今週のヘッドライン: 2022年01月 3週号
コロナ禍による業務用需要の減退などで、2021年産主食用米の相対価格が前年産比10%程度下落した。農林水産省が示した22年産の適正生産量は675万トンで、面積換算でさらに約4万ヘクタールの作付け転換が求められている。政府は水田活用の直接支払交付金や「水田リノベーション事業」の予算確保と内容拡充で、高収益品目への転換などを促す。水田を基盤とした営農への展望と課題について、各地の生産者の声を聞いた。
市街化区域内の農地保全に寄与してきた「生産緑地」は、2022年から指定解除が始まるため、今後の営農継続には、改正生産緑地法に基づいて指定を受ける「特定生産緑地」への移行が必要だ。国土交通省の調査では、昨年9月末現在で生産緑地の8割が特定生産緑地に移行する見通しだが、残る農地は税制優遇の対象外となり、宅地転用が進む恐れがある。都市農業は、消費者との距離が近く新鮮な農産物の供給のほか、農業体験・交流活動の場など多様な機能を有している。国民が農業を身近に感じ、理解を広げる窓口でもある都市農業の継続に向けた制度の周知徹底など働き掛け強化が不可欠だ。
Jミルクは11日、昨年末から年始にかけて懸念されていた生乳の廃棄を回避できたと発表した。酪農家による生乳の出荷抑制や乳業メーカーによる乳製品向け処理努力などに加え、小売り・流通関係者などを通した消費拡大の輪が広がったと説明。生乳需給は依然緩和傾向にあるとして、引き続き牛乳・乳製品の消費拡大を呼び掛けている。
多くの加入者が選択してきた水稲共済の「一筆方式」は、今年産から廃止される。これまで一筆方式に加入していた場合は、収入保険や全相殺方式などへの移行が必要だ。近年は局地的豪雨など甚大な被害をもたらす自然災害が頻発していて、農業保険への加入は欠かせない。今年産から白色申告でも加入可能になる水稲共済の「全相殺方式」などについて稲穂ちゃんがNOSAI職員のみのるさんに聞いた。
2022年度政府予算案のうち、農林水産関係予算で試験研究などに充てられる農林水産技術会議事務局の予算概算決定額は、対前年度比99.9%の663億1800万円となった。重点事項には、生産力向上と持続性の両立を目指す「みどりの食料システム戦略」を据えて、柱となる「みどりの食料システム戦略実現技術開発・実証事業」には34億6600万円を計上し、脱炭素・環境対応などの基盤技術の開発などを推進する。年末に成立した21年度補正予算では「スマート農業技術の開発・実証・実装プロジェクト」に48億5000万円を措置しており、スマート農業やペレット堆肥の社会実装などを加速する方針だ。
絵本を通じて農業の魅力を届けたい――。茨城県龍ケ崎市の農家3人が立ち上げた「アグリバトンプロジェクト」は、小学校低学年向け絵本『おいしいまほうのたび あさごはんのたね』(ニジノ絵本屋)を発刊した。子どもたちが、朝ごはんから始まる旅を通して農業の楽しさや魅力、美しい風景を体感し、成長する物語。中心メンバーである横田農場の横田祥さんに、発刊までの思いや全国に広がる読み聞かせ活動などについて教えてもらった。
【石川支局】金沢市の「AKIO VEGETABLEファームグループ」は「食を通して幸せづくり 人づくり 元気づくり」をモットーに、生鮮食品の生産・卸・加工の3社を運営する。2007年に設立した株式会社HARUSA(金沢市)は、能登町の耕作放棄地を利用した農場で農業生産部門を担う。取締役執行役員・生産部長の坂本洸士さん(38)と、能登農場(能登町宇出津)農場長の森岡康亘さん(38)は、「能登で作られた野菜を多くの人に食べてほしい」と奮闘する。
〈写真:「どんなに厳しい条件でもまた立ち上がるネギのように、真っすぐ、くじけず、じっと風を耐える生産者でありたい」という森岡さん(左)と坂本さん〉
【新潟支局】新潟市西蒲区の大谷学さん(53)は、水稲7ヘクタール、柿1.5ヘクタール、イチジク12アールを栽培し、3年前から収入保険に加入している。収入保険制度が始まった当初、農作業中に聞いていたラジオCMがきっかけで収入保険に興味を持ち、NOSAIの職員から説明を聞いて、2019年に加入した。「加入の決め手は価格低下への補償と、けがや病気に対する補償が受けられることですね」。西蒲区は「越王おけさ柿」の産地で、大谷さんは柿栽培組合の組合長を務める。果樹共済に加入していたが、被害があったときに満足な補償が受けられなかったことから、やめてしまったという。「以前に果樹共済に加入していた近隣の柿農家の半数以上が収入保険に移行しています。収入保険の保険料は果樹共済の掛金と比べそれほど変わらないため、補償内容を考えればいいです」。昨年産の柿は4月中旬の凍霜害で葉芽が枯れ、地域では大幅な収量減となった。加えて、新型コロナウイルスの影響で外食産業などの米需要が激減。米価の下落を招き、農業経営に追い打ちとなっている。「柿の凍霜害と米価下落のダブルパンチです。この被害年に保険金をもらえたら、経営は非常に助かります。NOSAIさんにはぜひ、手厚い補償をお願いします」
〈写真:柿の剪定作業に励む大谷さん。収入保険に期待を寄せる〉
【鹿児島支局】南種子町中之上で高収益作物のスナップエンドウを栽培する山田豊さん(35)は、さらなる経営安定の柱として実エンドウに着目。収益向上に期待を寄せる。農業の経験がなかった山田さんは、県指導農業士の浦口啓一郎さん(61)の下で2016年から2年間ほど修業し、18年に就農。研修先で栽培したスナップエンドウに魅力を感じ、挑戦を始めた。「土地を探すところからのスタートだったので、単価が安定して、小規模でも収益が見込めるスナップエンドウに引かれた。露地栽培で初期投資が抑えられる点も決め手になった」。実際に栽培する中で、収益性は高いが、デリケートな作物で、ちょっとした衝撃で傷ができることに気づいた。離島の南種子町は、海風による強風や霰、霜の影響を受けることが少なくない。「霰や強風、霜などが原因で傷ができる。傷ものは商品価値がなくなるため廃棄になる。先読みして対応することが重要」。このため、霰を防ぐネットを張ったり、風よけになる作物を植えたりしている。21年には実エンドウの試験栽培を始めた。「実エンドウは、豆が無事であれば商品価値は下がらない。まだ検証段階だが、地域の気象条件に合う可能性を感じている。経営のリスク回避の一助になれば」
〈写真:「農業は自分で一から形にしていく難しさに魅力がある」と山田さん〉
【秋田支局】東成瀬村椿川で水稲80アールの栽培と肥育牛3頭の飼育に取り組む高橋栄作さん(67)は、ヤギ放牧によるエコ農業を実践している。ヤギは想像以上に雑草を食べるという話を近所で聞き、2020年8月、あきた総合家畜市場で3カ月齢の雄と18カ月齢の雌のシバヤギ2頭を購入。自宅周辺にある牧草地の雑草管理を目的に放牧した。「以前のように足腰の踏ん張りが利かなく、法面の除草などは年々きつくなっていた。昨年は働き者のヤギのおかげで楽をさせてもらった」と目を細める。環境に慣れたシバヤギは雑草を食べて成長し、21年4月には子ヤギの雄2頭を産んだ。高橋さんは「にぎやかになったが、牛とヤギの相性はあまり良くない。一緒に放牧すると、けんかが始まる」と苦笑い。今年もヤギ一家の力を借り、できる限りエコ農業を持続するという。
〈写真:「雑草をよく食べてくれた」と話す高橋さんと雄のシバヤギ〉
▼年末に見たNHK総合テレビの番組で、在来野菜が絶滅危機にあるとし、地域のカブ在来品種を1人で守る長崎県平戸市の農家を紹介した。種を譲り受けたときも生産者は1人だけだったそうで、農家が栽培をやめた時点でそのカブは世の中から姿を消すという。
▼一度失敗した経験から、採種に用いるカブ選びや交雑を避ける畑への植え替えなど細心の注意を払っている。一般に流通する種苗会社のF1品種とは違い、形や大きさがそろいにくく栽培にも手間がかかる。採算性を考えたら続けられない仕事だ。在来品種は地域の食文化との関わりも深いはずで、うまく継承する仕組みは作れないものか。
▼日本有機農業研究会は、野菜を中心に70品種の特徴や栽培、採種の方法を紹介する『種から育てよう―有機のタネの採り方・育て方』を12月に発行した。会誌『土と健康』に掲載した農家の寄稿などをB5判120ページにまとめた。在来品種だけでなく、自ら育種したり、海外から取り寄せたりと由来や物語がそれぞれにあり興味深く読んだ。
▼同じ地域の在来品種でも、採種する農家の選び方次第で年月とともに形質は多様に変化していくと聞く。同書では、自家採種などに関心のある農家に向け、研究会の種苗ネットワークへの登録や集会時などに開く種苗交換会への参加を呼びかけている。理想の追求に手間を惜しまない農家の熱気を感じてみたくなった。