今週のヘッドライン: 2021年12月 2週号
「農家ソムリエーずに出荷している農家の売り上げは間違いなく伸びている」と話すのは、徳島市川内町の株式会社「農家ソムリエーず」の藤原俊茂代表(36)。徳島県のブランドサツマイモ「なると金時」を生産する県内の32軒の農家と契約し、スーパーなどへの販売や輸出など大口出荷を実現。高品質とまとまった数量を背景に卸価格を決めた売り先との交渉が可能になり、契約農家の収入向上につなげる。
農林水産省は11月30日、自民党の農林関係合同会議に水田活用の直接支払交付金の見直し案を示し、了承された。2022年産でさらに4万ヘクタールの深掘りが必要となる主食用米からの作付け転換を実現するため、飼料用米だけではなく定着性や収益性が高い麦・大豆、野菜、子実用トウモロコシの作付けを促す方向だ。転作拡大を支援する「水田リノベーション事業」と併せて作付け転換の選択肢を示し、取り組みを後押しする。主食用米の需給と価格の安定に向け、産地や農業者の経営判断による「需要に応じた生産・販売」を着実に推進したい考えだ。
農林水産省は11月26日、2020年度の野生鳥獣による全国の農作物被害金額は前年度比3億800万円(2%)増の161億900万円と発表した。増加は2年連続で、温暖化に伴う野生鳥獣の生息地拡大なども指摘される中、官民挙げた対策の一層の強化が求められる。被害面積は10%減の約4万3千ヘクタールで、被害量は0.4%増の45万9千トンだった。
コロナ禍などに伴う飲食店での消費減退が続く中、農家カフェ経営者が販売方式の工夫で需要拡大につなげている。茶農家の息子で、名古屋市西区に店舗を構える松本壮真(そうま)さん(33)は、オフィスで水出し緑茶が気軽に楽しめる「朝ボトル」で売り上げ向上につなげた。熊本県八代市では、養蜂業を営む株式会社蜂の郷にしおかの西岡源起(げんき)さん(27)が、自動販売機により蜂蜜の販路拡大を実現した。時代のニーズを捉えた若手経営者の2事例を紹介する。
中央畜産会は11月26日、2021年度「全国優良畜産経営管理技術発表会」を開催した。全国の推薦事例から選出された8事例を審査し、最優秀賞の農林水産大臣賞4点、優秀賞4点を決定した。農林水産大臣賞の受賞者から肉用牛飼養の3経営を紹介する。
身近な生活道路は日々の暮らしに欠かせない重要なインフラだが、きれいに整備したいと思っても行政は財政がひっ迫し、住民の要望に十分応えられなくなっている。そこで、行政任せにせず、住民自らが道づくりに乗り出す、住民主導のインフラ整備の動きが広がり始めている。山口県宇部市の「楠(くすのき)クリーン村」では11月13日、住民やボランティアの若者が専門家の指導のもと、耐久性の高い高品質のコンクリート舗装に初挑戦した。楠クリーン村在住のジャーナリスト、後藤千恵さんに聞いた。
【岡山支局】岡山市の野上庄吾さん(65)は、ブドウの省力栽培「野上方式」を考案した。岡山大学大学院と共同で効果の実証試験に取り組む。笠岡市にある農園と協力し、自身の園地以外の環境で同方式による栽培を実施。その効果を検証するとともに、栽培方法をマニュアル化するという。野上方式はブドウの根域を制限し、水と液肥を点滴灌水することで管理を自動化する。土壌には、容易に手に入りコストが安い真砂土を使う。野上さんは「土づくりを考えなくていいことが最大のメリット。施肥や園内の除草作業などの"下側"の作業をおよそ半分に省力化することで、房づくりなどの"上側"の作業に集中できるようになる。栽培に必要な場所以外は土を固めても問題ないため、ハイヒールで歩けるほど作業環境が良くなる」と話す。一般的には根を発達させた方が良いとされるが、適切な灌水管理をすれば根は必要最低限でよいという。「農業は科学だと考えている。勘に頼るのではなく、データを蓄積することで発展する」と野上さん。共同研究に取り組む岡山大学大学院環境生命科学研究科の福田文夫准教授は「野上方式は分かりやすいシステム。初心者でも失敗なく取り組めるようになることで、新規就農者が増えることを期待している。野上さんは研究熱心で物事を突き詰める姿勢がすばらしい。自分の技術を惜しみなく伝え、後進の育成に尽力してくださる懐の深い方だ」と話す。
〈写真:棚は軽トラックが乗り入れられる高さに設定。「運搬がとても楽になった」と野上さん〉
岩手県北上市 小原泰二さん(70)
昨年12月、降り続いた雪で育苗ハウス3棟がつぶされてしまい、共済金を受け取りました。私の住んでいる北上市和賀町は特に雪が多い地域で、近所の農家さんも同様の被害を受けたと聞きました。
ビニールを被覆しているハウスは倒壊の危険があると思い、ハウス周辺の除雪を念入りに行っていましたが、被覆していないハウスはつぶされないと思い、除雪をしていませんでした。
ビニールを被覆していないハウスが雪でつぶされたという事例は聞いたことがなかったので、驚きましたね。パイプに付着した湿った雪が凍り、さらに雪が付着してかなりの重さになっていたのだと思います。
つぶされたハウスは育苗で毎年使用していたので、すぐに再建しました。これまでよりも太い32ミリのパイプを使い、補強も付けましたよ。軒を高くすることで、被覆しているハウスの脇に積もる雪の高さに、ある程度耐えられるようにしました。
今の時代、気候変動が激しく、いつどんな災害が起こるか分かりません。農業を続けるなら、園芸施設共済のような災害対策への投資は必要だと思います。元気なうちは農業を続けるつもりなので、今後も加入を続けていきます。
(岩手支局)
〈写真:「ハウスが大きくなったので、田植機のままハウス内に入ることができて苗箱運びが楽になりました」と小原さん〉
【香川支局】農作業を効率化しようと、耕具に改良を加える高松市東山崎町の雪野利数さん(70)。「少し工夫するだけで、体にかかる負担は大きく減りました」と話す。40代で農業を継いだ雪野さんは、面積を拡大する中、効率よく短時間で作業をするため機械化を進めてきた。しかし、野菜の排水管理の仕上げなど、どうしても手作業が必要になる場面があり、しかも重労働だった。少ない力で少しでも多く掘れるようにと、スコップの柄を木から鉄に替え、自分の身長に合わせて30センチほど長くした。くわは、地面の状態に影響されずに掘りやすくなるよう、先端を3センチほど切ってとがらせた。当初は、くわの柄を曲げすぎて力が入らなくなるなど、やり直すこともしばしば。加工を繰り返す中、自分の体にあった耕具が素早く作れるようになっていったという。現在は麦12ヘクタール、ブロッコリー50アールを作付ける中で、耕具をどのように改良するか考えるのが楽しみの一つだという。「既成品を使いやすい耕具に改良することにやりがいを感じるようになりました」と雪野さん。「経営は収入保険で備え、作業現場は大型の農機具や自作の耕具を活用し、後継者に託せる体制を整えていきたいです」と話す。
〈写真:先端をとがらせたくわを手に「硬い場所が掘りやすくなりました」と雪野さん〉
【千葉支局】「飼料を作付けることでコストが削減でき、循環型農業にもつながる。自分で作った飼料は安心して牛に供給できる」と話す東庄町の高木輝博〈たかぎ・てるひろ〉さん(45)。両親や妻、従業員5人で、乳牛「ホルスタイン」種約80頭を飼養し、効率の良い経営のために自給飼料作りに力を入れる。両親が栽培していた自給飼料の畑に加え、地域の耕作放棄地に作付けて面積を拡大した。現在は畑約15ヘクタールで飼料用のデントコーンを栽培し、年間約250トンを収穫する。自分の家で出た堆肥の処理のほか、近隣の酪農家から堆肥を譲り受けて施用。耕作放棄された農地の荒廃を防ぎ、地域に貢献しながら安定した飼料作りに取り組む。牛の健康のために季節で餌を変えたり、夏の暑さ対策として畜舎の屋根を遮熱性の高いセラミック塗装に変更したりと、牛に優しい酪農を実践する。結果的に乳質・乳量の向上と乳房炎の減少につながり、人も楽になったという。繁殖成績が向上したため、9月から11月の授精数を調整して夏場の出産を減らした。さらに、酪農家では全国でも珍しいとされている「ホルスタイン種への和牛の受精卵の2卵移植」で双子生産を実現した。「さまざまな問題に対応するために、これからもいろいろチャレンジしていきたい」と高木さん。「将来的には子供たちに酪農をやりたいと思ってもらえるような、牛も人も楽しく過ごし、仕事も私生活もみんなが助け合える牧場づくりをしていきたい」と話す。
〈写真:デントコーン畑で高木さん。「耕作放棄地の減少に貢献したい」と話す〉
▼新型コロナの新たな変異ウイルス、オミクロン株の世界的な感染拡大に伴い、渡航禁止措置を実施する国・地域が続出。国際的なスポーツイベントも軒並み中止される事態となった。新たな変異株が出る度に騒がずにすむようになるまで、まだ時間がかかりそうだ。
▼一方、物流や施設園芸への影響が心配された原油の高騰は小休止したもようだ。先行きが見通せない状況ではあるが、営農が継続できる水準で落ち着くことを期待したい。ただ、世界有数の産油国であるはずの米国が原油高に困っているとの報道に触れ、改めて資源に乏しい日本の弱さを実感した。
▼今回のコロナ禍は、これまで進展していたグローバル化の弱点をあらわにした。何らかの事情で物流が止まっても地域の経済活動を継続できる環境整備が必要ではないか。脱炭素化で期待される再生可能エネルギーであれば、日本のどこでも実践できる。
▼短期間で急伸した太陽光発電は、景観や土砂災害の危険性など課題がある。可能性を感じるのは、小水力発電や間伐材などを使う未利用バイオマス、家畜排せつ物を使う廃棄物バイオマスなどだ。
▼井上ひさし氏の『吉里吉里人』は、東北の寒村が医療立国などを掲げて日本からの独立を宣言し、日本政府との攻防など2日間の騒動を描いた。食料とエネルギーの自給を独立国の誇りとしていたことが印象に残る。