今週のヘッドライン: 2021年06月 1週号
ソバ32ヘクタールを栽培する栃木県鹿沼市西茂呂の奈良部浩一さん(40)は、市内のソバ農家6戸(62ヘクタール)で構成する「日晃そばグループ」の代表を務める。乾燥・調製作業を一手に担い、生産者の負担軽減・営農継続につなげている。圃場周縁部への溝掘りなど徹底した排水対策のもと、高単価の夏ソバも手掛ける二期作で、昨年はグループ全体で夏ソバ約2万7千キロ、秋ソバ約5万8千キロを収穫。市内のそば店5軒ほどにも出荷し、鹿沼そばの振興に尽力する。
政府は5月25日、2020年度『食料・農業・農村白書』を閣議決定した。災害や価格低下などさまざまなリスクに対応する農業経営の安定化の取り組みとして、収入保険の普及・利用拡大を紹介している。また、防災・減災では、災害に備える農業保険への加入の重要性を記載している。
農林水産省は5月27日、2021年産主食用米、戦略作物などの都道府県の作付け意向(4月末時点)を発表した。主食用米の需給均衡には過去最大規模となる6万7千ヘクタール(4.9%)の作付け転換が必要とされる中、前年実績比で5%超の減少を見込むのは栃木、徳島の2県にとどまった。同省による試算では、さらに約3万ヘクタールの深掘りが不可欠で、6月末に迫った営農計画書の提出期限に向け、飼料用米などへの転換を促していく方針だ。
農林水産省は5月27日、収入保険の2022年1月から保険期間が開始する契約から、3年間適用する保険料標準率を決定した。保険方式の最大補償割合8割(支払率9割、下限設定なし)を選択した場合の農家負担分(50%の国庫補助後)の保険料標準率は、1.23%(現行は1.08%)となる。
「確定申告から保険金がもらえるまで早かった。こんな被害が続くなんて、30年以上営農していて初めてだ。加入して正解だった」と話すのは、岡山市南区西七区の坂手修一さん(61)。ナスの栽培にIPM(総合的病害虫・雑草管理)を導入し、農薬の使用を抑制した栽培に取り組む。2020年は、想定外の害虫発生や夏場の高温などにより、収入が平年より3割ほど減少したが、保険金で経営を継続できた。
スズメバチに刺されて死亡する事故が毎年発生している。農作業中に危ない思いをしたことのある人も多いだろう。特に夏場は攻撃性が高まるため一層の注意が必要だ。刺傷事故を防ぐためのポイントなどを国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所九州支所の佐山勝彦チーム長に解説してもらう。
農作業などの力仕事をサポートし、体への負担を軽減する「アシストスーツ」の開発が進み、現場での導入が増えている。東京理科大学発のベンチャー企業、株式会社イノフィスはこのほど、腕上げ作業を楽にする「マッスルスーツGS-ARM(アーム)」を株式会社ネクスコ東日本エンジニアリングと共同開発した。高圧ガスを封入した「ガススプリング」で、腕を上げる動きを補助する。特に果樹の剪定〈せんてい〉など、腕を上げた姿勢が長時間続く作業の負荷軽減が期待されている。
【群馬支局】「園芸施設共済の制度改正を知り、すぐにNOSAIへ連絡して最高補償への変更を申し込んだ」と話すのは、館林市当郷町の飯塚雅実さん(47)。農業用ハウスでキュウリ「ニーナZ」18アールを栽培するほか、ニガウリ「百成レイシ」を露地で70アール、水稲「あさひの夢」830アールを作付けている。2009年7月27日午後2時ごろ、館林市大谷町付近から細内町付近にかけて発生した竜巻で、人的被害のほか住宅の損壊や自動車の横転などが発生。飯塚さんのハウスはビニールなどに被害を受けた。園芸施設共済に加入していたが、軽微な被害だったため共済金の支払い対象にはならなかった。「ハウス内で何も作付けしていなかったことが幸いだった」と当時を振り返る。今回新設された小損害不てん補1万円特約と付保割合追加特約を加え、10割補償を選択した。「ハウスの再建築費用は年々高くなっているので、築年数にかかわらず共済金だけで同価値のものを再建できるのは心強い」。さらに、復旧費用特約に加入したため、自力復旧の際は材料費に加え労務費として1平方メートル当たり100円が支払われる。今年からは収入保険にも加入している。
〈写真:連作障害を回避するため、夏は太陽熱土壌還元消毒を実施する飯塚さん〉
【島根支局】「6月はメロン、トマトの出荷と田植えがあるので忙しい時期ですね」と話すのは、益田市の大場尚俊さん(54)。現在はビニールハウス19棟(55アール)で、メロンやトマト栽培を中心に、水稲・露地野菜100アールを作付ける。親の代を含めると施設園芸期間は約50年になるという。園芸施設共済には地元の生産組織で集団加入している。大場さんのハウスは日本海の海岸沿いの平野部にあり、積雪は少ないが、低気圧が日本海を通過するときに強風が吹く場合が多い。「過去に強風でパイプやビニールが損傷して共済のお世話になったことがありましたね。近くの電柱に雷が落ちて施設内の電気装置が壊れたこともありました」と振り返る。「強風に対してリスクを感じているので、備えとして園芸施設共済に加入しています。メロン栽培など2月ごろから使用するハウスには採光や保温性が高い農ビを使用しています。耐久性がPOフィルムよりやや劣るので、強い風が吹くと損害が出ないか常に警戒しています」と話す。
〈写真:「今年は風が強い日が多いですね」と大場さん〉
【山形支局】「この先も栽培管理が継続できる規模と十分な収入が得られる農業の形がソーラーシェアリングだった」と話すのは、農業と「みつばち発電所」を営む米沢市窪田町の木村成一さん(63)。2018年秋、水稲の圃場にソーラーパネル約650枚、設置面積3800平方メートルの太陽光発電施設を建設し、翌年からソーラーパネルの下で水稲を栽培する。発電施設は、縦4メートル、横5メートルの間隔で支柱190本を立て、高さ3メートルの位置に一般的なソーラーパネルを設置。発電量は年間20万キロワットで、東北電力株式会社へ売電し、再生可能エネルギー電力を販売する「みんな電力株式会社」から契約者へ送電される。発電施設には、パネルの角度を調整する手動ウインチを3カ所に設置。一度に約220枚のパネルを動かすことができ、稲の生育中は日光が十分当たるようにパネルを立てる。どうしても日陰になる部分があるため生育は緩やかで、落水後の圃場が渇きにくい。その対策として、品種を「はえぬき」に変え、圃場の溝切りを丁寧に行うことで、昨年は9月末に稲刈りが終わり、収量を確保できた。
〈写真:太陽光発電と稲作をシェアする新しい農業に取り組む木村さん〉
【岩手支局】二戸市石切所の荒谷果樹園(荒谷直大代表=37歳)では、一般客向けにリンゴの摘花作業の体験会を実施し、果物生産の盛んな二戸市をPRしようと奮闘する。同園ではリンゴ2ヘクタール、サクランボ30アール、ブルーベリー20アールを栽培。園地に来る人に楽しんでもらおうと、リンゴの花が開く4月下旬から5月上旬に摘花の体験者を受け入れている。「摘み取りをしながら、限られた期間に咲くリンゴの花を楽しんでほしい」と笑顔を見せる荒谷さん。花は最初に咲く頂花だけ残し、えき芽は手作業で摘み取る。荒谷さんは「摘花はリンゴの品質を左右する大事な作業。結実する量は減るが、その分、栄養が実に行き届いて味にばらつきがなくなる」と話す。例年7月下旬にはブルーベリーの収穫体験を開催。昨年は2日間で約50人集まり、好評だったという。
〈写真:「手間を惜しまず摘み取ることで、来年の花芽が着きやすくなる」と荒谷さん〉
▼新型コロナウイルス感染症の問題長期化が、国内の貧困・格差問題に拍車をかけている。度重なる緊急事態宣言の発令などが、飲食や観光など非正規雇用の多い職種の離職などを招いているためだ。子どもの貧困問題を研究する東京都立大学の阿部彩教授によると、特にひとり親世帯の貧困が深刻だという。
▼調査では、コロナ禍に起因した離職や転職、労働時間の減少などをひとり親世帯の4割近くが経験。低所得や家計がひっ迫する世帯では、生活費は食費から切り詰める例も多く、野菜や肉、魚の摂取頻度が低下している。
▼格差社会の米国には、学校での朝食、昼食の提供、栄養補助プログラムなど多様な支援がある。一方、日本では所得に応じた給食費の支援などはあるものの、現状に対応しきれていないのが現実だ。
▼政治の空白を埋める活動として、食事を提供する子ども食堂が盛んになっている。2012年に東京都で第1号が登場し、10年弱で全国5千カ所に増えた。週に数回の活動が多いが、地域住民による社会活動の拠点にもなりつつあるそうだ。自ら求めたくはないが、困りごとが結束を強くする。