今週のヘッドライン: 2021年09月 4週号
秋田県男鹿市の「男鹿・潟上地区園芸メガ団地」では、赤色LED(発光ダイオード)の電照栽培や先進農機を活用し、露地小ギクの需要期に合わせた大規模安定生産体系の確立に挑んでいる。2019~20年度の農林水産省委託によるスマート農業の実証事業では、耕起・施肥から収穫・調整まで、10アール当たりの作業時間を約3割短縮し、需要期出荷率は9割を達成した。求められる量・品質の小ギクを計画的に出荷することで、有利販売につなげ産地振興を目指す。
農林水産省は、2022年度予算概算要求の柱に農地の最大限の利用と人の確保・育成を据えた。将来の集約化に重点を置き、地域が目指すべき農地利用の姿を「目標地図」として明確化する人・農地プランの策定を推進し、農地の持続的な利用と人材の確保・育成を支援する。高齢化・人口減少が本格化する中で、生産基盤である農地の維持は食料の安定供給の観点からも欠かせない。いわゆる半農半Xを含め、集落・地域を支える多様な人材の参画を促して持続可能な地域農業を実現できる施策の展開が求められる。
農林水産省は14日、日本産温州ミカンの植物検疫条件でベトナムと合意したと発表した。10月1日以降、「ミカンバエの発生がないことが確認できた地域で生産された温州ミカン」となり、実質的には2022年産から輸出が始まる。
同省では初年度の輸出額を900万円程度と見込んでいる。野上浩太郎農相は同日の会見で「農産物の輸出がさらに拡大することを期待している」と述べた。
NOSAI岩手(岩手県農業共済組合)では、台風などの自然災害の経験をもとに、共済部長(NOSAI部長)が農業保険への加入の重要性を呼び掛けている。伝統文化の保存や共同活動のまとめ役としても活躍する2人の共済部長に話を聞いた。
11月15日(北海道は10月1日)に狩猟が解禁され、ジビエ(野生鳥獣肉)の季節はもうすぐだ。農作物に被害を加える有害鳥獣を所得に変え、マイナスからプラスの存在に変えられるジビエ。利用量は近年増加傾向にあるものの、有害駆除された鳥獣の大半は廃棄されている。農林水産省は、「国産ジビエ認証制度」による食肉利用やペットフード向けなど多用途利用を進め、利用量を2025年度までに約4千トンに現行比で倍増させる目標を掲げる。
豆腐を使ったデザート・お菓子が注目を集めている。低カロリーで大豆の甘さやおいしさが楽しめ、「ヘルシーで罪悪感なく食べられる」と人気だ。「野菜と豆腐の料理家」として活動する江戸野陽子さんに、木綿豆腐で作る「豆腐カスタードクリーム」と、生おからで作る「おから蒸しパン」を紹介してもらう。
先端技術を活用した茶生産の効率化について農研機構が14日、シンポジウムを開き、各産地から実証の成果などが発表された。静岡県と京都府は、分散農地や傾斜地での見回り作業の軽減として、固定カメラやドローン(小型無人機)による撮影画像の活用技術を報告した。労務管理ソフト、自動操舵〈そうだ〉農機なども体系的に組み合わせ、条件不利地への対応を図る。
【広島支局】「休耕田でソバを生産することで土地を有効活用し、地域の活性化につなげたい」と話すのは、株式会社西城そば生産組合(庄原市西城町)の代表・山脇克文さん(70)。同社は140人の組合員が所有する約50ヘクタールの休耕田を管理し、「常陸秋そば」「西城在来」「高嶺ルビー」を栽培。「イベントなどでの出店販売では、1日でそば100食が完売することも多い」と話している。「ソバは天候や気温に左右されやすい」と山脇さん。50ヘクタールという広域の土地を管理し、毎年30トンを安定して確保できるよう努めているという。7月中旬から8月中旬にかけて時期をずらして種をまき、リスクの分散と作業の効率化を図っている。「昨年は発芽前や刈り取り直前に雨風などの被害がなく、50トンを収穫できました」。今年は10月から収穫する計画だ。町内の施設で製粉し、そば打ちに適すよう細かく調製。そば粉やそばの実を産直市などで販売するほか、祭りや道の駅などのイベントではそば打ちを実演し、販売している。「そば打ちを見て興味を持ってくれる人がいればうれしい」。現在は新型コロナの影響で見合わせているが、それまでは西城駅の一角でも定期的に出店した。西城町観光協会の職員は「そば本来の味が出て、お客さんの評判が良い。出店したときはとてもにぎやかですよ。これからも地元を盛り上げてほしいです」と話す。
〈写真:「そば打ちの後継者が育つように自分の技術を教えていきたい」と山脇さん〉
【京都支局】福知山市の農事組合法人「鬼の里農園(構成員99人)」は、2019年に収入保険に加入した。代表理事を務める新井春男さん(78)は「農業共済と比べて補償の幅広さが決め手だった」と話す。同法人は10年に設立し、新井さんら理事3人と監事2人を中心に経営。「もうかる農業で地域に還元したい」と、約20人のパートを雇う。1筆3ヘクタールという圃場もあり、2年4作(水稲・小麦・小豆・タマネギ)のブロックローテーションを実施する。「収入保険は収穫後の補償があり、すべての品目をカバーできるのが魅力」と総務担当の理事・廣瀬敬治さん(73)は期待を寄せる。営農担当の理事・真下義弘さん(68)は、「昨年から続く新型コロナウイルス感染症でタマネギの出荷がストップしてしまい、在庫を多く抱えている。今年も同じ状況が続いている」と話す。同法人が栽培するタマネギは加工用で、小売り用と比べサイズが大きいため、市場価格が大幅に下がる。さらに、長雨の影響で小麦に湿害が発生し、水稲と小豆は鳥獣害が重なり減収が膨らみ、保険金を受け取った。「本当に助かった。新型コロナウイルス感染症のような突発的な事象に対しても補償があるのは、経営上大きなメリットだ」と新井さん。「預かっている農地は地域の大切な財産。地域に信頼される経営をして、農地を守っていきたい」と将来を見据える。(水稲21.5ヘクタール、小麦10ヘクタール、小豆11.7ヘクタール、タマネギ1.7ヘクタール)
〈写真:生育状況を確認する鬼の里農園のメンバー〉
【山梨支局】富士吉田市で織物業を営む有限会社カシワギでは、昔の農家の生活必需品だった「真綿」の効能を再現するため、6年前に桑の栽培から計画を進め、養蚕に挑戦している。同社の柏木幹弘社長(74)は「養蚕農家が減り、県産の蚕糸が手に入らなくなったため、自分たちで養蚕を始めました」と話す。真綿は蚕の繭を綿状にしたものだ。「昔から赤ちゃんの頭にかぶせたり、風邪のときに首に巻いたり、傷に当てたりと、本来の真綿には人体に良い効能があります」と柏木社長。「輸入品の繭では本来の効能は見込めない」と、桑園には化学肥料は使わず、腐葉土を基本に、おからを配合して土作りに取り組む。養蚕は柏木社長の次男・永次さん(36)が担当。今年は夏蚕と晩秋蚕を、それぞれ3万3千頭飼育し、夏蚕では40キロを収繭した。蚕は稚蚕飼育した2齢を導入。桑葉を1日4回収穫し給与する。温度管理ができるハウスを蚕室として使用し、室温は25度に調節した。永次さんは「導入の1週間前に蚕室を消毒し、衛生面に日々気を付けています。かび対策は石灰を毎朝掛けています」と話す。今後は県外の工場で製糸・撚糸し、自社で織って来年に商品化する予定だ。
〈写真:3齢の蚕に給桑する永次さん。極細繊度品種「白麗」を飼養〉
【熊本支局】和紅茶発祥の地とされる山鹿市。同市にある県立鹿本農業高等学校(田畑淳一校長)の食品加工部は、和紅茶を使ったスイーツなどを作り、普及に励んでいる。部長を務める最上加奈子さん(17)は「山鹿産和紅茶の魅力を多くの人に知ってほしい」と意欲的だ。同部では、2020年5月に「山鹿紅茶ガールプロジェクト」として普及活動を開始。特徴を生かしたスイーツにするため、茶葉を粉末にし、さまざまな焼き菓子を試作。山鹿紅茶の色味や風味が生かされ、食感が良かったマドレーヌを作ることに決定した。プロの菓子職人などのアドバイスを受け、試作と試食アンケートを繰り返し、半年かけて完成。パッケージは生徒たちが考案し、同市内のイベントなどで販売した。マドレーヌを食べた女性からは「食べた瞬間、紅茶の香りが広がり、しっとりしていてとても食べやすかった。次の世代に伝えられるように頑張ってほしい」と好評だ。今後は和紅茶カフェや和紅茶文化を伝える紅茶の学校を開催する予定。紅茶くずを活用したせっけん作りにも挑戦中だ。「時間がたつと変色するので、きれいな色を出すのが難しい。山鹿市は温泉が多いので、そこで使ってほしい」と最上さん。年内の完成を目標に試行錯誤を重ねている。マドレーヌは県内企業と協力して商品化する予定だという。最上さんは「活動を知った阿蘇市のパン屋さんと紅茶パンの開発も予定している」と活動の幅を広げている。
〈写真:食品加工部のメンバー。右から2人目が最上さん〉
【新潟支局】新潟市南区の「とみやま農園」代表・富山喜幸さん(31)は、「プラムの重さ世界一」のギネス記録に挑戦し、新記録を樹立。富山さんが栽培する「貴陽」が、今までの世界記録よりも30グラム以上重い354.37グラムを記録した。2010年に開園した富山さん。地元はナシやブドウの産地として有名だが、「周りにない果実を作りたい」とプラムに注目し、群馬県の農家で栽培技術を学んだ。「高品質のプラムを栽培するためには土作りが基本です」と話す。ギネスへの挑戦は17年に始めたが、大雨や強風、干害、黒斑病などの影響で目標に届かなかった。今年は病害対策の徹底や、防雹・防風ネットを設置し、天候に恵まれたこともあり悲願を達成した。富山さんは「ギネス記録を達成して、自分を育ててくれた地域に恩返ししたいです」と笑顔で話す。
〈写真:「ギネス記録が樹立できたのは、周りの人の支えがあったから」と富山さん〉
▼新聞では、SNSを会員制交流サイトと表記する。ツイッターやフェイスブック、インスタグラムなど種類は多い。それぞれ特徴があるというが、自ら発信することには関心がなく説明できない。ただ、各地から農業や日々の生活を発信する農家のブログなどはほぼ毎日見て、企画を考える際などの参考にしている。行き来すれば1日かかる遠距離の農家も、近所の人のように感じられるから不思議だ。
▼休日を家で過ごすとき、子供たちは飽きもせずスマートフォンをいじっている。友人とSNSで連絡を取り合うほか、ユーチューブなど動画サイトをチェックするそうだ。赤ちゃんの面白動画やどこかの国の屋台の調理場面などをチラ見させてもらった。
▼家に電話が来たのは小学生になってから、子育てを経験するころまで携帯電話とも無縁だった身には、最近のインターネット環境の充実はSFの世界のように見える。スマートフォンで育った世代には、コロナ禍で人と会えないストレスも少ないように思うが実際はどうだろう。
▼便利さが増す一方で、ネットの世界では炎上や中傷も茶飯事だ。匿名性の高さが人の内面に潜む攻撃性を高め、歯止めがきかない状態を招くのかも。ネット環境の進歩の早さに対応ができていないのだ。心もバージョンアップができればいいのに。