今週のヘッドライン: 2021年08月 3週号
福岡県田川地域の約170戸で構成するJAたがわ麦大豆部会は、大豆の適期播種や省力化などにつながる「部分浅耕一工程播種」の導入を進め、条件不利地ながら増収を実現。2020年産の県平均収量10アール当たり120キロに対し、200キロを超える事例も出ている。部会長として大豆など水田転作をけん引する福智町の山口忠秋さん(69)は「生産者の意欲が増し、産地として存在感を示せるようになってきた」と話す。あえて収量が低い圃場で実証展示して新技術の成果を強調するなど、士気高揚に努めている。
農林水産省は7月1日の組織改編で新たに「輸出・国際局」「農産局」「畜産局」を設置した。新局長に就任した3人に設置の狙いと抱負、農政課題への対応方針などを聞いた。(全3回)
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農林水産省は11日、2020年の新規就農者は前年比2130人(3.8%)減の5万3740人だったと発表した。49歳以下では同160人(0.9%)減の1万8380人となり、5年連続で前年を下回った。農業法人への雇用や新規参入は増えているものの、親元就農など新規自営農業就農者数が減少した。後継者のいない高齢農家の離農が進み、農業経営体数は減少の一途をたどる。担い手不足が深刻化する中で、新規就農者の確保は持続可能な農業の実現に不可欠だ。生産基盤の維持・強化を図るためにも、技術の習得や経営安定に向けた資金繰りなどの支援拡充が求められる。
国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第1作業部会は9日、人間の影響が「大気や海洋、陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と初めて断言する報告書を発表した。2013年に発表した前回報告書の「可能性が高い」との記載よりさらに踏み込んだ。地球温暖化の進行に伴い、熱波や強い降雨、干ばつなどの極端現象が発生するリスクが高まると注意を促している。
「自然災害だけでなく、米の需要減少が続く中で価格低下も心配だ」と話すのは、岐阜県海津市海津町で水稲共済の「一筆方式」から収入保険に移行した加藤和幸さん(48)。水稲共済の一筆方式は、損害評価員を担う農業者の負担軽減などから今年産を最後に廃止される予定だ。一筆方式の加入者は来年産から収入保険、または水稲共済の「全相殺方式」などへの移行が必要となる。同県七宗町の葛屋営農組合の福井慎太郎組合長(64)は全相殺方式に切り替えた。出荷量データで共済金を算定する点などに信頼を寄せる。
栽培技術や農家の日常などを動画サイト「ユーチューブ」で発信する「農業ユーチューバー」が話題だ。高知市の「ひろちゃん農園」(野菜30種類、約10アール)では、76歳の農家女性「ひろちゃん」が、栽培の工夫などを紹介する素朴な語り口が注目を集め、開始約1年で登録者数約9万1千人(7月末時点)と人気が急上昇している。撮影・編集を担当する息子のもとはるさん(54)に、母の農作業を動画配信する思いや工夫などを聞いた。
有機農業の普及と栽培技術の向上を目的にした公開セミナー 「土づくりと新規就農への道を考える 」(主催:有機農業参入促進協議会 )が5日、オンライン形式で開かれた。事例発表されたブロッコリーの長期どりと有畜複合経営の概要を紹介する。
【北海道支局】千歳市東丘の苦楽園亀田牧場(代表・亀田泰貴さん=52歳)は、自家肥育した牛肉をふんだんに使った「ビーフカレー」を開発。近隣の道の駅などで販売し、評判を呼んでいる。同牧場は、300ヘクタールほどの農地に牧草やデントコーンなどを栽培し、乳牛500頭(うち搾乳牛約300頭)、肉牛400頭ほどを飼養する、道内でも屈指の牧場だ。「地元に新しい道の駅ができるため、何か貢献できることはないかと考えた」と亀田さん。商品開発は、同級生の黒毛和種農家が販売するカレーを参考に、同級生の農家や加工場に直接出向き研究した。亀田さんは、サシを入れることよりも、肉本来の味を引き出すように牛を育てている。その味が楽しめるように、試行錯誤を重ねて完成したカレーは、辛さが抑えられ、マイルドで食べやすく、大きな牛肉がゴロゴロ入っているのが特徴だ。
〈写真:牛肉がゴロゴロ入ったカレーを手に亀田さん〉
【石川支局】羽咋市の長濵恵司さん(64)は、水稲8ヘクタール、スイカ1・4ヘクタール、ダイコン40アールを栽培する。経営安定のため収入保険に加入した決め手などを聞いた。
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〈写真:集出荷場でスイカの品質をチェックする長濵さん〉
【鳥取支局】「ロボット草刈機を導入して本当に良かった」と話すのは、湯梨浜町でナシを栽培する前田利幸さん(43)。これまでの乗用モアーでの作業が、自律走行無人草刈機「ロボモア」の導入で大幅な省力化が実現した。ロボモアは雨天でも稼働可能。対物センサーで物体との距離を感知し、樹体近くまで草を刈り、自力で充電器まで戻り、充電完了後に再び作業する。予想外のメリットもあった。「夜中も自動で稼働してくれるためか、イノシシが今のところ出没していない」と前田さん。ロボモアのようなスマート農業の普及拡大に向け、県は補助事業を設けており、これまでほど導入のハードルは高くないという。前田さんは「成果に大変満足している。圃場を今後増やすならロボットに合わせた設計をしたい」と話す。
〈写真:ロボモアを前に「稼働状況はスマホで管理しています」と前田さん〉
【鹿児島支局】鹿屋市輝北町の石神康伸〈こうしん〉さん(29)は、牛舎の暑熱対策に園芸用ミストノズルを活用し、「低コストで導入でき、快適な環境ができた」と効果を実感する。石神さんは繁殖牛60頭、肥育牛170頭(受託)を飼育。夏場に採食量や増体量が低下し、熱中症による緊急出荷などの問題にも悩んでいた。獣医師や農家仲間のアドバイスで細霧冷房装置が有効と知り、昨年7月に導入した。材料はホームセンターで入手できる。「部品の購入や交換が手軽にできるのでメンテナンスがしやすい」と話す。ミストは空気中に噴射されるため、牛体や床をぬらすことなく牛舎内の温度を下げられる。「以前と比べ、餌の食い付きが良く、事故や治療回数が減った。私たちにも快適な環境が整い、作業効率が上がった」と石神さん。「すべての牛舎に設置して、夏の暑さから牛を守っていきたい」と話す。
〈写真:ミストノズルは1牛房に1個で、チューブとつなぎ合わせ、牛舎の梁を利用して設置〉
▼またしてもの大雨だ。近年は、数十年に一度レベルとされる降雨が毎年のように大きな被害をもたらす。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第1作業部会が先に公表した報告書は、地球温暖化が人間の影響であることは「疑う余地がない」と断じた。さらに熱波や強い降水、干ばつなど「気候システムの多くの変化が拡大する」と指摘した。
▼雨の降り方は、局地的で強くなる傾向にあり、楽観視していると痛い目に遭う。国土交通省は、「逃げ遅れゼロ」の実現を掲げ、住民一人一人のマイ・タイムライン(防災行動計画)づくりを勧めている。
▼手順は、まず居住地など身近な地域の水害リスクを市町村が公開するハザードマップで確認。次に風雨が強くなる前の準備、そして降雨などで発表される警戒レベルに応じた行動を考え、周囲の人と共有する。避難場所やルートなどを具体的にシミュレーションし、定期的に更新作業をすると、非常事態に遭遇してもスムーズな行動につながるという。
▼多少の時間と手間はかかるだろうが、「命」には代えられない。