今週のヘッドライン: 2021年08月 4週号
前線が西日本から東日本に停滞し、南から暖かく湿った空気が流れ込んだ影響で11日以降西日本を中心に東日本を含む広い範囲で記録的な大雨となった。
農業関係でも水稲や大豆の冠水や倒伏など被害が多発。内閣府のまとめでは、19日現在、農地755カ所、農業用施設588カ所で法面〈のりめん〉崩れなどの被害が確認されている。
「『スペルト小麦』は、バゲットなどにすると小麦の風味がとても強くておいしく、好評だ」と話すのは、和歌山市中之島の久保智和さん(48)。農薬や肥料を使わずに栽培し、風味の強さなども評価されて消費者からの引き合いが強い。クッキーやパンなどにも加工して認知度を高め、売り上げを伸ばしている。
農林水産省が示した2022年度農林関係予算概算要求の主要事項では、農山漁村の活性化に向けて「農村地域づくり事業体(農村RMO)の形成の推進」を掲げた。集落内外の幅広い人材が参画する事業体の形成を支援し、農地や水路など地域資源の保全・活用や農業振興と併せて、買い物・子育て支援などの地域コミュニティーの維持に資する取り組みを行う。農山漁村では都市部に先駆けて人口減少が進行し、担い手不足による農業の衰退に加えて、集落機能や地域コミュニティーの弱体化が懸念されている。コロナ禍で広がりつつある田園回帰の流れを捉え、農村地域の持続的な運営を担う事業体の形成推進が求められる。
農林水産省は17日、農業の生産力向上と持続可能性の両立を目指す「みどりの食料システム戦略」の実現に向け、環境負荷低減を推進する法的な枠組みを創設する方針を明らかにした。同日の自民党農林関係合同会議で示した。生産者や食品事業者、農機・資材メーカーなどの一体的な取り組みを促すため、制度や税制、投融資、助成措置を幅広く検討する。
NOSAI宮城(宮城県農業共済組合)では、共済部長(NOSAI部長)が組合員との対話や交流を大切にしながら、備えの重要性を訴えている。NOSAIとの橋渡し役となって円滑な事業推進を支える2人の共済部長に話を聞いた。
新型コロナウイルス感染症の影響が長期化する中、野菜の需給は不安定な状況が続く。家庭向けでは「巣ごもり需要」をきっかけに、カット野菜や宅配野菜などの販売が伸びている。外食向けの需要は、飲食店への営業自粛・時短営業の要請で落ち込む一方、1回目の緊急事態宣言時に比べ、2回目以降は影響が軽減されてきた。収束後も見据えた需要拡大では、調理の利便性や健康機能、レシピ考案など付加価値向上が重要とされる。
古くから日本人に親しまれてきた短歌。皆さんも暮らしの中の出来事や心の機微を詠んでみてはどうだろうか。本紙「歌壇」の選者を務める歌人の笹公人さんに、短歌の基本や魅力を教えてもらう。
肉用牛や乳牛、豚の敷料などに利用するおが粉の価格が上昇し、地域によっては入手が難しくなっている。木質バイオマス発電の需要増などに加え、北米における住宅着工戸数の増加などの影響で、国産材製品の引き合いが強くなったためだ。戻し堆肥やもみ殻、わらなど身近で入手しやすい資材をうまく活用し、コスト抑制と衛生的な飼養管理につなげたい。それぞれの特徴や利用のポイントなどを紹介する。
【秋田支局】鹿角市の特産品「北限の桃」「鹿角りんご」の収穫時期と重ならない高収益作物として注目されているブドウ「シャインマスカット」。同市八幡平の農事組合法人永田ホープフルファーム(根本隆嘉代表理事=57歳)は、水稲育苗ハウスを利用したシャインマスカットの栽培に取り組んでいる。同法人は水稲21.7ヘクタールやエダマメ7.3ヘクタールなどを作付け。ブドウは育苗ハウスの側面通路に6品種12本を定植し、2017年から栽培する。主枝を人の頭を超える高さに一文字仕立てで整枝し、反対通路まで成長させた。4、5月の水稲育苗作業を妨げず、側枝が6月以降に伸びて、開花・着果となる。冬期間は、積雪によるハウスの倒壊を防ぐため、ビニールを剥がし、側枝をすべて剪定。主枝が雪の重みで折れないよう注意を払う。10月の収穫を前に、大粒の実に手応えを感じているという根本代表。「収穫は今年で3回目。品種の特性を生かした栽培をしている。果粒肥大は良好で糖度は18度以上になる。甘くておいしいので、直売所などで手に取ってもらえれば」と勧める。
〈写真:「露地に比べ防除の手間が少ない」と根本代表〉
【宮崎支局】「うちのブドウが食べたいと言ってくれる人が毎年います」と笑顔で話す延岡市北方町の柳田盛一さん(70)。園地15アールで「シャインマスカット」「ピオーネ」など4品種を根域制限で栽培している。柳田さんは退職後に就農し、今年で13年目。妻の佐代子さん(66)と2人で園地を管理する。根域制限栽培は、雨よけビニールハウスで不織布のボックスに培地を入れる方法で、雨水よけのシートを掛けた。肥培管理や水管理がしやすく、実の粒の肥大や着色などが良くなっているという。九州地方などの温暖な地域では、節間が長くなりがちだが、肥培管理などを徹底することで節間が短くなり、葉数が増え引き締まった木を作っている。棚は実と枝葉との差を一段つけて作業しやすくした。柳田さんは「手間はかかりますが、細部までこだわることで実の仕上がり方が違います。おいしいブドウを作るためにこれからも努力していきたいです」と意気込む。
〈写真:二人三脚でブドウ栽培に取り組む柳田さん夫妻〉
【山梨支局】「収入保険は1割の被害から支払対象になり、さまざまなリスクに備えられることに魅力を感じました」と話すのは、南アルプス市の小松寿裕さん(56)。昨年は長雨でスモモの裂果や落果で収量が減少したほか、等級が下がって25%の収入減となり、保険金を受け取った。勤めていた会社を30代後半で退職し、実家の果樹栽培を受け継いで就農。当時はブドウやモモ、オウトウを栽培していたが、スモモの高級品種「貴陽」に可能性を感じ、スモモの面積を徐々に拡大してきた。現在は弟の宏さん(54)と一緒に貴陽、「皇寿」を主にスモモ76アールを栽培し、JAに出荷している。以前は果樹共済に加入していたが、シミュレーションの結果を見て、2019年に収入保険に移行した。価格の高いブランド品種が被害に遭った場合、収入保険が現状に見合った補償になると考えた。「職員が書類を取りに来てくれて、手続きは簡単でした」と話す。昨年11月に交通事故に遭い、骨盤を骨折して3カ月間の入院をしたという寿裕さん。スモモ栽培にとって重要な剪定はすべて宏さんが作業した。宏さんは「剪定をしたことがなかったので、電話で聞きながらなんとかこなしました。もう事故は勘弁してほしい」と振り返る。寿裕さんは「今回の事故でも収入保険に加入しておいて良かったと、しみじみ思いました。けがや病気で作業ができなくても補償の対象となるのは、とてもありがたい保険ですね」と実感している。
〈写真:皇寿は貴陽の枝変わり品種で、寿裕さんが発見者。2012年に品種登録した。収穫時期が貴陽より1カ月ほど遅いのが特徴だ〉
【香川支局】さぬき市長尾の谷口剛さん(64歳、水稲2ヘクタール)は、中古の田植機を購入・改造し、除草剤散布用の乗用管理機を2020年11月に自作した。「これまで1時間かかっていた作業が10分に短縮できました」と話す。散布ノズルはパイプを連結して3分割にし、広げると6メートルになる。それぞれをバルブで制御することで、広範囲に無駄のない散布が可能だ。製作過程で一番苦労したのは、前後の重量バランスの調整だという。重量がかかるところに片寄りがあると、農地への出入りで転倒してしまう。試行錯誤を重ねた末に、動噴機の配置をタンクがある後方ではなく田植機の中心部分にすることでバランスを取った。兼業農家のため、仕事と農業の合間に1人で乗用管理機を製作し、かかった期間は約5カ月。想定より時間はかかったが、中古の田植機や部品など含め費用は20万円と、同性能の管理機を新しく購入した場合の約10分の1に抑えられた。谷口さんは「営農集団の構成員として水稲、麦を作付けしているので、今後はそちらでも使っていきたい」と話す。
〈写真:「使用感は上々です」と谷口さん〉
【愛媛支局】今治市では初となる「主枝更新型つる下ろし栽培」を導入し、夏秋向け品種のキュウリを栽培する同市朝倉上の越智雅史さん(33)。「導入したきっかけは、収穫作業をするパートさんの負担を減らしたいという思いからです」と話す。着果を4本のつるに限定し、つるを下ろしながら伸長させていくのが特徴で、枝への負担軽減に効果的。収穫果の位置は膝から胸の間に高さがそろうので、立ったり座ったりを繰り返す必要がなく、作業効率が上がったという。「収穫期間が1.5倍に延び、2回植えと同等の収量が確保できます。枝への負担が軽くなったので秀品率が向上しました」と越智さん。以前は2回作で8月下旬に植え替えていたが、現在は4月に植え付け、5月上旬から10月上旬まで収穫できるようになった。「地域の方々の支えがあるからこそ農業を続けられます。感謝の気持ちを忘れず、地域に貢献したい」と越智さん。「今後も量と質にこだわり、最新技術を取り入れていきたいです」と意欲的だ。
〈写真:「つるを下ろすタイミングを合わせると実の高さがそろいます」と越智さん〉
▼家庭菜園をする人の約3割がコロナ禍2年目の今年から始めたとの調査結果をタキイ種苗が発表した。20歳以上の男女600人を対象に、7月にウェブ上で調査した。家庭菜園の経験者は全体の半数で、実施中はその半数だ。家庭菜園をする人の9割以上が今後も続ける意向と回答している。
▼コロナ禍による外出自粛期間が長期化する中、おうち時間の過ごし方として家庭菜園が人気だと聞く。調査は、それを裏付ける内容になった。新たに始めた理由は「趣味として楽しむ」が6割、「新鮮な野菜を食べる」が5割、「家計の節約」が3割の順だ。
▼家庭菜園を経験して感じた点には「農家・生産者のすごさ」「野菜作りの大変さ」が挙がり、「知識を増やしたい」と意欲を示す人もいる。実際に、庭付き住宅への引っ越しや新たな畑の購入・賃借など行動した人も家庭菜園実施者の2割に上るという。
▼農業・農村振興や食料自給率向上の各施策を推進する上で、国民的合意の形成は欠かせない。しかし、農村人口の減少や都市化の進展で食と農の距離が拡大し、消費者が農を身近に感じる機会は急速に失われていた。コロナ禍は、人類にとって最悪級の災禍であるのは確かだが、従来型の社会の継続でよいのかと考え直す機会にもなったのではないか。食と農が国民の身近にある社会づくりへの転機になれ、と願っている。