒いキクラゲと、黒色の突然変異で取れた白色のキクラゲを栽培。白色は希少な菌を採取して培養した。収穫後は、1枚ずつ丁寧に手洗いし、おがくずをきれいに取り除く。「乾燥させることで長期保存できる」と蔡さん。天日干しと機械乾燥を経てパック詰めし、地元の直売所やスーパーに出荷するほか、自社のホームページで販売する。キクラゲの冷凍品やつくだ煮、甘酢漬けなども取り扱う。昨年、自社産キクラゲと県内産の食材を組み合わせた加工品を、全国大会「にっぽんの宝物JAPAN大会」に出品し、準グランプリを受賞した。開発に協力した「有限会社三木食品工業(大和郡山市)」の近藤正洋代表取締役社長は「キクラゲを安定流通させていることは素晴らしい。並大抵の努力ではできない。これからも一緒に何かつくりあげたい」とエールを送る。蔡さんは「自社菌床工場を建設し、品質安定と収量増を確立し、キクラゲ日本一を目指す」と話す。
〈写真:「明日香きくらげは最高の万能食材」と蔡さん〉
▼今冬の雪による被害状況を総務省消防庁が公表した。昨年11月から今年2月末までの速報値で、死者は93人、そのうち71人が屋根の雪下ろしなど除雪作業中の事故だ。さらには65歳以上が65人と約9割を占める。
▼この冬は12月下旬以降、北日本日本海側、北陸から山陰にかけての日本海側で低気圧の通過や冬型の気圧配置が強まる日が多く、降雪量が多かった。ニュースでは、雪国とされる地域の人たちが連日の雪かきに疲れ、「これ以上雪は見たくない」と嘆いていた。
▼屋根の雪下ろしなど除雪作業中の不幸な事故が続く状況から、国や自治体では、安全装備の装着や複数での作業、携帯電話を身に付けることなど安全作業を呼びかけた。しかし、屋根雪を放置すると屋根の破損や倒壊なども懸念される。コロナ禍でボランティア活動なども制約された中、やむにやまれず屋根に上がったのではないか。
▼3月を迎え、除雪の負担は軽減されただろう。しかし、雪解け時期は雪崩や落雪、融雪に伴う河川の氾濫や土砂災害に警戒が必要だ。例年よりも多くの雪が残っている。例年並みではないと頭を切り替え、河川の近くや過去に災害が起きた危険箇所など不用意に近づかないようにしたい。