今週のヘッドライン: 2022年03月 1週号
茨城県石岡市大砂で経産牛30頭、育成牛20頭を飼養する石岡鈴木牧場(鈴木昇代表、73歳)では、「牛に無理をさせない酪農」という方針のもと、経産牛1頭当たりの年間産乳量を7800~8千キロ台に抑え、平均産次数は4産程度と、長命連産を実現。粗飼料の7割以上を自家生産するとともに、大豆やふすまなど濃厚飼料の原料の18%を国産で賄っている。生乳の一部をチーズやヨーグルトに加工して収益の向上を図るなど、人と牛双方がゆとりある酪農を実践する。
政府は2月22日、「みどりの食料システム法案」など2法案を閣議決定し、国会に提出した。環境負荷の低減に取り組む農林漁業者や団体による活動計画などを都道府県・市町村が認定し、支援する制度の創設が柱だ。地球温暖化対策で農業分野でも温室効果ガスの排出削減が求められており、環境に配慮した農業生産、流通体制への転換は喫緊の課題だ。農法の転換をはじめ農家には試行錯誤などの負担を伴うことが想定される。農産物価格への転嫁など消費者の理解醸成も含め、持続可能な食料システムの構築に向けた道筋を示す必要がある。
農林水産省は2月18日、2021年産茶の摘採実面積(主産県)は20年産比900ヘクタール減の2万8800ヘクタールだったと発表した。直近5年(17年比)で5千ヘクタール減少しており、農家の高齢化や茶葉価格の低迷などにより面積縮小に歯止めがかからない状況が続いている。
生葉収穫量は、20年産比3万4200トン(11%)増の33万2200トンとなった。主産地・静岡で二番茶以降、おおむね天候に恵まれたことやドリンク原料用の生産増加などから10アール当たり収量が増え、需要が低迷した20年産を上回った。ただ、直近10年では生葉収穫量、荒茶生産量(7万700トン)とも2番目に少ない。
「パートさんは育児の都合に合わせて自由に勤務時間を決められる。1日2時間でも自分の仕事をしたい女性の手伝いをしたい」と話すのは、岩手県八幡平市大更でリンドウ1.3ヘクタールを栽培する宮野亜由美さん(39)。報告・連絡・相談の徹底による作業の効率化などの工夫で、子育て中の女性8人をパート従業員として雇う。2021年は4~5月の低温、8月の高温と病害などにより、収入が平年より大幅に減少。つなぎ融資を受け取り、経営を守った。
先進的な経営を実践する果樹生産者などを表彰する第23回全国果樹技術・経営コンクール(中央果実協会など主催)の受賞者が、このほど発表された。農林水産大臣賞受賞者の概要を紹介する。
中山間地域等直接支払制度の第5期対策では「集落機能強化加算」が新設され、高齢者の外出支援やコミュニティーサロンの創設、新たな人材や移住者の受け入れなど、地域の生活に関わる事業の促進が期待される。内閣府地域活性化伝道師で、有限会社ウィルビーの代表を務める志村尚一さんに、交付金の意義や活用事例を解説してもらう。
【鳥取支局】青パパイアの特産化を試みる取り組みが、2020年5月下旬に日野町で始まった。「奥ひの青パパイヤ研究会」が主体となり、町内に約500本のパパイアの苗を定植。研究会の会長・川北皓貴〈かわきた・こうき〉さん(27)は、昨年を振り返り、「実が小さく、収量は少なかった。来期は定植時期を早め、収量確保に努めたい」と話す。青パパイアは、パパイアを未熟な状態で収穫したもの。独特の酵素をはじめ、18種類のアミノ酸にビタミンC、加えて食物繊維やβ―カロテンなどの栄養が豊富だ。ポリフェノールは赤ワインの7.5倍あることから、メディカルフルーツやスーパーフードと呼ばれることがある。病害虫や暑さに強く、栽培の手間があまりかからず育てやすいため、近年注目されている作物だ。青パパイアは野菜として取り扱われる。2月に種を播き、2~3カ月の育苗、4月下旬から5月中旬にかけて定植し、9月下旬から11月中旬ごろに収穫。順調に生育すると、1本の木から約500グラムの実が10~15個実るという。熱帯中南米地域が原産のパパイアは寒さに弱い。定植時期を早めることで、冷え込む前に収穫可能な状態にするという対応が見込まれる。「収穫を終えた苗木をビニールハウスで越冬させ、育苗コストや種苗費の削減を考えている」と川北さん。定植時期を早め、収穫を早々に終えることができれば、苗木が必要以上に寒さにさらされ弱ることはない。初年度の栽培は豊作とはならなかったが、定植時期の見直しや寒さ対策の改善という収穫があった。川北さんは2019年に、当時勤めていた会社を退職し、県外から単身で鳥取へ移住。日野町の農家・高田昭徳〈たかだ・あきのり〉さんに弟子入りし、農業のノウハウを学んだ。川北さんは「ベテラン農業者と比べるとまだまだ経験が足らず、青い部分があるのかもしれない。しかしパパイアと同じように、農業者として成熟し、町の新たな特産品として紹介したい」と話す。
〈写真:試作品として直売所の店頭に並んだパウンドケーキ〉
【新潟支局】水稲約15ヘクタール、ニンジン90アールを栽培する小千谷市高梨町の原佑哉さん(38)。昨年のうちに収穫し雪の中に貯蔵したニンジン「ひとみ五寸」を、「雪中人参」として出荷する作業に追われている。「ニンジンは発芽状態が出来高を大きく左右すると言っても過言ではない」と原さん。播種作業が始まる8月上旬は最も大切な時期だが、近年は播種期が高温少雨で、「水やり作業は手を抜けない」と話す。「2021年産の作柄は、ニンジンはいつもより収量、品質とも良かった。一方、水稲は出穂期の高温などによる影響で、予想を超える減収となった」と振り返る。家族で農業に取り組むが、機械作業の大半は原さん1人が担当するため、もし自身が農業に従事できなくなった場合や、気候変動で栽培作物が減収した場合などのリスクを考え、20年に収入保険に加入した。「収入保険は、販売収入の減少に対しての支払方式なので分かりやすい」と原さん。「今後は規模拡大を視野に入れ、強い味方となる収入保険だが、それ以上に自らの栽培技術の向上を図っていきたい」と力強く話す。
〈写真:ひとみ五寸を手に「収入保険はすべての品目が対象なので安心」と原さん〉
【岡山支局】JA晴れの国岡山真庭統括本部は、直売所へ出荷する小規模農家の支援を目的に、フルーツパプリカ「ぱぷ丸」栽培の普及に取り組んでいる。ぱぷ丸は最高糖度12度と甘味の強さが特徴。極早生で、開花後45日から50日程度で収穫が可能だ。適切に管理すれば連続着果による樹勢の低下はなく、多収が見込める。他者と競合しない品目を出荷し、農家の所得向上につなげる狙いだ。同JAでは2018年から真庭市などと協力し、共同事業を進めている。事業開始年から試験栽培に取り組み、21年から栽培希望者を広く募集。70人ほどの希望があり、本格的な栽培が始まった。技術指導として同JAが栽培講習会を実施。育苗は同市内の真庭高校久世校地生物生産科に依頼した。生徒は栽培した苗を配布するほか、普及にも携わる。同JAでは学校教育との連携にも取り組む。同JA真庭広域営農経済センターの大月孝之次長は「ぱぷ丸は長期の出荷が可能で、管理が容易。小規模農家の選択肢の一つとして活用してもらいたい」と推進に意欲を見せる。
〈写真:生徒から苗を受け取るJA晴れの国岡山の職員(写真提供=JA晴れの国岡山真庭統括本部)〉
【岩手支局】遠野市で先ごろ、スマート農業を推進し、地域の担い手となる若い世代と企業を結びつける意見交換会がオンライン形式で開かれた。当日は同市の若手農家3人、地元企業3社、関係機関が出席し、農業用ドローン(小型無人機)の活用方法などで意見を交換した。意見交換会は、農業を起点にドローンの活用を推進するNTTイードローンテクノロジー社(田辺博代表取締役社長)と、社会事業コーディネーターとして企業や行政、地域をつなぐ事業を推進する一般社団法人RCF(藤沢烈代表理事)との協力で開かれた。同市では、2021年度に1908ヘクタールで水稲(主食用・加工用・発酵粗飼料用・飼料用)が作付けされている。そのうち、各生産組織や防除組合などが無人ヘリコプターで約220ヘクタール、農業用ドローンで約162ヘクタールを防除。残りの約8割は動力噴霧機などの地上防除だった。NTTイードローンテクノロジー社の山﨑顕代表取締役が、農薬散布以外にも肥料散布や水稲直播栽培など、ドローンの活用方法を紹介。「機体は女性でも扱えるほど軽量化された。北海道や青森県では、女性だけで構成された農薬散布請負チームが活動している」などと説明した。農産物の集荷・販売に取り組む地元企業は、市内の農家の現状を報告した。「高齢を理由に農業をやめるかどうか迷っているという話を聞く。ドローンなどで農薬を散布してもらえないかという相談もある」。市内でネギやナガイモなどを栽培する中平知宏さんは「スマート農業の導入で作業の効率化を図り、子どもたちに農業はかっこいいものだと思ってもらえればうれしい」と話した。
〈写真:実機のデモンストレーションなどを行う予定だったが、新型コロナの影響でオンラインでの開催となった〉
▼東日本大震災から11年となる3月を迎えた。復興庁のまとめでは、産業や生活のインフラ整備はおおむね完了。津波で被災した農地1万9690ヘクタールの94%が営農再開可能となり、復興の「総仕上げ」の段階にあるとする。一方で原子力災害被災地域は、事故収束や環境再生、帰還・移住や農林漁業の再生など課題が多く、引き続き「国が前面に立ち、中長期的な対応が必要」と総括する。
▼福島県では20年3月、帰還困難区域を除く全ての地域で避難指示が解除され、避難指示解除区域全体の居住者数は約1万5千人に増えたという。しかし、同県全体の避難者数はいまも3万4千人いるとされ、とても復興を展望できる状況にはない。
▼原子力災害被災12市町村の営農再開面積は、震災前の4割ほどとされる。避難が長引くほど帰還者による営農再開が難しくなるのは明らかで、今後は移住による新規就農者の確保にも取り組む必要があるだろう。
▼災害発生から10年を過ぎ、被災地では記憶の風化や防災意識の低下を懸念する声が出始めている。阪神淡路大震災の被災地では、特に震災後に生まれた世代への記憶伝承に苦労していると聞く。命を守るために「忘れない」ことの大切さを伝え続けていこう。