今週のヘッドライン: 2021年12月 1週号
建設足場用の単管パイプを構造材に用いた園芸ハウスが注目を集めている。単管パイプは、ホームセンターなどで手に入りやすく、重機を使わず、自家施工できる。一般的な農業用ハウスと比較し、コストを抑えて高強度なハウスが建設可能だ。風や雪など耐候性に優れ、特に片屋根式では熱気が抜けやすく、暑熱対策としてもメリットがあるのも特徴だ。原油価格の高騰などによる農業資材の値上げ、気候変動に伴う自然災害のリスクの高まりに対応できるとして期待が大きい。
NOSAI協会(全国農業共済協会、髙橋博会長)は11月25日、東京都内で「『安心の未来』拡充運動令和3年度全国NOSAI大会」を開催。自然災害や市場価格の低下に加え、新型コロナウイルスによる販売収入の減少などが農業経営に深刻な影響を及ぼす中、無保険者を出さず、全ての農家にセーフティーネットを提供する同運動の展開に組織を挙げて取り組むとした大会決議を満場一致で採択した。
政府は11月26日、一般会計歳出総額を35兆9895億円とする2021年度補正予算案を閣議決定した。コロナ克服と新時代開拓を掲げた「経済対策」を裏付けるもので、補正としては過去最大となる。
農林水産関係は総額8795億円で、(1)輸出促進など「総合的なTPP等関連政策大綱」の関連政策(2)米の需給と価格の安定に向けた対策(3)スマート農林水産業の社会実装などポストコロナ社会を見据えた施策――など5項目を掲げた。
中央酪農会議は11月22日、年末年始や年度末に向けた生乳不需要期の対応策を決定した。各地域の需給調整の取り組み状況や処理不可能乳の発生見込みを指定団体・全国連の間で確認し、緩和ピーク時となる12月21日から1月10日を対象に脱脂粉乳・バター向け生乳を含めた出荷抑制を実施する。Jミルクによる早期乾乳や早期更新の支援と合わせ、処理不可能乳の発生回避を図る。都府県の乳製品工場がフル操業で最大限の乳製品処理ができるよう後押しし、具体的にはロングライフ(LL)牛乳やチーズ向け生乳などの生産拡大などを促す。
「春の七草の収穫は4日間で、例えば出荷前に雪害などがあると、ほとんど収入が無くなってしまう恐れがある」と話すのは、愛媛県西条市坂元で春の七草全7品目を1.8ヘクタールで栽培する日野哲也さん(58)。収穫は12月31日~1月3日の4日間で、収穫前などに自然災害などの被害を受けると経営への影響が大きい。各品目を出荷予定量の約1.2倍栽培するほか、収入保険に加入し被害に備えている。
空き家を改修し、地域の防災拠点に活用する取り組みが注目を集めている。空き家活用に取り組む株式会社solar crew(ソーラークルー)(横浜市)では、住民参加型で空き家に発電装置や耐震シェルターを整備し、防災拠点を神奈川県と東京都内9カ所に設けることに成功した。仕掛け人である河原勇輝代表に、取り組みの狙いやポイントを解説してもらう。
施設41アールでトマトを栽培する岐阜県海津市の福島紳太郎さん(31)は、県が開発した少量培地の養液栽培システム「独立ポット耕」で9月末~翌8月初旬の長期どり栽培に取り組む。独自に、10アール当たり約2700株の密植に対応するベンチを導入し、大玉トマトの10アール当たり収量は35トンとなっている。「株数は収量に直結する。現状の施設面積を最大限に生かしたい」と話す。
【富山支局】「安定的な農業経営を心掛けています」と話す南砺市北野地区の上田勝治〈うえだ・かつじ〉さん(86)。現在、水稲3ヘクタール、大麦1.2ヘクタール、野菜(ショウガ、キクイモ)10アールを栽培する。20代後半から農業を始め、就農して今年で約60年。農業収入を安定させるため、さまざまなことに挑戦しているという。「倒れにくい稲を育てることを目指してきました」と上田さん。稲の倒伏は根元近くの節間が折れる場合が多く、その原因は節間の徒長だという。上田さんは、稲の第4、第5節間を5センチ以内に止めることで、倒伏に強い稲を育てる。そのために6月下旬から7月上旬までの期間は、田んぼの管理に人一倍気を使う。「その時期は毎日、稲の状態を手で直接確認しています。天候に応じたこまめな水管理が重要で、初めは調整が難しく失敗もありましたが、経験を重ねた今では、水稲の倒伏被害はほとんど発生していません」。ショウガとキクイモは粉末状に加工して地元の農産物直売所に出荷する。「ショウガパウダー」は、茶やコーヒーなどに入れて飲むと体が温まる効果があり、これからの寒い時期に薦めたい商品だという。「菊芋パウダー」は、みそ汁などに入れて飲むことで、整腸作用や食後血糖値の上昇抑制、中性脂肪の低下が期待できるとあって、健康志向の消費者に好評の商品だ。今年はどちらも売れ行きが良く、品薄解消のために加工時期を前倒しにするほどだという。上田さんは今年、収入保険への加入を決めた。「収入保険は対象品目の限定がなく、農業共済では補償されない野菜類も対象になる点に魅力を感じました。今年は米価下落の影響で収入は減少すると思います。収入保険では、それらも含めあらゆるリスクに対応しているため、安定的な経営を継続していくために必要不可欠な保険だと思います」と話す。
〈写真:キクイモを収穫する上田さん。「あらゆるリスクに対応してくれるということで収入保険への加入を決めました」〉
【北海道支局】収入保険に2019年に加入した士別市温根別町の遠藤英俊〈えんどう・ひでとし〉さん(62)は、秋播き小麦10ヘクタール、春播き小麦6ヘクタール、大豆20ヘクタール、でんぷん原料用バレイショ2ヘクタール、テンサイ9ヘクタールを作付けしている。収入保険に加入したきっかけを「病気やけがによる収入減少が補償される収入保険に切り替えれば安心して営農ができる。さらに、積立金を除いた保険料が安く、負担が抑えられると思った」と振り返る。加入した年は生食用バレイショを6ヘクタール作付けたが、被害が大きく収入減少が見込まれたため、無利子で借り入れができるつなぎ融資を申請した。「農業共済の共済金支払いは、作物によって時期が遅れるため、年内につなぎ融資を受けることができて助かった。収入保険に加入して良かった」。一方で、農業共済とは異なり品目ごとの補償がないことに、「1品目が被害を受けても保険金の対象にならないのは残念。収入保険でも品目ごとに補償してほしい」と遠藤さん。「基礎となる基準収入の算定は過去5年間の平均収入が基準収入となるが、5年間の最高、最低を除いた3年間の平均で算定してほしい。また、保険金の算定に用いる支払率をなくしてほしい」と要望する。遠藤さんは、士別農民連盟の書記長として確定申告をサポートする。NOSAI全国連(全国農業共済組合連合会)のホームページにある「保険金等見積額算出ツール」を活用し、士別・温根別地区の収入保険加入者の保険金計算などに取り組む。被害が少ない農業共済加入者に対しては、保険料の負担が少ない収入保険を勧めるという。収入保険の加入条件は青色申告の農業者に限られるが、「白色申告の農業者も加入できれば加入率が上がるのでは」と今後の制度改正に期待を寄せている。
〈写真:収入減少を補償する収入保険に切り替えた遠藤さん〉
【山形支局】小国町樽口の吉田悠斗さん(27)は今年8月、仕事のあっせんを含めた移住を促進し、町内の企業や農家の労働力確保を後押しする「おぐにマルチワーク事業協同組合(おぐマル)」を立ち上げた。現在は農家や企業など、町内の14事業者が組合員となり、移住者の雇用を受け入れる。制度の導入は全国では6例目で、本県では初の取り組みだ。移住者には同町の自然豊かな環境の中で、希望する時間や収入に合わせて仕事を選び、自分らしく生活してもらう。マルチワークに応募するには説明会の参加が必須で、同町在住者も対象にしている。埼玉県出身の吉田さんは、協力隊として農業に従事した際、農家から「雇用者のシェア制度ができないか」という話を度々耳にしていた。栽培品目の異なる農家間で、繁忙期だけ互いに労力を借りることができれば、通年雇用が可能となり、雇用者不足を補える。おぐマルの理事は、代表を務める吉田さんを含めた3人。移住者の募集や住居のあっせん、労働者派遣事業などを分担する。春から秋までは主に農業に、冬はガソリンスタンドやペレット販売店、酒蔵などに雇用者を派遣。吉田さんらは、お試し滞在用ゲストハウスの貸し出しや、米、みそ、しょうゆの提供、県や町の移住制度の紹介のほか、個人でもシェアハウスを運営して移住者の生活環境を支援している。11月には初の移住者を3人迎えた。吉田さんは「他市町村と連携ができればマルチワークの選択肢が広がり、移住につなげられるのでは」と話す。
【鹿児島支局】「うちのジビエ(野生鳥獣肉)を食べてもらえれば、肉のイメージが変わる」と話すのは、合同会社大幸で代表を務める時吉大喜さん(34)。出水市荘で水稲35ヘクタール、麦3ヘクタールを作付けるほか、県内では数少ないジビエ食肉処理施設を経営する。狩猟から解体・加工、販売まで取り組み、地域の有害鳥獣を新たな資源へとつなげた。同市では以前から農作物の鳥獣被害が多く、「早期水稲はカモの被害に悩まされていた」と時吉さん。父や親戚の影響もあって24歳で狩猟を始めたが、有害鳥獣を処理できる施設が整っていなかった。「捕獲した有害鳥獣をジビエとして有効活用できないか」と、補助金などを活用して2019年、ジビエ食肉処理施設の運営を始めた。現在、カモやシカ、イノシシなどの有害鳥獣を加工。地域の猟友会が捕獲したイノシシとシカも解体・加工する。「新鮮さで味に大きな差が出てしまう。捕獲後すぐに血を抜いて、搬入まで1時間以内のものだけを受け入れている。野生動物特有の臭いが出ないよう工夫している」。同社は「消費者に安全・安心な肉を届けたい」と、国産ジビエ認証制度を今年8月に取得した。「ジビエは北海道などが有名で、県内のジビエはまだまだ発展途上。安全・安心な肉を提供し、多くの人に手に取ってほしい」。現在は受注販売やインターネット販売のほか、県内外のレストランにも卸し、ふるさと納税の返礼品として出品する。「設備の整った施設で適切な衛生管理体制の下、丁寧に処理した肉を提供している。食べた人の『おいしい』の一言が何よりの励みになっている。鹿児島のジビエをもっと知ってもらい、多くの人に食べてもらえたら」と時吉さん。「地域になかった処理施設ができ、販売先を確保できたことで、有害鳥獣が新たな資源となった。狩猟が盛んになり、農作物被害が減って地域の農家さんが安心して農業に取り組める環境になれば」と話す。
▼久しぶりに実家に電話したら、おいっ子が2人増えていた。明確な理由は不明のままだが、日本では新型コロナウイルスの感染者数が急減した。まもなく正月を迎えることから、帰省を検討する人も多いだろう。親兄弟や親類などとの再会が一巡するまでは、感染者数は低位に推移してほしいと祈っている。
▼2年に及ぶコロナ禍は、社会や生活を着実に変えている。日本生命保険の調査で、職場の人との"飲みニケーション"を必要とする回答が前年比で16ポイント下落して38%となり、不要が60%を超えたと話題になった。
▼飲食店への時短要請解除後も2次会、3次会と遅い時間まで飲み歩く人は増えていないそうだ。コロナ禍が終息したわけではないから、泥酔するまで飲むのは危険な行為との自制が働いているのだろう。
▼日本生命保険の同じ調査で、コロナ禍終息後もテレワークを継続したいとの回答が73%あった。「コミュニケーションをとりにくい」などストレスがある一方、「通勤時間」や「感染リスク」の減少を評価する回答が多い。
▼同じ職場にいても話す機会の少ない人はいる。酒の功罪はあるとしても、懇親会は、互いを知り、打ち解ける場として機能していた。仕事を離れて同僚と交流する機会づくりは今後も大切にしたい。