今週のヘッドライン: 2021年08月 1週号
担い手支援日本一を目指す山口県では、法人への雇用就農を促進する独自制度を展開。農林水産省「農の雇用事業」(2年)に3年追加して、新規就業者を受け入れた法人に計5年間の定着支援給付金を支給し、集落営農法人などでの人材定着に成果をあげている。美祢市の中山間地域で水稲約12ヘクタールなどを栽培する農事組合法人植柳(しょくりゅう)ファームでは、制度によって定着した20代の従業員が副代表に就任。栽培品目・作業手順の改善、人材育成などに活躍している。給付期間を延長することで、就農者が栽培技術や経営などを学ぶ機会をより多く確保できている。
農林水産省は7月20日、食と農のつながりの深化に着目した新たな国民運動として「食から日本を考える。ニッポンフードシフト」をスタートした。農村の維持と次世代への継承を国民共通の課題と捉え、国内農業の重要性や持続性の確保などの認識共有に官民一体で取り組み、消費者が国産農産物を積極的に選択するなどの行動変容を促す。同日立ち上げた公式ウェブサイトでは、各地の事例を紹介するほか、食にまつわるアイデアを募集。今後は、多様なメディアを活用して食と農の魅力を発信していく。
農林水産省は7月29日、食料・農業・農村政策審議会食糧部会を開き、2021/22年の主食用米の需給見通しを示した。作付け意向調査(6月末時点)では、21年産主食用米の作付面積は前年実績比で6万2千~6万5千ヘクタール程度減少する見込みで、21年産の主食用米生産量は平年作で694万~696万トンとなり、適正生産量に設定した693万トンと同程度となる。ただし、22年6月末の民間在庫量は210万トンを見込み、米価安定の目安とされる200万トンを上回り、作柄や消費動向によっては需給緩和も懸念される状況だ。生産を抑えるだけでなく、消費拡大策の検討も急務となっている。
「ハウスが復旧したら、またトマトを頑張って作りたい」と話すのは、鹿児島県伊佐市大口山野の小水流(こずる)竜司さん(41)。「令和2年7月豪雨」でトマトのハウス25アールと水稲約6ヘクタールに土砂などが流入する被害を受け、今年7月にも豪雨で水稲が冠水する被害を受けた。今年4月に収入保険のつなぎ融資を受けて経営継続を図り、秋には本格的に営農を再開する予定だ。
群馬県農業技術センターや栃木県農業試験場などは、小規模ハウスでの野菜生産の高温対策として、ハウスの屋根面に散水し、内部の温度を下げる技術を開発した。屋根の頂上に散水チューブを乗せて屋根面をぬらし、水が蒸発するときに熱を奪う気化熱を利用する。チューブなどの資材費は、3万円以内で済み、2~3人の労力で設置・撤去が可能だ。実証試験では、収量や試算上の収益が増加。群馬県農業技術センター園芸部野菜第三係の唐澤智係長は「細霧冷房やヒートポンプなどの技術と比べ大幅にコストを抑えることができる」と説明する。
暑い日が続くと、食欲がわかず、栄養が不足しがちになる。そんなときこそタンパク質やカルシウムが豊富に含まれる牛乳と、みそやしょうゆなど伝統的な調味料を組み合わせた「乳和食」がおすすめだ。料理家で、管理栄養士の小山浩子さんに紹介してもらう。
【山形支局】六つの工業系学科がある山形市緑町の県立山形工業高等学校(髙橋良治校長)では、生徒会を中心にIoT技術(さまざまなものをインターネットで制御する仕組み)を活用したマンゴー栽培に取り組み、初めての収穫期を迎えている。同校で生徒会長を務める金光一心〈かねみつ・いっしん〉さん(情報技術科3年)は「地域の方々など、これまで協力いただいた皆さんと一緒に、マンゴーをおいしく味わいたい」と話す。同校の敷地内にある6メートル×4メートルほどの「スマート植物工場」内で、「アーウィン」4鉢と「キーツ」2鉢のマンゴーが農薬不使用で栽培されている。工場内の気温や気圧、湿度、照度、土壌温度のデータは、いつでもスマートフォンで確認できるよう「見える化」した。データの蓄積と分析を続け、結実後は工場内部の気温が25度以下にならないように自動管理されている。冬期間の暖房やディーゼル発電機の燃料には、化学を学ぶ生徒が精製したバイオマス燃料を主に使用。近隣の料亭や施設、一般家庭などから生徒らが回収した使用済みの天ぷら油に、メタノールとアルカリ触媒のカセイソーダを加えBDF(バイオディーゼル燃料)を作り出す。県内の企業から寄贈された木質ペレットストーブと併用している。工場建設に必要な資金を集めるため、昨年7月にクラウドファンディングを実施したところ、同校OBや地域の人々などから目標の150万円を大きく上回る252万円が集まった。各学科の生徒がそれぞれの得意分野で協力し合い、工場建設は土木や建築を学ぶ生徒、ボイラー設置や電気設備などは機械系学科と電気電子科の生徒、IoT技術での制御は情報技術科の生徒が担当した。摘果した未熟なマンゴーは県立山辺高等学校の食物科に持ち込み、「ロールケーキ」に加工するなど、他校と連携したレシピ開発が順調に進む。マンゴーを加工品にして、昨年姉妹校となった台湾の国立新竹高級工業職業学校に、今年持っていきたいという。
〈写真:「この取り組みを来年の生徒会につなげていきたい」と話す金光さん(手前)と生徒会で議長を務める小林愛深さん〉
【富山支局】高岡市の有限会社中山農産の代表取締役・中山智章さん(60)は、水稲28ヘクタールのほか、57ヘクタールでハトムギやキャベツ、ニンジンなどを栽培する。収入保険に加入した要因などを聞いた。
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〈写真:「朝早くからの収穫は大変ですが、お客さんからの『おいしかったよ』『また食べたいな』といった言葉が励みになっています」と中山さん〉
【香川支局】丸亀市飯山町は県内一のモモ産地で、「飯南の桃」として高い人気を誇る。モモを47アール栽培する山下静子さん(67)は、出荷できない規格外のモモでジャムやコンポート(シロップ煮)を作り、「振る舞った知人から、また作ってほしいとリクエストがきます」と話す。日中は収穫や出荷作業で忙しいため、ジャムを作るのは夜になる。モモの味を生かすため、わずかな砂糖で作るのが特徴だ。2時間かけて作るジャムは、「どの年代の人にも喜ばれる味で、お客さんが来たときに重宝します」と山下さん。ポイントは「あかつき」など果肉の白い品種を使うこと。色がきれいに仕上がるという。
※モモジャムの作り方(材料=モモ25個、砂糖100グラム、レモン汁大さじ2)
1.モモの皮をむき、みじん切り(4分の1の大きさに切ってミキサーにかけてもよい)。
2.砂糖とレモン汁を加え、フライパンで1時間煮詰める。
3.水を入れ沸騰させた鍋で瓶を煮沸消毒。
4.2を瓶に詰め、ふたを少し緩めた状態で30分煮沸消毒。
5.瓶のふたをきっちり閉め、さらに10分煮沸消毒。
6.鍋を火からおろし、流水で湯の温度を徐々に下げる。常温に戻して冷蔵庫で保管。
〈写真:ジャムを手に「パンとよく合います。1年保存できますよ」と山下さん〉
【岩手支局】久慈市侍浜町でホウレンソウ(ハウス22棟)を栽培する船渡憲一さん(53)は、播種前の灌水やスライド式遮光幕の設置で作業負担を軽減し、高温になる夏場でも出荷数の増加を目指している。「播種前に灌水する。生育に必要な量の水分を補う大切な作業」と船渡さん。ハウスの入り口と畝の両脇に幅40センチほどの溝を作り、播種の前日、散水機で深さ30センチに漬かる程度に灌水する。播種後の水やりの手間が省け、散水機の使用で均一に散水され、生育にばらつきがなくなるという。また、圃場が軟らかくなるため、手作業の収穫が楽になり作業効率が上がる。ホウレンソウは高温に弱く、夏場の日差しを避けるため自作のスライド式遮光幕をハウス内に設置した。「ハウス内の温度を20度に保つように管理する。ひもを引くだけで張ることができる仕組みで、力が要らないので簡単に作業できる」と船渡さん。「8~9月は販売単価が高い。今年はさらに出荷数を増やしたい」と意気込む。
〈写真:遮光幕を操作する船渡さん。「畝を高くすることで雨による根腐れ被害はほとんど受けない」〉
▼1年遅れで開催された東京オリンピックをテレビ観戦で楽しんでいる。一流のアスリートたちが頂点を目指して競う姿は、やはり力強く美しい。本命と注目され、前評判通りの実力を示す人、まさかの敗退や大躍進など人間的なドラマにも感動する。コロナ禍でなければ、もっと楽しめるのにと残念だ。
▼政府は、感染対策で人流の抑制に躍起だ。しかし、無観客なのに開会式や試合会場周辺に集まる人たち、路上飲みなども目立つ。緊急事態宣言も度重なり長期化する中で人の行動は緩んでしまう。それが人間だ。だからといって、飲食店に酒類提供をやめさせようと、卸会社や金融機関に圧力をかけるのは権力の乱用でしかない。為政者側はしっかり自覚する必要がある。
▼徳川吉宗は、隅田川堤などに桜を植樹し、庶民に花見の習慣を定着させたと言われている。真の目的は洪水対策で、多くの人を堤に集めて踏み固めさせるためだったという。
▼真偽のほどはさておき、人は理屈だけで動かない。あれもだめ、これもだめの抑制ではなく、何らかの楽しみや喜びにつながるコロナ対策は考えられないものだろうか。