今週のヘッドライン: 2021年09月 1週号
農業の人材確保に向け、就農支援など施策の拡充・強化が課題となっている。2020年の新規就農者数は前年比3.8%減の5万3740人と下回った。コロナ禍も契機に地方移住への関心が高まる中で、就農希望者には栽培・経営ノウハウの取得や農地・資金確保などが大きな壁となっている。農業を職業として選んだ若手就農者を取材し、課題解決への手がかりを探る。
農林水産省は8月24日、2022年度の予算概算要求案を自民党農林関係合同会議で示し、了承された。総額は21年度当初予算比16.4%増の2兆6842億円。生産基盤の強化や輸出拡大、脱炭素、スマート農業の推進などに重点を置いた。脱炭素など環境負荷低減に資する「みどりの食料システム戦略」の推進では、技術開発・実証事業に65億円を新規計上。水田活用の直接支払交付金や輸出促進関連予算などを増額要求した。
農林水産省は8月25日、2020年度の食料自給率がカロリーベース(供給熱量)で前年度比1ポイント低い37%になったと発表した。米の需要減少に加え、小麦の10アール当たり収量の減少などが影響した。小数点以下では37.17%となり、過去最低を更新した。生産額ベースの自給率は、1ポイント高い67%となった。飼料自給率の影響を除いた畜産物生産状況を反映した食料国産率は、カロリーベースで1ポイント低い46%、生産額ベースは2%高い71%。飼料自給率は前年度と同じ25%だった。
「乾燥でこんなにひどい影響が出たのは初めてだ。水分が少な過ぎる」と話すのは、神奈川県三浦市南下浦町の鈴木正一さん(64)。三浦市周辺では、3~4月に収穫する中心作物のダイコンが雨不足による乾燥で横縞〈しま〉症が発生し、出荷がほぼできなかった。近年はキャベツの価格低下にも悩まされる。三浦市を中心に鈴木さんを含む40件以上の収入保険加入者がつなぎ融資を受け取り(8月19日時点)、次の作付けに向けて準備を進めている。
NOSAI全国連(全国農業共済組合連合会)は8月23日、収入保険の加入申請や保険金請求などを、インターネットを利用して自宅のパソコンなどから行えるサービスをスタートした。行政手続きをオンライン化する「農林水産省共通申請サービス(eMAFF)」の一環で、2022年1月以降の保険契約が対象。ID取得などサービス利用開始手続きはNOSAIがサポートする。
近年、国産サツマイモ製品のブームが続き、焼き芋をはじめ洋風デザートなど多様な製品が日常生活に定着しつつある。"さつまいも博士"として知られる山川アグリコンサルツ代表の山川理さんによれば、現在は日本の歴史上3度目のブームだという。農研機構在職中に「べにはるか」を育種するなど研究の第一人者に、人気の理由や今後への期待について教えてもらう。
「秋の農作業安全確認運動」が1日に始まった。農林水産省は8月20日、秋の農作業安全確認運動推進会議をオンライン方式で開き、自治体や農機メーカー、農業団体など関係者が安全対策や連携の強化などを話し合った。農研機構は、ハウスや畜舎、乾燥調製施設など農業施設での事故事例を踏まえた対策を発表。転倒・転落の防止に向けた施設の改善などを呼びかけた。
【石川支局】農事組合法人千耕(代表理事・北村進二さん=64歳)は小松市千代町で、水稲をメインに大麦、加工用トマト、タマネギ、カボチャなどを合計26ヘクタール耕作する。栽培品目は土壌に合わせ、作業時期がかぶらないように選定。品目ごとに栽培方法を工夫し、品質を維持しながらの低コスト・効率化をねらう。同法人が作付ける水稲は「ゆめみづほ」「コシヒカリ」「ひゃくまん穀」。一部のコシヒカリでは、株間を広くして栽植密度を減らす「への字疎植栽培(基肥を無くし生育中期に施肥。肥効性をグラフ化するとへの字型に見える)」を導入した。慣行栽培では1坪当たり60~70株の苗を植えるが、同法人では1坪当たり37株まで減らして植える。疎植栽培のメリットについては「株間を広くすることで、一株一株がしっかりと根を張り太く育つ」と理事の山本浩一さん(61)。株数を減らすことで、1株から大きな穂が多く収穫できるので、収量が安定し、食味が良くなるという。単位面積当たりの苗箱数を減らるうえ、運搬回数や田植機への補給回数が削減できるので低コスト・省力化を実現できる。ひゃくまん穀は、米・麦・大豆の播種ができる機械「スリップローラーシーダー」を用いた乾田直播栽培を導入した。「広く行われているV溝直播では新たに専用の機械が必要。あるものを生かしてコスト削減につなげたい」と北村さん。この栽培を続けることで普及の足掛かりとしたい考えもあるという。
〈写真:「基本の作業を忠実に丁寧に、毎年少しずつ工夫をしています」と話す北村さん(後方)と山本さん〉
【岩手支局】奥州市の鈴木浩伸さん(58)は、リンドウを約1ヘクタール(ハウス3棟、ミニハウス9棟、露地約80アール)栽培する。収入保険で損失を補てんしたことなどを聞いた。
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〈写真:「安心してリンドウを栽培できるようになりました」と鈴木さん〉
【島根支局】安来市広瀬町奥田原の株式会社ギバムたわら(従業員10人、水稲4.3ヘクタール)の代表取締役・赤名治美さん(73)は、イノシシ捕獲用の檻を自ら作って毎年多くのイノシシを駆除している。イノシシによる水田の被害が広がり始め、トタンやメッシュなどで水田を囲う対策に限界を感じた赤名さんは、捕獲するのが一番だと思い、1993年に狩猟免許を取得。捕獲用の檻を購入しようと考えたが、思った以上に高価だった。手先の器用な赤名さんは「自分で作ってみよう」と思い立ち、溶接などをして檻を製造。予想以上の出来栄えに手応えを感じ、試行錯誤を重ねながら毎年作っている。「手作りなので仕掛けは檻によって違います。最も重要なのは、仕掛けにかかった後、イノシシが逃げないように扉がスムーズに降りること」と赤名さん。部品は農機具などの廃品を使い、なるべく安価に抑えている。赤名さんは「イノシシが減ってくれるなら檻の作り方の相談に乗りますよ」と話す。
〈写真:「仲間と一緒に6、7月で12頭捕獲しました」と赤名さん〉
【愛媛支局】ジビエ(野生鳥獣肉)を使った炭火串焼きなどを、西条市内を中心に移動販売する「ネイティブキッチン」。同市の鈴木寛顕〈すずき・ひろあき〉さん(34)が「ギガントマンモス号」と名付けたキッチンカーで2018年に活動を始めた。鈴木さんは同市に隣接する新居浜市出身で、日本各地を移り住んでいたときに初めてジビエを食べ、野生の肉のおいしさを知った。その魅力を多くの人に伝えようと帰郷し活動を開始。「食べることは、命をいただくこと。それは現代人に薄れている感覚だなと思いました」と話す。キッチンカーを使うのは、ジビエを知らない人や臭いが気になるなどマイナスイメージを持つ人にも関心を持ってもらい、需要を高めたいと思ったからだ。炭火で焼くのはガスや電気に比べ手間はかかるが、焼き上がりが香ばしく、食材のおいしさを十分に引き出すことができる。「野性味あふれるおいしさで、人間と火がともに進化してきたことを思い起こさせてくれます」と鈴木さん。猟期が限られ、流通が盛んではないことが原因で、安定した仕入れは難しい。すべての肉を県内産で賄いたいが、仕入れ量が少ないため他県産のものも使用。需要を高めることで安定した仕入れにつながるよう取り組んでいる。鈴木さんは「中山間地は獣害が多いですが、農作物や森林資源を守りながら、害獣も一つの資源として活用し、人と自然はつながっていることを感じてもらいたいです」と話す。
〈写真:「ジビエの魅力を伝えていきたいです」と鈴木さん〉
▼故郷からトウモロコシが届いた。日曜日の夕刻で、あいにく家には自分と子供しかいない。そろそろ晩酌をと考えていた頭を切り替え、20本のトウモロコシの皮をむいてゆでる。家の鍋では1回に3、4本が限度で1時間半ほどかかった。子供に持たせて隣家にもお裾分けし、晩酌のつまみにした。
▼トウモロコシやエダマメは鮮度が大切と母親に教えられ、収穫直後の山盛りのトウモロコシの皮むきなどを手伝わされた。大量にゆでて家族そろってたくさん食べた。小中学生の頃は一度に2、3本は食べていた記憶がある。
▼収穫後に甘さが減っていくのは、時間の経過に伴いショ糖がでんぷんに変わるためという。甘さを保つには熱を加えるか、冷凍して変化を止める必要がある。「湯を沸かしてから畑に行け」とも言われるそうで、経験上の知恵だろう。
▼子供には笑われるが、トウモロコシやエダマメが届くと調理を最優先にし、ほかの用事はストップする。おいしいものを一番おいしく味わうためであり、買って食べるものとは違う懐かしさを味わいたいためでもある。